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二章
第26話 死
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次の日、私はリーゼロッテとパーティーを組んだ。
フィリオ、アイゼン、私、リーゼロッテのパーティーだ。
「エレンの様子はどう?」
最初は死体処理側からのスタートでやることもなかったので、私はリーゼロッテに切り出した。
「夜だとやはり気持ちが不安定になるのか部屋では泣いていました。私とベルナはただ寄り添って落ち着くのを待つしかできなくて…」
「そっか…でもそれがエレンにとって支えになっているんだと思う。僕たち男にはできないことだし、そうやって側にいてあげてほしい…。今は言葉をかけるよりもその方がエレンにはいいんだと思う」
「はい…」
「お前ら何か揉めてたけどそれはもう解決したのか?」
私とリーゼロッテの会話にアイゼンが直球で飛び込んでくる。まぁ、別にそれはみんなわかっていることだからいいのか…。
「そのことは今はお互いに触れていません。ベルナはこういうことには不器用ですし、それを気にしていたらエレンは本当に1人になってしまいますから」
大人な対応だな、リーゼロッテ。
自分の気持ちはどうであれエレンのためにそういう対応ができるリーゼロッテを私も見習いたい。
「どうして2人は揉めていたんです?」
フィリオも会話に入ってきた。
アイゼンの質問にリーゼロッテが気を悪くした風もなかったので、今なら聞けると思ったのだろう。
「エレンはオルコット家の私が討伐隊に参加して騎士見習いに志願していることを快く思っていないみたいで。そのことについて度々嫌味を言われていたので、私も報復しただけです」
報復…。怖いな、リーゼロッテ。
「エレンは、孤児院の出だと聞きました。そんなエレンから見たら私が討伐隊に志願することはおかしいことなのでしょう。でも私は、オルコット家を出て騎士になりたいんです。家に縛られて一生を送るなんて、嫌なんです」
「なるほど…」
当初の予想通り、身分の差的な問題だったんだな。
そんなことでエレンもいちいち嫌味を言うなんて、と思うけれど、私が知らないだけでこの国には根深い格差問題があるのだろうか。
「その辺りについては僕たちが口を出すことではないので何も言いませんが、きっとエレンはそんなあなたが今までの確執を顧みずに寄り添ってくれて、嬉しく思っているのではないでしょうか。どうか、支えになってあげてください」
「支えになれれば、いいんですが」
フィリオの言葉にリーゼロッテは悲しそうに目を伏せた。
この日の休憩はベルナと一緒だった。
ベルナはエレンとどう接すればいいのかわからない、と肩を落としていた。
ただ隣にいるだけでいいんじゃないの、と言ってはみたものの、納得したのかしていないのか、休憩時間も1人で考え込んでいるようだった。
ベルナもベルナなりに、エレンを励まそうと尽力はしているようだ。
それから1週間が経った。
エレンは笑顔こそあまり見せないものの、ずいぶん普通に振る舞っているように見える。
自分から話を振ってくることはあまりないが、こちらから話を振れば普通に会話もしてくれる。それが雑談と呼べるようなものであっても、だ。
だから私たちはなるべくエレンに些細な話題でも小まめに話しかけるようにしていた。
エレンからしても私たちが励ますためにそうしているだろうことはわかっていると思うが、それに対して不快な態度を取ることもなく、むしろお礼を言ってくることもあった。中々いい兆候なのではないだろうか。
「君に聞きたいことがある」
この日の休憩はセスと一緒だった。
横穴でお弁当を広げるなり、セスがそう口を開いた。
「なに?」
あれ以来2人きりで話をする機会もなかったので若干気まずい。
「俺が1週間前、ヴィクトールに解任要請を出したことを誰かに話したりしたかな?そのことについて誰も触れないから、君は誰にも話していないんじゃないかと思っているんだけど」
そういえばあれから1週間、特にそれについてなんの動きもない。動きがなさ過ぎて忘れそうになっていたくらいだ。
「うん、話してないよ」
「じゃあ君には報告をしておく。解任要請は認められなかった。今俺がパーシヴァルの一件で3班を去るのはエレンのためにも良くないだろう、というのがヴィクトールの見解だ」
「よかった。…って言っていいのかわからないけど…」
私がそう言うと、セスは苦い顔で笑った。
「誰も怪我をしないなら、いいんだけどね。この先本当に俺の力不足で助けられなかったなんてことが起きたら、さすがに俺も…。解任が認められなかった以上、無理をしてでもやれるだけはやらないと」
「その言い方じゃ前の治癒術師みたいに命を懸けて助けるみたいに聞こえる。そうやって助けられても辛すぎるよ。今まさにエレンがそうじゃないか…」
「心配しなくても俺にはヒューマのようにリミッターは外せないから、自分の命と引き換えに助けるなんてことはできないよ」
予想外の言葉が返ってきた。
リミッターを外す?どういうこと?
