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第二章『外道辺境伯と魔王牧場』
第25話『平凡で、平穏な一日』
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ユエのスキルがギルドに認められてから、半年ほど経った。
この村に訪れるお客さんは順調に増えてきている。
ありがたい限りだ。
俺とアルテは王都で一つの交渉を終えていた。
行商人の地図に俺たちの村を記載して欲しいという申し出だ。
交渉は成功。今後、出入りの行商人が増えることだろう。
辺鄙な村に、行商人が来てくれるのはありがたいことだ。
ここは、王都と村のちょうど中間地点。
草原に二人で腰を落ち着け、一休みをしていた。
「ユーリさん、最近は村も随分とにぎやかになってきましたねっ!」
「そうだな」
ユエの付与調理師《エンチャント・クッカー》が新たな職業《クラス》として承認された。
冒険者たちは好奇心が強く新しい物に目がない者が多い。
噂の新スキルを体感しようと、多くの冒険者が村に訪れた。
一度村に訪れた人は王都で口コミで広める。
そして新たなお客さんが来る。良い循環だ。
何度も来てくれる常連のお客さんもできた。
商売は、順風満帆といって良いだろう。
「今じゃ、王都でもちょっとした話題の場所になっていますね」
「ちょっと前までだったら、信じられないことだったよな」
「ですねー。お手伝いさん雇う余裕まで、できるとは思いませんでした」
「だなー」
この村ではいまは、お手伝いさんを雇っている。
正規雇用ではないアルバイトみたいなものだ。
一番負荷がかかっているのは村の食堂だ。
ユエは超スペックの天才である。
大抵のことは、涼しい顔で卒なくこなす。
とはいえ、二本の腕でできることには限りがある。
それに無理して身体を壊したら元も子もない。
そんなわけで日替わりのお手伝いさんを雇う事になった。
「お手伝いの子たちが来てからルナちゃん元気ですね」
「だな。ルナもお姉さん気分で張り切ってるみたいだな」
「お手伝いにくる小さい子たち見ているとなんだか癒やされますね」
「アルテ、やっぱ子供好きなんだな」
「はい。いつか私もお母さんになれたらなぁ、って思っています」
「アルテ、村のお母さんみたいな感じあるもんな。向いていると思うぜ」
「その例えですと、ユーリさんは、村のお父さんといったところでしょうか?」
俺の隣に座るアルテが俺の手に指を絡ませる。
アルテは一面に広がる草原を見つめている。
手のひらには冷たい草の感触。
手の甲にはあたたかいぬくもりを感じた。
状況的に普段ならドキッとしそうな物である。
だが、不思議と俺の心は穏やかであった。
「孤児院の子たちを雇おうと想ったのはなぜですか?」
「理由ね……俺も、孤児院育ちだったから、かな」
前世のこと。はるか遠い、記憶。
ユエに王都に新設された孤児院の話をしたことがある。
今は、そこの孤児院の子たちに手伝ってもらっている。
孤児院としても職業訓練になるので大歓迎とのことだ。
縁とは不思議なものである。
縁だけでない、その孤児院を選んだ合理的理由もある。
ギルドの監査を受け入れている孤児院だからだ。
定期監査だけではない、抜き打ち監査もだ。
お手伝いとはいえ、働いた分の報酬は支払っている。
それを孤児院に取られたら本末転倒。
それではただの無償労働。誰も幸せにならない。
孤児院の子たちには、報酬は少し多めに払っている。
子どもたちにとっても良い小遣い稼ぎだろう。
「そうだったのですか?」
「ああ。そう言えば、アルテにも言ってなかったな」
冒険者は自分自身の出自をあまり語らない。
そして、仲間の素性を詮索しようともしない。
いろいろ事情を抱えているのだ。
「俺が物心つく前に両親とは死別している。だから顔も覚えていない」
「……そうだったのですか」
「ははっ、気にすんな。親のことは仕方のないことだ。それに、辛いことばかりではなかったからな」
辛いこと苦しいことがなかったとは、言わない。
…………。
ただ、そんな暮らしの中にも暖かい想い出はあった。
