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一章
第8話 店番
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倉庫の中の荷物は、様々なものがあった。
ほとんどは服や靴などの衣類だったが、子供のおもちゃのようなものだったり、古い食器だったり、はたまた武器があったりした。
それをエレノアさんが箱の中身を覗いて、いるものは残し、いらないものは倉庫の外へと運ぶ。ただそれだけの作業をひたすら繰り返した。
途中休憩を設けてくれ、執事の人が冷たい飲み物を用意してくれたりと中々待遇はいい。
12時を知らせる鐘がなると、昼食まで出してくれた。
道中通った食堂で私とエレノアさんの2人だけで食事をとる。当然、SPの人はエレノアさんの後ろについていた。この人は一体いつご飯を食べるのだろう。
出された食事は贅沢の極みだった。
何かのお肉の煮込み料理、パン、スープ、サラダ、デザートまであった。正直ギルドからの依頼で派遣されてきた人間をここまでもてなすとは意外である。
エレノアさんはセレブらしからぬ気さくな人で、家族の話などを楽しげに話してくれた。
今は子供たちが独立してしまい、夫婦2人と使用人しかいないのだという。これだけ広い屋敷なのにもったいない。
私のこともいろいろと聞かれたが、エルフの里で変わり映えのない生活しかしてこなかったので、大して話せることもなかった。それでもエレノアさんはまるで学校から帰った子供の話を聞くお母さんかのように、穏やかな顔で聞いてくれた。
きっとエレノアさんは倉庫整理という名目で人を呼び、こうやって話をしたかったんだろうな。
ずっと気になっていた玄関前で足元が光った術と思われるもののことも聞いた。結界術の一種なのだそうだ。
術が張られた範囲に誰かが入ると光り、なおかつ遠隔でそれを知ることができる。この辺りの家はみな導入しているのだとか。便利だ。
倉庫整理は日が暮れる前に終わった。
達成カードを受け取り、屋敷を後にする。
エレノアさんは名残惜しそうに、ぜひまた縁があればと見送ってくれた。
最初の依頼がここでよかったのか悪かったのか。きっとみんながみんなエレノアさんみたいに良くしてくれるわけではないんだろう。これを基準に考えているとこの先辛そう。
来た道を戻り、ギルドへ報告しに行った。
受付の人に達成カードを渡すと、水晶の下にある台座にギルドカードと達成カードをそれぞれ差し込んだ。一瞬淡く光って、受付の人はすぐにギルドカードを私に差し出した。
受け取って見てみると、ランクの部分がEランク/30となっている。無事にポイントも付与されたようだ。
「こちらが報奨金になります」
銀貨7枚を受け取る。昼食も出されたし、あの仕事量ならば十分だ。
力仕事をした割にはあまり疲れていない。男だからなのだろうか。やはり男性と女性の体では全然違う。前世の自分では持ち上げることも難儀であろう重さの箱も、難なく持つことができた。その後の疲れ具合もおそらく違うのだろう。
こういうところは便利だ。違和感は消えないが、もうこの体とも15年の付き合いになるので、そろそろ慣れたといえば慣れたのかもしれない。
宿に戻る前に明日やる依頼を決めておこう。
Eランクの依頼が貼ってある壁へと移動した。
Eランクの依頼は前世で言ったらほとんどが短期バイトのようなものだ。正直こんなのがやりたくて冒険者になったわけではないので、早くDになりたい。どんどん依頼をこなそう。
色々と見てみると、依頼日が決められているものもちらほらある。例えば、3日後の依頼で内容は店番。こういうのもいいかもしれない。