「リミッターって、神力を消費しすぎた時に気を失うやつ?外せるの?」
「ああ。ヒューマは"リミッターを外す"と詠唱するだけで簡単に外せるらしい。逆にヒューマ以外の種族は何をどうやっても絶対に外せない。これはヒューマのみに与えられた能力だ」
「へぇ~!そうなんだ、知らなかった」
ヒューマって寿命は短いけどなんだか特別なんだな。普通は種族ごとに固定されている適正がバラバラだったり、属性も人によって違う。リミッターもそんな簡単に外せる。いや、外すことは死を意味するんだろうから物理的に簡単ではあっても精神的には難しいか。
「君が扱うような元素の神術は、発動と同時にそれに見合うだけの神力が一気に消費されるから残りの神力以上に消費するものを具現してしまうと命を落とすこともあるが、治癒術はそうじゃない。水が流れて行くように徐々に消費されていくから、何をどうやったってリミッターに引っかかる。だから君が心配しているようなことにはならない。やりたくても俺にはできない」
「なるほどなぁ」
やりたくてもできない、か。
本当にこの人の心の内はよくわからない。
今こうやって言っている言葉も嘘には感じられないし、必要があれば誰でも殺せると冷たく言い放ったあの言葉も嘘には感じられない。
人を殺す必要性というものが私には理解できないから何とも言えないんだけど、それが悪人を裁く、という意味合いともまた違う気がして怖い。実際エレンは悪人ではないわけだし。
もしこの先違う場所で違う立場で再び出会ったとして、そこに必要性があるのならばセスは私のことも躊躇いなく殺せるのだろうか。それとも少しの躊躇いはあるのだろうか。
でもそれを聞いて"躊躇わない"なんて言われたらそれなりにショックだから聞かないにしよう。
「怪我しないように気を付けるよ」
なんて言ったのが逆にいけなかったのだろうか、これが立派なフラグ立てになってしまった。
誰かしらが怪我をする時は大体リザードマンが原因だ。
詠唱を必要とする後衛は手を出さない、ということから怪我をするのは主に前衛の誰かだ。
リザードマンの強さから言ってもそれは決して軽い怪我ではなく、脇腹を深く切ったとか、リザードマンの刃が腕を貫通してしまったとか、痛々しいものが多い。
そんな怪我をした後でも、次にまたリザードマンが出て来た時にはみんな怯まずに向かって行く。それは素直にすごいと思う。
私は、ダメだった。
この時、ちょこまかと素早く動き回るリザードマンの足に岩石を絡ませることで、私は何とか足止めに成功した。
「シエル、リザードマンに近すぎる!離れるんだ!」
後方からセスが叫ぶ声が聞こえる。
確かにリザードマンを足止めすることにだけ集中して、近づきすぎていた。
しかし早く離れなければ、そう考えた瞬間に突然リザードマンが凄まじい咆哮を上げた。
空気がびりびりと振動して、肌が痛くなるような、そんな咆哮だった。
今まで倒してきたリザードマンでそんな咆哮を上げたものはいなかった。でもそれが"気"ってやつなんだろう。足を絡めていた岩石が砂になって崩れた。
それと同時にアイゼンも、その時一緒に前衛を担当していたベルナも警戒したのかその場で動きを止めた。
自由になったリザードマンの一番近くにいたのは私だった。
「シエル!!」
私の名を叫んだのが誰だったのか覚えていない。
刃を構え、凄まじい速さで向かってくるリザードマンを、私は咄嗟に岩石の盾を作り出すことで防ごうとした。
そう、防ごうとはした。でもその瞬間、盾を貫通して手の平を貫かれたことが頭をよぎった。
頭をよぎって、そして躊躇ってしまった。
