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 最近、こんな小説や漫画が巷で流行っている。

 悪役令嬢が、婚約者である王太子殿下によって婚約破棄。犯してもいない罪によって国外追放、最悪死刑。

 今、そんな状況にある。が、


「罪を犯した元婚約者ラファーリア・ストラストを国外追放とする!!」


 あぁ、自己紹介が遅れましたね。私はトリップ者である有元柚。ここは、私が愛読していた小説の中の世界。


「そして、私の婚約者をセシリア・トワニア男爵令嬢とする!!」


 この世界のキャラクターに転生しました。……セシリア・トワニア男爵令嬢として。


 普通逆だろッ!!


 普通婚約破棄される方だろ!! トリップ者って!! そっちだよね!! 何で私こっちに立ってるの!?


「リュート王子!!」


 おう?? 人だからの中から誰か……って、


「エルメス王子!?」


「お話は聞かせていただきました。セシリア嬢との婚約成立おめでとうございます。

 ラファーリア嬢、という事は貴方はもう婚約者がいないという事になりますよね。では、私が求婚をしても?」



「「「「なっ!?」」」」



 お、新展開。小説の中じゃこうならなかったよね。あらあら、顔赤く染めちゃって可愛いわね。……じゃなくて!!

 ラファーリア嬢さん!? 貴方にこのおバカな殿下を何とかしてもらおうとやってきたのに結局私が殿下と婚約を結ぶストーリーは変えられないのね!?

 今までの努力はすべて水の泡って事!?

 前世の記憶を持ってい産まれた私はこのおバカ殿下との婚約なんてまっぴらごめんだと思い無能なフリをし極力会わないようにしていた。

 だけど、思わぬアクシデントがありすぎるほど起こりまくって大失敗。最終的にこうなってしまっただなんて……

 完璧で優秀な、王妃になるべくして今まで教育されてきたラファーリア嬢がいなくなり恐らくこの無能な馬鹿はすぐに仕事に追われて大混乱を起こす事ととなるだろう。

 陛下のご子息はこの方しかいない為王位継承権はこの方のみが所有している。まぁ、内乱が起こってしまえば変わっていくが。


 そう、そこが問題なのよ。


 今回、ラファーリア嬢は貴族派によってこのような事態となってしまった。

 貴族派にとって邪魔なのはストラスト侯爵家。そのご令嬢である彼女が王妃となってしまうのは一番避けなければいけなかったのだ。だから、力のない男爵家の私が選ばれた。

 このように上手くいってしまってさぞかし貴族派の皆様は嬉しいでしょうねぇ。今夜は祝杯かな?



 結局この場はエルメス王子によって終結した。


「大丈夫か、セシリー?」


 そっくりそのままお前に返してやるよ。お前、頭大丈夫か?? さっきお前がしでかしたこと分かってないだろ。ラファーリア嬢がこの国にとって一体どんな存在だったか。アホか? アホなのか?


「怖かったであろう、もう大丈夫だからな。今日は一緒に居よう。今日は宮に部屋を用意する、ゆっくり休んでくれ」


 いや、家に帰らせて。

 この国の未来についてゆっくり考える時間をくれ。



 陛下は今、床に臥しておられる。

 その為、公務をすることが困難。だから今までは殆ど時期王妃となるラファーリア嬢が、そして王太子は何となくでサインだけしていた。

 そんな彼女が今回の事件でいなくなってしまった。じゃあどうなる? 考えなくても分かる。官僚達は大混乱、そして馬車馬のように大量の仕事を前に働かされてしまうであろう。ブラックにも程がある。


「トワニア男爵令嬢、これは……??」

「これはーーの予算案、こちらはーー。全部殿下に目を通してほしいのですが」


「「「えっ……」」」


 驚くのも無理はない。私は馬鹿な令嬢として世間に知れ渡っているのだから。


「ラファーリア様がここを去る前に色々と準備をしてくださっていたので、私でも処理できました。感謝しなければいけませんね」


 あぁ、納得したようだ。貴方達、素直なのね。それにしても、今頃あのバカは一体どこにいるのかしら。

 まぁ考えてもしょうがない。これ全部今日までに何とかしよう。


 ……と思っていた矢先に、あの馬鹿がやらかしてくれちゃったのだ。


「殿下っ!!」

「どうした、声を荒げて」


 私は今、猛烈に腹が立っている。


「何故ソフィール国との国交を断絶されたのですかっ!!」


 ソフィール王国と何十年もの間良い関係を築き親睦を深めてきた。それを切ってしまうだなんてッ!!


