ふたりの灯台ラブストーリー

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第一話 灯台でうっかり死にかかっている人を助ける話

§1 - 午前十時

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 二月最終週の火曜日。遮光カーテンの隙間から光が漏れ、セミダブルベッドの上に降り注ぐ。光の帯が枕元に差し掛かった時、羽毛布団にくるまって寝息を立てていた青年がビクリと動いた。

 小さく欠伸をした青年は、んんっ、と言いながら布団の中で手足を動かした後、しょぼしょぼした目をこすり、枕元にある眼鏡をかけた。次にサイドテーブルへ左手を伸ばし、充電が終わったスマホを手に取るなり、

「げっ!? もう十時? ウソだろ?」

 寝過ごした!! と慌てたものの、ほどなく呆けた表情でスマホを元の場所へ戻した。

「ああそっか……今日は代休だった……」

 しばし天井を見つめた後、長い溜息をつく。今日と明日は休日だった。しかも二十日間に及んだ連続勤務明けの貴重な休みである。

(どうするかな? 部屋汚ねーし、洗濯物も溜まってるし……でもなあ、家事はやりたくないなあ)

 ぼんやりした頭のままベッドから起き上がり、遮光カーテンを開ける。いかにも南関東の冬らしい、鮮やかな青空が広がっていた。

「シャワーして、着替えてから、車を出すか……」

 自分へ言い聞かせるように独り言を呟き、眼鏡を外して再びサイドテーブルへ置く。溜息とともにゆっくりと立ち上がるなり、くしゃくしゃになったスーツを脱ぎ、長い手足を持て余すようにブラブラさせつつ浴室へ向かった。昨夜はスーツを着たまま寝たらしい。


■  ■  ■


 熱めに設定したシャワーを浴びながら、曇った鏡を手でこすり、顔を近づける。祖父譲りのつり眉に、奥二重の切れ長タレ目。父親似の高く通った鼻筋と母親似の薄い上唇。いちおうイケメンと呼ばれる範疇らしく、高校時代はミスターなんちゃらに選ばれたこともあった。

 しかし、二十六歳の現在ではすっかり口角も下がり、生気のない表情と土気色の肌がデフォルトの、疲れきった社畜システムエンジニアである。

(目の下のクマ、ちょっとはマシになったか?)

 ぷにぷにと頬骨の上をマッサージしながら、白目の充血が取れているか確認する。ああよかった。大丈夫っぽい。

 ——兵頭ひょうとうくん、あれどうなった?
 ——おい兵頭、エラー出てるぞ!
 ——やべえ納期に間に合わねー!

 昨日まで社内で交わされていた阿鼻叫喚が脳内で蘇る。この二十日間は特に酷かった。終電ギリギリまで残業してクソみたいなシステム開発を続けていたのだ。さすがに修羅場の後半にさしかかると、夢の中でスクリプトを考え、できたと思ったら目覚めてがっくりする……という日々が続き、心身ともに疲弊していた。

(……みんな、昨日はゆっくり眠れただろうか……)

 シャンプーを手に取り、頭をわしわし洗う。指の間に大量の抜け毛が絡みついていた。

(ハゲる家系ではなかった筈だが……)

 今日はストレスを発散させる日にしようと心に決め、シャワーヘッドを手に取る。後頭部にお湯を当てて流している最中、ごそっと毛が抜けたのに気づいて肩を落とした。
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