その一瞬の躊躇いで、すべての回避行動が手遅れとなった。
避けることも術で防ぐこともできず、私は腕で頭を守って、体を捻ることで心臓を守った。のだと思う。これが防衛本能というやつなのだろう。意識してやったわけではないので、あまり覚えてはいない。
体を捻ったことで無防備に晒した背中をリザードマンの刃が貫いた。焼けつくような熱さの後、とんでもない激痛が私の身を襲った。
その刃は左の肩甲骨の辺りから左の肋骨辺りへと斜めに刺し貫かれていた。
血で染まったそれが視界に入った瞬間、さすがにこれはもうダメだろうとひどく冷静に考える自分がいた。
あまりの痛みに体を支えられずに膝をつく。そのまま前のめりに倒れた体を誰かが受け止めてくれたが、それが誰なのかはわからなかった。
刃を抜く前に誰かが倒したのだろうか、リザードマンが私に覆いかぶさるように一緒になって倒れてきた。
「ぐぅっ…」
その衝撃がさらなる激痛を生み、私は声を抑えることができなかった。
私の名前を呼ぶ声が複数聞こえる。誰が誰だか、認識している余裕はなかった。
「ニコラ、リザードマンの腕を切り落としてくれないか。これを抜かずに横穴まで運びたい」
私の体を支えている人物がそう言った。セスの声だった。別段焦った様子もない。きっとセスにはもう無理なことがわかっているのだろう。
「わ、わかった」
セスから指示を受けたニコラが風の魔術でリザードマンの体から腕を切り離した。その瞬間の衝撃でもさらに傷が痛んだが、私にもたれかかっていたリザードマンの体が離され少し体が軽くなる。
しかしあり得ないくらい痛いのに、意識すらなくならない。前世で死んだ時には痛みなんて一瞬で終わったのに。
どうせ助からないなら今すぐ誰か楽にしてくれないだろうか。頼んでみようかとも思ったけれど、痛みで喋れる気もしなかった。
「セス、シエルは…」
遠くでガヴェインの声がする。
「…最善は尽くす。2人ほど男手を借りたい」
「わかった。アイゼン、ニコラ」
「はい」
ガヴェインの指示で2人が私の近くまで来た気配がする。
「シエルを運ぶ、手伝ってくれ」
そう言ってセスが私を抱えたまま立ち上がった。
「ぐっ…」
足に力が入らず、上半身で体重を支えることになって傷がより痛む。
私は縋るようにセスの服をきつく握った。
「ごめん…」
セスが私にしか聞こえないくらいの声量で呟いた。
何のごめんなんだろう。持ち上げるのに痛くしてごめんってことだろうか。それとも、私を助けられないであろうことだろうか。セスが謝ることじゃないのに。セスはちゃんと忠告してくれていたのに。
アイゼンとニコラが手伝ってくれたのだろう。体が宙に浮いている感覚がする。
「アイゼン、シエルの上半身がベッドにつかないように支えていてくれ」
ベッドに降ろされた感触が足に伝わった。横穴についたようだ。
背中をアイゼンが支えてくれている。私は痛みに身を捩ることくらいしかできず、体をアイゼンに預けた。
「シエル、しっかりしてくれ…俺が、俺が立ち止まったから…」
アイゼンの苦しそうな声がした。
あぁ、自分を責めているのか。違う。私がセスの忠告を無視してリザードマンに近づきすぎたせいだ。
言わなければ。このまま私が死んだらアイゼンはエレンと同じように自分を責め続ける。
「アイ…ゼン…ちが、う…君の…せいじゃ…ない…」
何とか声を絞り出す。聞こえているだろうか。
痛みできつく閉じていた目を開けてみた。残念ながら視界がぼやけて3人の顔は見えない。
あぁ、もう本当に死ぬんだな。
「シエル…!」
「シエル喋らないで」
