厄災の姫と魔銃使い:リメイク

星華 彩二魔

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第四部 二章 「潜む蛇」

「小さな都」

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 ――とりあえず、例の件は考えておけよ?

 クロトの脳裏には、フレズベルグの言葉が強く根付いている。
 忘れた頃に思い出さされる重い言葉。自分の道を大きく左右する重要性に、追い詰められていく感覚が、不意に襲いかかってくる。

「あ! 先輩、ほら建物見えた!」

 考え込んでいた途端に声をかけられ、クロトは静かに前を向く。 
 長く続いた木々の群れは前方にはなく、小さくも人の暮らす村が見えた。
 それを目撃すれば、これまでの疲れと苦労がどっと押し寄せ、思いもよらぬ疲労感すら感じてしまう。
 同時に、嬉しさも込み上げてくる。

「やっと…………抜けたぁっ」

 歓喜のあまりにネアはエリーを抱きしめる。
 レイスの館で休息をとりはしたが、長く樹海を進んでいた四人はもうボロボロだ。
 食料など食べ飽きてきた例のキノコばかり。館を出ればろくな飲み水もなく……。
 もう目の前に見える村が都に見えて仕方がない。

「もう木がいっぱいの所はやだな~」

「野郎に同意したくないけど、しばらく森とかは避けるべきね。不快感が増すわ」

「……そこまで言わなくても」

 イロハにネア。そしてエリーは樹海を抜けた喜びに気が緩むばかり。
 だが、一人クロトだけはそんな気分になることはできなかった。
 原因は……頭に響く声の存在にある。






『あ~、やっと抜けたかよ。俺ああいう所好きじゃねーんだよなぁ。なんせ火山出身なんで』

「……」

 自然と、無意識にまた自分の中に意識が引き込まれる。
 自分の中で炎蛇は暗闇の中くつろぐように寝そべり、ついでにあくびすらしていた。
 こんな存在に願いを告げ契約したなど、人生最大の汚点ではないかと殺意が湧いてもくる。
 ……というのがいつものクロトの流れだ。
 普段なら暴言や悪態を吐くことすら簡単に予測できるものだが、クロトはニーズヘッグの存在を無視し続ける。
 もちろん、平気なわけでもない。自身の中に不快な存在がいるのだ。消せるものなら消してしまいたい。
 その願いが叶わないことなど、クロトにはわかりきっている。
 ニーズヘッグをこの場でどうこうできるわけもなく、関わることの無意味さを理解しているからだ。
 しばらく無言を通していると、不服そうに蛇はクロトを睨む。

『うっわ、可愛くねーの。まあ、お前に俺をどうにかできるわけないもんな。脆弱人間様はいつだってそうだ。見てねーところでは減らず口と強がり。そしていざ目の前にすれば何もできず……、簡単に消し炭だ。脆いよな~。よくそんなもんで俺に刃向かったもんだ。俺だってお前を全否定するつもりはないんだぜ? 余計な感情なんてない方がいいもんな』

「……」

『力のない弱い奴は不必要なもんを切り離していくもんだ。でないと重荷に耐えきれなくなる。お前の願いを俺は肯定してやるよ。……ただ態度が気に入らねぇだけ。――仲良くしようぜクロト。お前も俺と同じであの魔女が憎いんだろ?』

 クロトは魔女を嫌っているだけでなく恨みも確かにあった。
 不本意な役目を押しつけられ呪いまでもかけられ……。
 ニーズヘッグは魔武器の一部にされたことに対し……。
 最終的な狙いはあの魔女にある。
 同じ敵を認識するも……、クロトはニーズヘッグの同意を受け入れる事はできない。
 ニーズヘッグが自由になる条件。それを達成した時に自分がどうなるか…………


「――クロトさん?」


 クロトの意識が戻る。不意に声をかけたてきたエリーは星の瞳を丸くさせてクロトを見上げていた。
 
「どうかされましたか? なんだかぼーっとされてましたし、疲れてますか?」

「……っ」

「……? クロトさん?」

 再度名を呼び、今度は手を取ろうとする。 
 触れる寸前、クロトはエリーの手を軽く払う。
 
「うるさい……」

 その一言だけを返し、一人先にへと進み出した。
 いつもの様にそっけなくするが、クロト自身、エリーから遠ざかりたいという気持ちがあった。
 ただ遠ざかりたいという一心を内では炎蛇が嘲笑う。
 まるで逃げる様な姿が滑稽だと……。
 エリーは何も言わない。ただクロトの後を少し離れてついて行く。
 その様子をうかがうイロハは、ふと目を細める。
 一瞬、その瞳を翡翠に染めて……。

