【完結】涅槃の霧、因果の池

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第二十五話 白羅(三)

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 れんの胸に思い切り噛み跡をつけた直後。さんざん達して目を白黒させていた筈の漣が、据わった目で白羅はくらめつけた。

「どうした?」
「……しゃぶらせて」

 ぷうと頬を膨らませた漣が、上目遣いで白羅を見上げている。

「おねがい」

 いつの間にこんな媚態を覚えたんだよ……と、白羅は少しムカついた。もしかしなくても、顔に出ていただろう。

 それでも。

「……ちゃんと咥えろよ。歯を立てたら殺すぞ」

 考えてみたら、まだしゃぶらせてなかった。

「いっぺんだって、歯を立てたことなかったろ」

 くすくす笑いながら、漣は白羅の魔羅をすぐに咥えこんだ。



 漣の口淫を受けながら、白羅は悶えた。クソ、クソ、くっそおおっ!!

「……くそ、漣、てめえ、なんだ、よぉ……っ」

 なんでこんなに上手くなってんだよ!

 竿の根元から亀頭の先まで、漣の熱い舌がねっとりと舐め回す。ときおり頭を動かすせいで、裏筋から雁の裏にかけてもチロチロ舌先が触れてきて、快くもゾクリとする刺激が白羅を苛む。

「ウ……ウウッ」

 久しぶりだから仕方ないと言い訳したいところだが、昔はここまでしつこくなかった。もっと愚直にしゃぶってたから、こっちも喉奥を突いて遊ぶくらいの余裕があった。それなのに!

「んっ……んんんっ……ふう、やっぱり、おっきいね、白羅のは……」
「……お、お前…………く、うっ!」

 余裕があるのは、今や漣の方だった。

 しかも白羅がイキそうになると見るや魔羅を口から出し、今度は玉をしゃぶってくる。男の一番弱いところを、ペロペロと飴のように舐められたかと思いきや、キュウッと吸われて軽く歯を立てられて。

「……ッ!」

 ビクッと身体が動いてしまい、白羅は思わず全身に力を込めた。

「ふふっ……おいしい」

 股間から漣の含み笑いが聞こえてくる。畜生! ちくしょおおっ! お前、ぜったい楽しんでるだろ!!

「まだ、イッちゃだめだよ。白羅」

 へへっと悪戯っ子のように笑いながら、漣の口は再びパクウッと竿を根元から咥えこみ、今度は容赦なく吸ってきた。

「……ッ、ウッ、ハアッ……この、や、ろう……」

 猛烈な吸引で漣の頬はペコッと凹み、時々ちろりと白羅を上目遣いで見上げてくる。その瞳には妖艶な炎が宿り、口の中では舌の動きが激しさを増して男を煽る。

 快感が強すぎて苦しくて、漣の動きを止めさせようと頭上に手が伸びた。

 だが、まだ続けてほしい気もする。

 白羅の心で葛藤が続き、しばらくすると、もどかしそうに腕が床へ落ちた。

「はぁ、あ、おいしぃ……。ずっと……ほしかったん、だからぁっ……」

 ああ、漣。お前、いつの間に淫魔になっちまったんだよ!

 白羅は心の内で絶叫し、白旗を上げた。いやもう結構耐えた。かなり持ちこたえたと思う。しかし、いつの間に我慢比べになっていたんだ?