セスが会話を遮るようにピシャリと言った。
それと同時に腕に何かを注射される。痛み止めだろうか。
でももう死ぬのなら、今言わなければもう言えなくなってしまう。
「セス…ぼく、は…」
セスにも言いたい。
あの問いの答えを。
3班の治癒術師がセスで良かったと。
残された最後の意識の中で、私はそう思うと。
「喋るな!死にたいのか!」
セスが強い口調で私に言う。
そんな風に荒上げた声を私は初めて聞いた。
「しぬ、んでしょ…もう…」
「まだ助けられる可能性はある。助けたいんだ。だから喋らないでくれ。頼むから」
そして今度は懇願するように言った。
その可能性は低そうな言い方に聞こえるが、私は素直に黙ることにした。
「アイゼン、ニコラ、よく聞いてくれ。これを抜くのと同時に俺が治癒術をかける。限界まで神力を使ってもまだ出血が止まってなかったら、君たちで止血を試みてほしい。出血が止まれば助かるかもしれない」
助かる"かもしれない"。ということは出血が止まっても助からないかもしれないことを意味している。この怪我だもんな。自分でもわかる。
しかし今から抜くのか、これを…。痛すぎるでしょ、それ…。
「限界までって…」
「俺はヒューマと違ってリミッターは外せないから気を失うだけだ。でも数時間は意識が戻らないし、戻ってもしばらく動けない。下山する時にはシエルを担架に乗せて俺はここに残して行って構わない。なるべく振動を与えないように気をつけて、すぐ駐屯地の治癒術師の元へ行ってくれ」
「わかった」
「止血の仕方と、その後の処置の仕方を教える」
3人が私を助けるために色々とやってくれている。
痛みが少し楽になってきたが息がひどく苦しい。早く、楽になりたい。
でもそうなったらみんなは苦しむんだな、エレンと同じように。私を助けられなかったと、責めるんだろうな。
私が死んだらみんな泣いてくれるのかな…。
死ぬかもしれないのに不思議とあまり未練はない。なんでだろ。やりたいことをやりきったという訳でもないのに。
「ニコラ、そろそろやる。俺の合図で躊躇わずに一気に抜いて。いいね?」
「う、うん」
だいぶ痛みが楽になってきたころにセスが言った。
「シエルごめん、さっき打った痛み止めは麻酔とは違うからかなり痛むと思う。でも絶対に助けるから、辛いだろうけど耐えてくれ。ニコラいくよ、抜いて!」
私の返事も待たずにグッと刃が引かれた。
想像以上の痛みに体が大きく跳ねた気がしたけれど、実際にはどうだったのだろう。声の限りに叫んだ気がするのだけど、実際にはどうだったのだろう。
そこから先は痛みしか記憶に残っていなかった。
気づいたら、深い森の中にいた。
死んだのか。
今は痛みすら感じない。ここは死後の世界ということなんだろうか。
結局セスに言葉を伝えることはできなかったな。
私を助けられなかったあの3人は、自分を責めてしまうだろうか。
あの時、セスの忠告に従ってすぐにリザードマンと距離を取っていれば。もしくは躊躇わずに盾を作り出せていれば。そうしたら死なずに済んだかもしれない。
後悔してももう遅いけど。自嘲的な笑みがこぼれた。
それにしても異世界転生なんて、貴重な体験ができた。魔法も使えて、旅にも出て、最後に仲間もできた。15年で終わってしまったけど中々濃い人生だった。
生まれ変わることがあるとしたら、次もまたこの世界に生まれたい。
そうしたら今度はもう少し上手く生きてみよう。
さて、ここからどうすればいいのだろう。
深い森の中を歩いてみるけれど、同じような景色で進んでいるのかすらわからない。
なんだろう。私は以前、ここに来たことがある気がする。
