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第一章
第26話
それからも、辰美は伊藤に質問し、頬を叩き続けた。
「もうやめて! 伊藤は喋れる状況じゃない!この屋敷を抜け出したいって言ったのは私なの!」
玲子は涙を流しながら、辰美に訴えた。
しかし、辰美の動きは止まらない。
伊藤はまだ意識があるのだろうか。顔が見えないから確認しようがない。
少し歩けば手の届く場所に伊藤がいるのに助け出せない。
自分は無力だ、辰美の名前を叫び続けることしかできないのだから。
(どうしたらいいの……)
「辰美を止めたいか?」
頭の上から長谷川の声がした。
「教えてやってもいいぞ」
長谷川は玲子の耳元に顔を近づけ囁く。
玲子は黙って唇をかみしめた。
辰美を止める方法、長谷川が口にしたのはあまりにも屈辱的な言葉だった。
「正気?」
玲子は眉間にしわを寄せて長谷川を見る。
「まあ、言いたくないなら言わなくていい。その代わりあの伊藤ってメイドがぶたれるけどな」
玲子は伊藤に視線を移した。
もう体力も気力も限界なのだろう。体の力が抜けきっている。
自分が、この屋敷から出たいなんて言ったから、伊藤はこんな目に……。
伊藤を救うためだ。しのごの言ってられない。
玲子は覚悟を決めて口を開いた。
「辰美、もういい……。もうやめてください」
先ほどとは違う玲子の落ち着いた声に、辰美の動きが止まった。
「貴方の言う事を何でも聞く……から、その……」
玲子が言葉を詰まらせていると長谷川が「ほら」と促す。
「今日は……、貴方の好きに……抱いていいから」
頬がどんどん熱を持っていくのが分かった。
恥ずかしい、誰がこんな奴に……。
玲子が俯き羞恥に耐えていると、辰美が噴き出した。
「アキラ、お前玲子に何吹き込んだんだよ」
長谷川は、首を傾げ笑った。
「お前が一番喜ぶことを教えたつもりだが、違ったか?」
「まあ、間違ってはないけど」
そして辰美はゆっくりと立ち上がり玲子の前にしゃがむ。
「反省してくれた?」
辰美は玲子の頭をなでる。
伊藤の頬を何度も叩いたその右手で。
玲子はゆっくりと頷いた。
「そう、よかった」
辰美は満足そうに微笑む。
どうして、こんな表情ができるんだろう。
人の幸せを踏みにじり、傷つけて。
「一分だけ伊藤と話す時間をちょうだい」
玲子は辰美を見上げて言った。
「どうして?」
辰美が首を傾げる。
「私が伊藤を巻き込んだから、せめて謝罪くらいさせて……」
辰美は面倒くさそうに頭を掻いた。
「仕方ないな、三十秒だけだよ」
腕の拘束が解けると同時に玲子は伊藤に駆け寄った。
赤く腫れあがった頬が、青く染まり内出血を起こしている。
「ごめんなさい……、ごめんなさい……、伊藤」
伊藤は憔悴しきった顔で玲子を見た。
「お嬢様……、一郎さんには会えましたか?」
「……うん」
玲子の目から涙が流れた。
「よかったです……」
こんな時まで、自分の心配をしてくれる。こんなに優しい人を巻き込んでしまった。
玲子は伊藤を強く抱きしめる。
「ごめんなさい。本当に……」
「もう充分だろ」
辰美はしびれを切らしたように玲子の腕を強く引っ張る。
「後はまかせた」
辰美は長谷川にそう言い残し部屋を出た。
「もうやめて! 伊藤は喋れる状況じゃない!この屋敷を抜け出したいって言ったのは私なの!」
玲子は涙を流しながら、辰美に訴えた。
しかし、辰美の動きは止まらない。
伊藤はまだ意識があるのだろうか。顔が見えないから確認しようがない。
少し歩けば手の届く場所に伊藤がいるのに助け出せない。
自分は無力だ、辰美の名前を叫び続けることしかできないのだから。
(どうしたらいいの……)
「辰美を止めたいか?」
頭の上から長谷川の声がした。
「教えてやってもいいぞ」
長谷川は玲子の耳元に顔を近づけ囁く。
玲子は黙って唇をかみしめた。
辰美を止める方法、長谷川が口にしたのはあまりにも屈辱的な言葉だった。
「正気?」
玲子は眉間にしわを寄せて長谷川を見る。
「まあ、言いたくないなら言わなくていい。その代わりあの伊藤ってメイドがぶたれるけどな」
玲子は伊藤に視線を移した。
もう体力も気力も限界なのだろう。体の力が抜けきっている。
自分が、この屋敷から出たいなんて言ったから、伊藤はこんな目に……。
伊藤を救うためだ。しのごの言ってられない。
玲子は覚悟を決めて口を開いた。
「辰美、もういい……。もうやめてください」
先ほどとは違う玲子の落ち着いた声に、辰美の動きが止まった。
「貴方の言う事を何でも聞く……から、その……」
玲子が言葉を詰まらせていると長谷川が「ほら」と促す。
「今日は……、貴方の好きに……抱いていいから」
頬がどんどん熱を持っていくのが分かった。
恥ずかしい、誰がこんな奴に……。
玲子が俯き羞恥に耐えていると、辰美が噴き出した。
「アキラ、お前玲子に何吹き込んだんだよ」
長谷川は、首を傾げ笑った。
「お前が一番喜ぶことを教えたつもりだが、違ったか?」
「まあ、間違ってはないけど」
そして辰美はゆっくりと立ち上がり玲子の前にしゃがむ。
「反省してくれた?」
辰美は玲子の頭をなでる。
伊藤の頬を何度も叩いたその右手で。
玲子はゆっくりと頷いた。
「そう、よかった」
辰美は満足そうに微笑む。
どうして、こんな表情ができるんだろう。
人の幸せを踏みにじり、傷つけて。
「一分だけ伊藤と話す時間をちょうだい」
玲子は辰美を見上げて言った。
「どうして?」
辰美が首を傾げる。
「私が伊藤を巻き込んだから、せめて謝罪くらいさせて……」
辰美は面倒くさそうに頭を掻いた。
「仕方ないな、三十秒だけだよ」
腕の拘束が解けると同時に玲子は伊藤に駆け寄った。
赤く腫れあがった頬が、青く染まり内出血を起こしている。
「ごめんなさい……、ごめんなさい……、伊藤」
伊藤は憔悴しきった顔で玲子を見た。
「お嬢様……、一郎さんには会えましたか?」
「……うん」
玲子の目から涙が流れた。
「よかったです……」
こんな時まで、自分の心配をしてくれる。こんなに優しい人を巻き込んでしまった。
玲子は伊藤を強く抱きしめる。
「ごめんなさい。本当に……」
「もう充分だろ」
辰美はしびれを切らしたように玲子の腕を強く引っ張る。
「後はまかせた」
辰美は長谷川にそう言い残し部屋を出た。
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