目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫

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第七章 フェリアス王立学院

◇58 カレーライス

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 今日は、首都の郵便局の様子見をしてから【なかむら】に来ていた。営業終了の時間に来い、と事前に言われていたから、お店に入っても店内はがらーんとしていた。


「いらっしゃ~い!」

「こんにちは」


 今日もスタッフは全員らしい。いつものナカムラ兄妹と、リカルドさんもナオさんもいた。

 いつもの厨房に一番近い席に座ったら、タクミ君がお茶を持ってきてくれた。


「実はさぁ、アレがあるんだよね」

「アレ?」

「カレーライス」


 なっっっ!? カ、カレーライスだと……!?


「前にその話したの思い出して、何となく食べたくなって作ったんだ。このままじゃ俺らの腹に収まるけど、食べたいのであれば分けてやらん事もない」

「……辛さは?」

「ウチにはおこちゃまがいらっしゃるんでね」


 はぁ~い! とナオさんが手を元気よく上げた。ど、同志がこんな所に……!


「食べたいですっっっ!!」

「おっけ」


 必死だなおい、とタクミ君には呆れられてしまったけど、だってカレーライスですよ!! 食べたいに決まってるじゃないですかっっっ!!!

 カレーライスとは? とマリアとジルベルトが説明を求めているけれど、見た目があれなんだよねぇ。まぁでも生の魚が大丈夫だったし、いけるかな?


「いろんな野菜を入れた煮込み料理だよ。それをご飯にかけて食べるの」

「へぇ、ご飯に直接かけるのですか。どんぶりのような?」

「平たいお皿に乗せるの」

「なるほど」


 さっきまでカレーの匂いしてなかったけれど、うんうん、カレーの匂いがしてきた。あ、匂いがするから自宅から持ってきたとか? 確か隣が自宅でこっちと繋がってたんじゃなかったっけ。

 カレーという事は、もしかしてスパイス好きのナナミちゃんが頑張っちゃった感じかな? 絶対美味しいはず!!


「はいお待ちどうさ~ん! こっちはアヤメちゃん、こっちはお二人用ね~!」


 ん~! このカレーの匂い! これよこれ! ……はっ!


「福神漬け!!」

「そ!」


 え、最高。カレーに福神漬けは必須でしょ。まさかこっちの世界でカレーと福神漬けに出会えるなんて思いもしなかった。お店で出すのどうしようかって迷ってたみたいだから、食べられないと思ってたのにさ。


「ん~~~~!!」


 美味ぁ~! そうそうこれよ! この味よ!! 凄く本格的なカレーの味がする!! スパイスが効いてるけれど、でも辛くない! ご飯との相性も抜群!!


「ど?」

「最高ですっ!!」


 厨房から顔を出したナナミちゃんは、笑顔でグッドサインを出していた。ナナミちゃん頑張って作ったのね!

 けど、目の前に座る二人はスプーンを持ったまま動けないでいた。まぁ、色とか見た目とかあるよね。


「……やめとく?」

「……いえ、いきます!!」


 そう意気込んで一口いったマリア。それを見たジルベルトも意を決して一口。口に入れた後、パチパチとまばたきをしてお皿を凝視していた。それからもう一口。


「思っていた味と違います」

「辛味もあって、美味しいですね」


 一体何を想像したんだろうか。食事中だから何も言わないけど。でもパクパク二人は食べ進めていて、気に入った様子だ。よかったぁ。

 うん、知らない料理に挑戦する二人を見るの結構好きかもしれない。今度、何作ってもらおうかな。


「これ、うどんと一緒に食べたりもするんだよ」

「うどんですか!?」

「あ、でもいけそうですね」

「でしょ?」


 ジルベルトは、申し訳なさそうにおかわりをしていた。さすが騎士団員さんだ。


「あ、そうだ。アヤメちゃんさ、明後日休み?」

「え?」


 そう言いながら厨房から出てきたナナミちゃん。明後日かぁ。


「この前出来たあの大通りにあるカフェ。4人で敵情視察しようって話なんだけどさ、アヤメちゃんもどう?」

「敵情視察ですか」

「あはは~」


 そういえば私カリナとその話したな。美味しいケーキを食べられるって聞いたから一緒に行かない? って。【なかむら】スイーツより美味しいか分からないけどね、って笑ってたけど。カリナさん、お兄様と一緒でここのデザートが大のお気に入りになったわね。