そうだ、成人の儀の日に、お酒を浴びるほど飲まされて倒れた時に夢でこんな森の中を歩いた。
もしかしてあの時も実は死にかけてたとかそういうこと?そうだとしたら、今だって同じように目を覚ませる可能性があるんじゃなかろうか。
あの時はどうしたんだっけ。確かひたすら森の中を歩いた気がする。歩いてみよう。戻れる可能性があるのなら。
フィリオ、アイゼン、私、リーゼロッテのパーティーだ。
「エレンの様子はどう?」
最初は死体処理側からのスタートでやることもなかったので、私はリーゼロッテに切り出した。
「夜だとやはり気持ちが不安定になるのか部屋では泣いていました。私とベルナはただ寄り添って落ち着くのを待つしかできなくて…」
「そっか…でもそれがエレンにとって支えになっているんだと思う。僕たち男にはできないことだし、そうやって側にいてあげてほしい…。今は言葉をかけるよりもその方がエレンにはいいんだと思う」
「はい…」
「お前ら何か揉めてたけどそれはもう解決したのか?」
私とリーゼロッテの会話にアイゼンが直球で飛び込んでくる。まぁ、別にそれはみんなわかっていることだからいいのか…。
「そのことは今はお互いに触れていません。ベルナはこういうことには不器用ですし、それを気にしていたらエレンは本当に1人になってしまいますから」
大人な対応だな、リーゼロッテ。
自分の気持ちはどうであれエレンのためにそういう対応ができるリーゼロッテを私も見習いたい。
「どうして2人は揉めていたんです?」
フィリオも会話に入ってきた。
アイゼンの質問にリーゼロッテが気を悪くした風もなかったので、今なら聞けると思ったのだろう。
「エレンはオルコット家の私が討伐隊に参加して騎士見習いに志願していることを快く思っていないみたいで。そのことについて度々嫌味を言われていたので、私も報復しただけです」
報復…。怖いな、リーゼロッテ。
「エレンは、孤児院の出だと聞きました。そんなエレンから見たら私が討伐隊に志願することはおかしいことなのでしょう。でも私は、オルコット家を出て騎士になりたいんです。家に縛られて一生を送るなんて、嫌なんです」
「なるほど…」
当初の予想通り、身分の差的な問題だったんだな。
そんなことでエレンもいちいち嫌味を言うなんて、と思うけれど、私が知らないだけでこの国には根深い格差問題があるのだろうか。
「その辺りについては僕たちが口を出すことではないので何も言いませんが、きっとエレンはそんなあなたが今までの確執を顧みずに寄り添ってくれて、嬉しく思っているのではないでしょうか。どうか、支えになってあげてください」
「支えになれれば、いいんですが」
フィリオの言葉にリーゼロッテは悲しそうに目を伏せた。
この日の休憩はベルナと一緒だった。
ベルナはエレンとどう接すればいいのかわからない、と肩を落としていた。
ただ隣にいるだけでいいんじゃないの、と言ってはみたものの、納得したのかしていないのか、休憩時間も1人で考え込んでいるようだった。
ベルナもベルナなりに、エレンを励まそうと尽力はしているようだ。
それから1週間が経った。
エレンは笑顔こそあまり見せないものの、ずいぶん普通に振る舞っているように見える。
自分から話を振ってくることはあまりないが、こちらから話を振れば普通に会話もしてくれる。それが雑談と呼べるようなものであっても、だ。
だから私たちはなるべくエレンに些細な話題でも小まめに話しかけるようにしていた。
