厄災の姫と魔銃使い:リメイク

星華 彩二魔

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第五部 二章 「魔の門」

「消えない過去」

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 獣人としての外見となったエリー。そのため行動の支障が軽減された二人は魔界の森を進む。
 薄暗い中もニーズヘッグの皮衣がわずかな灯り代りとなり、なんとかエリーもついてゆくことができる。ニーズヘッグは悪魔であり闇にも目が慣れているのか、平然と先を歩き危険がないかを確認。
 先ほどの様な罠もあるやもしれないため、警戒心だけは怠らずにいた。
 
「……とりあえずは罠っぽいのはないな。まあ、ああいうのとか以外は実力行使な食物連鎖だからな。仕掛ける奴の方が少ねーか。……姫君ぃ~、体力大丈夫か~? 一応今人間界で言う夜なんだが?」

「そ、そうなんですか? ……確かに疲れてもきましたし、眠たい気もしますが」

 常に夜の景色。朝か夜なのかもわからない魔界。
 それをすぐに夜だと判断できるのは、おそらく魔界住人だけだろう。

「なんつ~か~。魔素のちょっとした変化みたいな? 大気が昼間よりも夜の方が冷えるみたいな感覚か? そんなんでなんとなくわかるってだけだよ。正直太陽もないからな。感覚頼りなわけ」

「……なんだか、大変ですね」

「人間よりは自由はあると思うけどな。まあ、厳しく言えば自分の事は自分でなんとかしろってな。そういう感じで俺ら育ってきてるんで。大変で確かにそういうのもあるけど、もう慣れだよ慣れ。日常茶飯事。気にするだけ無駄って感じなわけで」

「は、はあ……」

 楽観的な振る舞いだが、エリーとしては日々に平穏がないとしか思えず。
 ニーズヘッグもまた、苦労した日々があったのだと思い悩んでしまう。
 今目の前にいるのが本来のニーズヘッグ。そして、数日前。その炎を向けた残虐な炎蛇。急な変化とも思えるが、それも彼の生きた時間がさせてしまった、変えられない過去にある。
 その嘆く炎に気づき、救いたいと思ったのはエリーだ。
 
「まあ、なんにせよ無理すんなって姫君。姫君になんかあったらアイツに何言われるかと思うと頭痛くなるからな」

 羽衣が集めた小枝を地に重ね、ニーズヘッグが指を鳴らす。それだけで焚火が完成する。
 今日はこの場で野宿という事だ。

「姫君、一人で寝ると危ねーから、俺と一緒に寝ような♪」

 ニーズヘッグはそう言って振り返ると、両腕を広げて待つ。
 よくこれまでの流れでその堂々とした誘いをエリーが受け入れると思えたものだ。
 もちろん、エリーは拒む思い。

「ま、またそういう事されるつもりですか!?」

「前もって言ってたろ? 寝る時はハグだって」

「で、でも……やっぱり……っ」

「そんな拒むなよ~、俺傷つきやすいんだぜ? 超脆いハートしてんの。ガラスの心ってやつ? そこんとこ優しく扱ってくれよ~」

 またこの蛇は甘えだす。
 その甘えを肯定できず、再度拒もうとするも、エリーの傍らにまで羽衣が既に伸びていた。
 ふわりと絡んだ羽衣により、ニーズヘッグの腕の中に誘われたエリーはそのままギュッと抱かれる。

「はい、捕まえた~。姫君抱き心地最高だから逃がさないぞ~♪」

「ひゃうっ! あんまり変なとこ触らないでくださいっ」

「ん~、だったら姿だけでもクロトに戻すか?」

「いいですっ。クロトさんは絶対にそういう事されませんのでっ」

 そこは焦って断っておく。
 ニーズヘッグだとわかっていても、姿がクロトなら余計に許してしまいそうになってしまうからだ。
 そのまま全身で抱かれ、炎蛇の中でなんとかこの状況を堪えようとするエリー。それはさながら飼われたばかりの警戒心ある小動物の様。
 ウサギの耳が余計にそう連想させる。
 
「特に変な事しね~って。姫君にもしなんかあったら大変だからよ。俺とアイツは今でも一心同体みたいなもんだし」

「そ、それはわかっていますが……」

「それと……、マジで姫君になんかあったら、クロトに殺されるような目されるからよ。前々から思ってたが、アイツ本当に人間かって。悪魔の俺すら脅してくるんだぜ? 怖くね?」

 途端に、ニーズヘッグの表情が青くなる。 
 その恐怖は炎蛇の確かなものであり、秘かに会話を行っている二人の仲がとても微笑ましくないという事がエリーでもわかってしまう。
 エリーも時折見せるクロトの脅しには怖くなるところもある。その気持ちはよくわかるものだ。

「……その……なんだか。ごめんなさい」

 エリーは自分の事の様に、クロトに変わってニーズヘッグに謝罪の言葉を送った。





 久々の魔界。炎蛇にとってそれは過去を振り返る様。
 生まれ故郷である魔界は暗く、妙に寂れた景色とも思える。
 幼い頃から見たのは、弱い者が強い者に虐げられ、喰われる弱肉強食な世界。
 その中でもニーズヘッグはまだマシな暮らしができていた方だ。
 生まれ落ちた火山。その火山を縄張りとしていた悪魔が親代わりを務め、陰ながら守られて過ごしてきた。
 生きる事に必死になるほど弱くもない。生まれてから力にさほど困る事はなかった。
 ニーズヘッグにとって、周囲は弱者がほとんどだ。少し力を見せれば、すぐに離れて敵意を向けなくなる。
 
