加害者X=被害者K/s

Laki

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第四章 すべての答え

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沈黙を破ったのはカラの叫びだった。
悶え苦しむ声と笑い声が混ざっている。
現実世界の鍵谷空はパニック発作が出たようだ。ソラの意識はぼーっとして薄れていく。

やがて止まった時、2人は息を切らし満身創痍になりつつも再び向かい合った。

カラ「いい加減、答えを出して終わらせようぜ。」

ソラ「そうだね。これ以上ここにいるのは危険みたいだ。」

カラ「俺らはたくさんの痛みを抱えて誰にも気づかれず生きてきた。その反動がこれだ。終わらせることも再生することもできはしねぇ。一体どうするよ。あ?」

ソラ「答え…か。何度も出しては否定された人生だったからね。今後もそうなる上で納得のいくものなんて出るのだろうか。」

カラ「そもそも俺たちは最初から誰かのせい、自分のせいにして安心したかったのさ。きっとな。」

ソラ「…被害者にしてくれようとしてたのは君だったんだ。それは途中から気づいていた。矛盾したような言葉だらけだったけどね。」

カラ「黙れよ。優しさも知らねぇ愚図が。俺たちは2人とも同じだ。加害者であり、被害者だった。誰を恨んでもいい。ただ、恨まねえとやりきれなかったんだ。」

カラの口から血が零れる。どうやら精神的限界が近づいているようだ。

ソラ「マイナス感情しか湧かなくなった男は空虚にも関わらず抗っている。それは何故か…。きっとそれは誰かを傷つけても伝えたいことがあったからなんじゃないかな。」

カラ「てめぇ自身の痛みをか?」

ソラ「それもあるだろうけど、きっと真っ黒なカラスのような瞳の奥にはありもしないものを求めてさまよってたんだ。心を探して。同じく被害者であり加害者である誰かの心を、自分と同じ存在に白でも黒でもなく、形すらない何かを伝えたかったんだ。傷を負ったからわかる痛みを抱えて、世界は地獄だけじゃないと証明したかったのかも。そのために抗っている。僕には君と話してそう感じたよ。」

カラ「てめぇはいつも鼻につく。泣いてばかりなのにきっちりと見えてんじゃねぇか。」

ソラ「ただ、僕は逃げていた。自分が被害者であると共に加害者であり、さらにはそこから何も出来なかった傍観者になっていた。過去の出来事に縛られて、それ以降の人生も出来事と出来事の間にあった時間を無駄にしていたんだ。きっとそれが、最も僕にとっての重い罪だったと自覚した。その逆説から捉えると、今の答えは時間のある限り抗い続ける。戦って努力してみること。これが僕の答えだ。」


カラ「なるほど…。理解はしたぞ。納得は別だが。俺の答えはこうだ。散々味わった地獄を手の届く範囲だけでも味あわせてはならねえってことだ。」

ソラ「きっと僕らは同じ答えを生み出したんだ。加害者Xの正体は第三者を代入することじゃない。鏡に映ったキミ自身であり鍵谷ソラという自分自身だった。その上で時間を重んじ、心無き心を演じ、地獄をどれほど見ようと、抗い戦ってまだ護れる者を、失いたくないものを、護りたい。」

カラ「答えは出ても苦しみは変わらない。だからこそ強くなり続ける怒りとともに俺たち自身も強くならなきゃいけないんだろうな。いいだろう。で、結末はどうする?」

ソラ「死ぬまで生きていくよ。」

カラ「…シンプルな結末だな。それもまあいいか。」

瞬きをすると鍵谷空は自室で朝を迎えていた。涙が朝日に照らされて零れると外へと向かった。

場所は近所の踏切だった。
音が鳴り響く。段々と大きくなる。

電車が来ると同時に、鍵谷ソラは振り返り、帰路へとついた。

今夜もまた自殺衝動を乗り越えたが、
明日があるかはわからない。

だからこそ、今を大切に生きれるだけ生きてみようと思った。

しかし、なんだか体が重く、息苦しい?
鍵谷空の腕には切り込みすぎた腕の傷が深く皮膚を切り開いて肉がはみ出ていた。出血は止まらない。

暖かい血にのまれながら家につくと自室で座り込んだーー。



2週間後、形成外科で抜糸を済ませた鍵谷空はコンビニに立ち寄った。狭いコンビニだ。

そこに並ぶ人の横には商品をもって慌てている身体障害者の男がいた。

「良ければ買ってきます。僕もパニック発作やうつ病と戦ってるんで頑張って下さい」

お代は貰わず、そう伝えた。善人ぶってまた自己嫌悪に襲われながら電車に乗った。

思ったよりも人が多く、身心の余裕もなかったせいか鼓動が早くなっていく。

パニック発作だ。過呼吸が悪化していく。

気味悪がって誰も見て見ぬふりをする。隣の女子高生もボソボソとつぶやく声が聞こえる。

そこにらあらわれたのは髪を染めた大学生らしい陽気な男だった。

「お兄さん、大丈夫!?吐きそう?」

「すみません、過呼吸がでてしまってて。」

隣の女子高生も良かったら席座りに行ってくださいね。と言ってくれた。

周りの大人達は関わらまいと目を背ける中で思いやれる人間を、尊敬している。

地獄だけじゃなかった。鏡には光も映っていた。
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