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完璧な計画
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誰にしようか・・・
須貝 尊(すがい みこと)は迷っていた。
この計画は昔からずっと考えていた練りに練った完璧な計画だ。
だが、この親会社破滅計画には仲間が必要だ。一人では実行できない。
親会社破滅計画に君も参加しないか?と、誰かに勧誘すれば、計画後警察がその人に聞き込みをしたときに勧誘されたことを証言するだろう。
そうすれば私は確実に逮捕される。人生が終わる、破滅するのだ。
犯罪に関わる人数はできるだけ少ないほうが犯罪者にとってはいい。人数は多ければ多いほど痕跡、証拠、証言が残りやすい。私には犯罪歴などないがこれは事実だ。
共犯の理想はいざというとき裏切りにくい家族が好ましいが、私にはあいにく家族はいない。
だから確実に自分の仲間になってくれる人間にこの計画を持ち込まなくてはならない。
・・・
よし、決めた
伊藤 那比古(いとう なひこ)という男を私の部屋に招いた。
部屋に招いたのは万が一どこかのお店に呼び出して周りに話を聞かれでもしたら・・・という理由だ。
招待するとき、近隣住民に目撃されていると事件が起こった後に関係性を疑われる。なのであまり目撃されないように配慮したつもりだ。
伊藤は仕事仲間だった。同じ会社ではないが、同じ職場で働く友人だった。私と同じ、独身だ。
家族がいればいくら友人であっても首を縦にふる可能性は低くなる。
「よう」
「なんだよ、部屋に呼び出しなんかして」
「呼び出し、とは言い方が悪い。部屋に招いただけだ」
「なんだ?仕事の相談か?」
「そうだな・・・仕事といえば仕事だな」
私は続ける。
「なんか、映画でも見ないか?」
「えっ?」
見るのは刑事モノの古い映画だった。
私はこの映画の感想や反応で計画に誘うかどうか、決めることにしたのだ。
にしても誘うのが唐突すぎたか。ミスったな・・・。本番も焦って色々ミスりそうだ。
「この映画、知ってるぞ。シリーズが何本も出てるよな」
「そうだ。大人気シリーズだ。ささ、見ようじゃないか」
「ああ」
「このシリーズ、典型的な昔のハリウッドらしい映画だよな~マッチョな刑事がテロリストとかと銃撃戦ばっかりやってる」
「それにしてもこのシリーズはやっぱり1が一番だよな~」
伊藤が映画の感想を言うが、そういう話をしたいわけではない。まあ、たしかにこのシリーズは1が一番よく出来てる作品だと思うが。
映画が進んでいく。
突然、伊藤が言った。
「やっぱりこういう映画は犯人が犯罪計画をすすめるのが一番面白いんだよな」
「えっ?」
思わず、聞き返してしまった。あまりにも脳内でシミュレーションした会話と同じだったからだ。
「いや。そう思わない?」
伊藤が言った。
私は答えた。
「確かにそうだな。こうやって、犯人が刑事を出し抜くのがいいんだ!」
映画では犯人グループがビルの受付を拳銃で倒しその受付になりすますシーンが流れている。この後警察に何も異常はないと偽受付は伝えるんだ。
「そうそう!」と伊藤は同調した。
私は、このときに感覚でもうこいつと一緒に犯罪をやろうと心に決めていた。
感覚や感情というのは、大事だ。人間は感情の生き物だから。
「なあ、話があるんだが」
私は映画を止めながらそう言った
「え、いや映画は?」
「映画は後で見ればいい」
「そりゃそうだけど・・・」
伊藤は感づいたようだった
「ふーん、これが言いたくてわざわざ誘ったわけだ、映画のお誘いという名目で・・・」
「そう、だ・・・」
「言えよ、俺達の仲だろ、どうせ親会社への文句だろ?」
私は自分から誘ったくせにいざ誘うときはパニックになっていた。
「こ、ここれは仮にの話だよ」
感情が溢れて言葉がうまく出ていないような気がする。
感情は押し殺せ。誘うと決めたんだろ。
「この映画みたいにさ、親会社をギャフンと言わせたくないか?」
バカ。いきなり直球すぎだ。
親会社というのは私と伊藤の職場であるシステム会社だ。私と伊藤は務める会社は違うが親会社は共通だ。だから一緒の職場なのだ。日本のIT会社ならよくあることだ。
