【完結】街一番の有名人は、薬草クッキーがお好き

青空爽

文字の大きさ
8 / 20

第八話 女の人②

しおりを挟む
「大体、貴方のようなブスで貧乏くさい娘を、ゼルバ様が本気で愛すると思って? 貴方、遊ばれているのよ」
「そんなことありません! ゼルバ――さんは優しい方です!」
「ふふ……。ブスが捨てられないよう必死ね。じゃあ言い方を変えるわ。貴方、ゼルバ様と並んだ時に鏡を見たことがある? 貴方達、まるで王族と卑しい売女が歩いているみたいよ? 釣り合いが取れてないわ。売女と歩かなければならないゼルバ様が気の毒よ」

 キノルルがチッと舌打ちした。

「黙って聞いてりゃ、このアマ!」
「まぁ、怖い。このアマですって!? わたくしは客よ!」
「お前なんか客じゃ――」
「やめてキノルル!」

 私はキノルルの言葉をさえぎって叫んだ。
 もう一度キノルルの怒った表情を見ながら『やめて……』とつぶやく。

「で、てもよぉ……」
「いいの。ありがとうキノルル」

 私はもう一度正面から女の人の顔を見つめた。
 赤いロングヘアが美しい。魔女ハットと谷間の覗くセクシーな服装から見て、恐らくこの人は冒険者だろう。きっと……ゼルバとは私よりずっと前に知り合ったのだ。それで一緒に仕事をして仲を深めていった。この女性は、きっとゼルバのことが好きなのだ。確かに私のような冴えない女より、この華やかで美しい女性の方がゼルバの隣に相応しい。

 私はゼルバとこの女性が並んで歩く姿を想像した。華やかで、誰もが振り返る美男美女カップルだ。悲しいけど、私よりずうっとお似合いのカップルだった。

 私は悔しくてグッと唇を噛んだ。そのあとに落ち着こうと深呼吸する。
 それから女性の瞳を真正面から見つめて静かに口を開いた。

「分かりました。ゼルバさんとはお別れします」
「な、何言ってるんだよ! レノン!」
「だって……私と一緒に歩いていたら、ゼルバの評判が落ちるもん。ゼルバさんって女の趣味悪いんだなーって笑われちゃう。私、そんなの嫌」
「そんなわけねーだろ! 考え直せ!」
「いいの! もう決めたの!」
「レノン……」

 私が声を張り上げたので、キノルルはそれ以上なにも言わなかった。
 反対に、私たちのやりとりを見ていた女性が嬉しそうにクスクスと笑った。

「よい判断ね。そうよ、貴方みたいなブスと付き合ったら、ゼルバ様の趣味が疑われてしまう。ゼルバ様のためにも、貴方は身を引きなさい」
「……はい」
「じゃあ、これで話は終わり」

 女性はくるりと私たちに背を向けた。

「ブスだけど、頭は悪くないようで助かったわ。束の間の夢を見れて良かったわねぇ。――じゃあね」

 そんなことを言いながら、来た時と同じようにカツカツブーツを鳴らしながら、その女性は去っていった。

 その後キノルルに何度も『考え直せよ!』と説得されたが、私はそれを上の空で聞いていた。

 だってしょうがないじゃない。
 私みたいな貧乏くさい女は、ゼルバに相応しくないんだもの。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…

ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。 王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。 それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。 貧しかった少女は番に愛されそして……え?

閉じ込められた未亡人は、当主となった義息と契約する。

黒蜜きな粉
恋愛
借金の肩代わりとして後妻に入った私は、 妻と呼ばれながら屋敷の離れで「いないもの」として暮らしていた。 ある雪の日、夫が事故死したと告げられる。 だが、葬儀に出ることすら許されず、私は部屋に閉じ込められた。 新たに当主となった継子は言う。 外へ出れば君は利用され奪われる、と。 それが保護であり、同時に支配なのだと理解したとき、 私はその庇護を条件付きの契約に変えることを選ぶ。 短いお話です。 ※第19回恋愛小説大賞にエントリーしております。

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む

浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。 「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」 一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。 傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

【完結】あなたに抱きしめられたくてー。

彩華(あやはな)
恋愛
細い指が私の首を絞めた。泣く母の顔に、私は自分が生まれてきたことを後悔したー。 そして、母の言われるままに言われ孤児院にお世話になることになる。 やがて学園にいくことになるが、王子殿下にからまれるようになり・・・。 大きな秘密を抱えた私は、彼から逃げるのだった。 同時に母の事実も知ることになってゆく・・・。    *ヤバめの男あり。ヒーローの出現は遅め。  もやもや(いつもながら・・・)、ポロポロありになると思います。初めから重めです。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

契約結婚の相手が優しすぎて困ります

みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

処理中です...