「セシリーを苦しめていたあの女がこれから嫁ぐ国だ。君が気分を害すると思ったからそうしたのだ。これで少しは、安心できただろうか?」

「なっ……!?」

「私は、君が笑ってくれればそれでいい。何、大したことではないだろう?」


 あぁ、そうだった、こいつは馬鹿だった。分かっていた事じゃないか、じゃあ今後一切こいつに仕事をさせない方がいい。そうだ、そうしよう。前のようにサインだけさせればいい。こいつに期待した私が馬鹿だった。


「どうした? そんな顔をしないでくれ。あぁそうだ、君にプレゼントを用意したんだ。来てくれ」

「……いえ」

「そう言うな、きっと驚くぞ!」


 そうニッと無邪気に笑いながら私の手を取り歩き出した。

 そして、辿り着いた先は……



「金木、宮……っ!?」

「どうだ? 驚いたか?」


 わくわくと、私が喜ぶ反応を待っているのだろうか。だがしかし、そんな反応は出てこない。だって、金木宮は……


「わ、私、まだ婚約者ですよ……!?」


 ここは、王太子妃が使うために建てられた宮殿である。プレゼントなんて……まだ結婚してないのに、なぜ私がこんな所に……


「ほら、早く! 案内しよう!」

「でっ殿下っ!!」

「なんだ?」

「わ、私は王太子妃ではございません……!!」

「遅いか早いかだけの問題だろう? 私が許可したのだ、何も問題はない」

「そっそんな簡単に……!!」

「よいではないか、そうすればいつでも会いに行けるだろう? さ、入って案内をさせてくれ!」


 もう既に使用人に言ってあり荷物は運びこまれていたらしい、あぁ、何とかしてくれ。誰か。


「どうかしたか? セシリー」


 どうかしたかぁ? お前のせいで眩暈がしそうだよおい。連れ回されやっと落ち着いたと思ったらお茶ですって? 書斎にある問題山積みの書類の事を思うと頭痛がするよ。ほんっと、コイツ使い物にならないな。


「そんなに難しい顔をしないでくれ」

「……申し訳ございません」

「堅苦しく接しなくても良いと何度も言っているだろう、私とセシリーの仲なのだ」


 あーん、と言って目の前にクッキーを出してきた。食えと? これを食えと? 何だそのふりふりした尻尾の幻覚は。はぁ、と心の中で溜息をつきつつそれを手で取り口の中へ。ガーンと効果音の付きそうな顔をしている殿下に、「はしたないですよ」と一喝してやった。


「うぅ、酷いじゃないか。別に侍女は下がらせているのだから良いであろう」


 そうじゃないわ、と心の中でつっこむが……あぁ、照れているのか! と開き直る殿下。な訳ないでしょう。寝言は寝て言え。




「では、こちら早々に処理いたします」

「えぇ、よろしくお願いします」


 この方は、ストーマ殿。殿下の側近で、とても頼りになる方だ。何とか仕事が回っているのも彼のおかげと言っても過言ではない。

 はぁ、あの馬鹿が使い物にならなければこんな事になってなかったのに。


「あぁあと、これから殿下がいらっしゃるようですよ」


 ……は? 殿下が? いらっしゃる? なんて事を、と思った次の瞬間。両肩に手が乗せられた。後ろからだ。


「セシリー!」


 ……気配を消して近づかないでいただきたい。このせいで私は何度驚かされただろうか。実はこのせいで逃げられず最終的にこんな事になってしまったのだ。こいつは忍者なのか? マジで忍者なのか?


「今日は外でお茶でもしようか」


 もう準備させたんだ、と連行されていった。あぁ、机の上の処理されるべき書類達よ、もうちょっと待っててくれ。まずはこいつを何とかするから。

 ふと、通り道の庭園を見た。何色もある薔薇が沢山植わっていて。これは、貴族学院時代に薔薇が好きだとバレてしまいその後王宮に連れてかれてこれを見せられた。セシリーの為に作ったのだ! と。私、婚約者でも何でもなかったのですが。と呆れた。

 はぁ、何で大胆なことをするのだろうかこの人は。


「セシリーは頑張り屋さんだからな、時には休憩も必要だろう。だからそんな顔をしないでくれ」


 休憩なんて何回させてるんだよ。てかこんな顔にさせているのはお前なんだからな、分かれや。そんなニコニコ顔はいらないから、さっさと執務室に帰らせろ。……とは顔に出さず紅茶を口に入れた。まぁ真顔ではあるが。


「……はぁ、殿下。今日の公務は? ここで油を売っていてよろしいのですか」

「終わったぞ! セシリーの言った通りにだ! だから安心してくれ! それに、これも大切なことだ。婚約者と一緒にいる事に時間を使うのも大切だろ?」


 終わったって、ほんとかよ。絶対違うだろ。知ってるんだからな、サボり癖がある事を。それにさっき殿下のサインするべき書類渡したし。それに時間を割く暇があるんだったらあの大量の仕事を目の前に馬車馬のように働かされている家臣達の手伝いをして休ませてあげなさいよ。


「ククッ、やはり僕はセシリーがいないとダメらしい」


 そう言いながら私の髪を人掬いしてきた。

 何の事やら、と思ったけれど……私がいないと、ダメですって? それ本気で言ってます?


「……いいですか殿下、貴方は王太子です。いずれはこの国の国王になられる方なのですよ。この国を豊かにし国民達を守っていく存在なのです。私がではなくて、殿下がですよ。しっかりしてください」


 ふざけんなってんだ。お前分かってんのか、国王だぞ、国王。分かってんのかよ。責任感とかそういうのは微塵も感じないんだが。このままアンタが国王になった瞬間にこの国を危うくするのは目に見えてるんだ。お願いだから、しっかりしてくれ。


「君だけは、絶対に僕から離れないでくれよ」


 ……ん?


「ずっといてくれ、セシリア」


 いきなりの意味深なセリフ。口説いてるのか? 一応、「私は貴方の婚約者ですが」と言っておいた。笑ってはいたが……陛下の容態があまり良くないからなのだろうか。まぁ、いっか。





「セシリアっっっ!!!!」


 朝から、来訪者がいた。

 それは、何の知らせもないまま来たのだ。私が宮を出た時に私の名を怒鳴り声で呼んだ。


「……如何いたしましたか。叔父上」

「如何いたしましたじゃないっ!! あれはどういう事だ!!」


 彼は、私の父上の弟にあたる。私の父上と母上が亡くなられ、強引に男爵家当主の座を奪った男。

 私は、この男が非常に嫌いだ。


「殿下がソフィール国との国交を断絶させたと聞いた!! お前の仕業かっ!!」

「……は?」


 私、何もしてませんが。それをやったのは殿下ですけど、あのポンコツアホ殿下ですけど。言いがかりはやめてもらえませんか?


「私があの国の商人と契約を結んでいた事はよく知っているだろう!! それをよくも……!!」


 そんな時、彼の手が出てきた。これはやばい、そう思っていても避ける準備が出来ていなければ打たれるに決まっている。

 覚悟はしていた、していたのに……


「で、んか……?」

「何だろうか、これは」


 私の後ろから手が伸びていて、叔父の手を掴んでいたのだ。怪我はないか、とキョロキョロ顔を見てきて。


「あっ、いえ、これは……」

「これは?」

「お、驚いて手が動いた、だけです、ので……」

「本当か?」

「はっはい、まさか可愛い姪に怪我をさせるわけないではありませんか」


 この野郎、言い訳にも程がある。けど、間に受けたらしいこの馬鹿王子は「そうかそうか、可愛くか弱いセシリアが怪我をしては大事だからな」と、へらへらしていた。

 しかも、今日も可憐で美しいよ、といつもの調子。叔父は、内心王子がチョロくて助かったなと思っているだろう。

 では、と一言残しペコリと頭を下げて一目散に逃げていった。逃げ足だけは早いなあのクズ。


「あの、殿下」

「部屋からセシリーが見えたのでな、勝手に足が動いてしまったよ」


 あぁ、この前船デートをしたいと作らせたんだ、と言われ湖に連れてかれた。セシリーと行けるのを楽しみにしていたんだ、と。はぁ、仕事がまだあるというのに……さっきサインしてもらう為殿下に渡してくれと頼んだものは、きっと机に積まれてるんだろうなぁ。あははー。

 でも……殿下が叔父上の手を掴んだ瞬間、背筋が凍ったような気がしたのは、私の気のせいだったのだろうか。




 そして、事件は起きた。


「セシリア・トワニア男爵令嬢!! 皇后毒殺未遂の容疑で逮捕する!! 」

「この者を捕らえよっ!!」


 ど、どうしてこうなった……?

