マシュマロ系令嬢は悪役令嬢にはなれない

きみいち

文字の大きさ
8 / 30
婚約者とマシュマロ系令嬢

2.

しおりを挟む
 ◆

「リリーティア・リクール?」

 この春、おなじ学園に入学してきた婚約者とのどかなティータイムを楽しんでいると、マリアベルの口から飛び出した名前にぞわりとした。
 
 ――なんだ。この気持ち悪さ……。

「はい、シモン様にぜひお会いしたいのですって。わたしのところでとどめておくことも出来るのですが、ちょっと、その、強引で……シモン様さえよろしければ、一度ご紹介したいのですが」
「……会う必要性は感じないな」
「承知しました。では、お断りしておきますね」
「あまり強く出るようだったら、すぐに言ってくれ。対処しよう」
「はい」

 婚約者の少女が気遣わしげにシモンを見上げた。

「シモン様、大丈夫ですか?」
「え?」

 いつのまにか額にびっしりと汗が浮いていた。
 マリアベルがシモンのそばに寄り添い、ハンカチを当てる。

 丸みを帯びた頬、シモンを心配げに見つめる榛色の瞳。

 ――自分はこの少女をずっと前から知っている。

 とたんに頭に流れ込むのは、膨大な量の前世の知識。
 頭を抱え、意識がおぼろげなシモンの身体をマリアベルがとっさに支えた。

「シモン様っ、しっかりなさって!」

 シモンはすぐに学園内の治療室へ運ばれた。
 その間、ふっくらとやさしい手はシモンの手を握りしめたまま、離れることはなかった。

 ◆

 王立学園の入学式。
 桃色の花弁が舞う中、男爵令嬢リリーティア・リクールと氷の貴公子と呼ばれる侯爵令息であるシモン・モンテイエは出会った。

 リリーティア・リクールは黄金色の髪に深緑の瞳を持つ、妖精のように華奢で可憐な少女であった。

 政略で決められたシモン・モンテイエの婚約者マリアベル・オーランシュとはまったく違う。

 シモン・モンテイエが何度か会った婚約者の少女は、見た目は地味だし、のろまだし、なんでもはいはい、とうなずく様は従順と言えば聞こえはいいけれど、主体性がないだけだ。

 なにより、太っているのが許せない。
 すぐに太ってしまう体質なのだ、と言い訳をする前に痩せる努力をしてみたのか、と問いたかった。

 シモン・モンテイエは、侯爵家を継ぐ者として周囲からの期待に、息苦しいほどの圧迫感を感じていた。努力してあたりまえと言われる環境。ましてや、モンテイエ家は代々宰相位にあったので、なおさらだった。

 だからこそ、マリアベル・オーランシュの怠惰が許せなかった。

 そんなときに出会ったのが、天真爛漫で明るいリリーティア・リクールだ。愛らしい笑顔に癒やされ、誰に対しても物怖じしない態度に惹きつけられた。

 ある日、婚約者の少女がリリーティア・リクールに嫌がらせをしているのを偶然見かけた。
 周囲の話によれば婚約者の少女は、これまでにもリリーティア・リクールに対し、幾度も嫌がらせを働いていたそうだ。

 自分の見ていないところで、なんという卑劣な真似をするのか。
 そんな女が将来の侯爵夫人になるなど、あってはならない、

 シモン・モンテイエは婚約者の少女にその場で婚約破棄を言い渡し、初恋の少女リリーティア・リクールと結ばれた。

 その後の悪役令嬢マリアベル・オーランシュの行方は不明とされた。

 ――ハッピーエンド――
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつもりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

処理中です...