傲慢令嬢、冷徹悪魔にいつの間にか愛されて縛られてました

萩の椿

文字の大きさ
61 / 72
二章 過去編

第59話

   それから時は過ぎ、玲子は秘書という仕事にだいぶ慣れてきた。辰美のフォローはもちろん、会食など他の会社の社長と食事を共にすることがあっても、いちいちマナーには躓かなかった。

 辰美が教えてくれたことが、こういう場では役に立っていた。

 そして今、玲子と辰美は共にショッピングモールの視察に来ている。

「東西社長、少しお時間よろしいでしょうか?」 

 相手方の社長から辰美に声がかかった。玲子は辰美の後ろについて行こうとしたが、
「内密な話なのですが……」
 と相手が気まずそうな顔をしたので、一礼して下がった。

 話の内容が聞こえないように、辰美たちからなるべく離れた場所に来た。

 このショッピングモールは、以前来たことがある。一郎と付き合っていた時だ。 

 お互いに服を選び合ったり、映画館でデートしたりして休日を過ごしていた時もあった。

 少し時間ができたので、ショッピングモール内を回ってみたが、どこも一郎と来ていた頃と内装は変わっていなかった。たまに、あったはずの店が違う店に変わっているくらいだ。

「なつかしい」 

 玲子の足はとある玩具店の前で止まる。

 以前、一郎と就職の話をした時、一郎がこの玩具店に勤めたいと言っていた。自分は子供が好きだから、子供の喜ぶ顔を見ることができる場所で働きたいと。 

 あと一年もすれば、もしかしたら一郎はここで務めているかもしれない。

「少し、時間が欲しい」

と言って玲子の前から姿を消した一郎とは、あれから会っていない。会える状況ではなかったし、携帯も辰美に没収されていたので、一郎から連絡が来ていても玲子には伝わらなかった。 

あの落胆した後姿が、最後に見た一郎の姿だ。あの時の一郎を思い出すと、辰美が憎くて仕方ない。

勝手に苛々して、傷ついて、気分を害される。

もう、忘れよう。過ぎた事なのだから。 

玲子が、玩具店の前から立ち去ろうとした時だった。 

「ありがとうございましたー!」

 店内から聞こえたその声には聞き覚えがあった。聞き間違えるはずがない、約三年間毎日聞いていた声だから。 

 店内にくまなく視線を巡らせると、一郎の姿があった。 

 一郎はまだ玲子には気づいていない様で、上司らしき人の話を頷きながら聞いている。

 玲子は咄嗟に身を隠した。

 心の底から会いたいと願った人なのに、何故か見つかりたくないと思ってしまう自分がいる。

 それはきっと、一郎から目を逸らされるのが怖いから。多分、勘ではあるけれど一郎はもう二度と自分とは話したくないと思っているに違いない。

 そう思われて当然の行為をしたから。

 一郎に見つからないような場所へ移動する。遠くから眺めておくだけでいいのだ。

 この時期だから、インターシップに来ていると考えるのが妥当だろう。自分に教えてくれた夢が、関係が終わった今でも変わっていないのは少し嬉しかった。

 一郎は、一生懸命接客をしている。まだ不慣れではあるけれど、子供の目線に合わせてしゃがんだり、上司らしき人の話を真面目に聞いている。

 離れてしまって声は聞こえなくなってしまったけれど、一郎の姿が見えるだけで良い。一郎を見ていると、昔一緒に過ごした様々な思い出が蘇ってくる。

 こういう時だけ、いい思い出が浮かんでくるのは何故なのだろうか。きっともう、二度と戻ることのできない関係だから、嫌な思い出で満たされて、さっぱりと諦めたいのに。

 諦めてしまえば楽になる。そう分かっているのに脳が拒否をする。
感想 1

あなたにおすすめの小説

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

(第一章完結)ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

俺様上司に今宵も激しく求められる。

藤白ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン