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番外編 初めての
01-04 初めてへの道のりは思ったより遠い
しおりを挟むいい機会だから、ちょっと怖いけど気にはなるし…質問させてもらおう。被っていた布を下ろしてヘッダさんの方を見る。
「あの、お話の途中にすみません。俺が消えたらギゼルはどうなりますか?契約魔になると色々共有するって聞いたんですけど…」
「ギゼルも消える、いや、死ぬだろうね」
否定してほしい気持ちで問いかけた言葉だったけど、最悪の可能性を肯定する言葉で一気に顔が青ざめて、俺は何も言えなくなった。いや、大丈夫、ちゃんとここに居たいって俺が思ってれば平気なんだから。頭ではそう思えるのに、体がカタカタと震えてしまうのが抑えられない。
「馬鹿、言葉を考えろ!」
俺がこんなんだから、ギゼルが心配してヘッダさんに声を荒げてしまうんだ。
慌てて抱きしめて背中をさすってくれるけど…大丈夫、大丈夫なんだ。ショックだけど、本当に、こんなになっちゃうほどじゃないんだよ。
「ギゼル、俺は大丈夫、心配してくれてありがとう。ヘッダさんはただ質問に答えてくれただけだよ。…あの、すみませんヘッダさん。俺、向こうにいた時はこんなんじゃなかったんです。試練の時とか、こっちに来てからよく泣いちゃうようになって、今もそりゃあショックではあるんですけど、ちゃんとここに居たいって思ってれば大丈夫だって頭では分かってて、それなのに体の方が過剰に反応してるというか……これって、契約魔だからなんでしょうか?」
なんとか自分の体を落ち着けながら、ずっと気になっていたことも質問してみる。試練の時は何度も泣いてしまったけど、ギゼルと夢で会ってからだって、現実にいたときはどんなに寂しくても悲しくても泣くことはなかったんだ。
「いや、ギゼルの死を確定させる言い方をした私が不用意だった。『一応そういう可能性もある』とでも言えばよかったのに、ごめんね。…しかし、本当にアキラは体への影響が強いね…攻撃的なタイプじゃなくて助かったよ。
まず、アキラは他の契約魔を知らないだろうから説明すると、基本的に契約魔は感情で動くとされている。まあこれは、契約魔になるまえの状態、精霊や妖精がそうなんだけれど…契約魔が喜べばその反応が勝手に周りへ現れるし、悲しいと思えばその影響も周りに現れる。
たとえば、一般的な契約魔とされている花の姿をした契約魔なんかは、喜べば周りに花を飛ばして、悲しめば萎んで花を散らす。ただ、普通の契約魔はそこまで明確な気持ちの動きがないんだ。人間だったらとても喜ぶところもふわふわと嬉しいな程度だし、死んでしまいたいという感覚や感情なんかは持ってないしな。だから、多少萎びれてもそのままそこに在る。これは人の言語を理解する精霊でもそうだ、根本的に人間の感覚ではないから何も問題にならない」
んん、えっと、他の契約魔も体と感情が直結しているけど、俺みたいに人間の感覚がないから大丈夫ってこと、なんだよな。
ううん、人間だったことが足を引っ張るなんて予想外で困るんだけど…でも、人間じゃなかったらそもそもギゼルとこんな風になれてないわけだし、悩ましいなぁ。
「お腹が空いちゃうのも、俺が人間という生き物はそうなるって分かってるからですか?」
「まあそうだね、分かってるっていうか、お腹が空いた気がするなって思えばそれにつられてお腹がなるし、空腹感が生まれる。あとは料理の美味しさを理解していれば、美味しそうだし食べたいと思うこともあるだろう?それでもお腹が鳴ると思うよ。少し汚い話になるが、多分排泄物は出なくなるんじゃないかな。アキラがよっぽどしたいとか出そうだと思わない限りは起こらないはずだ。ちょっと極論を言えば、アキラが『飛びたい、飛べる』と思えば、アキラは飛べるようになるよ」
え、え?俺、飛べるようになれるの!?思いもしなかった可能性に、ドキドキしながらヘッダさんを見つめてしまう。
ん?ちょっとまってくれ……それなら、それなら俺が超ムキムキになれると思えば、なれちゃうのか…?身長も高くなれちゃう…?