 朝、いきなりこの金木宮に兵士達が乗り込んできた。そして、私を囲い剣を向けてきた。


「わ、私、何も……」

「容疑を否認するのか。こちらは、証拠も見つかっているというのに」


 しょ、証拠……? 

 もう、何が何が何だか分からない。 

 そんな時、あのバカ王子が駆け付けてきた。


「セシリーっ!!」


 何かの間違いだ、と必死に抗議をしているが、まるで聞く耳を持たない。命令だ、と言っても「陛下からのご命令だ」と聞き入れてもらえなくて。へ、陛下がそう言ったのですか……?

 そして、両腕を押さえられ連行されてしまったのだ。

 私は何もしていない、そう何度も訴えた。けど、向こうはこう言った。

 事件現場である王妃殿下の寝室に、毒の入った小さな瓶が転がっていて。それを私の私室で見たという侍女が複数いた、と。

 そんなの、知らない、使われた毒の瓶がどういうものかも知らない。けど、私の言葉は当然聞き入れてもらえず、罪を犯した貴族を入れておく塔の牢屋の最上階に投げ入れられてしまったのだった。

 馬鹿王子が言ってくれた。

 何かの間違いだ、と。

 その通りだ、だって覚えがないのだから。

 じゃあ、一体誰が? 頭の中に、いくつか候補が上げられた。その中には私の叔父も含まれる。あんなにソフィール国との国交を断絶させた事に激怒していた。

 叔父はソフィール国の商人と契約を結び商売をしていたのは知っている。どんな商売だったのかはよくは知らないけれど、その中にはあまりよくない商品もあったはず。それを知っていたのに、自分の事でいっぱいいっぱいで目をつぶってしまった私を今すぐ殴りたい。

 けれど、ここまでするだろうか。……分からない、あぁ、こんな事ならもっと貴族派の奴らを調べておくんだった。……いや、もうこうなってしまったのだから今更後悔したって意味がない。


「……こんなにも、自分が無力だったなんて……」


 ……駄目駄目、気をしっかり持ちなさいセシリア。何か、方法はあるはずよ。と言っても、こんな所にいるのだから何が出来るかなんてあるわけがないが。



 次の日、ドアの向こう側が騒がしかった。階段を上がる複数の音だ。そして、……これは、殿下の声? きっと面会か何かで来たのだろう。ドアが開けられた。思った通り殿下が入ってきて、いきなり抱き締められてしまった。


「セシリー……セシリー……」

「殿下……」


 ぎゅっと、しっかりと私を抱きしめる。こんなに心配してくれたのか……肩が少し震えてる。けど、殿下の肩から向こう側をふと見た時、ぞろぞろと一緒に来たらしい兵士達がこちらに歩いてきて。いやな予感がして殿下に声を掛けようとした時にはもう遅かった、


「なっ……!?」


 いきなり、複数の兵士が私達に剣を向けてきたのだ。どうして、謀反……!?


「婚約をよく思わなかった皇后陛下を暗殺。未遂となって牢に入れられたが、助力していた殿下が面会として助けに入り逃がそうとし、我々に抵抗してきてしまった為已む無く殺害してしまった。という事にさせて頂きますよ」


 なんてふざけたシナリオなんだか。貴族派の奴らのすることは本当に馬鹿だよね。……死にそうだけど。ねぇ、殺されちゃいそうなんだけど。


「……セシリー」


 いきなり、顔を覗かせ、微笑まれる殿下。え、何、今の状況分かってない? とことん馬鹿だなお前。え、巻き添え食らって殺されるとかないんだけど。嫌なんだけど。と思った次の瞬間、


 ガンッ……


 金属がぶつかり合う音がしたのだ。いきなりの事でよく分かってないけど、殿下が……あれはナイフ? で立ち向かっていて。……まさかブーツに忍ばせていた? とは言ってもあんな細くて短いナイフで数人を相手にするとか……え、殿下って武術もヒョロっこって聞いたんだけど。


「大丈夫ですか、セシリア様」


 ストーマ殿の声……って窓からぁ!? ここ結構高いよね!? え、登って来たの!?


