加害者X=被害者K/s

Laki

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第一章 被害者でありたかったんだ。

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鍵谷空(カギタニ ソラ) 21歳男性。
不気味なほどに真っ白な部屋にある椅子に縛り付けられ、監禁されている。
真っ黒なスーツパンツに黒のワイシャツ、その捲られた腕には手錠が、足には鉄の灰色の椅子に鎖で繋がれていた。

同じ椅子を目の前に持って現れた男がいた。同じ見た目の同じ声、もう1人の人格のような存在がよっこらしょとその椅子を置いて座る。

「さあ、どこから始める?被害者くん。」

姿形が同じ自分は笑いながら手を叩く。

「そうか、意味がわからないよな!ここはお前の夢の中であり、鏡の世界であり、心そのものだ!」

ややこしくなるので縛られている方を(空)ソラと呼ぶ。明らかにイカれているもう一方を(空)カラと呼ぼう。そう提案され唾と共にソラは呑み込んだ。

ソラ「どういう状況なのか未だに分からない。これが夢なら何でもいい。いつもお前に殺される夢を見る。そして目が覚めてまた毎日同じことを繰り返す。」

カラ「これは確かに夢だが、お前が目を覚ますかどうかはまた別の話だ。死ぬか生きるかもな。未遂だったんだろ、自殺。鬱で休んでんのに死にたい死にたいつって泣きついてよ。死ねてねえじゃねえか。」

返す言葉もない。

カラ「お前さぁ、いつまで逃げてんだよ。いつまで責任と後悔を擦り付けては被害者ヅラして呑み込もうとしてんだ?お前は本当に被害者だったのか?」

沈黙が続く。

カラ「まずは15歳のあの日だ。お前は何も出来なくて泣いてた。家族が壊れた日だ。」

15の夜、既に借金と父の鬱病や共働きの上に引きこもっていた兄。そこでブチ切れた父は暴れてしまった。母へ刺し殺すぞと叫び、兄には暴力をふるった。僕には夢があって未来を目指していたから僕だけは許されていた。

何も出来ずに泣いていた。今までそんな人生だったから小学校でも虐待を受けて友達すら極小数。中学も結局、自己嫌悪だか自責の念からか泣いてばかりで周りを迷惑にさらして醜態さらしては夢を見つけていた。

何も出来なかった自分が変わるために父親に「言い過ぎだ、止めてくれ」と抗ってみるも虚しく父親の苦労や計り知れない痛みを押し付けられて何も言えなかった。

カラ「何か出来たか?お前に。俺に。」

ソラ「何も…変えられなかった。」

今でもフラッシュバックするその光景に涙が滲んでこの部屋に引きずり戻される。

カラ「何も出来なかったんだよ?お前は。俺は。ただ、親父を追い詰めただけだっただろ。親父を見放したろ。変えられはしなかった。どのみちよ。お前に出来ることなんてなかったんだよ最初から。何も出来なかったなんてことはねえんだ。出来ることもねえのに傲慢にも変えられた現実だと思ってる。お前は直接何かされた訳じゃない。逆だ。加害者だったんだよ。お前は。それを理由に辛いだとか言えた義理ねえだろ。クソが。」

まったくその通りで涙が止まらない。カラの段々と荒くなっていく声はきっと僕への怒りだった。そしてその源は本当は優しさだったんだ。優しさが何かはまだ分からないけど、カラの責苦は筋が通っている。

ソラ「…そうだ。逃げて来て、理由つけて被害者だと思って生きてきた。本当は15の泣き虫のガキには何も出来はしないのに。本当に辛いのは誰かとかじゃなく、痛みはそれぞれにあったのに、自分本意な考えで逃げてばかりだ。」

カラ「そこから変わろうとした高校生活。傷つけて傷つけられての繰り返しで何度人から恨まれてきた?何度人に馬鹿にされてきた?全部お前のせいだ。」

ソラ「そうだよ。僕のせいだ。僕のせいで傷ついた人がいた。僕のせいで僕から離れた人を僕は責めた。」

カラ「この世の全てに起こったことに意味があるのなら、責める対象は環境によって変わる。だが、その環境を生み出し、強く生きようとすればするほど自他ともに負担をかけたのはお前自身だ。全てがお前のせいであり、全てがお前だけのせいじゃない。それこそが傲慢だと言うんだ。だが、お前はいつも過去を理由に未来を睨んで生きてきた。その過去はお前のせいじゃなかったのか?」

ソラ「…僕のせいだ。虐待や監禁を受けるほど泣いたのも僕だ。泣いて自分のせいにして驕り高ぶって人にできることを自分にできないと泣いたのは僕だった。だから相手を怒らせた。苛立たせた。高校のいじめも僕が始めたことばかりだった。抗ったとはいえ、下手に意図せず喧嘩を売ったのも僕だったんだ。僕は僕のせいにする反面、僕のせいにしたくなかった。逃げたかったんだ。」

ソラとカラの声が重なる
「加害者だったんだ僕は。」

カラ「そこにすらもお前は気づかなかったんだよ。自分と向き合うことから逃げて逃げて逃げて。他人の罵詈雑言を直に受け止めてはそこにのっかって自分責めてよ。何がしたかった?何のために生きたかった?」

ソラ「…誰かの、誰かの心に灯を灯したかった。いずれ消えてなくなって忘れられる僕を知ってほしかった。憎んでいる自分自身の存在を被害者として哀しんでほしかった。醜い。そんな理由だった。」

「僕は被害者でありたかったんだ。」
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