   ◆

 村に到着した時。四人を出迎えたのは農家の住人たちだった。
 高齢者ばかりであり、なんせ来た方向が樹海だったため驚きもあったのだろう。
 
「まあ、あんな所からこんな若い子たちが……!?」
「あや~、ビックリしたもんだなぁ。迷ったんかね?」

 ちょうど採れたばかりの野菜などを向けてくるが、旅ばかりの身のため多くを受け取ることはできない。
 ネアが丁重に親切な人々へ最低限の食料のみをわけてもらうことに。
 
「あ、ありがとうございます。……ちなみに、この村ってどの辺ですか? あと、宿があると助かります」

「此処かねぇ? 此処はヴァイスレットの北側だねぇ。しばらく北に進めば元クレイディアント領土だよ」

「……結構北まで来ちゃったのね」

「あと宿なら村の真ん中辺りにあるねぇ。ここら辺は元クレイディアントの人が流れてきたこともあって、宿を大きくしたからね。今はあんま人がいないから、ゆっくりできるよ」 

 元クレイディアントの民。
 ヴァイスレットの北に存在した中央大国であるクレイディアントが崩壊した事により、その領土は周囲の四国にわけられた。
 今は落ち着いているが、当時は難民の多くが友好であった南のヴァイスレットにへと流れたため、この村もその影響を受けた事だろう。
 一際目立つ三階建ての宿。村の外側には簡易の難民が利用したと思われる建物が。なんとか雨風をしのげる程度。それでもないよりはマシだったと思える。
 今でもこちらを心配そうな目で見るのだ。きっと心優しく迎え入れてくれたことだろう。

「本当にすみません。休んだら直ぐに出るので」

「そんなこと言わんと。ゆっくりいてくれればいいのにね」

 農家のおばさんはそう受け入れてくれるも、ネアは苦笑し、その笑みを引きつらせる。

「……いや、その。皆さんとても優しいのですが、――それにそぐわない輩がいるもので」

 ネアは直ぐに一人の人物に目を向ける。
 親しそうに絡んできた住人。それに殺気を放ってしまうクロトが……。
 思わず圧に押された人々はクロトから距離をとり退けていく。

「ホントにすみません! この馬鹿、すごく人見知りというか、人間不信というか……っ。アンタもそんな殺気むき出しにしてんじゃないわよ!! こんなに親切にしてくれてるのに!!」

「…………お前、それ冗談抜きで言ってんのか?」

 クロトの態度は失礼を通り越している。
 理由はわからなくもない。
 ネアもクロトの性格は知っており熟知している。
 不用意な優しさや親切心はクロトの怒りを買う事となり、最悪被害者が出てしまう。

「ただですら俺は機嫌が悪いんだよ……。それなのになんだよ此処の奴ら。余命少ねぇから殺されに来てんのか? ハッキリ言って胸くそ悪い」

「私はアンタの頭がいい加減おかしいってハッキリ言ってやるわよ! 先にアンタをぶっ飛ばすわよ!?」


 ネアが目を光らせている限り、クロトが余計なことをしようとすれば実力行使として成敗。撃沈させる。
 それから怯えてしまった住人たちにネアはペコペコと頭を下げる始末。
 おろおろと戸惑っていたエリーも、後に続いて頭を下げていく。
 クロトは何の悪びれもなく。ある程度距離ができれば落ち着いた。

「とりあえず、宿に話つけてくるわ。それまでは自由行動」

「あっ。ネアさん、私も行きますよっ」

 疲れた様子でいるネアにエリーは付き添う事に。
 ぽつんと残されたクロトとイロハ。二人はしばらくすると同時に顔を見合わせる。
 もらい物のリンゴをかじるイロハ。ジッと目が合うためクロトは不快と顔をしかめていく。

「……なんだよ?」

「…………べつに」

 何かしら言いたいことでもあった様に、クロトは思えた。
 目が何かを訴えている。そんな感覚。
 それから直ぐイロハは顔を背け一人駆けていく。

「なんなんだよアイツ……」

 用があるのかないのか……。
 最後に残ったクロトもまた、一人足を進める。
 ……一人になれる場所を探して。
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