「まあ、そりゃ。仮にそんな計画があったらだが・・・」
こちらの言いたいことを伊藤が喋ってくれているみたいだ。私は続ける。
「そんな計画が私の脳内にあるとしたら?」
「そりゃあ。ギャフンとやりたいけど、やってくれるのか?」
マジか。
いや違う。伊藤はあくまで自分が実行犯になると思ってないからこういうのほほんとしたことが言えるんだ。
「でも、その計画は私一人では実行できないんだよ」
「そうか、それは・・・残念だな」
「でもお前が協力してくれたら・・・実行できる」
「・・・」
伊藤は黙り込んだ。仮にというのが建前ではないということに気づいたらしい。伊藤はそういうことによく気づく男だ、察しが良すぎる気もするが。いくら気が合う友人とはいえ、いきなり同僚から犯罪計画を持ち込まれたんだ。長考するのは当然だ。
「それは・・・どこまでが仮の話なんだ?」
伊藤は計画に興味を示したようだった。なんかコトがうまく進みすぎだ、と一瞬思ったが・・・気にしないことにした。うまくいってると思っているその時が一番危険という事を言う人もいるが・・・
「計画があるというのは本当だ。いいか、この先のことを聞いたら引き返せないぞ?聞きたくなかったら・・・この映画を最後まで見てこの招待はお開きだ。」
伊藤はまた黙り込んだ。そして、数十分後に言った。
「聞こうじゃないか。親会社にはひどい扱いを受けているんだし、ギャフンと言わせたい」
「逮捕されるかもしれないんだぞ!いいのか?この計画は逮捕された後の打ち合わせまで考えているんだぞ!引き返せないぞ!」
自分でも信じられなかった。自分から犯罪計画を持ち込んだのに、今は友人がノーと言ってくれと思っている。
こんなに、自分と気が合う、いい友人を計画に巻き込みたくないと思っていたのだ。
一緒に犯罪をするとまで言ってくれた友人を・・・だ。これが良心というやつか。
「大丈夫だ。覚悟はできている。」・・・と友人は言った。
「計画を聞いて、やっぱ辞めるは、ナシだぞ」
「それも覚悟している。だが聞いてもいいか?人を殺したりは、しないよな・・・?いや、お前が考えたお前の計画だ。人を殺したり、暴力を行使しないことはわかってはいるつもりだが・・・お前の口から聞きたい。・・・たとえここで辞める、引き返すとしても、俺は事件が発生した後、警察にはこの勧誘を言わないことを約束する」
「なんで・・・?」
「だってお前、俺を誘うかどうかずっと迷ってたんだろ?」
「なんで、わかってるんだ・・・」
「お前、もう声も枯れて、ほとんど泣きじゃくってるじゃないか・・・犯罪をするというのにこの表現はおかしいけど、お前が心優しい人だっていうのは誰でもわかるよ」
自分ではあんまり気づいていなかったが、私がそういう状態なことは間違いなかった。
拭けよ、と伊藤はハンカチを渡してくれた。
涙と鼻水を拭きながら質問に答えた。
「大丈夫だ、誰かを殺したりは、しない・・・暴力も、予想外な自体が発生したら・・・例えば警備員を気絶させるくらいだ」
「そうか、じゃあお金は?」
「親会社の金は社員の誰かに処分させる。脅迫文で指示すればいい。自分たちの懐に入れることはない。だから儲かることもない。あくまで親会社の金を処分してギャフンと言わせるだけ、だ・・・いや、ギャフンでは済まないな、親会社は倒産すると思う」
「お金を受け取らない理由は、例えば現実のお金だと引き渡しのときに警察に取り押さえられ、逆に仮想通貨などだと取引の記録が残るからだ、口座などがバレる・・・」
「そうか、なるほど・・・分かったよ」
「じゃあ、どうゆう計画なんだ?あの親会社に脅迫でもするのか・・・?」
「脅迫することになる。親会社の幹部のアドレスあてに送信者を特定できなくして脅迫文を送る。これは記録に残ってしまうが仕方がない」
「なるほどな・・・じゃあ計画を1から聞かせてくれ」
などと伊藤は私に矢継ぎ早に質問をする。私は犯罪計画の全容を喋った。
洗いざらい喋った後にふと思った。
なんというか、これって伊藤に取り調べられているというか尋問されているみたいだ。これは感情というか、ほとんど直感だけど・・・。
そんな事を考えているとき、伊藤が嬉しそうに喋る。
「やったぞ!これで自白が取れた!おまけに計画の全容がわかった!」
は?こいつはいったい何を言っているんだ?
