マシュマロ系令嬢は悪役令嬢にはなれない

きみいち

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婚約者と第1の攻略対象者

2.

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 メニューを見ながら婚約者のマリアベルが真剣な顔をしている。
 いつもほわほわした笑顔なので、いつもとちがう婚約者の表情にときめいているのはナイショだ。

「ベル、なにを悩んでいるんだい?」
「今日はお魚にしたいのですが……」
「ふむ?」

 食堂のランチメニューはA~Cセットとあって、Aセットは肉メイン、Bセットは魚メイン、Cセットはパスタセットだ。サイドメニューにはスープ、サラダ、デザートとあって、2つを選択する仕様となっている。
 ちなみに、食後のコーヒー、紅茶、フレッシュジュースは別料金で付く。

 ――とすると、ベルの悩みはデザートか。

 メニュー表を確認すれば、Aセットはバニラアイスクリーム、Bセットはクリームブリュレ、Cセットはパンナコッタである。

「アイスクリームが食べたいのかい?」
「え?」

 婚約者が目を丸くしてシモンを見つめた。

「シモン様、すごい。どうしてわかったのですか?」
「もう夏だからな。では、私がAセットを頼もう。アイスクリームはベルにあげるよ」
「よいのですか? シモン様はCセットをお選びだったのに」
「ミートローフが急に食べたくなったんだ」
「ありがとうございます」

 お礼を言う婚約者にシモンは機嫌よくうなずいた。
 婚約者の笑顔を見るためなら、ランチくらいいくらだって譲歩してやる。

 背後に控えているハンスを呼び、注文を告げる。

「ギュスターヴは決まったか?」

 向かい側に腰かけるカップルに顔を向けると、ぽかーんと口を開けてこちらを見ている。

「おい、ギュスターヴ」

 ひらひらと手のひらを振ってやったら、はっと我に返ったようだ。

「注文は決まったか?」
「あ、オレはAセット、スープとサラダで……フィオは?」
「わ、わたしはBセットで。サイドメニューはサラダとデザートでお願いしますわ」
「ハンス。では、AとBを2セットずつ、スープ1、サラダ4、デザート3だ」
「かしこまりました」

 頭を下げたハンスが厨房に向かうのを見送って、シモンは正面を向いた。

「……まるっきり別人じゃないか。これは苦情もくるわ」
「モンテイエ様の笑顔なんて、初めて見ましたわ」
「明日は雨か」
「いいえ、槍という可能性も……」
「なんにせよヤバイな」
「まったくですわ」

 カップルが顔を突き合わせて、なにやら話込んでいる。
 こちらをちらちら見ているのが気になるが、婚約者がその様子を見て微笑んでいるので、シモンは気にしないことにした。

「わたしが心配することでもなかったようですね」
「元々、仲はよかったんだろ。ギュスターヴがめんどくさがりで、カッセル嬢が物わかりのいい振りをしていただけだ」
「おふたりにはおふたりの事情があるのですね」

 婚約者がほっと息を吐いた。

 ――うーん、やめておくべきだったか。

 婚約者が他人のために一喜一憂するのは、やはりおもしろくなかった。

(それからギュスターブ! ベルの胸ばっかり見てるの、わかってるからな!!)

「……エマさん」

 カトラリーを並べている婚約者の侍女に声をかけると、心得たように婚約者の首にナプキンを巻いた。これで胸元のガードは出来た。

 まったくこれだから、男との食事は嫌だったのだ。

「あっ、こんなところにいたんだー!!」

 にぎやかだった食堂が、一瞬で静まり返った。
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