バトル・オブ・シティ

如月久

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ヨッシー参戦

1.細かすぎる設定

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 バイトを終えたヨッシーが、コンビニ弁当の袋を下げてリョウの部屋を訪れたのは、午後11時を少し回った頃だった。
「遅くなってゴメン。客が途切れなくてさ、30分も残業させられたよ」
 ヨッシーは大学近くのファーストフード店で働いていた。勤務は概ね週3のペースだ。
「これが『シティ』か。CGは結構チャチな造りだな。ファミコン時代のテレビゲームみたいだ。それはそれで味があるけど」
 ヨッシーは画面を覗き込んで言った。
「でも、中身はそんなもんじゃないぞ。結局、昨日から造ってた街は破綻したんで、夕方から新しい街を造っているところだ。まだ、4年目だから、小さい村だけど」
 ヨッシーはカッターシャツの胸ポケットからマルボロを1本取り出し、口にくわえた。
「4年?」
「ああ、ノーマルの状態だと、ゲームの1年はだいたい1時間なんだ。15分ごとに季節が変わる」
「最初は?」
「人口が1人、建物は村役場庁舎だけ、というところからスタートさ」
「プレーヤーが村長なのか」
「村長というより、王様に近いな。街の予算を全部使える絶対権力者さ」
「今は…、人口が千2百人、歳入が12億円、歳出が11億円、起債残高…、ああ借金のことか、それが8億円か。これって順調なのか」
「まあまあだな。借金の返済額がどんと増えてくるのは3、4年あとだから、それまでに歳入を増やしておくよ」
「借金を返せなくなったら?」
「ゲームオーバーだ」
「終了の決まりはそれだけか」
「強制的に終了となるのは、それだけだ。でも、人口が減り続けて、街の縮小が止まらなくなったら、リセットしちゃうな」
 ヨッシーは興味深そうに何度も頷いた。
「リョウの村には何があるんだ」
 リョウはタッチパッドを操作して、村勢概要という項目を引っ張り出した。
「世帯数は880。株式会社が13社。個人事業主、ほとんどが商店だけど、それが5つ。学校は2つ。警察の駐在所や消防署もあるよ」
「かわいらしい村だな。でも、ただ村を作っていくだけなのか、何かイベントは起こらないの?」
 ヨッシーの質問に、リョウは目を輝かせた。
「それさ、それがこのゲームの本当に凄いところなんだ。まあ、これを見てくれよ」
 そう言って、リョウはゲーム画面上の住宅と思われる一軒をクリックした。
<男、29歳、独身。××建設工業工務課主任。3条5丁目の女性と恋愛関係にある。来年春に結婚予定>
「ほらな。これだけの膨大な数の会社や住宅、それぞれが細かく設定されてるんだよ。恐ろしく手間のかかったゲームだよ、これは」
 ヨッシーは身を乗り出して画面を覗いていた。
「ちょっと駐在所にお邪魔してみるか」
 リョウが駐在所の場所をクリックすると、表示が現れた。
 <駐在所長、男、階級・巡査長、39歳。妻・37歳、長男・15歳、二男・12歳、長女7歳。留置所内に、窃盗容疑の女を拘留中。××商店で万引きをして逮捕した>
「2回目の村では、留置所に殺人犯が拘留されていたこともある。驚くだろう?」
 ヨッシーは煙草に火をつけるのも忘れて、画面に見入っていた。
「プログラムはどうなってるんだ」
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