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第四部 四章 「無明華の面影」
「迷い星」
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日が暮れたヴァイスレット北部に位置する村。
宿で待つエリーは一人、浴室で考え込んでいた。
ヴァイスレット王都を離れ、樹海での出来事。そして、それからの異変。
脳裏ではフレズベルグの忠告が何度も蘇り、その度に眉を八の字にしてしまう。
「……私、どうしたら」
今、クロトの中には【炎蛇のニーズヘッグ】が潜んでいる。
フレズベルグの様に、いつ表に出てきてもおかしくない状況。その危機的状況を教えられるも、エリーはクロトとの別れを望めない。
しかし、この決断は遠からずしなければならないだろう。
炎蛇と共にあるクロトと別れるか。
自ら危険を承知でこの状況を維持するか。
後者を選べば、イロハとフレズベルグは動き出すだろう。
エリーの意よりも、二人には二人の事情があるのだから。
「……もしも。……なんだったんだろう?」
ふと、フレズベルグが最後に呟いた言葉が蘇る。
何か他に可能性があったのか……。
「姫ちゃーん。あんまり音聞こえないけど……大丈夫?」
浴室の外では見張りとしてイロハが待機していた。
「だ、大丈夫ですよ……!? ちょっと考え事してて……」
慌てて湯船から飛び起きる。
それと同時だった。
イロハが躊躇なく浴室の扉を開いたのは。
「あ、よかったぁ。ちゃんといるよね?」
「――ッ!!?」
キョトンとするイロハ。突然入浴を見られたエリーは顔を真っ赤にさせ、叫ぶよりも飛び込むように浴槽に身を潜らせる。
その行動の意図が理解できないのか、イロハは首を傾けるのみ。
「……どうしたの姫ちゃん? 大丈夫??」
「――それはこっちのセリフよ。頭おかしいんじゃないの?」
イロハの背後から、酷い寒気が襲いかかる。
後を振り返ると一緒に、気付けばイロハは脱衣所から追い出され、部屋の隅に投げ飛ばされていた。
転がったイロハは驚いて見開いた両目を何度も瞬きさせる。
浴室への扉はその後、壊れる勢いで閉められてしまう。
こんな事をするのはネアしか心辺りがなく、また訳もわからず怒られたと顔をしかめる。
「もぉーっ、お姉さん酷いぃ。なんでこういうことするかなぁっ」
『……いや、今のは明らかにお前が悪いだろう、愚か者』
「え~、なんでぇ?」
文句を言われようが、フレズベルグは当然と心底呆れてしまっている。
そのまま仰向けでジタバタと喚き続けるも、視界に入った影に思考が一変。
通路に繋がる部屋の扉がわずかに開いており、その隙間を人影が通ったのだ。
「……あ。先輩」
扉の隙間から顔を出し、隣の部屋に入ろうとしたクロトを見る。
呼ばれた事に気付けば、不快感漂う無愛想な顔がイロハにへと向く。
「なんだよ……。いて悪いな、俺の目の前に出てくんな」
事情が事情のため、クロトがこの場に戻ってくることはイロハと、その中にいるフレズベルグにとって不都合でしかない。
それを理解してか、この悪態である。
言いたいことを言えば、クロトは部屋にへと入り扉を硬く閉ざしてしまう。
「……先輩、怒ってる」
『当たり前だろう。我らはあの魔銃使いにとって敵視されているのだからな』
「ボクは先輩のこと嫌いじゃないよ? 嫌いなのはあの蛇だから」
『同じだ。……だが、少し彼奴にも進展があったようだな。異端者が捜しに行かねば、おそらくこの場に戻ってくることはなかった様子。懸命な判断に期待するしかあるまい』
クロトは、真っ先にベッドに横たわった。
一人の空間。それは自分が望んだ世界であり、求めていたもの……だった。
