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第十一章 冬が来る
◇103 自由
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エドガルド王太子殿下とミレイア王太子妃殿下の結婚式は3日間行われ、お二人はオリコット王国に向かっていったのだ。
結婚式が終わった途端、アドマンス邸には大量のプレゼントボックスやら手紙やらが贈られてきた。ご婚約おめでとうございます、というやつだ。
多すぎて全部把握するのはむずかしいから、全部マリアに仕分けしてもらう事にした。こりゃ私には無理だ。
他にも、パーティーやらお茶会やらの招待状もわんさか。あぁ、これはタクミと来いって事ね、とすぐに分かってしまった。
「無理な事言っちゃってごめんね」
「いいって、大丈夫だから気にすんな」
結婚披露宴でスポットライトを浴びてしまった為、タクミと社交界に出なくてはいけなくなってしまった。招待状を送ってきた人達の中には中々断れない人達が何人もいたからだ。ちゃんと厳選させていただいたんだけど、それでもちょっと多いかも。
「それにどうせ挨拶してさっさと帰っちまうんだから何てことないよ」
「うん、まぁそうなんだけど」
私は身体が弱いから、それに忙しいからとさっき言った通り1時間しない内に帰っているんだけれど……でも大変だよね。
私はいくらでも仕事の時間は調整できるけれど、彼はお店を営んでいる。昼営業と夜営業があり、一週間に一回お休みがあり、従業員5人で回して一人ずつ休みを入れている。
こちらの予定に合わせてくれているけれど、それだと他の人達が大変だ。
「本当にアドマンス嬢とナカムラ殿はお似合いですわ。もしかしたら、お二人が出会えたのは運命だったのかもしれませんわね」
「確かに。アドマンス嬢は別の星からいらした方ですし、ナカムラ殿は遠い国からこちらにいらしたのですからね」
こういうの、もう何十回も聞かされた。ニコニコと受け流すの上手になったのかもしれない。
これを聞かされにパーティーに行くと思うとちょっと、ね。はぁ。
「ねぇタクミ、本当に大丈夫?」
「何で、大丈夫だって言ったろ」
「うん、まぁ……でもダメな時はちゃんとダメって言ってね。無理しちゃダメよ」
「分かってるよ」
心配すんな、という言葉を残して今日は帰っていった。
「ねぇマリア……大丈夫かな」
「そうですね、本人は大丈夫だと言っていましたが……」
「う~ん」
きっと、お店の方も大変だと思う。貴族のお客さんも増えたんじゃないかな。
明日、ちょっと見てこようかな。お店の方。とは言っても、果たして忙しかったとしても私に何が出来るだろうか。手伝う? いや、マリアが絶対にやらせてくれない。それにやれたとしてもきっと邪魔になるだけ。
私、何もできないなぁ。そう思ってしまった。
次の日、私の予定にお茶会が入っていた。ルセロ侯爵令嬢からの招待状だ。
「本日はご招待していただきありがとうございます、ルセロ嬢」
「来て下さって嬉しいですわ、アヤメ嬢」
前から、彼女からの招待状は度々断ってしまっていた。ほら、タイミングが悪いというか、何というか。王族の方々とのお茶会だとか、事業関係の大切な用事だったりとか。本当に悪すぎる。もしかして、知っててやってるんじゃ? というくらい。
だから今日怒ってるんじゃ? とも思ったけれど、見た感じそうでもなさそう。
私の他に人数は5人。王宮で彼女と初めて会った時一緒にいた方二人もいる。でも、何回か出たパーティーではお話はしなかった。
「お久しぶりですね、アヤメ嬢」
「そうですね、お久しぶりです」
皆さんはお聞きになりましたか? と話し出した令嬢。私の知らない事ばかりで、へぇ、そうなんですか、と相槌しか出来ないものばかりで。まぁ、社交界に出る事はあまりないから当たり前だけれど。でも教えてくれて助かるね。
「そう言えばアヤメ嬢、お誕生日は何時なのでしょう?」
「あ、12月7日です」
いきなりの質問で驚きつつもちゃんと答えることが出来た。けど……私は、その後のご令嬢達の話で顔を強張らせてしまったのだ。
「あら、もうそろそろではありませんか。では、それを迎えれば17歳という事になりますね」
「あらまぁ、でしたらもうお遊びはおやめになった方がよろしいかと思いますよ」
「……お遊び、ですか」
「ほら、今巷で騒がれているでしょう。アヤメ嬢はお優しい方だから言い寄られると断れないタイプでしょう? でもここまでにしないと、彼が可哀想ですよ?」
……は?
「相手は他国の男爵家の者で、しかも次男です。夢を見せてあげるのもいいですが……」
「どういう事でしょうか」
「あら大変、やはりアヤメさんはあまり貴族界の事はご理解いただけていなかったようですね」
アヤメ、さん……さっきまで令嬢として呼ばれていたのに、これは、見下されてるって事?
しかも、断れないタイプって……貴方達とお話したのは2~3回だけですよね。何でこれだけで私の事をよく知ってるような態度で言ってくるんです?
