ふたりの灯台ラブストーリー

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第二話 灯台でうっかり死にかかったら助けてもらった話

§2 - 午後九時半

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 運良く東京駅から最寄りのK駅まで乗換不要の快速列車に乗れたので、予想外に早く帰宅できた。両親と兄はまだ仕事だったので、シャワーを浴びた後は自室へ直行し、ベッドに潜り込む。帰ってきた母が部屋を覗いたのに気付いたものの、寝たふりでやり過ごした。実のところ、絶望のあまり胃が激しく痛み、食欲が無い。

(母ちゃんやゴン兄から「受験どうだった?」って聞かれたくない……)

 現役合格以外は許さないからな、と言って大学進学を許してくれた父親と顔を合わせるのも辛かった。頭の中で後悔ばかり湧き上がり、声を出さずに泣き続ける。自分の特性は分かっていた。だから気をつけていたのに。

(小さい頃から、いきなり脳波が散っちゃって、わけ分かんない行動に出てたもんな、おれ……)

 小学校低学年のころ、近所の女の子たちと集団下校中に、気付いたら歩道の点字シートを持って歩いていたことを思い出す。

 ——さつきくん、何もってるの~?
 ——手に持ってる黄色いの、どこから取ってきたの?

 いつ、どこで拾ったのか全く覚えてなくて、女の子たちに笑われたっけ。

 小学校にて発達障害と告げられ、中学校では天然KYと呼ばれた。幸いにして個性豊かな兄が四人もいたので、イジメられたことも無ければ教師に目をつけられることも無く、それなりに楽しい学校生活を送っていたのだが。

 高校へ入学する前の春休みに、出会ってしまったのだ。伊達政宗という偉大な武将に。

(ああ……仙台に住みたかった。TH大学に入りたかった……)

 枕に顔を当て、声を上げずに涙する。運も実力のうちなんだろうけど、こればかりは運では無い。

(おれのせい。全部、自分のせいなんだ……)


■  ■  ■


 大学入学共通テストをなんとかクリアしてTH大学文学部へ願書を出し、前期日程の受験のために仙台入りしたのは一昨日だ。

 昨日は試験初日。よく眠れたこともあり、程よい緊張感がみなぎったまま英語と国語の試験に挑んだ。もともと得意な教科だったこともあり、かなり手応えがあった。いけると思った。

 しかし、前期日程二日目の数学は、苦手な科目で自信がなかった。そこで、初日終了後にホテルへ戻ってからは、深夜までひたすら問題集を解いた。それが仇となった。

 ほとんど眠れずに朝を迎え、ふらふらしたまま会場に行き、午前十時の試験開始から二十分ほど経過した頃。次第に目の前の数字が踊り始めた。気付けばウトウトしてしまい、目覚めた時には残り時間が十分を切っていた。もちろん答案は半分以上が白紙である。全身から血の気が引く。あの瞬間の絶望を、おれは一生忘れない。

(あああああーーーっつ!!)

 思わず叫びだしたくなる。身をよじって、自分を殴りつけたくなる。バカバカバカ、おれのバカ!! あんだけ先生に言われていたのに!!

 ——いいか磯上いそがみ、試験の前日はしっかり眠るんだぞ。寝不足では実力を発揮できないからな。

 大賀おおが先生、ごめんなさい! 一年の春からずっと面倒見てもらったのに!!

 ——磯上くんは少しうっかりさんだから、試験用紙に磯上皐月いそがみ さつきって書くのを忘れないでね。

 真里ちゃん先生、名前はバッチリ書いたんだ! でも居眠りしちゃったんだ!!



 絶望と羞恥と悲哀にまみれたまま、眠れない夜が流れてゆく。
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