しかし、今は複雑とこの時間が忌々しく思えてしまう。
「……俺は間違ってない」
◆
イロハが追い出された直後、エリーは驚いたまま硬直してしまう。
入れ替わるように、今度はネアがそこにはいた。
「ただいま、エリーちゃん。お姉さんもご一緒していいからし?」
「お、お帰りなさい……ネアさん。いいですよ」
「ありがとう♪」
二人で扱いには少し狭いやもしれないが、エリーは隅に寄りネアの入るスペースを作る。
ネアはそれでも構わないと、エリーに密着しながら隣に居座る。
「はぁ~、気持ちいぃ」
「そう……ですね。……あの、イロハさんは?」
「投げといたっ。だって乙女の入浴中を覗くなんて無礼で野蛮よね、死ねばいいのに」
笑顔で淡々とネアは語るが、エリーは苦笑し、心の中でイロハに「ごめんなさい」と謝る。
その後は、途端にしんと静まってしまう。
いつもなら他愛ない会話があるのだが、今のエリーにはそういった事に頭がまわらず。
沈黙がしばらく続けば、ネアがふとエリーに声をかける。
「……エリーちゃん。悩み事?」
「……っ」
エリーは、ビクッ、と肩を跳ね上がらせてしまう。
わかりやすい反応に、ネアはくすっと笑う。
「やっぱり……ネアさんはわかりますか……」
「ごめんね~、お姉さんそういうとこわかっちゃうタイプだから。悩みならお姉さんに相談していいのよ? 誰かに悩みを話すと、楽になることもあるし。……ね?」
情報屋としてのネアの目はすぐに隠していることに気付いてしまう。
エリーは迷った。
今起きている事をネアに話すべきかどうか。
フレズベルグには口止めを一応されているため、全てを語ることは躊躇うもの。
それでも、一人この問題を抱える事に、そろそろ耐えられなくもあった。
「……私、どうすればいいのかわからないんです。大事な人と、離れないといけなくて……。私には、その人のために何もできなくて……」
あえて名前は出さない。
しかし、容易に察しの付くネアはそのまま会話を続ける。
「エリーちゃんは、その大事な人と離れる事にしたの?」
「…………」
「理由までは深く聞かないわ。その相手にもそれなりの理由があるんでしょ? それでエリーちゃんが仕方ないと思うなら、離れてもお姉さんは文句なんて言わない。エリーちゃんが決めた事なら、それでいいから」
自分で決めた事。
エリーはすぐに首を横に振った。
エリーはまだ、その決断を決めていないからだ。
そして、なによりも……。
「離れたく……ありません。私……、一緒にいたいんです。でも、何もできないのが、すごく嫌なんです」
胸を締め付ける思いで、涙が瞳から零れていく。
自分が嫌いになる。大事な者のために何もできない事に、自分の無力さに嫌気が差す。
自分から約束もした。一緒にいると。
その約束を破りたくない。だが、どうしようもない。
決められず優柔不断としているが、
「――じゃあ、それでいいじゃない」
ネアは、エリーの意見を肯定した。
「……え?」
「離れたくなければ、離れなければいい。例え誰かに何か言われても、それは他人の答え。エリーちゃんは違うんでしょ?」
「ネアさん」
意外な応えに虚を突かれたエリー。
涙の粒をネアは拭い、エリーをそっと抱き頭を撫でる。
「もし、何かあってどうしようもなくなっても、私はエリーちゃんを見捨てない。自分の想いを信じて」
「……でも、それで誰かに迷惑がかかったら」
「文句言う奴がいれば、私がぶっ飛ばす。エリーちゃんはエリーちゃんの望んだ道に進んで。間違いなんて誰にでもあるし、その間違った道がもしかしたら、正しい道に続いているかもしれないもの。私は、エリーちゃんには幸せになってほしいの」
「ネアさん。……ありがとうございます」