「ごめん、その日予定があって」

「そっかぁ、お仕事?」

「ううん、王立学院に見学に行くの」

「学院? 学院に通うの? でもアヤメちゃん16だったよね?」

「ただの見学だけだよ。私通った事ないから見に行くのはいいんじゃないかって勧められたの」

「へぇ~」


 実は、お母様が学院の制服を用意してくださった。たったの一日の為だけに。いいのかな? とも思ったけれど、普通の洋服じゃ馴染めないじゃない、と言われてしまった。

 だけど、マリアは見抜いていたようだ。それは建前で奥様はお嬢様の制服姿が見たかっただけだという事を。なるほどなるほど。でもあんなに可愛い制服、着てみたいとは思う。

 しかも、その制服を手掛けているのは【ブティック・シェリシア】だそうだ。さすが有名なブティック。尊敬します。


「ナナミちゃん達は学院? 家庭教師?」

「私達? ちゃんと王立学院に行ったよ」

「スフェーン王国の王立学院には、高等クラスに上がると選べる科目があるの。その中に料理が入ってるんだ」

「え? 授業に入ってるの!?」

「そ」


 へぇ~凄い。まぁ日本の義務教育の中にも料理は入ってたけど、異世界にもあったんだ。

 あ、でもスフェーン王国は料理大国だからね。そういうのもあってもおかしくはないのか。


「私主席で卒業したんだよ!」

「え、凄い!」

「えへへ~、朝飯前よ!」

「試験前に泣きついてきた奴が何言ってんだよ」

「煩いお兄ちゃん!」


 あら、やっぱり兄妹仲が良いのね。


「タクミ君は?」

「俺も主席。とは言っても、主席取んなきゃ母上の剣が飛んできそうだったから死ぬ気で頑張った、が正解か」

「……脅し?」

「そうとも言う」


 え、怖っ。一体2人のお母さんはどんな人なんだろう。やっぱり会ってみたいな。怖いけど。

 お腹もいっぱいになったし、そろそろ帰ろうかな。そう思っていた時、


「あ、そうだ。ちょっと来て」


 そう言われ、タクミ君に手を掴まれた。あーれーといった感じでスタッフルーム? に連行されてしまった。私、ここ入っていいの?


「どうしたの?」

「こっち」


 周りには、食材とかが入ってるのか大きな紙袋とかが積まれていたりとあって。お米とか、粉類とか? あと砂糖とか、色々?

 一体どこに行くのだろうか、と思ったら今度は階段。このお店、外から見たら二階建てだった。二階って何があるんだろう。と思ったら普通だった。ゲストルーム、みたいな? テーブルがあって、椅子もあって。下と同じく和風な雰囲気だ。


「これ」

「わぁ!」


 何かの荷物を出してきたと思ったら、これ、和紙だ。とっても綺麗な色が沢山ある。


「叔父さんが売れ行きないからってこっちに押し付けてきたんだけどさ、こんなには必要ないんだ。使うと言っても箸袋ぐらいだし。使う?」

「貰っていいの?」

「いいよ。むしろアヤメに持ってってもらった方がこっちは助かる」


 お店に並んでいた箸の箸袋はとっても綺麗なものばかりだった。こんなに綺麗な和紙で作ってたんだ。

 でも、こんなに貰っていいんだろうか。という私の心はお見通しだったらしい。遠慮しないで全部持ってけ、と言われてしまったので貰う事にした。

 押し花を和紙の上に並べて額縁に入れるのもいいと思う。帰ってから並べてみようかな。


「なぁ、いつまで言わないつもり?」

「あ……」


 言わないつもり、とは領地に行った時に付き合う事になったというやつか。うん、まだ周りに言ってないんだけど……言わなきゃ、ダメ?


「まだ、いいんじゃない……?」

「ふ~ん、それじゃ前と変わらなくない?」

「……」


 うん、確かにそうかも。こっち来て、美味しいご飯食べて、って。


「何、恥ずかしがっちゃってんの?」

「そんなんじゃ、ないわけじゃ、ない……」

「それどっちだよ」


 お母様に、言ったほうがいいのかな……? でも何て言ったらいいのかなぁ。


「それじゃ遊びに行けねぇじゃん」

「ナナミちゃん達と?」

「お前なぁ、分かってて言ってんの?」

「あは」


 あーらら、不機嫌な顔になっちゃった。だってさっき一緒に敵情視察しよって言ってきたからさ。


「……じゃあ、そっちはタクミ君が言ってよ。こっちは私が言うから」

「今言わないのか」

「……」


 だって、絶対何か言ってくるじゃん。それこそ恥ずかしいじゃん。

 でも、可愛いとこあるじゃん、と両方のほっぺたつまんでくる。ちょっと、遊ばないでくださいますか。


「じゃあ、タクミって呼んでくれるならいいよ」

「え」

「簡単だろ?」


 ……アレ、まだ諦めてなかったんだ。そんなに呼んで欲しいの?


「……絶対?」

「絶対。んじゃなきゃ今言いふらしてやっけど」

「酷い、タクミ」

「よろしい」


 酷いのはどっちだ、と言われたけれど私悪くないもん。
 
 何となぁく悔しいのはどうしてだろう。まぁでも遊びに行けるならいっか。お母様達何て言うかな。怒ったりは、しないよね。

 さ、戻ろっか。そう言いたかったけれどキスをされてしまったから固まってしまった。


「可愛い」

「煩い」

「それで、いつ空いてる?」

「……月曜日」

「おっけ」


 月曜日はここの定休日。私も予定はないし仕事も調節すればOK。でも、遊びに行くにはお母様に言わなければならないし、いつも付いてくるマリアとジルベルトにも言わなければならない。

 さてどうしたものか、と考えつつ和紙を持ってお店に戻った。


「和紙貰っちゃった」

「とても綺麗ですね。こちらの紙とは違って薄く向こう側が透けて見えますね」

「これが紙、ですか……こちらは透けて見えませんね。色々と種類があるのですか」

「綺麗でしょ!」


 顔は平常心、だがしかし心の中は何て言おうかと考え事。

 じゃあまたね、とお代を払って馬車に戻ったのだ。……最後のタクミのニヤニヤ顔、すごくムカついた。

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