「まぁ、だからかな。今みたいに、いろんな人間が集まってわいわいやってるつーのが、なんか、俺にとっては、家族みたいな感じで、安心できるんだ」
「私も、分かりますよ。この村のみんなは、私にとっても家族のようなものです」
アルテはいつからか、村のお母さん的存在になっている。
特にルナは、アルテを母親として見ている節がある。
親に甘えたい年頃だ、自然なことなのだろう。
「王都から安全に来れるようになりました。一般の方も増えてきています」
「ダンジョン経験のない人にとっちゃ、回復の泉は新鮮だったみたいだな」
多くの冒険者がこの村に訪れる。
道中の魔獣は冒険者たちに狩り尽くされた。
この村を訪れる人たちによって地面も踏みならされている。
一般のお客さんもより来やすい環境になった。
「テーちゃんの歌、とても人気ですね」
「さすが、テー。看板娘として採用した俺の眼力は正しかったようだ」
テミスは喋るのが苦手、だが歌が上手い。
その歌声は、美しく、透明。
その歌声は神聖さを感じるほどだ。
俺がその才能を知ったのは、ある月夜のことだった。
月を見つめ歌う姿は、今でも目に焼き付いている。
音楽に関心のない俺でも思わず聴きほれた。
だから、多くの人に聴いて欲しいと思ったのだ。
「歌っている姿はまるで妖精のようです」
「ユエが作った舞台衣装もいい感じだもんな」
「ユーリさん、みんなのこと思っているんですね」
「そりゃ、……まぁな」
「ユーリさん、やっぱりお父さんって感じですよ」
「お父さん、か。俺は親を知らない。うまくやれているか、自信はないが」
「大丈夫です。ユーリさんは良い父親です。私が保証します」
「俺は、あいつらの血を分けた、本当の父親じゃない」
「……そんなことは、親である資格とまったく関係ないですよ」
「親を知らず、血を分けた実の子もいない。そんな俺が、あいつらの父親の代わりになんてなれるのだろうか。ふと、分からなくなるときがある」
唇にやわらかい感触。
とっさのことだった。
少しの沈黙。
アルテが口を開く。
「ユーリさんは、本当の父親になれますよ。……私が、それを、保証します。いつでも、ユーリさんさえその気があるのなら、本当の母親になる覚悟はありますから」
この村に訪れるお客さんは順調に増えてきている。
ありがたい限りだ。
俺とアルテは王都で一つの交渉を終えていた。
行商人の地図に俺たちの村を記載して欲しいという申し出だ。
交渉は成功。今後、出入りの行商人が増えることだろう。
辺鄙な村に、行商人が来てくれるのはありがたいことだ。
ここは、王都と村のちょうど中間地点。
草原に二人で腰を落ち着け、一休みをしていた。
「ユーリさん、最近は村も随分とにぎやかになってきましたねっ!」
「そうだな」
ユエの付与調理師《エンチャント・クッカー》が新たな職業《クラス》として承認された。
冒険者たちは好奇心が強く新しい物に目がない者が多い。
噂の新スキルを体感しようと、多くの冒険者が村に訪れた。
一度村に訪れた人は王都で口コミで広める。
そして新たなお客さんが来る。良い循環だ。
何度も来てくれる常連のお客さんもできた。
商売は、順風満帆といって良いだろう。
「今じゃ、王都でもちょっとした話題の場所になっていますね」
「ちょっと前までだったら、信じられないことだったよな」
「ですねー。お手伝いさん雇う余裕まで、できるとは思いませんでした」
「だなー」
この村ではいまは、お手伝いさんを雇っている。
正規雇用ではないアルバイトみたいなものだ。
一番負荷がかかっているのは村の食堂だ。
ユエは超スペックの天才である。
大抵のことは、涼しい顔で卒なくこなす。
とはいえ、二本の腕でできることには限りがある。
それに無理して身体を壊したら元も子もない。
そんなわけで日替わりのお手伝いさんを雇う事になった。
「お手伝いの子たちが来てからルナちゃん元気ですね」
「だな。ルナもお姉さん気分で張り切ってるみたいだな」
「お手伝いにくる小さい子たち見ているとなんだか癒やされますね」
「アルテ、やっぱ子供好きなんだな」
「はい。いつか私もお母さんになれたらなぁ、って思っています」