「うん」
ネアの胸の中で、エリーはもう一つの答えを頭に浮かべた。
その道は、当初用意された道よりも危険なモノであるも。何故かその道ばかりエリーは眺めてしまった。
◆
「あ、そうそう、エリーちゃん。あの馬鹿連れて帰ってきたから」
「えっ!? ……クロトさん、ですか?」
その言葉には正直驚く。
クロトは今自分からその身を遠ざけているというのに……。
「なんか帰りたくないとか子供みたいなこと言うから、引きずって連れ戻してきたの」
「……クロトさん、嫌がってたんじゃ」
「関係ないわよ。エリーちゃん連れ回しといて自分は好き勝手行動してるなんて、お姉さんはんたーい。今は隣の野郎部屋にいるはずよ。……見てくる?」
「……後で」
ネアは宿の部屋を二部屋用意していた。
男女別れたいつもの使用。
隣の部屋を指差されるも、エリーはクロトに会う事を躊躇う。
「そう? ……ああ! 嘘っ、こんな時に連絡きてる!」
ネアは途端に通信機を取り出す。
仕事か、知人からか……。ネアはそれを持って急いで部屋を抜け出そうとする。
「ごめんねエリーちゃん。仕事絡みだと聞かれるのは良くないから、お姉さんちょっとだけ外に出るわねっ」
「は、はい。……いってらっしゃい」
それを聞けばネアは猛スピードで駆けだしていく。
今は同行の身ではあるが、ネアには本職である仕事がある。
優先順位を考えればエリーとしては仕事を優先してもらいたい。
一人部屋に残されると、エリーは部屋の扉を開く。
通路から隣の部屋を覗き込んだ。
「……うん」
何かを決め、頷いてからエリーは隣の部屋にへと移動する。
扉の前で呼吸を整え、深く深呼吸をしてからドアノブに手を伸ばす。
静かに扉を開け、部屋の中を覗き込むが、中は光が灯っておらず暗い。
窓から差し込む月明かりのみ。そんな中で更に体を突っ込んで中の様子を確認使用とすれば、
「誰だ……」
問いかける声に驚き、エリーは足のバランスを崩して倒れ込んでしまう。
床で身をぶつけたエリーは痛々しくも起き上がり、声の主を探す。
ベッドに横たわっていたのか、クロトがこちらをジッと眺めていた。
「ク、クロト……さん」
「……っ。お前か。何しに来た? アイツと一緒にいるんじゃなかったのかよ?」
「そ、その……。ネアさん、お仕事の連絡があって、今はいません」
「で?」
「……そ、それで。一人なのも嫌なので。……戻ってこられるまで、一緒じゃダメですか?」
部屋を確認するがイロハは両部屋どちらにもいない。
いつもなら外で眠るため、いなくても違和感はない。
エリーがそれを気にかけたのは、クロトと自分が一緒にいるという状況があってだ。
「これだからガキは……。とりあえず、ネアが戻るまでならいいか」
「すいません」
少しの間クロトを見ていないだけだというのに、エリーにとってはもう数日は会っていないように感じられる。
こうして姿を確認できる事に安心感はあるが、複雑と不安でもあった。
この時間が、最後になるかもしれないと、そんな考えすらある。
少しでも共にいる時間を埋めたかったのか。エリーはクロトに歩み寄るも、平行してクロトはエリーから遠ざかった。
「……あの、クロトさん?」
「この部屋にいるのはいいが、俺に近づくな」
拒絶される事は今に始まった事ではない。
ただ、今その言葉はエリーの不安を煽る。
互いが必要で、すれ違いながらも一緒に行動を共にしてきた。
その距離がクロトによって離されてしまう。
目に見える範囲だというのに、その距離は二度と手が届かなくなってしまうかの様。
終いには、クロトすら見えなくなってしまうのではないのかと、恐怖すら感じられた。
このままでは、本当に最後になってしまう気がした。