とりあえず明日やる予定として荷物運びの依頼と、3日後の店番の依頼を受付に持って行く。同時に受けることはできるのかやってみよう。
「この2つを同時に受けることはできますか?」
聞きながら受付にギルドカードと紙を出す。受付の人は紙を交互に見て頷いた。
「この依頼ならば同時に受けることは可能ですよ」
「ではお願いします」
「かしこまりました」
受付の人はそれぞれの依頼の受注場所の紙と共にカードと依頼内容の紙を差し出した。
「3日後の依頼につきましては、事前に一度依頼主の元へ受注したことを報告してくださいね」
「なるほど、わかりました」
すべてを受け取ってギルドを出る。
どうせならこのまま3日後の依頼主の元へ行ってしまおう。ここからすぐ近くだ。記載されている住所のところまで歩いて5分ほどだった。
ここは術師向けのローブや道具が売っているお店。非常に興味深いし、いいものがあるのなら自分もほしい。
店の中は外からは見えない。窓はあるけれど、カーテンがかけられている。外に出されている看板に、術師用のものが売られていることが書いてあるのみだ。
扉を開けて中に入ると、店内は薄暗く、陰湿としていた。カーテンを開けるだけでもだいぶ雰囲気が変わりそうな気がするのだけれど、あえてそうしているのだろうか。
「いらっしゃいませ」
奥の方から50~60代くらいの男性の声が聞こえた。
声の主の元へと行く。
店主と思われる男性はカウンターに座り、杖のようなものを布で磨いていた。
私が近づくと視線だけをこちらへ向け、何か用かと目で語っているように見える。
「ギルドで依頼を受けたものです」
ギルドカードと依頼の紙を差し出す。
「ああ、依頼受けてくれたのか。3日後にどうしても用事があってな。店を開けなきゃいけなかったから」
立ち上がり私からギルドカードを受け取る。
依頼主の名前はリンドルフ・ディノン。おそらくこの人がそうだろう。
「あまり物には詳しくないのですが、私でも大丈夫でしょうか?」
この感じだと1人で店番をすることになりそうだ。もし客からいろいろと聞かれることがあるのであればちょっと厳しいかもしれない。
まだ3日後の話であるし、詳しい人じゃなければならないのなら引き返せる。
「問題ない。ただあんたはここで店番しててくれればいい。金の計算はできるだろ?」
「はい」
「客に何か聞かれてもわからないものはわからないと答えればいい。修理の依頼が来たら次の日に来てくれと伝えてくれ」
「わかりました」
それでいいのか。それならば私でもできそうだ。
3日後、9時までに来るようにとだけ言われたので、ひとまず店を後にした。寝坊しないようにしないと。
明日の依頼は荷物運びだ。また体力仕事になる。もうそろそろ日も暮れるので宿に帰って休もう。
宿に戻りお風呂に入った後、1階の食堂で適当に食事を済ます。
昨日は父が払ってくれたのでいくらかかったのかわからなかったが、今回の食事代は銅貨7枚ほどだった。リーズナブル。
そしてついでに洗濯物が仕上がっていたので父の分と合わせて受け取った。
父はもう森についてフィンキーを狩っているのかな。一週間も森に籠って狩りをするなんて、それが冒険者として普通なことなのだろうか。私だったら1人でなんて寂しいし、不安だ。
父と別れたらなるべく早めに仲間を探したい。父が言っていたように、最初は討伐の臨時パーティーでもいい。
そのためには早くギルドランクを上げてそういう依頼を受けられるようにしなくては。
次の日、朝食を摂ってから依頼主の元へと向かう。
荷物運び。昨日の倉庫整理と同様に目安時間は1日で、もらえる報酬もポイントも変わらない。
1日かかるような仕事はこれくらいと相場が決まっているのだろう。