「く、そっ……れんっ! 漣めっ! フッ、ウッ……、ハッ、アァッ!!」

 せめて最後は漣の喉奥に自分が突っ込んでむせさせてやれ……という白羅の願いは叶わなかった。



 死んだ後にここまで凄まじい尺八をされるとは思わなかった。肉体が違うせいか、人斬りとして生きていた頃とは異なる疲労に襲われ、白羅は脱力した。

「お前なあ……」

 くすりと笑った漣は、素知らぬ顔で白羅の亀頭を吸い上げ、掃除するかのように舌を動かしている。くそ、慣れてやがるな、こん畜生。

「……上手くなりやがって……」

 何本吸ったんだよ、と問い質したいくらい絶妙だった。物心ついたときから性行為に明け暮れていた白羅ですら脱帽する舌技の数々は、いったい誰に仕込まれたのか。

 ああ、クソ、腹立たしい。

「白羅がいなくなったからだもん」

 ブツブツ呟いていると、不貞腐れたような声が返ってきた。頭を上げれば、まだ固さの残る魔羅を名残惜しそうに舐める漣。

「ったく……お前は……」

 これは、きっちり言っておかねばなるまい。

「何?」

 白羅は漣の腕をつかんで引き寄せた。互いの鼻先がかすめるほどに顔を寄せる。

「もう、男を喰うな」

 オレで最後にしとけ。

「うん」

 なんだよ、嬉しそうに笑いやがって。

 どちらともなしに、唇を重ねた。阿吽の呼吸で舌を絡めて吸いあって、顔の向きを変えて息をして、また口を吸って唾液を流し込んで……。

 こんなに甘く蕩ける口吸いなんて初めてだ。

 ……………………。

 ………………。

 ちくしょう。

 ちくしょう。

 ちくしょう。

「……オレよりいい男だったら許す」

 言いたくないけど、仕方ない。だってオレは死人だから。これから先、漣と共に生きることはできない。

「……そんなのいないよ」

 軽く笑い飛ばしながら、漣はじっと見つめてくる。

 なんだよ。可愛いこと言いやがって。

 …………可愛い?! なんだそれ?