この時間で……クロトとの繋がりが消えてしまうのではと……。
「……っ」
その時、エリーは自分の進むべき道を決めた。
宿で待つエリーは一人、浴室で考え込んでいた。
ヴァイスレット王都を離れ、樹海での出来事。そして、それからの異変。
脳裏ではフレズベルグの忠告が何度も蘇り、その度に眉を八の字にしてしまう。
「……私、どうしたら」
今、クロトの中には【炎蛇のニーズヘッグ】が潜んでいる。
フレズベルグの様に、いつ表に出てきてもおかしくない状況。その危機的状況を教えられるも、エリーはクロトとの別れを望めない。
しかし、この決断は遠からずしなければならないだろう。
炎蛇と共にあるクロトと別れるか。
自ら危険を承知でこの状況を維持するか。
後者を選べば、イロハとフレズベルグは動き出すだろう。
エリーの意よりも、二人には二人の事情があるのだから。
「……もしも。……なんだったんだろう?」
ふと、フレズベルグが最後に呟いた言葉が蘇る。
何か他に可能性があったのか……。
「姫ちゃーん。あんまり音聞こえないけど……大丈夫?」
浴室の外では見張りとしてイロハが待機していた。
「だ、大丈夫ですよ……!? ちょっと考え事してて……」
慌てて湯船から飛び起きる。
それと同時だった。
イロハが躊躇なく浴室の扉を開いたのは。
「あ、よかったぁ。ちゃんといるよね?」
「――ッ!!?」
キョトンとするイロハ。突然入浴を見られたエリーは顔を真っ赤にさせ、叫ぶよりも飛び込むように浴槽に身を潜らせる。
その行動の意図が理解できないのか、イロハは首を傾けるのみ。
「……どうしたの姫ちゃん? 大丈夫??」
「――それはこっちのセリフよ。頭おかしいんじゃないの?」
イロハの背後から、酷い寒気が襲いかかる。
後を振り返ると一緒に、気付けばイロハは脱衣所から追い出され、部屋の隅に投げ飛ばされていた。
転がったイロハは驚いて見開いた両目を何度も瞬きさせる。
浴室への扉はその後、壊れる勢いで閉められてしまう。
こんな事をするのはネアしか心辺りがなく、また訳もわからず怒られたと顔をしかめる。
「もぉーっ、お姉さん酷いぃ。なんでこういうことするかなぁっ」
『……いや、今のは明らかにお前が悪いだろう、愚か者』
「え~、なんでぇ?」
文句を言われようが、フレズベルグは当然と心底呆れてしまっている。
そのまま仰向けでジタバタと喚き続けるも、視界に入った影に思考が一変。
通路に繋がる部屋の扉がわずかに開いており、その隙間を人影が通ったのだ。
「……あ。先輩」
扉の隙間から顔を出し、隣の部屋に入ろうとしたクロトを見る。
呼ばれた事に気付けば、不快感漂う無愛想な顔がイロハにへと向く。
「なんだよ……。いて悪いな、俺の目の前に出てくんな」
事情が事情のため、クロトがこの場に戻ってくることはイロハと、その中にいるフレズベルグにとって不都合でしかない。
それを理解してか、この悪態である。
言いたいことを言えば、クロトは部屋にへと入り扉を硬く閉ざしてしまう。
「……先輩、怒ってる」
『当たり前だろう。我らはあの魔銃使いにとって敵視されているのだからな』
「ボクは先輩のこと嫌いじゃないよ? 嫌いなのはあの蛇だから」
『同じだ。……だが、少し彼奴にも進展があったようだな。異端者が捜しに行かねば、おそらくこの場に戻ってくることはなかった様子。懸命な判断に期待するしかあるまい』
クロトは、真っ先にベッドに横たわった。
一人の空間。それは自分が望んだ世界であり、求めていたもの……だった。
しかし、今は複雑とこの時間が忌々しく思えてしまう。
「……俺は間違ってない」
◆
イロハが追い出された直後、エリーは驚いたまま硬直してしまう。
入れ替わるように、今度はネアがそこにはいた。