基本的にシスタスの西にあるギルドに掲載されている依頼は、街の西側に依頼主がいるものが多い。よって宿から依頼主のところまではそう時間がかからず移動できる。
昨日は北西の富裕層が住んでいると思われる居住区であったが、今回は西門近くの商業区が依頼場所だった。
店が立ち並ぶようなところではなく、倉庫街という言葉がぴったりな場所だ。ひっきりなしに馬車が行き来している。
今回の依頼は馬車から積荷を下ろし、倉庫へ入れる。リストを渡され、品物を指定場所へと運ぶ。大体こんな感じだった。
昨日は昼食をごちそうになったけれど、今回はそんなことはなく昼休憩には自分で近くの店まで食べに行く必要があった。それがきっと普通なんだろうな。
特に何か問題が起きることもなく、与えられた仕事をこなして2日目の依頼は終わった。
今回は荷物の重さもそれなりにあり、移動距離も長かったので昨日よりも体力的には消耗した。明日は少し軽めの依頼にしておこう。
ギルドに戻り報酬をもらう。これで60ポイント。果てしない。私は異世界で一体何をやっているのだろう。これから1人で生きていくためには仕方ないんだ。そうなんだ。
次の日の依頼は飲食店の雑用を選んだ。主に皿洗いとかウェイターの仕事である。慢性的に人手が足りないらしく、これるなら数日続けてきてほしいと言われたのだが、店番の依頼の約束があったので断った。これもほぼ1日の仕事で報酬は同じ。力はあまり使わなかったけれど、食事時は忙しく中々に大変だった。
そして店番の日。
時間より早めに店に行くと、店主もすでに店内で待っていた。
仕事内容としては、買いに来る客がいたらレジ対応(レジスターはないけれど)。修理を依頼してくる客がいたら後日出直してもらう。適当に掃除。こんな感じだ。お昼ご飯はわざわざお弁当を用意してくれていた。
いざ店番を始めてみたはいいものの、こういう雰囲気のお店だからなのか、そんなに頻繁に買い替えるものでもないのか客がこない。
私はここのお店がどんなものを扱っているのか色々と見て回ることにした。
まずメインとなる商品はいかにも術師!という感じのローブである。ゲームでもよく魔法職が身に付けているような服だ。
私もそれなりに神術を使えるわけだし、こういうのを着てみるのもいいかもしれない。着ることによって何が変わるのかわからないのだけれど。
試しに一着ローブを羽織ってみる。特に何も変わらない。
試しに手の平に小さく火を作り出してみる。というつもりで作り出したのに思いのほか大きく火の手が上がった。危うく近くの商品に引火するところだった。
なるほど、このローブは触媒と同じような働きをしているようだ。これはいい。ほしい。
値札を見てみると白金貨1枚。わお、お高いのね。確かにそれくらいの価値はあるんだろうけれど、私にはまだ買えないな…。
色々と見てみたけれど、安いものでも金貨7枚、高いものだと白金貨4枚のものなどある。高すぎる。
次のメインどころは触媒を嵌めるための様々な台座だろうか。
私が自分で作ったような腕輪だったり、杖だったりといろいろある。おそらく木でできたこれらは私が使っているものと同じように、それなりに神聖な木から作り出されたものなのだろう。しかしここには触媒自体は売っていないようだ。
あとは旅に適しているようなリュックとか靴とかが売っている。これらに術を強化させる効果はなかった。
それなりに高価なものを扱っているのに、どこの誰だかわからない私1人に店番をやらせていいのだろうか。
別に強盗する気はないけれど、そういうことだってできてしまいそうなセキュリティ体制だ。まぁ、もし仮にそういうことをやってしまえば素性はギルドにばれているわけだし、いつか捕まってしまうんだろう。それにそんなことをしてしまえばもう冒険者としてやっていけなくなる。そのための依頼契約なんだろうし。この世界の警備体制がどうなっているのかはわからないけれど、案外うまくできているのかもしれない。