エレンからしても私たちが励ますためにそうしているだろうことはわかっていると思うが、それに対して不快な態度を取ることもなく、むしろお礼を言ってくることもあった。中々いい兆候なのではないだろうか。
「君に聞きたいことがある」
この日の休憩はセスと一緒だった。
横穴でお弁当を広げるなり、セスがそう口を開いた。
「なに?」
あれ以来2人きりで話をする機会もなかったので若干気まずい。
「俺が1週間前、ヴィクトールに解任要請を出したことを誰かに話したりしたかな?そのことについて誰も触れないから、君は誰にも話していないんじゃないかと思っているんだけど」
そういえばあれから1週間、特にそれについてなんの動きもない。動きがなさ過ぎて忘れそうになっていたくらいだ。
「うん、話してないよ」
「じゃあ君には報告をしておく。解任要請は認められなかった。今俺がパーシヴァルの一件で3班を去るのはエレンのためにも良くないだろう、というのがヴィクトールの見解だ」
「よかった。…って言っていいのかわからないけど…」
私がそう言うと、セスは苦い顔で笑った。
「誰も怪我をしないなら、いいんだけどね。この先本当に俺の力不足で助けられなかったなんてことが起きたら、さすがに俺も…。解任が認められなかった以上、無理をしてでもやれるだけはやらないと」
「その言い方じゃ前の治癒術師みたいに命を懸けて助けるみたいに聞こえる。そうやって助けられても辛すぎるよ。今まさにエレンがそうじゃないか…」
「心配しなくても俺にはヒューマのようにリミッターは外せないから、自分の命と引き換えに助けるなんてことはできないよ」
予想外の言葉が返ってきた。
リミッターを外す?どういうこと?
「リミッターって、神力を消費しすぎた時に気を失うやつ?外せるの?」
「ああ。ヒューマは"リミッターを外す"と詠唱するだけで簡単に外せるらしい。逆にヒューマ以外の種族は何をどうやっても絶対に外せない。これはヒューマのみに与えられた能力だ」
「へぇ~!そうなんだ、知らなかった」
ヒューマって寿命は短いけどなんだか特別なんだな。普通は種族ごとに固定されている適正がバラバラだったり、属性も人によって違う。リミッターもそんな簡単に外せる。いや、外すことは死を意味するんだろうから物理的に簡単ではあっても精神的には難しいか。
「君が扱うような元素の神術は、発動と同時にそれに見合うだけの神力が一気に消費されるから残りの神力以上に消費するものを具現してしまうと命を落とすこともあるが、治癒術はそうじゃない。水が流れて行くように徐々に消費されていくから、何をどうやったってリミッターに引っかかる。だから君が心配しているようなことにはならない。やりたくても俺にはできない」
「なるほどなぁ」
やりたくてもできない、か。
本当にこの人の心の内はよくわからない。
今こうやって言っている言葉も嘘には感じられないし、必要があれば誰でも殺せると冷たく言い放ったあの言葉も嘘には感じられない。
人を殺す必要性というものが私には理解できないから何とも言えないんだけど、それが悪人を裁く、という意味合いともまた違う気がして怖い。実際エレンは悪人ではないわけだし。
もしこの先違う場所で違う立場で再び出会ったとして、そこに必要性があるのならばセスは私のことも躊躇いなく殺せるのだろうか。それとも少しの躊躇いはあるのだろうか。
でもそれを聞いて"躊躇わない"なんて言われたらそれなりにショックだから聞かないにしよう。
「怪我しないように気を付けるよ」
なんて言ったのが逆にいけなかったのだろうか、これが立派なフラグ立てになってしまった。
誰かしらが怪我をする時は大体リザードマンが原因だ。