「いるわけないじゃん……白羅の馬鹿」

 漣の黒く潤んだ瞳が強い光を放ったと思いきや、白羅は唇を塞がれた。





 天井から橙色の夕日が斜光を落とす中、白羅は漣との甘い口吸いを堪能した後、おもむろに半身を上げた。

「なあ、漣」
「……何?」
「もっとお前を見せてくれ」

 ひゃっ、と小さな悲鳴を上げ、漣が膝立ちになる。

 滑らかな白い肌、細い肩に薄い腹、すらりとした手足に、男にしては丸いがよく引き締まった尻。胸に散らばる噛み跡は、オレが描いた蝶の絵だ。

「キレイだな」
「!!」

 ああ、綺麗だな。漣。
 何びっくりしてんだよ。

 漣の背中にも蝶の絵を描こうとしたら、欲情しやがった。まったく、この好きモンが。

「あっ……ん、いい……」

 おい。乳首をちょっと弄ったくらいでその反応かよ。

 ……………………。

 ………………。

 ああ、くそ、なんでオレは死んでるんだ。
 ちくしょう……。
 漣め……。

「お前見てると勃っちまうんだよ」

 もう少し引き伸ばせるかと思ってたんだが、やっぱ無理か。我慢できねえ。

 仰向けに転がした漣の尻孔を解して、ゆっくり挿れる。

「ああ……ああんん…………そこぉっ……」

 うっとりした喘ぎ声、蕩ける瞳、ビクビクする腰。
 そして、柔らかくて熱くて濡れまくっている腹ん中と、キュウキュウ締め付ける穴。

「あー……、漣のナカ最高」
「っふっ、白羅のだってぇっ……はっ、イイっ、すごく……いいんだからぁ」

 きゅっと目を閉じた漣の頬が上気して、半開きした口元から荒い息が零れるのがやたらと色っぽい。

「相変わらずよがる時うるせえな」

 他の男にその声を聞かせたくねえなあ。





 なんとなく、そろそろだなと分かる。

 夕焼けの色は、終わりの色。
 光が消えたら、オレも消える。

 だから、その前に釘を刺しておかないと。

「漣」
「あうっ!」

 嵌めたまま、漣を抱き寄せて座り直した。

 まだ息が上がってやがる。

 悪いな。待ってやれなくて。
 でも、これだけは言っておかねえと。

「勝手にこっち来たら殺すからな」
「……!」

 あれ、漣が変な顔してる。

 ああ、泣きそうなのか。

「ば……ばか、白羅の馬鹿野郎……」

 かわいいな、漣。

 ……そうか、これが可愛いってことか。

 ようやく分かった。

 だが、しかし……。

「……悪ぃ。もう動けねえ」

 魔羅はおっ勃っているが、さすがに肉体の限界が来た。まあ、もともとオレの身体じゃねえしな。

「おれも、もう無理」

 胸元にコツンと頭を預けた漣も、ほおっと深く息を吐きながら呟いた。

「まあ、あれだけヤレばな」
「こんなの……初めてだよ」
「そうじゃねえと困る」

 他のヤツとはもっとヤッてたよ、なんて言われたくねえ。

「ふふっ」

 漣が笑った。くそ、可愛いな。もっと前に気づけば良かったぜ。

 ほら、漣、お前の唇を吸わせろよ。
 あと少しだけでいいからさ。

(きもちいい)
(オレもだ)

 こんな風に心が通じ合うのは、漣、お前だけだ。
 









 すげえな。
 上と下でまぐわってやがる。

 それに、動かないのにイキそうだ。
 こんなの初めてだぜ。

 きっと相手がお前だからだろうな。

 いっぱい口吸いして、最後まで嵌めてようぜ。










 ……………………。

 ………………。

 ちっ。暗くなってきやがった。

 まったく、秋は夜が来るのが早えな。










「……れん…………」

 漣。漣。お前に会えて良かった。

「……漣……漣……」

 もう一度、お前の名を呼びたかった。

「ありがとな、漣」

 外道のオレを求めてくれて。
 オレを人にしてくれて。

「白羅……」

 おい、漣。
 泣くなよ。笑ってろって。

 そうそう、それでいい。
 ずっと気持ち良さそうに笑ってろ。



——ずっと、いっしょにいて



 漣の心が叫んでいる。



 オレもだ。



 だけど。










 ……ごめんな。














 最後に漣の中で精を吐き出した後、気付いたら白羅は霧の中で寝転がっていた。



——白羅……。



——はくら……。



 霧の世界に漣の涙声がさざなみのように広がり、やがて静かになる。

「漣……」

 霧の地面に大の字で寝転んでいた白羅は、ポツリと呟き目を閉じた。瞼の裏に浮かぶのは、和合で蕩けた笑顔の漣。

 ゆっくりと目を開け、静かに微笑む。

「……まあ、良かったよな」

 オレも、お前も。

 最後に会えて良かった。

 最後にヤれて良かった。



 立ち込めていた霧が、少しづつ晴れてきた。

「…………?」

 むくりと半身を上げた白羅の前には、まっすぐに伸びる一本の道。

「ちっ、いいところで」

 小声で詰りつつ、白羅は立ち上がった。

 再び目を閉じて深く息を吸い、そっと瞼を開いて両手を眺める。



 心残りがあったのだ。
 己の肉体では叶わなかったことだ。

 いつも激しく突いていた。
 いつも執拗に噛んでいた。
 たまに縛って面白がった。
 それでも漣は歓んでいたけど、もう少し違うことをしたかった。

 だから舐めた。
 舐める以外にやりようが無いのかと、心のどこかで苛立っていた。

 漣に優しく触れたかったのだと、ようやく気づけた。
 この感情は、オレのものではない。
 憑依した身体の記憶だ。

 だけど、正直、助かった。
 オレは人に優しくするのがどういうことか分からなかったから。



「……礼を言っておくぜ、クソ野郎」

 顔を上げ、灰色の空に向かって声を放つ。

「だけどなあ、漣はお前のものにはならねえよ!」

 ハハッと笑いながら、霧の中を歩き出す白羅の後ろでコポコポと水が湧き出す。

 丸く広がった水面が鎮まり、落ち着いた顔つきの漣が四条大橋に佇む姿が映し出された後、池は音もなく消えた。





本編 了
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