最初のお客が来たのはお昼前だった。
この目で実際に見るのは初めてだったけれど、おそらくダークエルフ。尖った耳に褐色の肌。神属性である私たちとは違い、魔属性を持ったエルフ。
この世界におけるエルフとダークエルフの関係性はわからないが、店番をしているエルフの私を気にすることなく品物を物色している。
髪は銀髪でそれを長く伸ばした男性のダークエルフだった。背がスラッとしていてとてもイケメンである。
やがてダークエルフの男性は一着のローブを手にカウンターへとやってきた。
白金貨1枚。なかなか高い買い物である。
「白金貨1枚です」
私がそう言うと男性は黙って白金貨を1枚カウンターに置いた。それを受け取りローブを渡す。
男性もそれを黙って受け取り、踵を返した。
「ありがとうございましたー」
結局その男性は一言も言葉を発しなかった。
まぁ、コンビニとかスーパーとかだとそういうこともよくあるとは思う。しかしこれだけの高価なものをお弁当を買うかのような軽い感じで買っていくなんて。冒険者になったらそんなにお金を稼げるんだろうか。
12時を示す鐘がなり、店内でお弁当をいただく。ちなみにトイレに行きたくなったら、その間に誰かが来たらどうしようとドキドキしながら行く。実際にはそんな心配は無用なほど人が来ないのだけれど。
午後にまたお客が来た。真っ直ぐに私のところにやってきて、袋から布の塊を取り出した。
「ローブが切れちゃって補修をお願いしたいんだけど」
見たところ20代後半くらいのヒューマの女性だ。とてもスタイルが良くてきれいな顔立ちをしている。
「すみません、今日は店主が留守でして。お手数ですがまた明日来ていただきたいのですが」
「あら、そうなの。わかったわ。また明日くるわね」
よかった。素直に応じてくれた。
次に来たお客はヒューマと思わしき男性。店内をしばらく物色していたが、何も買わずに立ち去って行った。
次に来た人はお客ではなく、店主に用があったという人だった。今日は留守であることを伝えると後日また来ると言って去って行った。
掃除ももう終わってしまったので非常に暇な店番である。
まぁ、忙しくなるくらいお客に来られてもそれはそれで困るのだが。
日が暮れたころに店主が帰ってきた。
結局午前中にローブが1着売れただけでそれ以外に買っていくお客はいなかった。
「助かったよ。ありがとな」
「いえ、こちらこそお弁当ご馳走様でした」
達成カードをもらい、店を後にした。
暇ではあったけど、一番楽な仕事だった。でもこれを毎日やるとなると飽きそうだ。
ギルドで報告して、明日の仕事を選ぶ。
荷物運びで半日で終わるものがあった。しかも午前中指定の物が1つと、午後指定のものが1つ。報酬は銀貨4枚でポイントは20。これを1日に両方やれば中々効率的だ。
どっちも受理してもらい、明日はこれを両方やることにした。
午前中の荷物運び、これは重い荷物ではあったけれど数も少なく昼前に滞りなく終わった。
少し早めの昼食を摂り、適当に時間をつぶしながら次の依頼先へと向かう。
場所は商業区の南西、ごく普通の酒場。この中のどの人が依頼主かわからないので、適当な店員に声をかけたら地下に通された。
この世界に来てから地下室へ入るのは初めてのことだ。薄暗く、すこし肌寒い。
部屋の奥には檻があり、獣人と思わしき子供が3人入っていた。どの子供も私をちらりと一瞥して表情を変えずにうつむいた。
この子たちはなぜ檻に入れられているの?私の受けた依頼は荷物運びだったはずなのに、この状況はなに?
