バトル・オブ・シティ

如月久

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プレミアム・シティの総攻撃

5.一進一退

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「映画の話だけど、第二次世界大戦のヨーロッパで、ノルマンディに上陸した連合国軍が、ドイツ目指して進軍するんだけど、ドイツ軍が途中途中で橋を破壊したり、防御線を張ったりしてて、なかなか前に進めない。そこで、戦況を一気に打開するために、進撃経路にある5つの橋を一気に襲って確保して、大軍を短時間で一気に前進させようという大作戦。結局は、5つのうち一つだけを取り損ねて、作戦は失敗するんだけどね」
「今回にあてはめると、どうなるの」
「連合国側が『プレミアム』さ。だから、こっちは、俺たちの街に入ってくるまでの経路上の橋を全部爆破して、奴らの軍を釘付けにする。映画だと、パラシュート部隊を橋の近くに降下させたりして奪う橋もある。橋を攻略している最中に、本隊がどんどん前に進む。本隊が通過するまで、橋を維持しろというのが絶対の命令なんだよ」
「それじゃ…」
「逆のことをしてやるんだ。『プレミアム』の陸軍は、主力が戦車だから、橋が落ちたら前に進めない。だから、奴らが川を渡る前に全部の橋を壊す」
「橋はいくつあるの?」
「映画と一緒さ。俺たちの街の中心部までには、5つの橋がある」

 間もなく、「プレミアム」の港を攻撃して2つの国に戻っていた爆撃機が、橋を爆破するために、「シティ・ジャニス」と「レールウエイズ」の飛行場から再び飛び立った。しかし、今度は「プレミアム」も慎重だった。5つの橋のうち、「プレミアム」領域にあった2つは、高射砲などでがっちり守られていた。結局、爆破作戦は失敗し、大軍は、難なく国境まで進み、そこで一旦進軍を停止した。国境付近には、大きな川があった。そこに架かる橋は、「プレミアム・シティ」から「シティ・ジャニス」への唯一の陸からの進入路だった。その川の橋はすでに爆破してあったが、「プレミアム」軍は、国境の川に浮きフロートの仮設橋を架け始めていた。
「時間はたいして稼げなさそうね」
 1カ月が1時間で過ぎていくゲームだ。仮設橋は見る見るうちに完成し、大軍が続々と国境を超えてきた。
「ここからの作戦は、ゲーム設定のリアリティを信じるしかないんだ。見ててよ」
 リョウが言うが早いか、連合国側の爆撃機が、作ったばかりの仮設橋を再び爆撃した。「プレミアム」の大軍は、半分近くがすでに渡河したあとで、残る半分は「プレミアム」側の対岸に残ったままだった。
「これで、最前線の戦車部隊は、一時的だけど孤立した。前方の橋が落ちているので前には進めないし、後ろにも引き返せない。弾薬や食料の補給も受けられなくなった」
「ここで攻撃するの?」
「いや、攻撃するだけの戦力はない」
「ならどうするの?」
「消耗を待つ。ゲームの設定がリアルなら、1時間もしないうちに降伏するはずだ」

 それからの1時間は、連合国軍対プレミアム軍が、国境の橋の争奪戦に終始した。「プレミアム」側は、再び仮設橋をかけ、残りの部隊を早く追いつかせたい。連合側は、それを阻止する。橋の架設作業を進める「プレミアム」に、連合国側が何度も攻撃を仕掛け、橋を架けさせない。その攻防が小1時間にわたって繰り広げられた。一瞬の気も抜けない、シビアな戦いだった。ここを破られたら、前線を孤立させた意味がなくなる。ここを死守できるかどうかが、戦況を決めるのだ。

 2人が集中して橋での攻防戦を繰り広げている時、突然、リョウの部屋のドアを誰かが強く叩いた。
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