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二章 過去編
第44話
しおりを挟むその時だった。
「雨だわ」
「え?」
辰美が顔を上げた瞬間、まるでたらいでもひっくり返されたように大量の雨が降ってくる。
「きゃー、もうさっきまで晴れてたじゃない! 何なのよ!」
助かった、天の助けだ。
頬を伝う涙も、これなら雨だと言ってごまかせる。
空に向かって指を差し、ブツブツと文句を言っている玲子の腕を引いて、近くにあるガゼボに逃げ込んだ。
「ああ、もう冷たいわ。制服濡れちゃった」
玲子は唇を尖らせて、スカートに付いた水滴をはらう。
「きっと夕立だよ、すぐにやむさ」
辰美は赤くなった目元を玲子に見られたくなくて、努めて下を向いて話した。
けれど、不思議と心がすっきりとしている。玲子の言葉のおかげが、涙を流せてすっきりしたのか。
何が功をなしたのかは分からないが、父親が亡くなった後、辰美が感じていた負担が少し軽くなっていた。
それから、五分ほど雨は降り続き小雨になってやんだ。
空には、もう雨を降らすような雲はない。
まるで、辰美の心情を現すかのように、再び晴天になった。
「やんだね」
辰美は、玲子の姿に息を飲んだ。
隣でつまらなさそうに座り込んでいる少女は雨に濡れて白シャツが透けてしまっている。
艶やかな漆黒の髪、首元、それから太ももを伝っている透明な雫が、地面にぽたぽたと音を立てながら滴り落ちる。
普段見ている玲子のはずなのに、何だか違う。
いつもより、少し妖美というか、艶やかというか。
「ゴクリ」と、辰美の喉が分かりやすく上下した。
「なに?」
無言で自分を見つめる辰美に、玲子は眉根を寄せる。
「ああ、いや。何でもない」
慌てて顔を下げるが何でもない訳がない。
辰美の心臓はさっきから、バクバクとうるさくと跳ねあがっていた。
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