ふたりの灯台ラブストーリー

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第二話 灯台でうっかり死にかかったら助けてもらった話

§4 - 午前十一時(そして三日前の回想)

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「空が広い……」

 兄に頼まれたパーティーグッズ、おもちゃの手錠を駅裏のドンキで買った後、いかにも南関東らしい冬の青空を見上げて呟いた。ああ、仙台とは何もかも全てが違う。ピリリと張り詰めた冷気も無ければ、行き交う人の群れも無く、道路も無駄に広い。

(仙台は城下町だったから、少し外れると狭い通りがあって、迷路みたいで面白かったな)

 二度と訪れることは無いのだから、最後にもう少しあちこち見て回れば良かったと後悔する。

「学校……行きたくないな……行かなきゃダメかな……」

 溜息をつきながら、駅に向かって歩き始めた。冬だというのに日差しが強く、歩くうちに暑くなり、うっすら汗をかいてきた。そろそろ暖かくなる頃かと思い、厚手のコットン製パーカーとデニムのカーゴパンツにしたのは正解だった。あのマウンテンパーカーはもっと寒いところじゃないと着れないよな……そう、仙台みたいな、冬が寒い地域。


■  ■  ■


 受験会場と宿泊先、それに駅の往復だけとはいえ、二泊三日の仙台滞在は心に強い印象を残した。

 まず、東京発の東北新幹線やまびこを降りた後、キョロキョロしながら人の流れに乗ってしまい、気づいたら仙台駅の東口へ出ていた。

(すげえ。でかくて新しいビルがいっぱいある。まっすぐ進めばいいのかな?)

 しかし、しばらく歩くうちに、ほぼ全ての建物が新しいことに気付き、本当にここは城下町かと不安になった。そこで通りすがりの中年女性に尋ねたところ、

「あの、すみません! TH大学ってこのまま進めば良いんでしょうか?」
「違うわよ。こっちは東口だから、反対方向ね。駅まで戻って西口から地下鉄に乗るといいわ。もしかして、あなた受験生? 頑張ってね」
「教えて下さってありがとうございました! 頑張ります!!」

 慌てて駅へ戻れば、西口に広がるペデストリアンデッキにてTH大学の応援団が待ち構えていた。

 大学のスクールカラーでもある紫の裃を着た団長、紅白の衣装を身にまとったチアリーダー、盛大なブラスバンドが揃い踏み、駅から出てきた受験生たちにエールを送っている。問われるがままに名前を告げると、応援団員の前に並ぶよう促され、

「がんばれがんばれ皐月! がんばれがんばれ皐月! ウォーッ!!」

 目の前で野太い声で応援された。ぐわっと身体が熱くなり、感激で涙が浮かぶ。

「ありがとうございます! おれ、明日と明後日、力を出し切ります!!」

 気づいたらそう叫んでお辞儀していた。頑張れよーという励ましの声を受けながら、そばに置いてあったメッセージボードに「絶対合格!」と書き込むと、隣でペンを持つ女の子が話しかけてきた。

「君も受けるんだよね? お互い頑張ろうね!!」
「うん!!」

 思い切りうなずいて、笑顔で手を振り別れた直後。興奮のあまりアドレナリン全開で叫びだしそうになった。

(あ、ヤバいヤバい。落ち着かなきゃ)

 こういう時の自分は何をしでかすか分からない。近くのベンチに座って深呼吸する。次にペットボトルのお茶を飲んで気を静め、スマホで宿泊先のホテルの場所を確認した。思ったより近い。チェックインするのはもう少し後でも良さそうだ……。ちょうどその時、電話が鳴った。母からだ。

『もしもし、皐月? ちゃんと仙台に着いた?』
「うん、いま仙台駅前。あのね母ちゃん、駅にTH大の応援団の人たちがいて、受験がんばれーって、おれの名前呼んでもらって応援されたんだ!」
『へえ、すごいじゃない。まあ、あんまり気負わずにね。これからホテルに行くんでしょ?』
「ううん。まだ時間に余裕あるから、明日迷わないように会場の下見に行くつもり」
『ああ、そうだね。あんたはその方がいいね。交通事故に遭わないように気をつけるんだよ』
「分かった。父ちゃんとゴン兄にも大丈夫だって伝えておいて。じゃあね!」

 通話を切って検索したところ、TH大までは地下鉄東西線で行くか、仙台駅の真ん中から西へ向かって伸びる太い道路、青葉通をひたすら進めば着くと判明した。歩くのは得意なので徒歩を選び、冬枯れのケヤキ並木が続く道をてくてく進む。

 車道は車やバスがバンバン通り、歩道の脇に立ち並ぶのは沢山のビル、マンション、銀行、飲食店、デパート。道路やビルの間には細い道路が通っており、立派なアーケード街にも出くわした。

(本で読んだのと、実際に歩くのとでは大違いだ♪)

 迷子にならないよう身構えながらも、眩しい西日と高層ビルの影が鮮やかなコントラストを生む中をさまよい歩くのは、ちょっとした冒険だった。足を棒にしつつ西へ西へと歩き続けて約三十分。ようやく広瀬川へ辿り着いた。

(少し歩いただけで、こんな大きくてキレイな川に出るなんて!)

 たしか秋には河川敷で芋煮会ってのをやるんだよな、どんなものなんだろう……と胸をワクワクさせながら、大橋を渡る。欄干の途中で立ち止まって川の流れを覗きこんだら、水量は少ないものの、魚が泳いでいるのが見えた。

(あれは鮭かな? 小さいのは鮎? なんかすごいな。繁華街の近くなのに自然豊かで)

 なんだか嬉しくなり、ニマニマ笑いながら橋を渡りきった。道なりに歩み、小高い山を登る。山上にそびえ立つ仙台城の石垣に目を見張りつつ歩むうち、受験会場への案内板を設営している人が見えた。すぐ目の前にはたくさんの建物。TH大のキャンパスだろう。

「すげえ。これがTH大……本当に二の丸跡にあるんだ」

 すると、ここに伊達政宗がいたのか。時を超えて、憧れの偉人と同じ場所におれは立っているのか。

 思い起こせば、伊達政宗のファンになったのはちょうど三年前だった。春休みに従姉妹から借りたゲームがきっかけで、ドラマ、小説という順番でのめり込み、歴史という世界の扉を開いたのである。

 高校に入学してまもなく、TH大学が仙台城跡にあると聞いてからは、お前には無理だという周囲の言葉をガン無視して猛勉強し、ようやく合格ラインに滑り込んだ。

「大賀先生、真里ちゃん先生、クラスのみんな……おれ、頑張るよ!!」

 過集中になりやすく、時々意図せぬ行動に出てしまうという自分の特性に合わせて指導してくれた先生方や、最初は冷ややかに眺めていたのに、だんだん協力してくれるようになった同級生たちの顔が思い浮かぶ。感激のあまり、ほとんど投稿していないインスタに会場の写真をアップして、絶対合格してやる! と書き込んだ。

 帰りは地下鉄東西線で仙台駅まで戻り、再びスマホを片手に歩き、ビジネスホテルへチェックイン。伊達政宗のようにおれはなる!! と息巻いて夕食の弁当を食べ、シャワーをして歯を磨いた後。ベッドの上に参考書を並べて勉強しようとしたものの、歩き疲れたせいで、いつの間にか爆睡していた。

 前期日程の初日がうまくいったのは、適度な運動が良質な睡眠をもたらしたせいかもしれない。
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