私の脳内に思考が駆け巡る。
もしかして・・・伊藤は警察?いやいや、こいつは普通のシステムエンジニアのはず・・・
私はあまりの驚きに喋れなかった。
「混乱しているようだな、まあ大体がそうだが」と声が聞こえる
伊藤の声ではないのに、伊藤の唇は動いて普通に喋っている。
「いったい、何を・・・」私はやっと口を開いた。
「私は伊藤じゃない、警察だよ」と今まで伊藤だったものが口を開いた。
その瞬間、伊藤の姿が変わった。伊藤ではない、別人だ。
「え・・・あ・・・」視界が歪んだ。
「夢か、これは・・・?」
「夢じゃない」
「じゃあ、なんだ」
「仮想現実だ」
「何を言って・・・ここはどこだ?」
「自白システムの中」
「自白・・・システム?」
「自白システムは君の会社の親会社であるDDTデータが作ったシステムさ。君は知らなかったようだな。あの会社はでかいからな」
警官は嬉しそうに語っている。
「証拠や証言がない事件が起きたらこのシステムの出番だ。仮想現実で容疑者に自白させるのさ。事件前後の記憶を消去したりもできる」
「君の計画は・・・長年練ったのかスキがなかった、これはすごいよ」
「しかも現実の伊藤は行方不明だ、おそらく自殺したんだろう」
「監視カメラにも証拠は写ってない、システム内にも証拠はほぼなかったし、目撃証言も取れなかった」
「ここは現実ではないのか?」
「そう、君の部屋を再現したんだ。こんな古い映画まで用意した」
「自白システムでの自白は容疑者から自発的に喋ったものでない限り、証拠能力がない。だからこんな演出もした。ただ、今回は計画の概要を知るのがメインだった。お前と伊藤は証拠を残さなすぎた」
「そうだとしたら、私は何なんだ?私の存在も仮想?」
「流石に頭が回るなあ。君の存在は・・・現実の君のコピーだ」
「つまり、私は仮想と同じ・・・」
私は続けた。
「私はこれからどうなる?」
「現実の君は逮捕されて、実刑だろう。仮想の君はどうもしない」
「どうもしないって・・・?このまま放置か?」
「そう、警察を騙した罰だよ」
「罰・・・。そんなの人権団体や世論が黙ってないんじゃないか?警察がそんなこと勝手にしてもいいのか?」
「いいか、考えてもみろ、君は人じゃないんだ。プログラムのコードに人権はない」
私は唖然とした。
「本当に無実だったらコピーデータはちゃんと消す。だが君は犯罪を犯していた。だから積極的にデータを消す理由がない。極めて人道的だと思わないか?自白が取れた今、ここは無限地獄になったんだよ、それじゃあな」
「ちょっと待て!」私はあることをもう一度確認したかった。
「何だ?」
「さっき、事件に証拠や証言がないと言ったな?」
「ああ、そうだ。よくやったな。あと、俺はここの部屋には二度と戻らないぞ、古い映画は好きだが、家で見るよ」
最後に皮肉を言い警官と仮想だった私の部屋は消えた。私だけが空間に残った。
もう私は・・・何もすることがない。
あの警官もこの空間には戻ってこない。
自殺を試みようとしたこともあったが無駄だった。そういうシステムだから。
それでも私はある事実のおかげで少し嬉しかった。
親会社への復讐は成功したんだ。
じゃあ、私の計画はほとんど完璧だったんだ。アハハ。
私は恍惚になった。
須貝 尊(すがい みこと)は迷っていた。
この計画は昔からずっと考えていた練りに練った完璧な計画だ。
だが、この親会社破滅計画には仲間が必要だ。一人では実行できない。
親会社破滅計画に君も参加しないか?と、誰かに勧誘すれば、計画後警察がその人に聞き込みをしたときに勧誘されたことを証言するだろう。
そうすれば私は確実に逮捕される。人生が終わる、破滅するのだ。
犯罪に関わる人数はできるだけ少ないほうが犯罪者にとってはいい。人数は多ければ多いほど痕跡、証拠、証言が残りやすい。私には犯罪歴などないがこれは事実だ。
