厄災の姫と魔銃使い:リメイク

星華 彩二魔

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第六部 三章 「繋がれた少年」

「見覚えのある少年」

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 エリーは呆然と立っていた。
 無意識に目は周囲を静かに見渡す。

「……」

 窓のない部屋。壁と本棚に覆われた一室。電灯はぶら下がっているが灯っていない。
 朝か夜なのかもわからない。だが、強く夜を連想してしまうのは、部屋の暗さが原因だろう。
 次に下に目を向ける。本棚から抜かれた本が幾つも床に置かれ、積まれたり、乱雑に置かれていたり。ホコリをかぶっているものもあって手入れがあまり行き届いていない。もしかしたら、あまり使われていない部屋なのやもしれない。
 だが、本当にそうだろうか? という疑問すらあった。
 部屋には大きな屋根付きベッドが置かれていた。シーツが乱れているが、まだ綺麗な家具ではある。
 この様な空間を誰が利用しているのか。エリーは一通り見終えると不安に戸惑ってしまう。
 
「私……クロトさんの所に来れたのかな……?」

 扉をくぐって、最初に訪れたのはこの部屋だ。
 自分の夢とは違い、異様なまでの静けさがあった。
 とにかく、少しでも安心するために灯りがほしい。部屋ということは、何処かの建築物の中ではある。外に出て、人に遭遇すればクロトの情報が入手できるやもしれない。
 そう考え、エリーは床の本を避けつつ、よろよろと進みだす。
 
 ――カンッ!

「ひぅっ」

 急な甲高い音に、二歩目ほどでエリーはビクリと肩を跳ね上がらせる。
 しかし、音は一度では終わらなかった。

 ――カン! カン! カン!

 金属を何度も叩くような音。エリーは恐る恐る青ざめた顔で音の方にへと顔をゆっくり向ける。
 ベッドの柱に隠れつつ、エリーは音の正体を確認する。
 その奥では、ぼんやりと乏しい明りが見えた。

「誰か……いる……?」

 目を凝らすと、小さな人影が見えた。
 床に座り込み、片腕を振り上げ、それを勢いよく振り下ろす姿。直後、あの音が響く。
 音の正体は、その人影が出していた。

「……くそっ。…………くそっ」

 悔しさを滲ませる声。男の子の声だ。
 微かだが、声はくぐもっていて泣いている様にも感じられた。
 エリーは不安を忘れ、隠れる事をやめてその少年にへと近づく。
 
「……大丈夫……ですか?」

 つい、エリーは声をかけてしまった。
 見過ごせない光景に、声をかけないという選択肢が失われてしまっていたのだ。
 しかし、後になってハッとする。
 此処は夢の中だ。夢の中は全て幻であり、自分の声が聞こえるはずがない。
 これは、クロトの夢なのだから。
 ……そう、考え直していた時だ。
 少年の背が、ぴくっと反応した。
 何かを叩くことを止め、少年は静かにこちらを振り向いたのだ。
 エリーは目を丸くする。少年がこちらに気づいた事と同時に、振り向いた少年には見覚えがあった。
 
「……え? クロト……さん?」

 エリーは名を口にする。 
 そこにいたのは、魔銃使いとしてある、これまで一緒に行動を共にしたクロトではなく、数年ほど前の姿をした子供のクロトがいた。
 背丈は少しエリーよりは低いかもしれない。だが、クロトの面影はしっかりあり、すぐにクロトだとわかった。
 小さなクロトはエリーを見るなり、不信感のある眼差しでいた。


「……? アンタ、誰? なんで俺の事知ってるんだよ?」


「えっ!?」

 驚くエリー。クロトはエリーの事を知らない様子でいた。
 それもそのはずだろう。例えクロトだったとしても、目の前にいるのはエリーが会う前のクロトだ。まだ出会っていない頃に記憶までもが遡っているのなら、この場では初対面というのが正しくある。
 なら、この場での第一印象はとてもややこしい状態になってしまっているだろう。
 クロトはエリーを知らない。しかし、エリーはクロトを知ってしまっている。
 その流れをやり直す事はできず、エリーは困惑してどう説明すべきかと悩んでしまった。
 慌てるのみでまともな返答ができない。その様子を見てか、クロトから更に問いかけられた。