「平民は平民と、商人は商人と、下位貴族は下位貴族と、そして高位貴族は高位貴族、または王族との結婚が基本です。これは国際結婚に置いても例外はありません。これを破る事は、一族に泥を塗るのと同じ事ですわ。
アヤメさんはこの国唯一の公女、アドマンス家の令嬢です。しっかりしてくださらないと、カーネリアンの社交界の格が下がってしまいますわ。故郷での平民気分を捨てて、真剣に向き合っていただかないとこちらが困ります」
「そうですわ、アヤメさんには貴族社会の女性のあるべき姿をもっと勉強なさってほしいですわね」
平民、ね……確かに私は地球では一般人だった。こんな身分制度はなかった。それがいきなり貴族社会に放り込まれたのだから戸惑っているのはあるにはある。でも……
「……貴方方は、自由という言葉を知らないんですね」
「自由、とはどういった意味で仰っているのでしょう」
「貴族の女性とはこうあるべき、というものに従わなくてはいけないだなんて、可哀想だと思っただけですよ」
「可哀想、ですって……?」
ラル夫人に教えてもらった。この国では、女性社会は古い考えが根付いていると。女性は結婚して後継者を産む事が一番の役目。女性とはこうあるべき、というものが授業にも取り入れられてしまっている現状だ。
でもお母様は言った、女性も自由を手に入れるべきだと。ただ何もせずに一生を終えてしまうのは、実に勿体ないと。
「私のいた世界には、女性にも自由がありました。身分制度はありませんでしたから、誰とでも結婚することが出来ましたし、社会や政治においても活躍し、名を残した女性は数多くいらっしゃいます。そうして、私のいた世界は発展していったんです」
「ですがここは、貴方のいた世界ではなくレミリアゼルドという星です。一緒にしないでください」
「そうですね、それは分かっていますが……ルセロ嬢が先程言った事は法で決まってませんよ」
「……」
「ただ皆さんが勝手に決めた事じゃないですか。なら、私は彼を選んでも問題ないでしょう。
それに、彼は男爵家の次男だからと言っていましたが、そんな事は関係ないと私は思っています。彼は、輝くものを持っています。それは、産まれた時から持っているものではなくて、努力して掴んだものです。そんな彼を侮辱するようでしたら……私が黙っていませんよ」
私の事で文句を言うのは別に構わない。でもタクミの事を悪く言われるのだけは許せない。
「ここにいるのは無意味でしょうから、私は帰らせていただきます」
「ア、アドマンス嬢……!」
そう一言残してルセロ家を後にした。
後になって、アドマンス嬢って呼ぶのね。
すんごく、ムカつく。
結婚式が終わった途端、アドマンス邸には大量のプレゼントボックスやら手紙やらが贈られてきた。ご婚約おめでとうございます、というやつだ。
多すぎて全部把握するのはむずかしいから、全部マリアに仕分けしてもらう事にした。こりゃ私には無理だ。
他にも、パーティーやらお茶会やらの招待状もわんさか。あぁ、これはタクミと来いって事ね、とすぐに分かってしまった。
「無理な事言っちゃってごめんね」
「いいって、大丈夫だから気にすんな」
結婚披露宴でスポットライトを浴びてしまった為、タクミと社交界に出なくてはいけなくなってしまった。招待状を送ってきた人達の中には中々断れない人達が何人もいたからだ。ちゃんと厳選させていただいたんだけど、それでもちょっと多いかも。
「それにどうせ挨拶してさっさと帰っちまうんだから何てことないよ」
「うん、まぁそうなんだけど」
私は身体が弱いから、それに忙しいからとさっき言った通り1時間しない内に帰っているんだけれど……でも大変だよね。
私はいくらでも仕事の時間は調整できるけれど、彼はお店を営んでいる。昼営業と夜営業があり、一週間に一回お休みがあり、従業員5人で回して一人ずつ休みを入れている。
こちらの予定に合わせてくれているけれど、それだと他の人達が大変だ。
「本当にアドマンス嬢とナカムラ殿はお似合いですわ。もしかしたら、お二人が出会えたのは運命だったのかもしれませんわね」
「確かに。アドマンス嬢は別の星からいらした方ですし、ナカムラ殿は遠い国からこちらにいらしたのですからね」
こういうの、もう何十回も聞かされた。ニコニコと受け流すの上手になったのかもしれない。
これを聞かされにパーティーに行くと思うとちょっと、ね。はぁ。
「ねぇタクミ、本当に大丈夫?」
「何で、大丈夫だって言ったろ」
「うん、まぁ……でもダメな時はちゃんとダメって言ってね。無理しちゃダメよ」
「分かってるよ」
心配すんな、という言葉を残して今日は帰っていった。
「ねぇマリア……大丈夫かな」
「そうですね、本人は大丈夫だと言っていましたが……」
「う~ん」
きっと、お店の方も大変だと思う。貴族のお客さんも増えたんじゃないかな。
明日、ちょっと見てこようかな。お店の方。とは言っても、果たして忙しかったとしても私に何が出来るだろうか。手伝う? いや、マリアが絶対にやらせてくれない。それにやれたとしてもきっと邪魔になるだけ。