「アルテ、村のお母さんみたいな感じあるもんな。向いていると思うぜ」
「その例えですと、ユーリさんは、村のお父さんといったところでしょうか?」
俺の隣に座るアルテが俺の手に指を絡ませる。
アルテは一面に広がる草原を見つめている。
手のひらには冷たい草の感触。
手の甲にはあたたかいぬくもりを感じた。
状況的に普段ならドキッとしそうな物である。
だが、不思議と俺の心は穏やかであった。
「孤児院の子たちを雇おうと想ったのはなぜですか?」
「理由ね……俺も、孤児院育ちだったから、かな」
前世のこと。はるか遠い、記憶。
ユエに王都に新設された孤児院の話をしたことがある。
今は、そこの孤児院の子たちに手伝ってもらっている。
孤児院としても職業訓練になるので大歓迎とのことだ。
縁とは不思議なものである。
縁だけでない、その孤児院を選んだ合理的理由もある。
ギルドの監査を受け入れている孤児院だからだ。
定期監査だけではない、抜き打ち監査もだ。
お手伝いとはいえ、働いた分の報酬は支払っている。
それを孤児院に取られたら本末転倒。
それではただの無償労働。誰も幸せにならない。
孤児院の子たちには、報酬は少し多めに払っている。
子どもたちにとっても良い小遣い稼ぎだろう。
「そうだったのですか?」
「ああ。そう言えば、アルテにも言ってなかったな」
冒険者は自分自身の出自をあまり語らない。
そして、仲間の素性を詮索しようともしない。
いろいろ事情を抱えているのだ。
「俺が物心つく前に両親とは死別している。だから顔も覚えていない」
「……そうだったのですか」
「ははっ、気にすんな。親のことは仕方のないことだ。それに、辛いことばかりではなかったからな」
辛いこと苦しいことがなかったとは、言わない。
…………。
ただ、そんな暮らしの中にも暖かい想い出はあった。
「まぁ、だからかな。今みたいに、いろんな人間が集まってわいわいやってるつーのが、なんか、俺にとっては、家族みたいな感じで、安心できるんだ」
「私も、分かりますよ。この村のみんなは、私にとっても家族のようなものです」
アルテはいつからか、村のお母さん的存在になっている。
特にルナは、アルテを母親として見ている節がある。
親に甘えたい年頃だ、自然なことなのだろう。
「王都から安全に来れるようになりました。一般の方も増えてきています」
「ダンジョン経験のない人にとっちゃ、回復の泉は新鮮だったみたいだな」
多くの冒険者がこの村に訪れる。
道中の魔獣は冒険者たちに狩り尽くされた。
この村を訪れる人たちによって地面も踏みならされている。
一般のお客さんもより来やすい環境になった。
「テーちゃんの歌、とても人気ですね」
「さすが、テー。看板娘として採用した俺の眼力は正しかったようだ」
テミスは喋るのが苦手、だが歌が上手い。
その歌声は、美しく、透明。
その歌声は神聖さを感じるほどだ。
俺がその才能を知ったのは、ある月夜のことだった。
月を見つめ歌う姿は、今でも目に焼き付いている。
音楽に関心のない俺でも思わず聴きほれた。
だから、多くの人に聴いて欲しいと思ったのだ。
「歌っている姿はまるで妖精のようです」
「ユエが作った舞台衣装もいい感じだもんな」
「ユーリさん、みんなのこと思っているんですね」
「そりゃ、……まぁな」
「ユーリさん、やっぱりお父さんって感じですよ」
「お父さん、か。俺は親を知らない。うまくやれているか、自信はないが」
「大丈夫です。ユーリさんは良い父親です。私が保証します」
「俺は、あいつらの血を分けた、本当の父親じゃない」
「……そんなことは、親である資格とまったく関係ないですよ」
「親を知らず、血を分けた実の子もいない。そんな俺が、あいつらの父親の代わりになんてなれるのだろうか。ふと、分からなくなるときがある」
唇にやわらかい感触。
とっさのことだった。
少しの沈黙。
アルテが口を開く。
「ユーリさんは、本当の父親になれますよ。……私が、それを、保証します。いつでも、ユーリさんさえその気があるのなら、本当の母親になる覚悟はありますから」
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