「出ろ」
私が声をかけた店員の男が檻から3人の子供を出す。それぞれ手枷と足枷がされている。
「悪いがあんたも1人頼む」
男が私に手枷の鎖を持つように促す。
男の言うままに、私はその鎖を握った。
私が鎖を持つように頼まれた獣人の子供は、灰色の犬のような耳と尻尾がついた男の子だった。髪と耳が同化しているように見える。
私を見上げてすぐにうつむく。その目には薄っすらと涙が見えた。
この子たちが何なのか、私は聞いてはいけない。
それは依頼における鉄則。ギルドの関係者に説明をされたわけではないけれど、わかる。
そしてこの子たちが良くないことに巻き込まれているのだろうということも、わかる。
でもどうするのが正解なのか、わからない。
ほとんどは服や靴などの衣類だったが、子供のおもちゃのようなものだったり、古い食器だったり、はたまた武器があったりした。
それをエレノアさんが箱の中身を覗いて、いるものは残し、いらないものは倉庫の外へと運ぶ。ただそれだけの作業をひたすら繰り返した。
途中休憩を設けてくれ、執事の人が冷たい飲み物を用意してくれたりと中々待遇はいい。
12時を知らせる鐘がなると、昼食まで出してくれた。
道中通った食堂で私とエレノアさんの2人だけで食事をとる。当然、SPの人はエレノアさんの後ろについていた。この人は一体いつご飯を食べるのだろう。
出された食事は贅沢の極みだった。
何かのお肉の煮込み料理、パン、スープ、サラダ、デザートまであった。正直ギルドからの依頼で派遣されてきた人間をここまでもてなすとは意外である。
エレノアさんはセレブらしからぬ気さくな人で、家族の話などを楽しげに話してくれた。
今は子供たちが独立してしまい、夫婦2人と使用人しかいないのだという。これだけ広い屋敷なのにもったいない。
私のこともいろいろと聞かれたが、エルフの里で変わり映えのない生活しかしてこなかったので、大して話せることもなかった。それでもエレノアさんはまるで学校から帰った子供の話を聞くお母さんかのように、穏やかな顔で聞いてくれた。
きっとエレノアさんは倉庫整理という名目で人を呼び、こうやって話をしたかったんだろうな。
ずっと気になっていた玄関前で足元が光った術と思われるもののことも聞いた。結界術の一種なのだそうだ。
術が張られた範囲に誰かが入ると光り、なおかつ遠隔でそれを知ることができる。この辺りの家はみな導入しているのだとか。便利だ。
倉庫整理は日が暮れる前に終わった。
達成カードを受け取り、屋敷を後にする。
エレノアさんは名残惜しそうに、ぜひまた縁があればと見送ってくれた。
最初の依頼がここでよかったのか悪かったのか。きっとみんながみんなエレノアさんみたいに良くしてくれるわけではないんだろう。これを基準に考えているとこの先辛そう。
来た道を戻り、ギルドへ報告しに行った。
受付の人に達成カードを渡すと、水晶の下にある台座にギルドカードと達成カードをそれぞれ差し込んだ。一瞬淡く光って、受付の人はすぐにギルドカードを私に差し出した。
受け取って見てみると、ランクの部分がEランク/30となっている。無事にポイントも付与されたようだ。
「こちらが報奨金になります」
銀貨7枚を受け取る。昼食も出されたし、あの仕事量ならば十分だ。
力仕事をした割にはあまり疲れていない。男だからなのだろうか。やはり男性と女性の体では全然違う。前世の自分では持ち上げることも難儀であろう重さの箱も、難なく持つことができた。その後の疲れ具合もおそらく違うのだろう。
こういうところは便利だ。違和感は消えないが、もうこの体とも15年の付き合いになるので、そろそろ慣れたといえば慣れたのかもしれない。
宿に戻る前に明日やる依頼を決めておこう。
Eランクの依頼が貼ってある壁へと移動した。
Eランクの依頼は前世で言ったらほとんどが短期バイトのようなものだ。正直こんなのがやりたくて冒険者になったわけではないので、早くDになりたい。どんどん依頼をこなそう。