『ニーズヘッグ。お前は確かに強い。……だからこそ、その力の使い道を誤るな』

 そう、教えられた。
 自分が何よりも納得する生き方をするために、強い力を得た者にはそれだけで責任がある。
 道を間違えれば、そこからは間違いの連続。
 それを深く知ったのは、自分よりもはるかに弱い者を失ってからだ。
 自身を取り巻く暗闇に、淡く光る花弁が舞う。
 最初に得た感情。後悔。それに負け罪に背き逃げ、誤った道を進んでしまったこと。
 もう戻れない。何をしても自分は許されない。罪と後悔に向き合う事を恐れた己に手を差し伸べてくれたのは――。
 
 ――今度こそ、間違わない。二度と手放さない。この光だけは、今度こそ守り抜いてみせる。

 




 ――パチン……ッ。

 眠っていたエリーは、弾けるその音にふと目を覚ます。
 音の正体は焚火で火花が弾けた音だった。
 ぼんやりとそれを知り、再び眠い瞼を閉ざそうとすると、自分を抱いていたニーズヘッグの身が、わずかに震えていた。
 声をかけようとすると、少し強く包まれる。
 耳元で、かすかに炎蛇は寝言の様に呟く。……震えた声で。

「……ごめん。絶対に……、もう間違わないから……」

 誰かに謝る。それはしばらく続いた。
 悪夢にうなされる様で、エリーはそっとニーズヘッグの身を撫でる。
 
「大丈夫。……大丈夫ですよ」

 少女はそう小さく呟く。
 恐れている事があるなら、少しでもそれを和らげてあげたい。そう願うエリーは囁き触れ、震えを取り除いていく。
 
「ニーズヘッグさんは、ちゃんと間違ってません。……だから、大丈夫です」

 過去は間違えたかもしれない。
 それはもう取り戻すことはできないだろう。
 だが、間違いを正し新しく進むことはできる。
 今のニーズヘッグはそうあろうとしていた。
 迷惑なところもあるが、炎蛇は優しく協力をしている。その道が間違いなどと、エリーは思わない。
 自分らしくある今のニーズヘッグこそが、間違わずに進めているのだから。

   ◆

 ランプの中で灯る鉱石。
 狭い一室には本と書類の山。その中心で、紙にペンを走らせる音が静寂に響いた。
 
「……ふ~ん。なるほどねぇ」

 ゆったりと、穏やかな口調。そう発したのは純白のドレスを纏う貴婦人らしき女性。
 手にしていたペンを立て置く。
 彼女の前で土下座と深く頭を下げていた行商兎が耳をぺたんと垂らしていた。
 
「面白いねぇ。まさか炎蛇の旦那はんがお戻りなんてねぇ。……そんで? 出くわしてちょっかい出されて商品一つ奪われた……と?」

 ウサギはビクリと身体全身を跳ねあがらせる。

「う……奪われた……と、言いますか……。先に手を出してしまったのはこちらなため……、悪いのは私の方のため、仕方ないかな~……っと……」

「そう怯えんといてぇな。ウチ怒ってへんし~。しゃ~ないよぉ、炎蛇はんが相手なら、ウチらか弱いウサギは生きるためにあれこれせなあかんもんね~」

 女性の広い帽子からは垂れたウサギ耳が伸びていた。
 彼女もまたウサギであり、獣人である。
 
「怖かったねぇ。ウチやったら怖くてその場で身を震わせて怯えとるよ、よよよ……」

 女性はハンカチを目に当て、当事者ならと素振りを見せる。
 か弱く震え、泣いてしまうも、その様子がどうも行商兎には響いてこない。

「いや、さすがにそこまではいかないのでは……?」

「なに言うてんのぉっ。ウチもか弱いウサギなんよ? ……というわけで、心痛むけど減給ね?」

「えええぇえええ!!?」

 あっさりと行商兎の給料を削ぐ事を口にする。
 慌てふためき部屋中を飛び跳ね動揺するウサギを置いておき、女性は陰で嘘の涙を拭いとる。


「……せやねぇ。ちょっと場が悪いかもねぇ。……その炎蛇」

************************

『やくまが 次回予告』

エリー
「クロトさんがずっと眠ってしまって大変です! 二重の意味で!!」

ニーズヘッグ
「初姫君との予告で感激なんだが、二重の意味ってどういう意味かな姫君?」

エリー
「まさかニーズヘッグさんがこれほどまで別キャラの様になるとは思ってませんでした。180度反転したというよりは360度一周して誰ですか? って感じです」

ニーズヘッグ
「お、おう。なんかこっちだといつも以上に言ってくるな。でもそういう姫君も可愛いからOK!」

エリー
「そんな事よりニーズヘッグさん。クロトさんが私の様に起きられるために頑張りましょうっ。クロトさんがいないと私すごく不安です。――二重の意味で!」

ニーズヘッグ
「やけに二重の意味を貫いてくるな。いったい何に悩まされてんだよ……」

エリー
「ちょっとは自覚持った方がいいですよニーズヘッグさん……。私の絶望メーター溜まったら黒星来ちゃいますのでね?」

ニーズヘッグ
「妙に脅迫っぽいない。俺が姫君絶望させるわけねーだろ? むしろ幸せいっぱいのハネムーン気分でこのまま行きたいです」

エリー
「そういう仲でもないでしょうに」

ニーズヘッグ
「次回、【厄災の姫と魔銃使い】第五部 三章「獣道」。そういえば見逃したウサギ野郎なんも余計な事言ってねーだろうな?」

エリー
「私に聞かれても困ります」

ニーズヘッグ
「う~ん、やっぱ燃やしとくべきだったか……」
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