厄災の姫と魔銃使い:リメイク

星華 彩二魔

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第五部 四章 「蛇と鳥」

「落ちた翼」

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 その日。ニーズヘッグは呆然と暗い空を見上げていた。
 世に顕現して十数年。少年の身であるニーズヘッグにその時あったのは、退屈と暇により、ぽっかりと穴が開いた感覚だった。
 魔界の空気にも慣れ、ここ最近は一人で出歩く事が増えた。
 今はサラマンダーの縄張りである火山を遠目にするほど離れている。
 それなりの自由はあるも、足りないものが存在していた。
 ――それは、な存在だ。
 生まれながらにして力を得ていたニーズヘッグにとって、周囲の存在とは質が異なっている。そのため、そこらの魔族では張り合いもなくあった。
 時折単体でいれば知らずと敵意などを向けられるが、それすらモノともしないのがニーズヘッグだ。
 炎だけでなく、その身にはいつも皮衣を纏っている。しなやかでありながらも攻守共に優れた存在。ニーズヘッグの強みはそこにある。
 力で物事を解決する魔界。そして偉大なる四番席である竜の王の属だからか、強者を求める好戦的な一面が無自覚にも存在してしまうのが難だ。そして、対等な存在を求めてしまう。

「……っ。つーまんねっ」

 退屈に痺れを切らせ、ニーズヘッグは地面に大の字で寝そべる。
 
じじいはあんまり腕試ししてくれねーし。蜥蜴は甘えてきて可愛いけどいじめるのはよくねーし。ラミアどもには会いたくねーし。やってもいい奴らなんて張り合いねーし、超つまんねぇ。……いっその事魔王にでも挑みに………………ダメだ、殺される」

 さすがのニーズヘッグでも相手を選ぶ。
 せめて対等か、それに近い存在と巡り合いたいと願っているが、現実は厳しくもある。
 今のニーズヘッグはまだ魔素を自然に取り込むための器官がない。それによりサラマンダーの場所で過ごしているため余計な迷惑もかけられない。
 独り立ちしようと思えばなんとかできるが、食料なども自分でなんとかしなければならない。
 そう一つ一つ問題を考えていればめんどくさくもなってくる。
 最終的には諦めてこのまま火山に戻るという選択肢が選ばれ、同じ日常を更に繰り返す事となる。
 
「せめてなんかおもしれぇことねーのかよぉ~」

 一人駄々をこねる。
 誰かが見ていれば呆れられもするし、子供だから仕方ないとも思われる。
 しかし、この欲求を解消したいという気持ちの方が強くあった。
 この様な日々を過ごして何日目か。そろそろ変化が起きてもよいではないかと、日々期待をしていた。
 そして今日も同じ結果だろうと、そう思えた時だ。
 
「……?」

 金の瞳を丸め、ニーズヘッグは目を見開いた。
 天を見上げ、なにを見たのか。
 身を起こしてニーズヘッグは空にへと目を凝らす。常に夜の魔界。その空はいつも暗く、暗雲と、月と、星というものは数えるほどしか見えない。
 にも関わらず、その時はまったく別のものを見る事となった。
 それは暗い空には目立つ白い色。鳥にも見え、魔鳥の類であることはわかる。
 だが、それにしては珍しい色合いのため気を引かれてしまった。
 妙にふらつく飛び方。そのせいか、少しずつ高度が下がってきてもいる。
 思わずそれに向け手を伸ばしてみる。

「…………届くか?」

 狙いを定め、ニーズヘッグは伸ばした腕に羽衣を纏わせ、一気にそれを天に伸ばす。
 羽衣がピンッと張り鳥に届いたのか手応えがある。鳥も身をよろめかせ、一気に地にへと落下。


「――べぐっ!!」

 
 鳥はそんなをあげ、地にへと衝突した。
 ニーズヘッグは両目をパチパチと瞬きさせ呆気に取られてしまう。
 一番に驚いたのは、そんな人の様な声を出した事ではなく、その姿だった。
 少し離れた位置で倒れているのは、自分と同じほどの子供だった。
 鳥とは認識していた通り翼も存在。遠くで見ていた通りの白い色合い。……しかし、白いその色に紛れ、長い髪と翼にはほのかに七色を宿す、初めて見る色合いに目だけでなく意識をも奪われた。
 そして数秒後、事態をようやく把握して再度目を見開く。
 羽衣は目の前の子供の片足をとらえており、それにより地にへと落下。見ごろに体の前面をぶつけてしまっている。
 痛みを堪えてか、震えながら身を起こし、顔を手で押さえている。
 つまりは、顔も酷くぶつけた様子。これにはニーズヘッグも「……あっ」と呟き、罪悪感が沸いてしまう。
 なんせ、目の前にいるのは同じほどの子供に加え、綺麗な見た目をしているからだ。

「お、おい……っ。大丈夫か?」

 焦って声をかけてから羽衣を引っ込め、ニーズヘッグは心配と駆け寄る。
 近づけば、その姿が更によく見れた。
 子供は翼を取り除けば本当に自分と同じで人の子と変わらない見た目。偶然なのか、自分と似たものすら感じた。
 そうしてまた呆気に取られていれば、こちらに気づいた相手はゆっくりとニーズヘッグにへと顔を向ける。
 
「……っ、お前か? 足を引っ張って落としたのは?」

 堪えた声で、相手は顔に当てていた手を徐々にのかす。
 その時、ようやく顔をはっきり見る事ができた。
 肌も白く、涙で潤んだ翡翠の如くある美しい瞳。唯一残念なのは、顔をぶつけたせいで鼻先を赤らめてしまっていること。だが、それすら見栄えのあると思えてしまうのは、その外見の美しさが成すものなのかもしれない。
 問われてニーズヘッグは直後後ろめたさに顔を逸らしてしまう。
 だが、嘘を嫌う性分のせいで偽る事はせず、もう一度向き直って心を決める。

「わ、悪かったってっ。……だから、そのぉ…………な、泣くなよ」

 正直に悪いことを認め、励ますつもりで続ける。
 そんな最中でも、目は相手の姿を確認するように集中してしまう。 
 見れば見るほど、妙な感覚が胸の奥にある。
 自分でも不思議になる、この気持ちはなんだろうか? 妙に胸が熱くなるというか、緊張しているのか。
 
 ――なんだろう、この気分。なんか、「ズキューン」ってもんがあるんだが??

