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第三章 感情的道徳性の欠如
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ソラ「お前が僕の怒りだとすると何を望んでいる?」
カラ「俺とお前は同じ存在であり、また別の角度の存在だ。根本は同じという前提で話すが、はっきり言ってしまえば破壊衝動が強いな。お前も他人も関係なく今までの地獄を一瞬だけでも味あわせてやりたい。ぶつけようのない怒りを抱えて来たんだ。だからお前も腕を切った。全部壊したいんだ。もう狂ってしまった。いや最初から狂っていた。」
鍵谷空という人間は現実では自室、夜中に頭を抱えて横になっている。意識は少しだけあるがぼんやりとしていて、包丁で腕を切り、首に包丁を当てて横になる。
カラは笑い出すと止まらなくなり、乾いた声で叫んだ。
カラ「ぶっ殺してぇんだよ!おめぇを!」
ソラ「…僕もだよ。」
カラ「ああイライラする!死にたくても死ねない。殺したくても殺せない!早く消えてくれよ!!他人から散々死ねとか消えろって言われたろ!?」
ソラ「それに加えて僕は加害者でもあった。そして責任と義務のために生きている。それは僕も辛い。僕だって死にたい、死にたいよ。責任を放棄したい。でも…」
カラ「責任だとかうるせぇんだよ。でもでも何だよ。あ?」
ソラ「借りたお金、残してくこと、言葉をくれた人の想い、そういうのにもったいない、押し付けたくないっていうくだらないわがままを責任と言い換えてるだけだったんだ。」
カラ「だから死んでもいいんじゃねえのか?なぜ俺たちは踏みとどまって生きてんだよ。」
ソラ「分からない。だけどきっと、生きるための勇気がないのと同じで死ぬ勇気がなかったんだ。臆病だもの。僕らは。」
カラ「…否定はできねぇ答えだ。何にしても生きてようと俺たちの心は既に死んでる。いや、殺されて潰されて自ら握りつぶしただけだったか?」
ソラ「間違いなく言えるのは、僕らは人間に必要な感情的道徳性が欠如し始めている。二重人格であること、過去のせいにして逃げたこと、それは全部僕のせいだったこと、それらを知った上で判断出来る。全てを無駄にする覚悟が出来るということは全ての人の言葉や想い、環境を踏みにじる行為だ。それを平然とやろうする僕らにはもう、人のような思いやれる道徳性も、まともな感情すらも失っていたんだ。」
カラ「…合点がいく。ははは!俺たちっていつから壊れ始めたのだろうな!!それはまた最初の質問に戻ってしまうか。」
ソラ「鍵谷空は衝動的に死にたくなる。その時は自己嫌悪やフラッシュバックによるトラウマの再起、被害妄想からくる強い怒りと哀しみだ。強すぎたんだ。感情の振れ幅はマイナス値にしか動かない。」
カラ「結局のところ、死ぬより生きる方が孤独で痛くて苦しくて辛いのだから、生きて苦しみ続けてもいいんじゃねえか?」
ソラ「恐らくその考えが僕らがまだ生きている答えだ。」
カラ「しかしだ。時間は有限で、地獄は無限だ。21年だ。たった21年でどれだけのことがあったよ!なぁ!?」
ソラ「その21年で残ったのは空虚な器とたくさんの傷跡だけだ。」
カラ「その通りだ!何も成し遂げられなかった!!後にも先にも自分のことばっかりで逃げてきたもんなぁ!!」
ソラの目は黒く濁りつつ、涙は枯れていた。どこまでも孤独で真っ黒な目はカラを再び睨みつける。
ソラ「逃げてきたのはお前もだよ。怒りや自殺衝動に走らせたお前という感情はやり場のない何かを持って走り出した。それこそ逃げたことだ。僕と同じだ。」
カラは椅子に腰かけ足を組む。
カラ「だから俺が生まれたんだ。防衛本能だろ?被害者お得意様の憎悪の塊を人格化して生み出したのは鍵谷空だ。最初に泣いていたのがお前で、その怒りを持って道化師を演じてるのが俺だ。誰かを傷つける時、冷酷に対処すべき時、感情をぶちまけキレる時、全て俺がいたから仮面を被れたんだよこいつは。」
ソラ「君が鏡の偶像なら僕は哀しみの本心なんだろう。とっくに喜怒哀楽におけるプラス面はすでに消滅している。どうしてこうなったかなんてもうわからないんだよ。誰にも。君にもね。」
カラ「いやいや、騙されねぇ。分かるぞ。哀しみで楽になろうとしてるのがお前だ。怒りを楽しんでるのが俺だ。俺たちは二分されただけにすぎない。最悪の方にな。愛憎という言葉があるよな。愛と憎しみだ。その区別がつかずグレーな人間、元いこの怪物《オレ》たちは本当の愛も知らずに生きてきたからこうなってるのさ。そうでも思わないとやっていけなかったんだろ。」
ソラ「正しい愛なんてわからないけど、痛みを伴う愛は歪んでいた。それだけは確かだ。少なくともそう断言できてしまうほど僕らにあるはずの心が消え去り、欠如したんだ。感情も。愛情も。」
カラ「だが、自分への憎しみは消えないどころか足りない部分を補おうとして増幅している。どんどんとな!大きな音を立てて迫ってくる。死ね死ね死ねって鍵谷空の頭には自他を対象に響き続けている!もう止まらねぇんだよ!日々強くなるこの衝動と俺の怒りは!!」
ソラ「歯止めが効かないほどになったんだ。もう、手遅れだ。僕たちはどうやってこの状況を理解した上で、どんな答えを出せばいい…。」
