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マシュマロ系令嬢と第1の悪役令嬢

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「見て見て、アルベール王太子殿下よ」
「お隣にはモンテイエ様。いったいなにを話されておいでなのかしら?」
「あら、後ろにはバルサス様もおいでよ」
「生徒会のみなさん、素敵ねえ」
「本当ね。目の保養になるわ」

 クラスメートたちが教室の窓の外を見ながらきゃいきゃいとはしゃいでいる。

 婚約者の名を聞いたマリアベルも席から立ち上がり、窓の外を見る。

 マリアベルの教室の階下にある渡り廊下を、婚約者のシモン・モンテイエが王太子殿下たちと連れ立って歩いているところであった。
 渡り廊下で繋がる別棟には生徒会室があるので、そちらへと向かっているのだろう。

 マリアベルの婚約者であるシモン・モンテイエは今日も麗しい。
 幼い頃より神童と呼ばれた頭脳はいまだに衰えず、かつ冷静沈着で常に無表情でいる彼を、周囲は『氷の貴公子』と呼んでいるようだ。

 婚約者の笑顔しか見たことがないマリアベルはいつも不思議だったけれども、今ならわかる。

 婚約者は次期宰相位として、おのれを律しているのだ。あの冷たそうに見える態度は、おそらくはそういったポーズなのである。
 公私混同をしない婚約者の姿に、マリアベルはますます尊敬を深める。

 そのうえ、彼は素晴らしく紳士だ。

 先日のデートではマリアベルの行きたかった場所にスマートにエスコートをしてくれ、なにを買おうか迷っていると的確な助言をしてくれた。

 しかも、婚約者をこちらから色事に誘ったと言うのに、いたしている最中に気絶したマリアベルになにもせず、衣服を整え女子寮まで送ってくれた。

 ――紳士通り越してヘタレ。
 ヘタレの意味がよくわからないけれども、侍女のエマもそう言ってほめていた。

 おかげでそれ以来、部屋でふたりきりで過ごしていても、侍女は目くじらを立てることもなくなった。

 それどころかなにやら慈愛の目で婚約者を見つめるようになり、そのたびに婚約者が「その目をやめろ」と侍女に突っかかっている。なんとも微笑ましい光景である。

(シモン様……)

 マリアベルはほう、と熱いため息を吐いた。

 婚約者は繊細で美しい顔立ちをしているけれど、太め体型のマリアベルを軽々と抱き上げることが出来るくらいにはたくましい。アレだって、婚約者以外のモノは目にしたこともないけれど、おそらくそうとう立派なほうだと思う。

 恋愛指南書~閨でのいけないお作法(レディース編)は、教室には入ってこれない侍女の目を盗んで、しっかりと学習済みである。

 男子の生理現象や子作りの仕方についてもちゃんと理解した。
 婚約者を見るたびに身体の奥がうずいてしまうのは、マリアベルが本能的に婚約者を欲しているからに違いない。

「あら、ちょっと見て! リリーティアさんよ!」
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