詠唱を必要とする後衛は手を出さない、ということから怪我をするのは主に前衛の誰かだ。
リザードマンの強さから言ってもそれは決して軽い怪我ではなく、脇腹を深く切ったとか、リザードマンの刃が腕を貫通してしまったとか、痛々しいものが多い。
そんな怪我をした後でも、次にまたリザードマンが出て来た時にはみんな怯まずに向かって行く。それは素直にすごいと思う。
私は、ダメだった。
この時、ちょこまかと素早く動き回るリザードマンの足に岩石を絡ませることで、私は何とか足止めに成功した。
「シエル、リザードマンに近すぎる!離れるんだ!」
後方からセスが叫ぶ声が聞こえる。
確かにリザードマンを足止めすることにだけ集中して、近づきすぎていた。
しかし早く離れなければ、そう考えた瞬間に突然リザードマンが凄まじい咆哮を上げた。
空気がびりびりと振動して、肌が痛くなるような、そんな咆哮だった。
今まで倒してきたリザードマンでそんな咆哮を上げたものはいなかった。でもそれが"気"ってやつなんだろう。足を絡めていた岩石が砂になって崩れた。
それと同時にアイゼンも、その時一緒に前衛を担当していたベルナも警戒したのかその場で動きを止めた。
自由になったリザードマンの一番近くにいたのは私だった。
「シエル!!」
私の名を叫んだのが誰だったのか覚えていない。
刃を構え、凄まじい速さで向かってくるリザードマンを、私は咄嗟に岩石の盾を作り出すことで防ごうとした。
そう、防ごうとはした。でもその瞬間、盾を貫通して手の平を貫かれたことが頭をよぎった。
頭をよぎって、そして躊躇ってしまった。
その一瞬の躊躇いで、すべての回避行動が手遅れとなった。
避けることも術で防ぐこともできず、私は腕で頭を守って、体を捻ることで心臓を守った。のだと思う。これが防衛本能というやつなのだろう。意識してやったわけではないので、あまり覚えてはいない。
体を捻ったことで無防備に晒した背中をリザードマンの刃が貫いた。焼けつくような熱さの後、とんでもない激痛が私の身を襲った。
その刃は左の肩甲骨の辺りから左の肋骨辺りへと斜めに刺し貫かれていた。
血で染まったそれが視界に入った瞬間、さすがにこれはもうダメだろうとひどく冷静に考える自分がいた。
あまりの痛みに体を支えられずに膝をつく。そのまま前のめりに倒れた体を誰かが受け止めてくれたが、それが誰なのかはわからなかった。
刃を抜く前に誰かが倒したのだろうか、リザードマンが私に覆いかぶさるように一緒になって倒れてきた。
「ぐぅっ…」
その衝撃がさらなる激痛を生み、私は声を抑えることができなかった。
私の名前を呼ぶ声が複数聞こえる。誰が誰だか、認識している余裕はなかった。
「ニコラ、リザードマンの腕を切り落としてくれないか。これを抜かずに横穴まで運びたい」
私の体を支えている人物がそう言った。セスの声だった。別段焦った様子もない。きっとセスにはもう無理なことがわかっているのだろう。
「わ、わかった」
セスから指示を受けたニコラが風の魔術でリザードマンの体から腕を切り離した。その瞬間の衝撃でもさらに傷が痛んだが、私にもたれかかっていたリザードマンの体が離され少し体が軽くなる。
しかしあり得ないくらい痛いのに、意識すらなくならない。前世で死んだ時には痛みなんて一瞬で終わったのに。
どうせ助からないなら今すぐ誰か楽にしてくれないだろうか。頼んでみようかとも思ったけれど、痛みで喋れる気もしなかった。
「セス、シエルは…」
遠くでガヴェインの声がする。
「…最善は尽くす。2人ほど男手を借りたい」
