ふたりの灯台ラブストーリー

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第二話 灯台でうっかり死にかかったら助けてもらった話

§3 - 二月最終週の火曜日、午前七時。

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 磯上家の朝は早い。

 午前五時に両親が起床、五時半ごろ子供たちが起床。起きた順にそれぞれのペースで朝食を取り、六時半から職場や学校へ向かう。最後に家を出るのは母親だが、カーラジオでニュースを聞きながら出勤するため、六時五十分には車のエンジンをかけている。

(だから七時まで寝たフリしてれば顔を合わせないと思ったのに……)

 眠れないまま夜が明け、そろそろ平気だろうと思って二階の自室から階段を降りたところ、なぜか台所に母親がいた。ちらりと居間へ視線を向ければ、こたつ布団から飛び出した金髪モヒカンの頭が見える。兄だ。まだ家にいたのか。やばい、気まずいと焦る中、母親が口火を切った。

「おはよう皐月。朝ごはん用意したから食べてね。昨日の夕飯のおかずは冷蔵庫にあるから」
「う、うん」
「あと、お母さん達もう出るけど、これから学校に行くんでしょ? ちゃんと先生に試験の報告するんだよ。お世話になったんだから、しっかりお礼も言ってね」

 早口でまくしたてた後、母はダウンジャケットを羽織りながら玄関へ向かった。次に、居間のテレビで朝のニュース番組を見ていた兄がこたつ布団からのっそりと出て、欠伸をしながら近づいて来る。

「あんなあ皐月、話がある」
「な、何、ゴン兄」

 これは間違いなく昨日寝たフリしたこと追求される! 一瞬、身体がビクッとこわばった。しかし兄は予想外に呑気な声で、

「帰りにドンキでおもちゃの手錠買ってきて」
「……わかった」

 じゃあこれ小遣いな、と千円札を渡される。その時、ガレージから母の怒り声が響いた。

「ちょっと権三ごんぞう、早く車動かしてよ! お母さんが出られないじゃない!!」
「はいはーい。じゃあな皐月、玄関の鍵かけるの忘れんなよ」

 グレーのツナギに身を包んだ兄が、手をひらひらさせて立ち去ってまもなく。車二台のエンジン音が響き、あっという間に静かになった。

 ガランとした居間では、「関東地方は午後から荒れた天気になる恐れが……」と気象予報士の明るい声が流れている。リモコンを手に取り、テレビを消してへたり込んだ。ああやっぱり見透かされていた。心配させてしまった。

「ごめんなさい……おれ、ダメだった……」

 ポロポロと涙がこぼれ出る。うえええんと声に出して泣いてしまった。


■  ■  ■


 ひとしきり泣いた後、洗面所で顔を洗って鏡を見る。眉毛がボサボサに伸びていた。そりゃそうだよな、半月くらい手入れしてなかったし。家を出る前に整えておこうと思いつつ、そっと頬を撫でる。念の為、ヒゲも剃ったほうが良さそうだ。

(それにしても、酷い顔してるな、おれ)

 自分の容貌について意識したことはないが、同級生女子によるイケメンリストでは真ん中より上の方らしい。しかし今朝は、夜通し泣いたせいでひどく不細工だった。まぶたが腫れているため、二重が一重に変貌している。鷲鼻の先は鼻をかみすぎて赤くなっており、前歯で噛んだ下唇は荒れてガサガサだ。

(へへっ。本当に、だっせえな、おれ)

 溜息をつきながら、シェーバーのスイッチを入れて頬に当てる。ヴイーンという鈍い音が響くのと同時に、グウと腹が鳴った。どれだけ絶望していても朝は来るし、腹も減る。

「飯食ったら、学校に行かなきゃな……」

 ささっとヒゲを剃った後、兄と兼用している化粧水を手に取り、ペチペチと音を立てて顔にしみこませる。ふと、パッケージに書かれたキャッチコピーが目に入った。

「Every day is a new day. 毎日が新しい日、かあ……」

 高校三年間の努力が無に帰した翌日を新しい日といえるのだろうか、とまた涙が滲んできた。
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