「ふふふ、急に目がキラキラしてるよ、飛べるようになりたいのかな?」
「あ、あの、飛べるようにもなりたいんですけど、俺の身長が伸びたりとか、ムキムキになれたりしますか?!」
つい前のめりになって聞いてしまったけど、これはとっても重要だから!男として!
前のめりになった俺をギゼルさんが無言でぎゅっと抱き寄せてくるけど、今は気にしていられない。
「なるほどね、アキラはムキムキになって身長も伸ばしたいのか、可愛いねぇ。…まあその期待に水を差してしまうようで悪いけど、結構難しいかな。空を飛ぶことも、本当にそれを望むというか、無意識下でも『自分ならそれをできる存在、またはそういう生き物だ』と思えなければ難しいだろう。身長も同じで、本当に強く願えば一瞬だけ、できる可能性もあるかもしれないが、長い時間そのままでいるには、アキラの自我がしっかり芽生えすぎているね。見た目を変えるのは容易にはできないはずだ」
ワクワクしていた気持ちが一瞬で萎んでしまう。そっかぁ、いや、まあそうか、そもそも現実でだってムキムキになれてなかったし、ムキムキになった自分が上手く想像できないと無理そうだ……、ううー、残念すぎる。
「そ、そうなんですね、分かりました。色々教えてくださってありがとうございます」
「ふふ、しょんぼりしても可愛いね」
寂しい気持ちでいると、さらにギゼルがぎゅっとしてくる。俺の体がほとんど、ギゼルと布に隠されるようになってしまっている。
「感情とか考えが体に影響しやすくなっただけで、特に問題ねえんだな」
「そうだね。あとは……アキラはあまり心配ないだろうが、他者に攻撃的な気持ちを持てばそれも勝手に発散する場合があるから気をつけた方が良いかな。まあそれはどうやって気をつけたらいいんだ?って話でもあるけど。契約魔で例えれば…そうだな、元が雷とか炎の妖精だった契約魔だな。あれは少しでも他者を攻撃的な気持ちで認識すれば即行で発火なり電流が起きる。まあ喜んでも炎が舞ったり静電気が起きたりするが、それは本当に可愛いものだ。契約魔に攻撃的な気持ちがなければ、そこで発動した現象にも攻撃力はほぼ無い」
うええぇ…何それ怖い。 慌ててギゼルの腕をぎゅっと掴む。
俺の、この悲しくて涙が出ちゃったり怖くて震えてしまう過敏な反応を思えば、他人に攻撃的な気持ちを持った時はどうなっちゃうんだ…。人をすぐに傷つけるようになっちゃったらどうしよう。
「おい、怯えるアキラが可愛いからってわざと脅かすな」
「あははは、ごめんごめん、まあ、今言ったのは元から持ってる性質が大きく関わるから。例えばさっき話した花の精霊だったら、どんなに他者に怒っても攻撃的な反応はほぼ起きないよ。根を伸ばして自分自身に絡めて、拗ねながら契約主に慰めてもらいにいくだけだね。花だって他者を攻撃する手段は、考えようによってはいくらでもあるよね、例えば毒になる花とか臭い花とか。アキラなら例え手段があっても、自分以外に影響を与えるような発散の仕方はできないんじゃないかな?怖くて体が震えはしても、周りの温度を下げたり物を震わせたりはしていないだろう?」
なるほど、確かに自分の体が反応するだけで、他には影響でてないかも。…そっかそっか、良かったぁ。
「そっか、良かったぁ」
ほっとして笑顔になれば、ヘッダさんもニコニコ笑ってくれる。本当に、誰かを傷つける可能性が低くて良かったよ。
安心して体から力が抜けてふにゃふにゃしていると、またギゼルが布を俺の顔に被せた。なんなんだ、もしかしてこれを気に入ってるのか。
「見んな、減る」
「あははー、男の嫉妬も面白いねえ」
ギゼルの苦々しい声とヘッダの楽しんでいる声がする。そこ、面白いなんだ、見苦しいんじゃないんだ。