色々と見てみると、依頼日が決められているものもちらほらある。例えば、3日後の依頼で内容は店番。こういうのもいいかもしれない。
とりあえず明日やる予定として荷物運びの依頼と、3日後の店番の依頼を受付に持って行く。同時に受けることはできるのかやってみよう。
「この2つを同時に受けることはできますか?」
聞きながら受付にギルドカードと紙を出す。受付の人は紙を交互に見て頷いた。
「この依頼ならば同時に受けることは可能ですよ」
「ではお願いします」
「かしこまりました」
受付の人はそれぞれの依頼の受注場所の紙と共にカードと依頼内容の紙を差し出した。
「3日後の依頼につきましては、事前に一度依頼主の元へ受注したことを報告してくださいね」
「なるほど、わかりました」
すべてを受け取ってギルドを出る。
どうせならこのまま3日後の依頼主の元へ行ってしまおう。ここからすぐ近くだ。記載されている住所のところまで歩いて5分ほどだった。
ここは術師向けのローブや道具が売っているお店。非常に興味深いし、いいものがあるのなら自分もほしい。
店の中は外からは見えない。窓はあるけれど、カーテンがかけられている。外に出されている看板に、術師用のものが売られていることが書いてあるのみだ。
扉を開けて中に入ると、店内は薄暗く、陰湿としていた。カーテンを開けるだけでもだいぶ雰囲気が変わりそうな気がするのだけれど、あえてそうしているのだろうか。
「いらっしゃいませ」
奥の方から50~60代くらいの男性の声が聞こえた。
声の主の元へと行く。
店主と思われる男性はカウンターに座り、杖のようなものを布で磨いていた。
私が近づくと視線だけをこちらへ向け、何か用かと目で語っているように見える。
「ギルドで依頼を受けたものです」
ギルドカードと依頼の紙を差し出す。
「ああ、依頼受けてくれたのか。3日後にどうしても用事があってな。店を開けなきゃいけなかったから」
立ち上がり私からギルドカードを受け取る。
依頼主の名前はリンドルフ・ディノン。おそらくこの人がそうだろう。
「あまり物には詳しくないのですが、私でも大丈夫でしょうか?」
この感じだと1人で店番をすることになりそうだ。もし客からいろいろと聞かれることがあるのであればちょっと厳しいかもしれない。
まだ3日後の話であるし、詳しい人じゃなければならないのなら引き返せる。
「問題ない。ただあんたはここで店番しててくれればいい。金の計算はできるだろ?」
「はい」
「客に何か聞かれてもわからないものはわからないと答えればいい。修理の依頼が来たら次の日に来てくれと伝えてくれ」
「わかりました」
それでいいのか。それならば私でもできそうだ。
3日後、9時までに来るようにとだけ言われたので、ひとまず店を後にした。寝坊しないようにしないと。
明日の依頼は荷物運びだ。また体力仕事になる。もうそろそろ日も暮れるので宿に帰って休もう。
宿に戻りお風呂に入った後、1階の食堂で適当に食事を済ます。
昨日は父が払ってくれたのでいくらかかったのかわからなかったが、今回の食事代は銅貨7枚ほどだった。リーズナブル。
そしてついでに洗濯物が仕上がっていたので父の分と合わせて受け取った。
父はもう森についてフィンキーを狩っているのかな。一週間も森に籠って狩りをするなんて、それが冒険者として普通なことなのだろうか。私だったら1人でなんて寂しいし、不安だ。
父と別れたらなるべく早めに仲間を探したい。父が言っていたように、最初は討伐の臨時パーティーでもいい。
そのためには早くギルドランクを上げてそういう依頼を受けられるようにしなくては。
次の日、朝食を摂ってから依頼主の元へと向かう。
荷物運び。昨日の倉庫整理と同様に目安時間は1日で、もらえる報酬もポイントも変わらない。
1日かかるような仕事はこれくらいと相場が決まっているのだろう。
基本的にシスタスの西にあるギルドに掲載されている依頼は、街の西側に依頼主がいるものが多い。よって宿から依頼主のところまではそう時間がかからず移動できる。
昨日は北西の富裕層が住んでいると思われる居住区であったが、今回は西門近くの商業区が依頼場所だった。
