バトル・オブ・シティ

如月久

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救出作戦開始

5.マチに足りないもの

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 強大国「プレミアム・シティ」に対抗する戦略は、おぼろげに見えてきたが、「リョウⅣ」は肝心の課題をクリアする術を見つけられていなかった。
<どうやって短時間で『メガロポリス』まで駆け上がるのか>
 いくらゲーム上の時間をスピードアップしたとしても、街を大きくするアイデアが貧困だったら、「メガロポリス」には到達できない。そもそもこのゲームは、そこが難しいところなのだ。時計の針を早めるのは、街を巨大化する確実な方向性を確立した時点だ。だが、今のリョウとジャニスにその方法は見えていなかった。だが、救いがない訳ではない。今は考える頭が2つある。
「何が必要なのかな、街を大きくするのには」
 2人は焦りながら、必死で考えていた。実際の時計の針は、すでに午後1時を回っていた。ヨッシーの軍事裁判が結審するまでのタイムリミットは刻々と迫っていた。
「まずは働く場所だと思う」
 リョウが口を開いた。
「最初は土建業や工業、商業で挑戦したけど、なかなかうまくいかなかったんで、農業にしてみたんだ。安定していて、堅実な街は作れるけど」
「人口増加のペースが遅い」
「うん、このペースだと、百年たっても百万人には届かない」
「農業はどうして安定しているの」
「それは多分、安定した収穫があるからだろう。決まった時期に決まった収穫があれば、それをさばくための労働力が必要になる。それで一定の人口を養っていけるという計算だと思う。工業や商業は、この『決まった時期に』というのがない。いつも注文次第なんで、安定性に欠ける。だから、公共工事やら民間事業やら、常にいろんなプロジェクトを動かしていないと、お金が回らなくなる。金回りが悪いと、会社が潰れて、人口が減る。過去3回はそのパターンだった。でも、農業は違ったんだ。このゲームの中では、冷害とか豊作はないみたいだから、収入が毎年定まっている。それに、農業は意外に裾野が広い産業だったよ。農家と農協だけでなく、卸売市場があって、加工場があって、それに運送業も発達する」
「でも、畑の面積が限られているから、人口の伸びには上限があるわね。農業のように、安定して裾野が広くて、大勢の人間が携わるような産業を何か見つけないと、短時間で『メガロポリス』は作れないのね」
「しかも、他のプレーヤーが取り組んでいないものをね」
 2人は「シティ」のホームページに行き、「シティ」や「セントラル・シティ」に昇格した街の産業構造をあれこれ調べた。業種構成に個性は見られるものの、基本的な産業パターンはどの街も同じだった。商工業に公共事業が中心で、あとは観光だったり、大学だったり、どれも大差なかった。
「誰も手をつけていない分野はないの?」
「1万人以上が登録しているからね。あんまり突飛だと、ゲームが認めない。もうアイデアは出尽くしているかもしれない」
「でも、ゲームの世界は、現実の世界をかなり忠実に模倣しているのよね。産業社会を動かしていく上で、何かが欠けている気がするんだけど…」
 同じ疑問はリョウも抱いていた。街はたくさんあるが、何か大事なものが抜けているのだ。その答えは、すぐ手の届くところにありそうな気がしてならなかった。しかし、分からない。確かヨッシーもそのことにちょっとだけ触れていた気がする。だが、思い出せない。
「商業、工業はかなり成熟しているわね。特に工業はいろんな業種がある。自動車に精密機械、電気製品、食品、衣料品、医薬品、何これ花火工場もあるわ」
 ジャニスは真剣な表情でいろいろな街を検索していた。
「商業もデパートやスーパーはもちろんだけど、随分大きなショッピング・センターもあるわ」
「リゾートもバラエティ豊かだよ」
「テーマパークや遊園地、動物園、ヨッシーのをまねしたのかな、カジノも結構多いわね」
「競馬場や競輪場もあるよ」
「エネルギー関係は?」
「発電所を持っている街は多いよ。ヨッシーのカジノタウンにも自前の発電所があった。電力が足りないと、ホテルが進出しなかったんだろう」
「ちょっと待って」
 ジャニスは何かを思いついたのか、マウスを忙しく操作した。いろいろな街を慌しく調べている。しばらくして、小さく頷いた。
「ないのよ、資源を供給する場所が」
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