アラフィフΩは檻の中

きみいち

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アラフィフΩは檻の中

4.

 コンシェルジュから連絡を受けた。

『佐倉様。ブラフォード様がお見えです』
「うわあ、マジでかー……」

 マジだった。玄関を開けたら、大きなバラの花束を抱えたご本人様が立っていた。

 ――生のリチャード=ブラフォード!! 

 この8年、会話でしか親交のなかった友人が目の前にいる。

 眼前に花束を突き出された。慌てて受け取ってはみたものの、困惑してしまう。ひとり住まいの男の家に、花瓶なんて存在するわけがない。というか、なんでバラ?

 しかし、なんだかガン見されている気がする。部屋中の掃除をしたあとはシャワーも浴びたし、出来るかぎり身なりを整えた。どこにもおかしいところはないはずだけれど……?

 そろりと、頭の半分ほど背が高い男をうかがうと、圧倒的な存在感を放つ友の秀麗な眉がかすかに寄せられた。

「おい、ドアスコープで姿を確認するくらいしろ」
「大丈夫だろ。ここに越してから、たずねて来たのはリックが初めてだし」

 そもそも、伊織の住む部屋は最上階だ。用事のある人間しか登ってこないはず。そういう部屋に住まわせているのは他でもない。オマエじゃないか。

「なんで来たんだ?」
「自家用ジェットぐらい、だれでも持ってるだろう?」
「だれでも持ってねえよ……って、そっちの意味じゃないんだけど」

 いつも壁に貼った動かない彼としか向き合ったことがないので、そわそわきょどきょど挙動不審気味になった。視線はどこに向ければいいんだ? あっ、なんだかお高そうなネクタイですねえ! ブランドとか知らんけども……。

「おい、中に入れてくれ」
「あ、悪い」

 伊織は慌てて、友を部屋に招き入れる。客用スリッパなどはなかったので、伊織の履いているスリッパを貸そうとしたら、不要だと断られた。

 そういえば、織田信長は部下のふところで温めてもらった草履を履いたんだよ、と世間話のように言うと、俺のまえでほかの男の名前を出すな、と叱られた。なんなの、この俺様。世間話も許さないの?

 靴下で玄関を上がったリチャードがまっすぐ向かったのはベッドルームだった。

 伊織は思わず、ぎゃあ、と悲鳴をあげた。

「リック! そっちはベッドルームだ!!」
「問題ない」
「いや、あるだろ!!」

 友がネクタイをゆるめながら、不機嫌そうに伊織を振り返った。

 コイツ、眉をしかめる顔もイケメンだな。アルカイックスマイルしか知らなかったけれど、友は思いのほか表情豊かな男だった。

「おまえがαを紹介しろと言ったんじゃないか」
「えっ、紹介してくれんの? だれ?」
「俺だ」
「おまえなのかよ!!」

 伊織は早起きして必死で磨き上げた廊下にひざを付くと、床をばんっと叩いた。死のうと決めたのに、友人が相手なら生きるしかない。

「俺じゃあ、不服か? だが悪いな。替えはなしだ」
「か、替えなんて……」

 ――リチャードの代わりなんて、だれにもなれない。
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