「ただいま、エリーちゃん。お姉さんもご一緒していいからし?」
「お、お帰りなさい……ネアさん。いいですよ」
「ありがとう♪」
二人で扱いには少し狭いやもしれないが、エリーは隅に寄りネアの入るスペースを作る。
ネアはそれでも構わないと、エリーに密着しながら隣に居座る。
「はぁ~、気持ちいぃ」
「そう……ですね。……あの、イロハさんは?」
「投げといたっ。だって乙女の入浴中を覗くなんて無礼で野蛮よね、死ねばいいのに」
笑顔で淡々とネアは語るが、エリーは苦笑し、心の中でイロハに「ごめんなさい」と謝る。
その後は、途端にしんと静まってしまう。
いつもなら他愛ない会話があるのだが、今のエリーにはそういった事に頭がまわらず。
沈黙がしばらく続けば、ネアがふとエリーに声をかける。
「……エリーちゃん。悩み事?」
「……っ」
エリーは、ビクッ、と肩を跳ね上がらせてしまう。
わかりやすい反応に、ネアはくすっと笑う。
「やっぱり……ネアさんはわかりますか……」
「ごめんね~、お姉さんそういうとこわかっちゃうタイプだから。悩みならお姉さんに相談していいのよ? 誰かに悩みを話すと、楽になることもあるし。……ね?」
情報屋としてのネアの目はすぐに隠していることに気付いてしまう。
エリーは迷った。
今起きている事をネアに話すべきかどうか。
フレズベルグには口止めを一応されているため、全てを語ることは躊躇うもの。
それでも、一人この問題を抱える事に、そろそろ耐えられなくもあった。
「……私、どうすればいいのかわからないんです。大事な人と、離れないといけなくて……。私には、その人のために何もできなくて……」
あえて名前は出さない。
しかし、容易に察しの付くネアはそのまま会話を続ける。
「エリーちゃんは、その大事な人と離れる事にしたの?」
「…………」
「理由までは深く聞かないわ。その相手にもそれなりの理由があるんでしょ? それでエリーちゃんが仕方ないと思うなら、離れてもお姉さんは文句なんて言わない。エリーちゃんが決めた事なら、それでいいから」
自分で決めた事。
エリーはすぐに首を横に振った。
エリーはまだ、その決断を決めていないからだ。
そして、なによりも……。
「離れたく……ありません。私……、一緒にいたいんです。でも、何もできないのが、すごく嫌なんです」
胸を締め付ける思いで、涙が瞳から零れていく。
自分が嫌いになる。大事な者のために何もできない事に、自分の無力さに嫌気が差す。
自分から約束もした。一緒にいると。
その約束を破りたくない。だが、どうしようもない。
決められず優柔不断としているが、
「――じゃあ、それでいいじゃない」
ネアは、エリーの意見を肯定した。
「……え?」
「離れたくなければ、離れなければいい。例え誰かに何か言われても、それは他人の答え。エリーちゃんは違うんでしょ?」
「ネアさん」
意外な応えに虚を突かれたエリー。
涙の粒をネアは拭い、エリーをそっと抱き頭を撫でる。
「もし、何かあってどうしようもなくなっても、私はエリーちゃんを見捨てない。自分の想いを信じて」
「……でも、それで誰かに迷惑がかかったら」
「文句言う奴がいれば、私がぶっ飛ばす。エリーちゃんはエリーちゃんの望んだ道に進んで。間違いなんて誰にでもあるし、その間違った道がもしかしたら、正しい道に続いているかもしれないもの。私は、エリーちゃんには幸せになってほしいの」
「ネアさん。……ありがとうございます」
「うん」
ネアの胸の中で、エリーはもう一つの答えを頭に浮かべた。
その道は、当初用意された道よりも危険なモノであるも。何故かその道ばかりエリーは眺めてしまった。
◆
「あ、そうそう、エリーちゃん。あの馬鹿連れて帰ってきたから」