共犯の理想はいざというとき裏切りにくい家族が好ましいが、私にはあいにく家族はいない。
だから確実に自分の仲間になってくれる人間にこの計画を持ち込まなくてはならない。
・・・
よし、決めた
伊藤 那比古(いとう なひこ)という男を私の部屋に招いた。
部屋に招いたのは万が一どこかのお店に呼び出して周りに話を聞かれでもしたら・・・という理由だ。
招待するとき、近隣住民に目撃されていると事件が起こった後に関係性を疑われる。なのであまり目撃されないように配慮したつもりだ。
伊藤は仕事仲間だった。同じ会社ではないが、同じ職場で働く友人だった。私と同じ、独身だ。
家族がいればいくら友人であっても首を縦にふる可能性は低くなる。
「よう」
「なんだよ、部屋に呼び出しなんかして」
「呼び出し、とは言い方が悪い。部屋に招いただけだ」
「なんだ?仕事の相談か?」
「そうだな・・・仕事といえば仕事だな」
私は続ける。
「なんか、映画でも見ないか?」
「えっ?」
見るのは刑事モノの古い映画だった。
私はこの映画の感想や反応で計画に誘うかどうか、決めることにしたのだ。
にしても誘うのが唐突すぎたか。ミスったな・・・。本番も焦って色々ミスりそうだ。
「この映画、知ってるぞ。シリーズが何本も出てるよな」
「そうだ。大人気シリーズだ。ささ、見ようじゃないか」
「ああ」
「このシリーズ、典型的な昔のハリウッドらしい映画だよな~マッチョな刑事がテロリストとかと銃撃戦ばっかりやってる」
「それにしてもこのシリーズはやっぱり1が一番だよな~」
伊藤が映画の感想を言うが、そういう話をしたいわけではない。まあ、たしかにこのシリーズは1が一番よく出来てる作品だと思うが。
映画が進んでいく。
突然、伊藤が言った。
「やっぱりこういう映画は犯人が犯罪計画をすすめるのが一番面白いんだよな」
「えっ?」
思わず、聞き返してしまった。あまりにも脳内でシミュレーションした会話と同じだったからだ。
「いや。そう思わない?」
伊藤が言った。
私は答えた。
「確かにそうだな。こうやって、犯人が刑事を出し抜くのがいいんだ!」
映画では犯人グループがビルの受付を拳銃で倒しその受付になりすますシーンが流れている。この後警察に何も異常はないと偽受付は伝えるんだ。
「そうそう!」と伊藤は同調した。
私は、このときに感覚でもうこいつと一緒に犯罪をやろうと心に決めていた。
感覚や感情というのは、大事だ。人間は感情の生き物だから。
「なあ、話があるんだが」
私は映画を止めながらそう言った
「え、いや映画は?」
「映画は後で見ればいい」
「そりゃそうだけど・・・」
伊藤は感づいたようだった
「ふーん、これが言いたくてわざわざ誘ったわけだ、映画のお誘いという名目で・・・」
「そう、だ・・・」
「言えよ、俺達の仲だろ、どうせ親会社への文句だろ?」
私は自分から誘ったくせにいざ誘うときはパニックになっていた。
「こ、ここれは仮にの話だよ」
感情が溢れて言葉がうまく出ていないような気がする。
感情は押し殺せ。誘うと決めたんだろ。
「この映画みたいにさ、親会社をギャフンと言わせたくないか?」
バカ。いきなり直球すぎだ。
親会社というのは私と伊藤の職場であるシステム会社だ。私と伊藤は務める会社は違うが親会社は共通だ。だから一緒の職場なのだ。日本のIT会社ならよくあることだ。
「まあ、そりゃ。仮にそんな計画があったらだが・・・」
こちらの言いたいことを伊藤が喋ってくれているみたいだ。私は続ける。
「そんな計画が私の脳内にあるとしたら?」
「そりゃあ。ギャフンとやりたいけど、やってくれるのか?」
マジか。
いや違う。伊藤はあくまで自分が実行犯になると思ってないからこういうのほほんとしたことが言えるんだ。
「でも、その計画は私一人では実行できないんだよ」