除け者になった感じがちょっと寂しいので、ギゼルの手から布を取り返して下ろす。
「はぁ、こいつは女子供には激甘だし、副ギルドマスターって役職も持ってる。なにかあれば爺ギルマスじゃなくてこっちを頼れ」
「ぇ、う、うん…?」
「ありゃりゃ、ヤニ爺はギゼルにかなり警戒されちゃってるんだね」
「お前は女子供にも同じ態度だろ。じじいはそうじゃねえからムカつくんだよ」
「あーあ、ヤニ爺めちゃくちゃアキラのこと気に入ってたよ?あんな可愛い孫が欲しいってさ」
「デレデレしてクソうぜえだろうから関わってこなくていい」
「普段はそうだね。でも、本当に何か困ったことがあったら、私とかヤニ爺とか気にせずここに来ていいからね。受付にもフリーパスだって言っとくから」
俺を慈しむような目で見ながら、優しい声でヘッダさんが教えてくれる。なんか、なんかすごく嬉しい。ギゼルが優しいのは、まあ経緯とか俺との関係からして当然かもしれないけど…合ったばかりの俺にこんなにも優しく対応してくれるなんて、すごく心が温かくなる。こんな優しさを、向こうにいたころに受けたのはいつだっけ。全然悲しくないのに、嬉しいのに、涙がぽろりと出てしまった。
「っ、アキラ?」
「だ、大丈夫、なんかすごい嬉しくなって、出ちゃったみたいだ」
泣いたのは恥ずかしいけど、この気持ちを勘違いしてほしくなくて、わざとギゼルに顔を見せる。きっと今の俺は、嬉しいって、幸せだって顔をしてるはずだから。
「…そうか、それなら問題ねえな」
俺の顔を見て安心してくれたのか、優しい表情で俺の零れた涙を指で拭ってくれる。嬉し涙だったせいか、すでに涙は収まっていた。
「すみません、急に……ヘッダさんの優しい言葉が嬉しくて」
困惑させてしまったんじゃないかと思って謝ったが、変わらずにとても優しい笑顔をしていたので、俺も笑い返す。
ギゼルが太鼓判を押してくれたのも分かるぐらい、良い人だなぁ。
「何も謝ることなんてないよ、むしろ綺麗な涙に癒されたぐらいだ。ふふふ」
布をもじもじと弄りつつ、俺とヘッダさんがニコニコし合っていたら、ギゼルが真剣な様子で相談の方に話しを戻した。
「……こいつが契約魔だってのは開示して行った方がいいと思うか?」
「んー、人型だからねえ、しかもめちゃくちゃお話しできるし。精霊崇拝の変態とかが湧きそうっちゃ湧きそうなんだけど…多分そっちが湧いた方がましかな。人だと思われてたら余計なちょっかいかける奴だらけになるだろうからね。アキラがA級冒険者クラスとか、執拗な奴を相手に自衛できるなら隠しててもいいんだけど」
「多分無理だな…ついさっき、漸く魔力を認識できるようになったぐらいだ。それもただありのままを感じるだけっぽいし、自衛とかは当分無理だと思った方がいい。それになぁ、こいつの所は大分平和だったみてえだから、他者を行動不能にするような攻撃を意図してできるのかっつう問題もある」
「あー、扉開く時に私の魔力に当てられちゃってたよね。魔力のない世界か…多分本当に、アキラはそっちで人間だったんだろう。試練の場では何故か精霊に…いや、または魂だけがむき出しの状態だったのかもな?そして、そこで運命の出会い、うーん、劇的だねぇ」
ピリピリしてきたギゼルの空気を、わざとおちゃらけて和らげてくれている気がする。……ヘッダさん、素敵だ!
A級冒険者をどうにかできるって……ギゼルをどうにかできるレベルってことだよね。……とっても無理そうなんだけど。
物理的な格闘はもちろん、俺って赤ちゃん並みの魔力操作?認識?らしいよね、それってこれから頑張ればなんとかなるのかな?
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