「えっ!? ……クロトさん、ですか?」
その言葉には正直驚く。
クロトは今自分からその身を遠ざけているというのに……。
「なんか帰りたくないとか子供みたいなこと言うから、引きずって連れ戻してきたの」
「……クロトさん、嫌がってたんじゃ」
「関係ないわよ。エリーちゃん連れ回しといて自分は好き勝手行動してるなんて、お姉さんはんたーい。今は隣の野郎部屋にいるはずよ。……見てくる?」
「……後で」
ネアは宿の部屋を二部屋用意していた。
男女別れたいつもの使用。
隣の部屋を指差されるも、エリーはクロトに会う事を躊躇う。
「そう? ……ああ! 嘘っ、こんな時に連絡きてる!」
ネアは途端に通信機を取り出す。
仕事か、知人からか……。ネアはそれを持って急いで部屋を抜け出そうとする。
「ごめんねエリーちゃん。仕事絡みだと聞かれるのは良くないから、お姉さんちょっとだけ外に出るわねっ」
「は、はい。……いってらっしゃい」
それを聞けばネアは猛スピードで駆けだしていく。
今は同行の身ではあるが、ネアには本職である仕事がある。
優先順位を考えればエリーとしては仕事を優先してもらいたい。
一人部屋に残されると、エリーは部屋の扉を開く。
通路から隣の部屋を覗き込んだ。
「……うん」
何かを決め、頷いてからエリーは隣の部屋にへと移動する。
扉の前で呼吸を整え、深く深呼吸をしてからドアノブに手を伸ばす。
静かに扉を開け、部屋の中を覗き込むが、中は光が灯っておらず暗い。
窓から差し込む月明かりのみ。そんな中で更に体を突っ込んで中の様子を確認使用とすれば、
「誰だ……」
問いかける声に驚き、エリーは足のバランスを崩して倒れ込んでしまう。
床で身をぶつけたエリーは痛々しくも起き上がり、声の主を探す。
ベッドに横たわっていたのか、クロトがこちらをジッと眺めていた。
「ク、クロト……さん」
「……っ。お前か。何しに来た? アイツと一緒にいるんじゃなかったのかよ?」
「そ、その……。ネアさん、お仕事の連絡があって、今はいません」
「で?」
「……そ、それで。一人なのも嫌なので。……戻ってこられるまで、一緒じゃダメですか?」
部屋を確認するがイロハは両部屋どちらにもいない。
いつもなら外で眠るため、いなくても違和感はない。
エリーがそれを気にかけたのは、クロトと自分が一緒にいるという状況があってだ。
「これだからガキは……。とりあえず、ネアが戻るまでならいいか」
「すいません」
少しの間クロトを見ていないだけだというのに、エリーにとってはもう数日は会っていないように感じられる。
こうして姿を確認できる事に安心感はあるが、複雑と不安でもあった。
この時間が、最後になるかもしれないと、そんな考えすらある。
少しでも共にいる時間を埋めたかったのか。エリーはクロトに歩み寄るも、平行してクロトはエリーから遠ざかった。
「……あの、クロトさん?」
「この部屋にいるのはいいが、俺に近づくな」
拒絶される事は今に始まった事ではない。
ただ、今その言葉はエリーの不安を煽る。
互いが必要で、すれ違いながらも一緒に行動を共にしてきた。
その距離がクロトによって離されてしまう。
目に見える範囲だというのに、その距離は二度と手が届かなくなってしまうかの様。
終いには、クロトすら見えなくなってしまうのではないのかと、恐怖すら感じられた。
このままでは、本当に最後になってしまう気がした。
この時間で……クロトとの繋がりが消えてしまうのではと……。
「……っ」
その時、エリーは自分の進むべき道を決めた。
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