私、何もできないなぁ。そう思ってしまった。
次の日、私の予定にお茶会が入っていた。ルセロ侯爵令嬢からの招待状だ。
「本日はご招待していただきありがとうございます、ルセロ嬢」
「来て下さって嬉しいですわ、アヤメ嬢」
前から、彼女からの招待状は度々断ってしまっていた。ほら、タイミングが悪いというか、何というか。王族の方々とのお茶会だとか、事業関係の大切な用事だったりとか。本当に悪すぎる。もしかして、知っててやってるんじゃ? というくらい。
だから今日怒ってるんじゃ? とも思ったけれど、見た感じそうでもなさそう。
私の他に人数は5人。王宮で彼女と初めて会った時一緒にいた方二人もいる。でも、何回か出たパーティーではお話はしなかった。
「お久しぶりですね、アヤメ嬢」
「そうですね、お久しぶりです」
皆さんはお聞きになりましたか? と話し出した令嬢。私の知らない事ばかりで、へぇ、そうなんですか、と相槌しか出来ないものばかりで。まぁ、社交界に出る事はあまりないから当たり前だけれど。でも教えてくれて助かるね。
「そう言えばアヤメ嬢、お誕生日は何時なのでしょう?」
「あ、12月7日です」
いきなりの質問で驚きつつもちゃんと答えることが出来た。けど……私は、その後のご令嬢達の話で顔を強張らせてしまったのだ。
「あら、もうそろそろではありませんか。では、それを迎えれば17歳という事になりますね」
「あらまぁ、でしたらもうお遊びはおやめになった方がよろしいかと思いますよ」
「……お遊び、ですか」
「ほら、今巷で騒がれているでしょう。アヤメ嬢はお優しい方だから言い寄られると断れないタイプでしょう? でもここまでにしないと、彼が可哀想ですよ?」
……は?
「相手は他国の男爵家の者で、しかも次男です。夢を見せてあげるのもいいですが……」
「どういう事でしょうか」
「あら大変、やはりアヤメさんはあまり貴族界の事はご理解いただけていなかったようですね」
アヤメ、さん……さっきまで令嬢として呼ばれていたのに、これは、見下されてるって事?
しかも、断れないタイプって……貴方達とお話したのは2~3回だけですよね。何でこれだけで私の事をよく知ってるような態度で言ってくるんです?
「平民は平民と、商人は商人と、下位貴族は下位貴族と、そして高位貴族は高位貴族、または王族との結婚が基本です。これは国際結婚に置いても例外はありません。これを破る事は、一族に泥を塗るのと同じ事ですわ。
アヤメさんはこの国唯一の公女、アドマンス家の令嬢です。しっかりしてくださらないと、カーネリアンの社交界の格が下がってしまいますわ。故郷での平民気分を捨てて、真剣に向き合っていただかないとこちらが困ります」
「そうですわ、アヤメさんには貴族社会の女性のあるべき姿をもっと勉強なさってほしいですわね」
平民、ね……確かに私は地球では一般人だった。こんな身分制度はなかった。それがいきなり貴族社会に放り込まれたのだから戸惑っているのはあるにはある。でも……
「……貴方方は、自由という言葉を知らないんですね」
「自由、とはどういった意味で仰っているのでしょう」
「貴族の女性とはこうあるべき、というものに従わなくてはいけないだなんて、可哀想だと思っただけですよ」
「可哀想、ですって……?」
ラル夫人に教えてもらった。この国では、女性社会は古い考えが根付いていると。女性は結婚して後継者を産む事が一番の役目。女性とはこうあるべき、というものが授業にも取り入れられてしまっている現状だ。
でもお母様は言った、女性も自由を手に入れるべきだと。ただ何もせずに一生を終えてしまうのは、実に勿体ないと。
「私のいた世界には、女性にも自由がありました。身分制度はありませんでしたから、誰とでも結婚することが出来ましたし、社会や政治においても活躍し、名を残した女性は数多くいらっしゃいます。そうして、私のいた世界は発展していったんです」
「ですがここは、貴方のいた世界ではなくレミリアゼルドという星です。一緒にしないでください」
「そうですね、それは分かっていますが……ルセロ嬢が先程言った事は法で決まってませんよ」
「……」
「ただ皆さんが勝手に決めた事じゃないですか。なら、私は彼を選んでも問題ないでしょう。
それに、彼は男爵家の次男だからと言っていましたが、そんな事は関係ないと私は思っています。彼は、輝くものを持っています。それは、産まれた時から持っているものではなくて、努力して掴んだものです。そんな彼を侮辱するようでしたら……私が黙っていませんよ」
私の事で文句を言うのは別に構わない。でもタクミの事を悪く言われるのだけは許せない。
「ここにいるのは無意味でしょうから、私は帰らせていただきます」
「ア、アドマンス嬢……!」
そう一言残してルセロ家を後にした。
後になって、アドマンス嬢って呼ぶのね。
すんごく、ムカつく。
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