「そうか、それは・・・残念だな」
「でもお前が協力してくれたら・・・実行できる」
「・・・」
伊藤は黙り込んだ。仮にというのが建前ではないということに気づいたらしい。伊藤はそういうことによく気づく男だ、察しが良すぎる気もするが。いくら気が合う友人とはいえ、いきなり同僚から犯罪計画を持ち込まれたんだ。長考するのは当然だ。
「それは・・・どこまでが仮の話なんだ?」
伊藤は計画に興味を示したようだった。なんかコトがうまく進みすぎだ、と一瞬思ったが・・・気にしないことにした。うまくいってると思っているその時が一番危険という事を言う人もいるが・・・
「計画があるというのは本当だ。いいか、この先のことを聞いたら引き返せないぞ?聞きたくなかったら・・・この映画を最後まで見てこの招待はお開きだ。」
伊藤はまた黙り込んだ。そして、数十分後に言った。
「聞こうじゃないか。親会社にはひどい扱いを受けているんだし、ギャフンと言わせたい」
「逮捕されるかもしれないんだぞ!いいのか?この計画は逮捕された後の打ち合わせまで考えているんだぞ!引き返せないぞ!」
自分でも信じられなかった。自分から犯罪計画を持ち込んだのに、今は友人がノーと言ってくれと思っている。
こんなに、自分と気が合う、いい友人を計画に巻き込みたくないと思っていたのだ。
一緒に犯罪をするとまで言ってくれた友人を・・・だ。これが良心というやつか。
「大丈夫だ。覚悟はできている。」・・・と友人は言った。
「計画を聞いて、やっぱ辞めるは、ナシだぞ」
「それも覚悟している。だが聞いてもいいか?人を殺したりは、しないよな・・・?いや、お前が考えたお前の計画だ。人を殺したり、暴力を行使しないことはわかってはいるつもりだが・・・お前の口から聞きたい。・・・たとえここで辞める、引き返すとしても、俺は事件が発生した後、警察にはこの勧誘を言わないことを約束する」
「なんで・・・?」
「だってお前、俺を誘うかどうかずっと迷ってたんだろ?」
「なんで、わかってるんだ・・・」
「お前、もう声も枯れて、ほとんど泣きじゃくってるじゃないか・・・犯罪をするというのにこの表現はおかしいけど、お前が心優しい人だっていうのは誰でもわかるよ」
自分ではあんまり気づいていなかったが、私がそういう状態なことは間違いなかった。
拭けよ、と伊藤はハンカチを渡してくれた。
涙と鼻水を拭きながら質問に答えた。
「大丈夫だ、誰かを殺したりは、しない・・・暴力も、予想外な自体が発生したら・・・例えば警備員を気絶させるくらいだ」
「そうか、じゃあお金は?」
「親会社の金は社員の誰かに処分させる。脅迫文で指示すればいい。自分たちの懐に入れることはない。だから儲かることもない。あくまで親会社の金を処分してギャフンと言わせるだけ、だ・・・いや、ギャフンでは済まないな、親会社は倒産すると思う」
「お金を受け取らない理由は、例えば現実のお金だと引き渡しのときに警察に取り押さえられ、逆に仮想通貨などだと取引の記録が残るからだ、口座などがバレる・・・」
「そうか、なるほど・・・分かったよ」
「じゃあ、どうゆう計画なんだ?あの親会社に脅迫でもするのか・・・?」
「脅迫することになる。親会社の幹部のアドレスあてに送信者を特定できなくして脅迫文を送る。これは記録に残ってしまうが仕方がない」
「なるほどな・・・じゃあ計画を1から聞かせてくれ」
などと伊藤は私に矢継ぎ早に質問をする。私は犯罪計画の全容を喋った。
洗いざらい喋った後にふと思った。
なんというか、これって伊藤に取り調べられているというか尋問されているみたいだ。これは感情というか、ほとんど直感だけど・・・。
そんな事を考えているとき、伊藤が嬉しそうに喋る。
「やったぞ!これで自白が取れた!おまけに計画の全容がわかった!」
は?こいつはいったい何を言っているんだ?