「ひょっとして、新しい使用人かなんか?」

「し、使用人……?」

 疑問に疑問を返してしまう。
 クロトは呆れた様子でため息を一つ。

「なんだよ、違うのかよ? ……まあ、アンタみたいな子供を、あの人が雇うとは思えないけど」

 納得した様子で、もう一つため息。
 とても残念な思いをさせてしまったやもしれない。それには申し訳ない気持ちでしかない。

「す……すいません」

 思わず謝ってしまった。 
 
「なんで謝ってるわけ? わけわかんないの」

 呆れたクロトは、何かを叩くことをせず、近くにあった分厚い本を手にして膝の上で開ける。
 隣にあったランプを片手に、読みづらそうな様子で本を黙読し始めた。
 エリーの事など、もう気にしない様。逆にエリーはクロトだとわかれば、戸惑いつつも近づいて隣に居座る。

「……?」

「あの。……それ、持ちましょうか?」

 エリーはランプを指差す。
 少し目を泳がせてから、クロトはこくりと頷いてエリーにランプを向けた。

「……ん」

「あ、はいっ。じゃあ、持ちますね」

 両手でそっとランプを持ち、本を照らした。
 手が空き、楽になったクロトはまた本にへと顔を向け直す。同じ様にエリーも本に目を向けるが、細かく難しい字の羅列がびっしりとあり、自分では難しいと一瞬で判断した。
 そのためか、エリーは灯りの担当に専念することに。

「……」

「……」

「……で? 結局アンタなんなわけ?」

 突然に訪れた際質問に、灯りがわずかに揺れる。それに対する答えをエリーはまだ考えきれていない。
 此処まで距離を許されているが、クロトはまだエリーを警戒している様子でもある。

「え~っとぉ、……なんと言えばいいでしょうか?」

「俺ん家で幽霊なんて初耳なんだけど? 実は見つかってなかった幽霊なわけ?」

「……そのぉ、幽霊では……ないんですけど?」

「じゃあ、不審者? 人の家に勝手に入ってるってなると不法侵入だよね?」

「ふ、ふほう~しんにゅう?? でも、勝手に入っているのなら、そうなんですかね?」

「……アンタって疑問を疑問でしか返せない呪いかなんかにかかってるわけ?」

「……~っ。ちょっと、大変な呪いには……かかってます」

「なにそれ?」

「……本当に、なんなんでしょうね」

「俺が教えてほしいんだけど?」

 深く、深く。クロトは先ほど以上の長いため息を吐いて失望してしまっている。
 またしても申し訳なくあり、「すいません」と小声で謝る。
 普段のクロトなら、こういう時にはすぐにイラついて怒鳴るはずなのだが、この頃はあまり短気ではないのか怒鳴る事をしない。
 不快に眉を曲げてはいるが、ふと、クロトは目を細め何か思う悩んだような表情をする。

「どうやって此処に入ったかは知らないけど、とっとと出て行った方がいいよ?」

 何かの警告のつもりなのか。クロトはそう呟いた。
 身の危険を知らせるような発言に、エリーは首を傾ける。

「……えっと、なんでですか?」

「はあ? なんでって、そんなの――」

 理由を説明しようとするが、すぐに口を閉ざして耳を澄ませる。
 途端にクロトの表情は蒼白として何かに恐れを抱いてしまっている様。
 エリーも周囲の音に意識を集中させると、音が近づいてくる。
 誰かの足音にも思える。それは徐々に部屋の扉にへと向かっている気も……。

「……やばい」

 クロトは何らかの危機を察知して、本をどかしエリーからランプをひったくる。

「とにかくどっかに隠れろ! 見つかったらやばい!」

 慌てた様子にエリーは状況が把握できず混乱してしまう。

「ええっ!? な、なんでですか!?」

「それしか言えねぇのかよっ!? いいから、……こっち、早く!」

 手を引かれ、頭が追いつかないエリーは、直後視界を暗闇に覆われてしまう。


 
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