店が立ち並ぶようなところではなく、倉庫街という言葉がぴったりな場所だ。ひっきりなしに馬車が行き来している。
今回の依頼は馬車から積荷を下ろし、倉庫へ入れる。リストを渡され、品物を指定場所へと運ぶ。大体こんな感じだった。
昨日は昼食をごちそうになったけれど、今回はそんなことはなく昼休憩には自分で近くの店まで食べに行く必要があった。それがきっと普通なんだろうな。
特に何か問題が起きることもなく、与えられた仕事をこなして2日目の依頼は終わった。
今回は荷物の重さもそれなりにあり、移動距離も長かったので昨日よりも体力的には消耗した。明日は少し軽めの依頼にしておこう。
ギルドに戻り報酬をもらう。これで60ポイント。果てしない。私は異世界で一体何をやっているのだろう。これから1人で生きていくためには仕方ないんだ。そうなんだ。
次の日の依頼は飲食店の雑用を選んだ。主に皿洗いとかウェイターの仕事である。慢性的に人手が足りないらしく、これるなら数日続けてきてほしいと言われたのだが、店番の依頼の約束があったので断った。これもほぼ1日の仕事で報酬は同じ。力はあまり使わなかったけれど、食事時は忙しく中々に大変だった。
そして店番の日。
時間より早めに店に行くと、店主もすでに店内で待っていた。
仕事内容としては、買いに来る客がいたらレジ対応(レジスターはないけれど)。修理を依頼してくる客がいたら後日出直してもらう。適当に掃除。こんな感じだ。お昼ご飯はわざわざお弁当を用意してくれていた。
いざ店番を始めてみたはいいものの、こういう雰囲気のお店だからなのか、そんなに頻繁に買い替えるものでもないのか客がこない。
私はここのお店がどんなものを扱っているのか色々と見て回ることにした。
まずメインとなる商品はいかにも術師!という感じのローブである。ゲームでもよく魔法職が身に付けているような服だ。
私もそれなりに神術を使えるわけだし、こういうのを着てみるのもいいかもしれない。着ることによって何が変わるのかわからないのだけれど。
試しに一着ローブを羽織ってみる。特に何も変わらない。
試しに手の平に小さく火を作り出してみる。というつもりで作り出したのに思いのほか大きく火の手が上がった。危うく近くの商品に引火するところだった。
なるほど、このローブは触媒と同じような働きをしているようだ。これはいい。ほしい。
値札を見てみると白金貨1枚。わお、お高いのね。確かにそれくらいの価値はあるんだろうけれど、私にはまだ買えないな…。
色々と見てみたけれど、安いものでも金貨7枚、高いものだと白金貨4枚のものなどある。高すぎる。
次のメインどころは触媒を嵌めるための様々な台座だろうか。
私が自分で作ったような腕輪だったり、杖だったりといろいろある。おそらく木でできたこれらは私が使っているものと同じように、それなりに神聖な木から作り出されたものなのだろう。しかしここには触媒自体は売っていないようだ。
あとは旅に適しているようなリュックとか靴とかが売っている。これらに術を強化させる効果はなかった。
それなりに高価なものを扱っているのに、どこの誰だかわからない私1人に店番をやらせていいのだろうか。
別に強盗する気はないけれど、そういうことだってできてしまいそうなセキュリティ体制だ。まぁ、もし仮にそういうことをやってしまえば素性はギルドにばれているわけだし、いつか捕まってしまうんだろう。それにそんなことをしてしまえばもう冒険者としてやっていけなくなる。そのための依頼契約なんだろうし。この世界の警備体制がどうなっているのかはわからないけれど、案外うまくできているのかもしれない。
最初のお客が来たのはお昼前だった。
この目で実際に見るのは初めてだったけれど、おそらくダークエルフ。尖った耳に褐色の肌。神属性である私たちとは違い、魔属性を持ったエルフ。
この世界におけるエルフとダークエルフの関係性はわからないが、店番をしているエルフの私を気にすることなく品物を物色している。
