63 / 72
二章 過去編
第61話
それから、数日たったある日の事。
昼間、玲子は秘書室で珍しく暇を持て余していた。というのも、辰美がアキラと共に食事に出かけてしまったのだ。
普段、玲子は常に辰美と行動を共にするので食事を一緒に取る。今まで辰美と食べる食事は大体、まあまあ値段のする料理店や、弁当を取っていたのだが、今日は辰美がいないから気を使わなくていい。
玲子は大学生時代からお気に入りのコンビニに向かい、おにぎりと、サラダを買って簡単に済ませ、それからは、特にやることもなく過ごしていた。
三十分後には帰ってくると言っていた辰美だが、アキラとの話が長引いているのか中々帰ってこない。
まあ、この後は社内業務だけだから多少予定がずれ込んでも大丈夫なのだが。
遂に始業時間になり、パソコンに向かったその時。
足音が聞こえ、ノックの後に扉が開いた。
「失礼します。社長に指定された書類をお持ちしました」
少し小柄な若い男性が現れた。名前は確か、荒川だったような気がする。
一応、本社にいる人間の顔と名前はリストで把握してある。首にかけてある名札をこっそり見ると合っていた。
「ありがとうございます、荒川さん」
そう言うと、荒川は机に書類を並べていた手をぴたりと止めた。
「あの……、どうかされましたか?」
玲子が尋ねると、荒川は恥ずかしそうに鼻の先を人差し指で掻く。
「いや、名前……覚えてくださってるとは思わなくて」
「ああ……」
そんなことか、と思ったが荒川は玲子の顔を見て微笑む。
「社長の秘書に、すごく綺麗な方が入ったって会社でも噂ですよ」
この手の社交辞令にはもう慣れている。
「ありがとうございます」
「もう、仕事には慣れましたか?」
「ええ、多少は」
机に並べられた書類に不備がないか確認しながら玲子は答える。
「優秀なんですね」
荒川の言葉に、とりあえず愛想笑いを浮かべておく。
大体の社員は、秘書室に来ても用件を伝えていくだけで雑談をほとんどしない。
荒川はレアケースだ。
社内の人間と交流できるのは嬉しいが、こういう会話は望んでいない。
さっさと終わらそうと、素早く確認を済ませ、玲子は顔をあげた。
昼間、玲子は秘書室で珍しく暇を持て余していた。というのも、辰美がアキラと共に食事に出かけてしまったのだ。
普段、玲子は常に辰美と行動を共にするので食事を一緒に取る。今まで辰美と食べる食事は大体、まあまあ値段のする料理店や、弁当を取っていたのだが、今日は辰美がいないから気を使わなくていい。
玲子は大学生時代からお気に入りのコンビニに向かい、おにぎりと、サラダを買って簡単に済ませ、それからは、特にやることもなく過ごしていた。
三十分後には帰ってくると言っていた辰美だが、アキラとの話が長引いているのか中々帰ってこない。
まあ、この後は社内業務だけだから多少予定がずれ込んでも大丈夫なのだが。
遂に始業時間になり、パソコンに向かったその時。
足音が聞こえ、ノックの後に扉が開いた。
「失礼します。社長に指定された書類をお持ちしました」
少し小柄な若い男性が現れた。名前は確か、荒川だったような気がする。
一応、本社にいる人間の顔と名前はリストで把握してある。首にかけてある名札をこっそり見ると合っていた。
「ありがとうございます、荒川さん」
そう言うと、荒川は机に書類を並べていた手をぴたりと止めた。
「あの……、どうかされましたか?」
玲子が尋ねると、荒川は恥ずかしそうに鼻の先を人差し指で掻く。
「いや、名前……覚えてくださってるとは思わなくて」
「ああ……」
そんなことか、と思ったが荒川は玲子の顔を見て微笑む。
「社長の秘書に、すごく綺麗な方が入ったって会社でも噂ですよ」
この手の社交辞令にはもう慣れている。
「ありがとうございます」
「もう、仕事には慣れましたか?」
「ええ、多少は」
机に並べられた書類に不備がないか確認しながら玲子は答える。
「優秀なんですね」
荒川の言葉に、とりあえず愛想笑いを浮かべておく。
大体の社員は、秘書室に来ても用件を伝えていくだけで雑談をほとんどしない。
荒川はレアケースだ。
社内の人間と交流できるのは嬉しいが、こういう会話は望んでいない。
さっさと終わらそうと、素早く確認を済ませ、玲子は顔をあげた。
あなたにおすすめの小説
後宮入りしたら、冷酷な幼なじみ皇太子に囲われて逃げられません
由香
恋愛
幼い頃、ただ一人だけ優しかった少年。
けれど彼は――皇太子になっていた。
家の都合で後宮に入れられた私は、二度と会うはずのなかった幼なじみと再会する。
冷酷無慈悲と噂される彼は、なぜか私にだけ異常に甘くて――
「他の男に触れるな。……昔から、お前は俺のものだろ」
囲われるように守られ、逃げ場を失う距離感。
けれど後宮は甘さだけじゃ生き残れない。
陰謀、嫉妬、命を狙う妃たち――
それでも彼は、私の手を離さない。
これは、後宮で“唯一の執着”に愛された少女の物語。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
(第一章完結)ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
藤白ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389