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アラフィフΩは檻の中
1.
あまりのショックに視界がぼやける。
ついさっき精密検査の結果を医師に告げられたばかりである。伊織の命は、このままだと危ないらしい。なぜ、こうなるまで放っておいたのか? そう医師に問われた。
そんなの、決まってる。
――部屋から一歩も出たくなかったからだよ!!
佐倉伊織は男性体のΩである。
16の年に発情期を迎えて以来30年、αにつながれる運命なんてまっぴらだ! そう思って勝手気ままに暮らしてきた。
だからきっとこの世界の神様に、罰を与えられたのだと思う。
定期的にあった発情期が、不定期になり、とうとうなくなった。
最初は年を取ったせいかと気楽にかまえていたけれど、Ωは死ぬ直前まで子を宿せるという。ええと、つまりなんだ? 自分もしかして病気?
さすがに不安になった伊織が、生涯唯一の友になるであろう相手に相談をすると、今すぐ病院へ行け! と尻を叩かれた。
彼に紹介されたのは、紹介状がないと診察を受けられない国内有数の医療機関だ。
さすがは全世界にファンがいらっしゃるベルトセラー作家。そのうえ、ご実家は英国の名門貴族。さらに言えば、αの男性体という。
無駄に整った顔立ち。すらりとした長身痩躯。知力、体力、財力のすべてを兼ね備えているのが、彼――リチャード=ブラフォードという男であった。いわゆる人生の勝ち組である。
なぜそんなαの最高峰に連ねる彼と、友人関係が結べたのかというと、伊織が翻訳家だったからである。彼の著書の日本語訳は、伊織にぜんぶ任されている。ついでに言えば、日々のスケジュール管理もだ。
ほぼひきこもりの伊織のいったいどこを気に入ったのか? とうかがえば『ピンと来た』それだけ。おかしいな。男には第六感はないはずだれども――?
ジーンズの尻ポケットに入れていた携帯電話がブブブとふるえた。伊織の電話番号を知っているのは彼しかいない。
まだ病院内なので、かけ直してもらおうと口を開く前に、お手本のようなクイーンズ・イングリッシュが聞こえてくる。相変わらず、伊織の胸をふるわせる美声だ。
『――イオリ? 今、どこにいるんだ?』
「まだ病院。これから会計」
『そうか。じゃあ、会計が済んだらまっすぐ家に帰って、検査結果の報告をすること。いいな?』
伊織の返事を待たずに通話が切れた。なんつー俺様。
まあ、それもしょうがないか。日本とは8時間の時差のあるイギリスは、明け方の4時だ。まだ眠い時間帯だろうに、朝早くわざわざ心配して電話をかけてくれたのだろうと思う。なんつー律儀な俺様。
月曜日ということもあって、昼近くのロビーは人でいっぱいだった。会計を待つ間、伊織はロビーの隅っこに空いていた席を見つけ腰を下ろす。
人のいるところは昔から苦手だ。ひと目でΩだとわかる伊織は、いつも注目の的だった。じろじろと物珍しげな様子の視線が伊織に突き刺さる。
――ぬああ、居心地ワリィ!!
実は伊織の容姿が人よりも優れているからだなんて、本人は思いもしない。
肩まで伸びた黒い髪や透き通るように白い肌、外界との接触を極力控えた生活をしているので、どこか世間に不慣れな様子が、どこぞの深窓のご令嬢のような雰囲気をかもし出していることも原因のひとつだった。
ついさっき精密検査の結果を医師に告げられたばかりである。伊織の命は、このままだと危ないらしい。なぜ、こうなるまで放っておいたのか? そう医師に問われた。
そんなの、決まってる。
――部屋から一歩も出たくなかったからだよ!!
佐倉伊織は男性体のΩである。
16の年に発情期を迎えて以来30年、αにつながれる運命なんてまっぴらだ! そう思って勝手気ままに暮らしてきた。
だからきっとこの世界の神様に、罰を与えられたのだと思う。
定期的にあった発情期が、不定期になり、とうとうなくなった。
最初は年を取ったせいかと気楽にかまえていたけれど、Ωは死ぬ直前まで子を宿せるという。ええと、つまりなんだ? 自分もしかして病気?
さすがに不安になった伊織が、生涯唯一の友になるであろう相手に相談をすると、今すぐ病院へ行け! と尻を叩かれた。
彼に紹介されたのは、紹介状がないと診察を受けられない国内有数の医療機関だ。
さすがは全世界にファンがいらっしゃるベルトセラー作家。そのうえ、ご実家は英国の名門貴族。さらに言えば、αの男性体という。
無駄に整った顔立ち。すらりとした長身痩躯。知力、体力、財力のすべてを兼ね備えているのが、彼――リチャード=ブラフォードという男であった。いわゆる人生の勝ち組である。
なぜそんなαの最高峰に連ねる彼と、友人関係が結べたのかというと、伊織が翻訳家だったからである。彼の著書の日本語訳は、伊織にぜんぶ任されている。ついでに言えば、日々のスケジュール管理もだ。
ほぼひきこもりの伊織のいったいどこを気に入ったのか? とうかがえば『ピンと来た』それだけ。おかしいな。男には第六感はないはずだれども――?
ジーンズの尻ポケットに入れていた携帯電話がブブブとふるえた。伊織の電話番号を知っているのは彼しかいない。
まだ病院内なので、かけ直してもらおうと口を開く前に、お手本のようなクイーンズ・イングリッシュが聞こえてくる。相変わらず、伊織の胸をふるわせる美声だ。
『――イオリ? 今、どこにいるんだ?』
「まだ病院。これから会計」
『そうか。じゃあ、会計が済んだらまっすぐ家に帰って、検査結果の報告をすること。いいな?』
伊織の返事を待たずに通話が切れた。なんつー俺様。
まあ、それもしょうがないか。日本とは8時間の時差のあるイギリスは、明け方の4時だ。まだ眠い時間帯だろうに、朝早くわざわざ心配して電話をかけてくれたのだろうと思う。なんつー律儀な俺様。
月曜日ということもあって、昼近くのロビーは人でいっぱいだった。会計を待つ間、伊織はロビーの隅っこに空いていた席を見つけ腰を下ろす。
人のいるところは昔から苦手だ。ひと目でΩだとわかる伊織は、いつも注目の的だった。じろじろと物珍しげな様子の視線が伊織に突き刺さる。
――ぬああ、居心地ワリィ!!
実は伊織の容姿が人よりも優れているからだなんて、本人は思いもしない。
肩まで伸びた黒い髪や透き通るように白い肌、外界との接触を極力控えた生活をしているので、どこか世間に不慣れな様子が、どこぞの深窓のご令嬢のような雰囲気をかもし出していることも原因のひとつだった。
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