 疑問に頭を悩ませる。
 白い子供はこぼれそうになった涙を拭い、ニーズヘッグに目を細めている。

「……ぐすっ。お前、……特に言い訳とかする気はないんだな」

「う、嘘ついてまで逃げようなんて思ってねーよっ。自分に嘘つくのは嫌いだからな……」

「…………変な奴。――じゃあ……」

 ふらっと立ち上がる。背丈もほぼ変わらないと確認し、それに気を取られていた瞬間、相手の手がニーズヘッグの顔にへと伸びる。
 気づいた時には触れるか触れられないかの距離だ。


「――潰すっ」


 と。そう発言。
 途端にニーズヘッグの本能が危機感をしらせ、身を逸らして手を避ける。
 避けた事で地に向かう白い子供は、空振りした手で地面を掴み、バコンッ! と、抉り握り潰した。
 それだけで見た目に似合わない握力を確認。避けていなければ顔がそうなっていたと思うと冷や汗が出た。

「……っ。はずした」

 惜しくもと、相手は小さく舌打ちまでする。
 発言と行動からして、本当に顔を潰す気でいた事がわかる。

「ちょっと待て!? お前、今それで俺の顔握ろうとしてたろ!? 頭蓋骨ぶっ壊す気か!!?」

「そのつもりだ……っ。おとなしく潰されろ!」

 命令口調に続いてまた顔を狙おうとする。
 手は危険なため、ニーズヘッグは両手首を掴み止めるが、勢いに組み敷かれ馬乗りの上をとられてしまう。
 押し合う力は同等、……より向こうの方が上な気がする。華奢な見た目に比べて力はある。凶器と呼んでもよい手が徐々に近づいては、ニーズヘッグも負けじと押し返した。

「見苦しいぞっ。抵抗するなっ」

「するに決まってるだろうが!! 死んでたまるか!!」

「ボクは顔面をぶつけたんだぞ!? だったらそっちも顔に傷を受けるのは道理ではないか!!」

「致命傷の間違いだろそれ!? くっそぉ、顔してやること物騒だな、お前ぇ!!」

 直後、相手はボッと顔を赤らめる。

「だ、だだっ、誰が可愛いだ!! ボクを馬鹿にするなぁっ!!」

 どうも可愛いという言葉が気に入らなかった様子。
 
「いいから落ち着けって! 落としたのは悪かったからっ、代わりになんかで詫びさせてくれよっ。それでチャラにしよーぜ!!」

 必死にニーズヘッグは珍しく懇願。
 命乞いにも近いものだが、プライドよりもこの場は命が優先である。
 願いが届いたのか、迫る力がいったん弱まる。

「……詫び?」

「そ、そうだ!  何か要求とかないのかよ? ……できれば、物騒なの以外で頼む」

 少し話が通じた様だ。
 ここは下になって言う事を聞くべきである。
 これまで会った魔族とは違い、こんな人の形をしっかりとさせた相手だ。もしかしたら自分よりも強いかもしれない。そう考えればこんな状況で更に刺激するのはよくない。魔界で生きるための賢い判断の一つだ。
 
「……なんでも、いいのか?」

「で、できる範囲なら……。潰されるよりはマシだからな」

 相手は時間をかける事もなく、一つの要求を口にする。

「なら、何処かにはないか?」

「……み、水場ぁ?」

「正直……この辺は知らない。しばらく飛んでいたが沼しか見当たらない。……できれば、それなりに綺麗な水がいい」」

 翡翠の瞳は自身にはえている翼を見て困った顔をする。
 よくよく見れば、その白い翼は少し汚れてもいた。

「これだけは、なんとかしたい。……えっと」

「な、なんだよ……?」

「名前。……とりあえず聞いておいてやる、

 名を尋ねるも急に愚か者と称してきた。
 普段なら怒るところなのだが、これは好都合と従う。
 
「ああ、名前か。……お前が教えてくれんならいいぜ」

 ちょうど、ニーズヘッグもこの興味ある相手の名が知りたかったところだ。
 
「~っ。……フ、フレズ……ベルグ。――フレズベルグだ」

 あっさりと相手――フレズベルグは答えてくれた。
 少し照れくさそうに名乗るところも、胸にくるものがある。

「そっか。俺はニーズヘッグだ。……ちょっとした、炎を扱える蛇だよ」

 約束通り名乗り返す。

「……ところでさぁ。そろそろ、その手をなんとかしてくんねーか? あと、この体勢」

 フレズベルグは状態を見直す。
 ニーズヘッグを組み敷きまたがる状態。しばしキョトンとしてから、フレズベルグも「そうだな」と納得する。
 せっせとニーズヘッグの上から降りる。すると、その綺麗な顔が遠ざかってしまう事に、安堵しながら内心残念な気持ちがあり複雑なニーズヘッグ。
 鼓動が速くなってしまうこの謎の感覚なんなのだと、初体験な連続に戸惑う。
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