「殿下」

「遅い」


 その声と一緒に、持っていたらしい剣を殿下に投げ渡したストーマ殿。そして、兵士達を全員部屋の外へ押し出してしまったのだ。


「セシリー」


 とんでもない強さを見せつけてきた彼がこちらに近づいて来て、またまた私は抱きしめられてしまった。


「耳を塞いで待っててくれ」


 すぐに終わらせるから、と笑顔で部屋から出ていってしまったのだった。


「……あの」

「如何致しましたか」

「あれ、誰ですか」

「貴方の婚約者様ですよ」


 本当に? あの馬鹿はどこ行ったの? 何だか剣のぶつかる音と悲鳴と投げ落とされる音が半端なく聞こえてくるんだけど。耳塞げって言われたけどさ。驚き過ぎて無理だって。


 そして、数分後に笑顔で戻って来てしまった。……本当に一人で片付けてしまったのだろうか。いや、味方の兵が待機していたのかも。だってナイフを忍ばせておいたんだからこうなるって分かってたはずでしょ。……声は聞こえなかったけど。足音も多く聞こえなかったけど。
 

「さ、こんなところは早く出てしまおうか」

「えっ、でも……」

「こんな怖い所にいるのは嫌だろう? それに、セシリーは被害者だ」

「え……」


 被害者、だなんて……殿下に剣を向けたのは事実だけど、1日で解決だなんてできっこない。貴族側の使用人達だっているんだから、炙り出すなんてもっと不可能だ。


「セシリーは何もしていない、ならここにいる意味はない」


 な? とニコッと笑いながら、殿下が着ていた上着を私の頭にかけ抱き上げられた。あとは頼んだ、とストーマ殿に言いつけ部屋を出てしまった。


 部屋を出て周りを見ようとしても掛けられた上着で見えない。一つ言えることは血の匂いがすごいということ。こんな事をできてしまう殿下に驚きを隠せずにいながら殿下の腕の中でおとなしくしているしかできなかった。



 それから2日後、私の無実が証明された。そして、この事件を引き起こした犯人は貴族派筆頭である公爵だったことが判明。そして、その他の貴族達も絡んでいたらしい。みんな仲良く牢屋入りだ。皇后陛下に毒を盛った挙句、王太子殿下とその婚約者の殺害未遂。死刑だろうね。爵位剥奪、追放なんて可愛いものだ。

 そういえば、叔父も爵位剥奪が決まったな。国が禁止していたものを売買していたらしい。国交を切った事によって尻尾を出してしまったんだ。実に間抜けだよね。


「遠路はるばる足を運んでいただき感謝する、エルメス王子」

「また我が国との交友関係を結んでくださりありがとうございます。リュート王子」


 以前馬鹿王子がソフィール国との国交を断絶した。それをまた、再開する事になったのだ。これは、その為の晩餐会。いきなり晩餐会に引っ張り出されたかと思ったら、まさかリファール国の王太子と馬鹿王子の元婚約者ラファーリア嬢とお会いするなんて。


「幸せそうで何よりだ。王太子殿、ラファーリア嬢。婚約おめでとう」

「あぁ、ありがとう」


 ……ん?


「ご協力感謝する」


 ……んん??


「こちらこそだ、これで鼠退治が出来て此方も助かった」


 ……んんん???


「……殿下、あの……」

「ん? どうした、セシリー」

「……いえ、何でもありません」


 いや、まさか。この馬鹿王子……

 それと、エルメス王子に、ラファーリア嬢……


「今日も綺麗だ、セシリー」

「あ、はい。お褒め、いただき、ありがとう、ございます」


 私、仲間外れにされてません……??



 End,




*あとがき


□セシリア・トワニア男爵令嬢

 馬鹿王子から逃げられなかった転生トリップ令嬢。仲間外れにされていた事に何となく気が付いているが、殿下はニコニコするだけで教えてもらえなかった。


□馬鹿王子ライドン・リュート王太子殿下

 トワニア令嬢を絶対捕まえるためラファーリア嬢と手を組んだ、実は馬鹿じゃなかった策士。セシリーが手に入るのであれば何でもする精神。彼女の叔父が悪い事をしていたことが発覚してついでに貴族派の馬鹿共も一掃してしまおうと考えエルメス殿とも手を組んだ。


□ラファーリア・ストラスト侯爵令嬢

 運命の出会いをしてしまった恋する乙女。乗り気じゃなかったこの結婚の婚約者と手を組み、晴れて隣国王子と結ばれ幸せ真っ最中。


□クラスト・エルメス王太子殿下

 どうにかして自国の鼠を一掃したいという気持ちを分かち合ったリュート殿と手を組んだ。因みにこちらも運命の出会いをしてしまった恋する乙女第二号。


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