どうやって…
2人の言葉は重なり、虚しく響いていく。
カラ「俺とお前は同じ存在であり、また別の角度の存在だ。根本は同じという前提で話すが、はっきり言ってしまえば破壊衝動が強いな。お前も他人も関係なく今までの地獄を一瞬だけでも味あわせてやりたい。ぶつけようのない怒りを抱えて来たんだ。だからお前も腕を切った。全部壊したいんだ。もう狂ってしまった。いや最初から狂っていた。」
鍵谷空という人間は現実では自室、夜中に頭を抱えて横になっている。意識は少しだけあるがぼんやりとしていて、包丁で腕を切り、首に包丁を当てて横になる。
カラは笑い出すと止まらなくなり、乾いた声で叫んだ。
カラ「ぶっ殺してぇんだよ!おめぇを!」
ソラ「…僕もだよ。」
カラ「ああイライラする!死にたくても死ねない。殺したくても殺せない!早く消えてくれよ!!他人から散々死ねとか消えろって言われたろ!?」
ソラ「それに加えて僕は加害者でもあった。そして責任と義務のために生きている。それは僕も辛い。僕だって死にたい、死にたいよ。責任を放棄したい。でも…」
カラ「責任だとかうるせぇんだよ。でもでも何だよ。あ?」
ソラ「借りたお金、残してくこと、言葉をくれた人の想い、そういうのにもったいない、押し付けたくないっていうくだらないわがままを責任と言い換えてるだけだったんだ。」
カラ「だから死んでもいいんじゃねえのか?なぜ俺たちは踏みとどまって生きてんだよ。」
ソラ「分からない。だけどきっと、生きるための勇気がないのと同じで死ぬ勇気がなかったんだ。臆病だもの。僕らは。」
カラ「…否定はできねぇ答えだ。何にしても生きてようと俺たちの心は既に死んでる。いや、殺されて潰されて自ら握りつぶしただけだったか?」
ソラ「間違いなく言えるのは、僕らは人間に必要な感情的道徳性が欠如し始めている。二重人格であること、過去のせいにして逃げたこと、それは全部僕のせいだったこと、それらを知った上で判断出来る。全てを無駄にする覚悟が出来るということは全ての人の言葉や想い、環境を踏みにじる行為だ。それを平然とやろうする僕らにはもう、人のような思いやれる道徳性も、まともな感情すらも失っていたんだ。」
カラ「…合点がいく。ははは!俺たちっていつから壊れ始めたのだろうな!!それはまた最初の質問に戻ってしまうか。」
ソラ「鍵谷空は衝動的に死にたくなる。その時は自己嫌悪やフラッシュバックによるトラウマの再起、被害妄想からくる強い怒りと哀しみだ。強すぎたんだ。感情の振れ幅はマイナス値にしか動かない。」
カラ「結局のところ、死ぬより生きる方が孤独で痛くて苦しくて辛いのだから、生きて苦しみ続けてもいいんじゃねえか?」
ソラ「恐らくその考えが僕らがまだ生きている答えだ。」
カラ「しかしだ。時間は有限で、地獄は無限だ。21年だ。たった21年でどれだけのことがあったよ!なぁ!?」
ソラ「その21年で残ったのは空虚な器とたくさんの傷跡だけだ。」
カラ「その通りだ!何も成し遂げられなかった!!後にも先にも自分のことばっかりで逃げてきたもんなぁ!!」
ソラの目は黒く濁りつつ、涙は枯れていた。どこまでも孤独で真っ黒な目はカラを再び睨みつける。
ソラ「逃げてきたのはお前もだよ。怒りや自殺衝動に走らせたお前という感情はやり場のない何かを持って走り出した。それこそ逃げたことだ。僕と同じだ。」
カラは椅子に腰かけ足を組む。
カラ「だから俺が生まれたんだ。防衛本能だろ?被害者お得意様の憎悪の塊を人格化して生み出したのは鍵谷空だ。最初に泣いていたのがお前で、その怒りを持って道化師を演じてるのが俺だ。誰かを傷つける時、冷酷に対処すべき時、感情をぶちまけキレる時、全て俺がいたから仮面を被れたんだよこいつは。」
ソラ「君が鏡の偶像なら僕は哀しみの本心なんだろう。とっくに喜怒哀楽におけるプラス面はすでに消滅している。どうしてこうなったかなんてもうわからないんだよ。誰にも。君にもね。」
カラ「いやいや、騙されねぇ。分かるぞ。哀しみで楽になろうとしてるのがお前だ。怒りを楽しんでるのが俺だ。俺たちは二分されただけにすぎない。最悪の方にな。愛憎という言葉があるよな。愛と憎しみだ。その区別がつかずグレーな人間、元いこの怪物《オレ》たちは本当の愛も知らずに生きてきたからこうなってるのさ。そうでも思わないとやっていけなかったんだろ。」
ソラ「正しい愛なんてわからないけど、痛みを伴う愛は歪んでいた。それだけは確かだ。少なくともそう断言できてしまうほど僕らにあるはずの心が消え去り、欠如したんだ。感情も。愛情も。」
カラ「だが、自分への憎しみは消えないどころか足りない部分を補おうとして増幅している。どんどんとな!大きな音を立てて迫ってくる。死ね死ね死ねって鍵谷空の頭には自他を対象に響き続けている!もう止まらねぇんだよ!日々強くなるこの衝動と俺の怒りは!!」
ソラ「歯止めが効かないほどになったんだ。もう、手遅れだ。僕たちはどうやってこの状況を理解した上で、どんな答えを出せばいい…。」
どうやって…
2人の言葉は重なり、虚しく響いていく。
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