私の脳内に思考が駆け巡る。
もしかして・・・伊藤は警察?いやいや、こいつは普通のシステムエンジニアのはず・・・
私はあまりの驚きに喋れなかった。
「混乱しているようだな、まあ大体がそうだが」と声が聞こえる
伊藤の声ではないのに、伊藤の唇は動いて普通に喋っている。
「いったい、何を・・・」私はやっと口を開いた。
「私は伊藤じゃない、警察だよ」と今まで伊藤だったものが口を開いた。
その瞬間、伊藤の姿が変わった。伊藤ではない、別人だ。
「え・・・あ・・・」視界が歪んだ。
「夢か、これは・・・?」
「夢じゃない」
「じゃあ、なんだ」
「仮想現実だ」
「何を言って・・・ここはどこだ?」
「自白システムの中」
「自白・・・システム?」
「自白システムは君の会社の親会社であるDDTデータが作ったシステムさ。君は知らなかったようだな。あの会社はでかいからな」
警官は嬉しそうに語っている。
「証拠や証言がない事件が起きたらこのシステムの出番だ。仮想現実で容疑者に自白させるのさ。事件前後の記憶を消去したりもできる」
「君の計画は・・・長年練ったのかスキがなかった、これはすごいよ」
「しかも現実の伊藤は行方不明だ、おそらく自殺したんだろう」
「監視カメラにも証拠は写ってない、システム内にも証拠はほぼなかったし、目撃証言も取れなかった」
「ここは現実ではないのか?」
「そう、君の部屋を再現したんだ。こんな古い映画まで用意した」
「自白システムでの自白は容疑者から自発的に喋ったものでない限り、証拠能力がない。だからこんな演出もした。ただ、今回は計画の概要を知るのがメインだった。お前と伊藤は証拠を残さなすぎた」
「そうだとしたら、私は何なんだ?私の存在も仮想?」
「流石に頭が回るなあ。君の存在は・・・現実の君のコピーだ」
「つまり、私は仮想と同じ・・・」
私は続けた。
「私はこれからどうなる?」
「現実の君は逮捕されて、実刑だろう。仮想の君はどうもしない」
「どうもしないって・・・?このまま放置か?」
「そう、警察を騙した罰だよ」
「罰・・・。そんなの人権団体や世論が黙ってないんじゃないか?警察がそんなこと勝手にしてもいいのか?」
「いいか、考えてもみろ、君は人じゃないんだ。プログラムのコードに人権はない」
私は唖然とした。
「本当に無実だったらコピーデータはちゃんと消す。だが君は犯罪を犯していた。だから積極的にデータを消す理由がない。極めて人道的だと思わないか?自白が取れた今、ここは無限地獄になったんだよ、それじゃあな」
「ちょっと待て!」私はあることをもう一度確認したかった。
「何だ?」
「さっき、事件に証拠や証言がないと言ったな?」
「ああ、そうだ。よくやったな。あと、俺はここの部屋には二度と戻らないぞ、古い映画は好きだが、家で見るよ」
最後に皮肉を言い警官と仮想だった私の部屋は消えた。私だけが空間に残った。
もう私は・・・何もすることがない。
あの警官もこの空間には戻ってこない。
自殺を試みようとしたこともあったが無駄だった。そういうシステムだから。
それでも私はある事実のおかげで少し嬉しかった。
親会社への復讐は成功したんだ。
じゃあ、私の計画はほとんど完璧だったんだ。アハハ。
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