ふたりの灯台ラブストーリー

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第一話 灯台でうっかり死にかかっている人を助ける話

§2 - 正午

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 南へ向かう国道を、オアシスブルーのスバル・クロストレックが進む。一ヶ月半ぶりにエンジンをかけたのでヒヤヒヤしていたが、バッテリーは無事で安堵した。

 ——いい睦月むつき、絶対に事故らないでね! それから、バッテリーが上がらないように、こまめに長距離ドライブして。あと、月に二回は洗車すること!

 義兄の海外赴任が決まったため、購入したばかりの愛車を泣く泣く弟へ譲る羽目に陥った姉の説教もといアドバイスを思い出す。

(しかし姉さん。社畜のオレは月に二回も洗車できません)

 そもそも、月に一回運転できれば良い方なのだ。とはいえ、女だてらに辣腕カーディーラーとしてブイブイ言わせていた姉の愛車であるからに、弟としてはせめて長距離ドライブの約束だけは守らねばなるまい。

「それにしても、いいクルマだよなあ」

 思わず独り言が出てしまった。洋楽の超低音ベースラインが車内にべんべんと響き渡っているからだ。専用スピーカーを積んでいるだけあり音質は格別で、通勤時にイヤホンで聴いているのとは大違い。エンジン音も軽やかで、あまり力を入れずにアクセルを踏める。ブレーキの効きもなめらかだし、見た目も中身も最高にかっこいい車だ。ああ、これでデートなんてした日には……。

 ——カーセックスしたら殺す!!!

 車のキーを受け取った時、目が据わった姉から言われた台詞を思い出す。

(安心しろ姉さん。オレにそんな相手は存在しない……下手したら未来永劫……)

 そもそもゲイですから……とつぶやいた後、助手席へちらりと視線を送り、大きな溜息をつく。コミュ障とネガティブ思考の悪循環もあり、恋人いない歴イコール年齢のまま二十六歳になってしまった。しかもこれだけ社畜だと、現在の会社にいる限り恋人はできないだろう。出会い系でも使えば別かもしれないが……。

 ——うわ、何だよサイアク。
 ——おまえってホント顔しか取り柄のない男だな。

 突然ぶわっとフラッシュバックが始まって、思わずアクセルを踏みこみそうになった。恋人どころかトラウマになった出来事が脳裏をよぎる。そういえば、あれから五、六年は経ったんだよな。もう顔もろくに思い出せない相手との、悪夢の出来事。

「考えない!! かーんーがーえーなーいーっつ!!」

 ハンドルを強く握って絶叫する。車の中で良かった。ふとカーナビへ視線を送れば、交差点を曲がると海岸沿いの道に出るという表示が見えた。すると、新鮮な魚を食わせてくれる店があるかもしれない……軽い気持ちでウィンカーを出し、車線変更した。その先に何が待ち受けているか分からないまま。
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