髪は銀髪でそれを長く伸ばした男性のダークエルフだった。背がスラッとしていてとてもイケメンである。
やがてダークエルフの男性は一着のローブを手にカウンターへとやってきた。
白金貨1枚。なかなか高い買い物である。
「白金貨1枚です」
私がそう言うと男性は黙って白金貨を1枚カウンターに置いた。それを受け取りローブを渡す。
男性もそれを黙って受け取り、踵を返した。
「ありがとうございましたー」
結局その男性は一言も言葉を発しなかった。
まぁ、コンビニとかスーパーとかだとそういうこともよくあるとは思う。しかしこれだけの高価なものをお弁当を買うかのような軽い感じで買っていくなんて。冒険者になったらそんなにお金を稼げるんだろうか。
12時を示す鐘がなり、店内でお弁当をいただく。ちなみにトイレに行きたくなったら、その間に誰かが来たらどうしようとドキドキしながら行く。実際にはそんな心配は無用なほど人が来ないのだけれど。
午後にまたお客が来た。真っ直ぐに私のところにやってきて、袋から布の塊を取り出した。
「ローブが切れちゃって補修をお願いしたいんだけど」
見たところ20代後半くらいのヒューマの女性だ。とてもスタイルが良くてきれいな顔立ちをしている。
「すみません、今日は店主が留守でして。お手数ですがまた明日来ていただきたいのですが」
「あら、そうなの。わかったわ。また明日くるわね」
よかった。素直に応じてくれた。
次に来たお客はヒューマと思わしき男性。店内をしばらく物色していたが、何も買わずに立ち去って行った。
次に来た人はお客ではなく、店主に用があったという人だった。今日は留守であることを伝えると後日また来ると言って去って行った。
掃除ももう終わってしまったので非常に暇な店番である。
まぁ、忙しくなるくらいお客に来られてもそれはそれで困るのだが。
日が暮れたころに店主が帰ってきた。
結局午前中にローブが1着売れただけでそれ以外に買っていくお客はいなかった。
「助かったよ。ありがとな」
「いえ、こちらこそお弁当ご馳走様でした」
達成カードをもらい、店を後にした。
暇ではあったけど、一番楽な仕事だった。でもこれを毎日やるとなると飽きそうだ。
ギルドで報告して、明日の仕事を選ぶ。
荷物運びで半日で終わるものがあった。しかも午前中指定の物が1つと、午後指定のものが1つ。報酬は銀貨4枚でポイントは20。これを1日に両方やれば中々効率的だ。
どっちも受理してもらい、明日はこれを両方やることにした。
午前中の荷物運び、これは重い荷物ではあったけれど数も少なく昼前に滞りなく終わった。
少し早めの昼食を摂り、適当に時間をつぶしながら次の依頼先へと向かう。
場所は商業区の南西、ごく普通の酒場。この中のどの人が依頼主かわからないので、適当な店員に声をかけたら地下に通された。
この世界に来てから地下室へ入るのは初めてのことだ。薄暗く、すこし肌寒い。
部屋の奥には檻があり、獣人と思わしき子供が3人入っていた。どの子供も私をちらりと一瞥して表情を変えずにうつむいた。
この子たちはなぜ檻に入れられているの?私の受けた依頼は荷物運びだったはずなのに、この状況はなに?
「出ろ」
私が声をかけた店員の男が檻から3人の子供を出す。それぞれ手枷と足枷がされている。
「悪いがあんたも1人頼む」
男が私に手枷の鎖を持つように促す。
男の言うままに、私はその鎖を握った。
私が鎖を持つように頼まれた獣人の子供は、灰色の犬のような耳と尻尾がついた男の子だった。髪と耳が同化しているように見える。
私を見上げてすぐにうつむく。その目には薄っすらと涙が見えた。
この子たちが何なのか、私は聞いてはいけない。
それは依頼における鉄則。ギルドの関係者に説明をされたわけではないけれど、わかる。
そしてこの子たちが良くないことに巻き込まれているのだろうということも、わかる。
でもどうするのが正解なのか、わからない。
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