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◇20
しおりを挟む湊さんが見せてきた写真。真紀ちゃんの隣にいる男性は……湊さんだろうか。うん、湊さん、だと、思う。真紀ちゃんを見るに、きっと彼女が中学の時の写真だろう。湊さん、金髪でピアスバチバチだな。
「真紀と似てないって? 俺は父親似でアイツは母親似だからな。だけど、何回か会った事あるぞ。お前らで映画見に行くからって車で送迎までしてやったのに、忘れるなんて薄情なやつだな」
待て待て待て、まずは脳内の古い記憶を呼び起こせ。真紀ちゃんとは中学に入学した頃からの同級生の友達だった。高校を卒業してから自然と会わなくなってしまったけれど……
「……ピアス、バチバチですね」
「そうだな。模範的な学生でもなかったし」
「……なるほど」
そういえば、湊さんの耳にピアス穴いくつも開いてるなと思った時があった。そういう事か。
そんな人が、エリート警視になったと。だいぶ驚きである。
「お見合いの時にお前だって分かったのは、知っていたからだ。それにお前は友達思いだという事も、どの大学に行ったのかも真紀の話で知っていたしな。本物のお見合い相手も同じ大学に通っていると気づいていたから、友達なんじゃないかと予測しただけだ」
「さすが、エリート警視ですね」
「そろそろそれやめろ」
「……はい」
エリート警視な事が嫌なのか。凄い事なんだと思うけれど。
どうして私だと見破ったのか気にはなっていたけれど、そういう事だったのか。じゃあ、すき焼きでねぎが好きだったことも、真紀ちゃんの家ですき焼きを食べさせてもらった時に知ったのか。
「中学の頃から知っていたが……お前、変わったな」
「え?」
「綺麗になった」
「……」
今、また爆弾発言が投下された?
「垢抜けた? とにかく、驚いた。子供だったくせに、ちゃんとした女性になっていたから。だから、あそこで終わりにしたくなかった」
だから、あの提案をしたという事か。あの時は、この歳で金欠の女性に同情したと言っていたような気がするけれど、それは建前だったという事?
まぁ、あの頃も貧乏だったから、今でも貧乏なんじゃないかと予測は出来た。だから、あんな金額を出してきた。……というか、エリート警視って年収どれくらいなんだろう。結構稼いでるだろうね。あんな金額出してくるのだから。
「ったく、やってくれたな。おかげで引き留めたくて苦労したんだぞ」
「……」
「それなのに俺の事は忘れてるわ電話にも出ないわで腹が立ったんだからな。どうしてくれるんだ」
「……私のせい、ですか」
「決まってるだろ。責任取れ」
これは、言いがかりでは? そう思っていたら、また頬を親指で撫でてくる。驚いて顔が硬直したけれど……向けてくる表情に、視線が釘付けになってしまった。優しい表情で、微笑んでくる。
「本物に、なってくれるか」
「……貧乏、ですけど」
「国家公務員の給料舐めんな」
……でしょうね。
これは、告白されているという事で合っているだろうか。けれど、もしそうだったとしたら……と、期待してしまっている。嬉しく、思ってしまってる。
さっき、ストーカーに遭い110番ではなく彼に電話をしてしまった。ずっと電話に出なかったくせに、だ。今考えてみると……あんなに恐怖を感じていたのに、彼に会えて、顔を見て安心してしまった。忙しい人だと分かっているのに、呼びつけてしまったのに。
それに、さっきだってナイフを向けられていたのに何事もなかったかのように取り押さえてしまった。こんなにカッコいい警察官なんて、他にいるだろうか。
「……強い警察官って、かっこいいですね」
「何だよ、急に。それって、俺の事を言ってるのか」
「……私、他によく知ってる警察官いません」
「そうか。最上級の誉め言葉だな」
私の前髪を避けられ、額に柔らかいものが触れる。こんな事をされるのは初めてで、どんな表情をするのが正解か分からず、頬を火照らせてしまう。
「今度は唇にしていいか」
「……」
一体どう答えていいのか分からない。とにかく、恥ずかしい。
「瑠奈の事が好きなんだ」
その言葉は、私の中で大きく響いた。
瑠奈の事が好きなんだ。
改めてそう言われてしまうと、余計恥ずかしくなり視線を横に向けてしまう。心臓が、彼に聞こえてしまうくらいに煩い。こんなにバクバク脈打つ心臓は、先ほど恐怖を感じていた時にもあったけれど、それとは全く違う。
「あっ……えぇと……終わりっ!!」
この恥ずかしさに耐えられなくなり、彼の両肩を掴み押しのけた。初めての事で、もう何が何だか分からない。
そんな私の行動に、クスクス笑う彼を睨みつけたけれど……ただ楽しそうな彼は怖くもないと言っているように見える。そして、ようやく運転席に戻ってくれた。
パックルから手を離してくれたから、シートベルトを外して逃げられるのだが……不覚にも帰る気になれなかった。
「少しは考えてくれたか?」
「……」
「その顔なら、期待してもよさそうだな」
今の私の顔は、だいぶ火照ってしまっていた。隠すように顔で覆うけれど、耳まで熱くなっているから、きっと真っ赤になっている。
こんな事になるなんて、誰が予測出来ただろうか。そもそも、最初から私の事を知っていた事すら気付かなかった。
「じゃあ、次に会う時聞いてもいいか」
「う……」
「約束」
と、頭を撫でてきた。何度もつないだことのある、大きくて温かい手だ。
心臓が、煩い。
じゃあ、おやすみなさい。と逃げるように助手席から出た。おやすみ、と彼の声が聞こえたけれど……そのせいでまた胸が高鳴ってしまった。
次に会う時。
その時までに、考えないといけない。
いや、考えなくても分かる。薄々は気付いていたけれど、それを言葉にしてしまうと彼に迷惑がかかるからと、蓋をしていた。
けれど、言えるだろうか。
心の弱っちい私の、この口で……何度も助けてくれたヒーローに、伝えられるだろうか。
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