「わかった。アイゼン、ニコラ」
「はい」
ガヴェインの指示で2人が私の近くまで来た気配がする。
「シエルを運ぶ、手伝ってくれ」
そう言ってセスが私を抱えたまま立ち上がった。
「ぐっ…」
足に力が入らず、上半身で体重を支えることになって傷がより痛む。
私は縋るようにセスの服をきつく握った。
「ごめん…」
セスが私にしか聞こえないくらいの声量で呟いた。
何のごめんなんだろう。持ち上げるのに痛くしてごめんってことだろうか。それとも、私を助けられないであろうことだろうか。セスが謝ることじゃないのに。セスはちゃんと忠告してくれていたのに。
アイゼンとニコラが手伝ってくれたのだろう。体が宙に浮いている感覚がする。
「アイゼン、シエルの上半身がベッドにつかないように支えていてくれ」
ベッドに降ろされた感触が足に伝わった。横穴についたようだ。
背中をアイゼンが支えてくれている。私は痛みに身を捩ることくらいしかできず、体をアイゼンに預けた。
「シエル、しっかりしてくれ…俺が、俺が立ち止まったから…」
アイゼンの苦しそうな声がした。
あぁ、自分を責めているのか。違う。私がセスの忠告を無視してリザードマンに近づきすぎたせいだ。
言わなければ。このまま私が死んだらアイゼンはエレンと同じように自分を責め続ける。
「アイ…ゼン…ちが、う…君の…せいじゃ…ない…」
何とか声を絞り出す。聞こえているだろうか。
痛みできつく閉じていた目を開けてみた。残念ながら視界がぼやけて3人の顔は見えない。
あぁ、もう本当に死ぬんだな。
「シエル…!」
「シエル喋らないで」
セスが会話を遮るようにピシャリと言った。
それと同時に腕に何かを注射される。痛み止めだろうか。
でももう死ぬのなら、今言わなければもう言えなくなってしまう。
「セス…ぼく、は…」
セスにも言いたい。
あの問いの答えを。
3班の治癒術師がセスで良かったと。
残された最後の意識の中で、私はそう思うと。
「喋るな!死にたいのか!」
セスが強い口調で私に言う。
そんな風に荒上げた声を私は初めて聞いた。
「しぬ、んでしょ…もう…」
「まだ助けられる可能性はある。助けたいんだ。だから喋らないでくれ。頼むから」
そして今度は懇願するように言った。
その可能性は低そうな言い方に聞こえるが、私は素直に黙ることにした。
「アイゼン、ニコラ、よく聞いてくれ。これを抜くのと同時に俺が治癒術をかける。限界まで神力を使ってもまだ出血が止まってなかったら、君たちで止血を試みてほしい。出血が止まれば助かるかもしれない」
助かる"かもしれない"。ということは出血が止まっても助からないかもしれないことを意味している。この怪我だもんな。自分でもわかる。
しかし今から抜くのか、これを…。痛すぎるでしょ、それ…。
「限界までって…」
「俺はヒューマと違ってリミッターは外せないから気を失うだけだ。でも数時間は意識が戻らないし、戻ってもしばらく動けない。下山する時にはシエルを担架に乗せて俺はここに残して行って構わない。なるべく振動を与えないように気をつけて、すぐ駐屯地の治癒術師の元へ行ってくれ」
「わかった」
「止血の仕方と、その後の処置の仕方を教える」
3人が私を助けるために色々とやってくれている。
痛みが少し楽になってきたが息がひどく苦しい。早く、楽になりたい。
でもそうなったらみんなは苦しむんだな、エレンと同じように。私を助けられなかったと、責めるんだろうな。
私が死んだらみんな泣いてくれるのかな…。
死ぬかもしれないのに不思議とあまり未練はない。なんでだろ。やりたいことをやりきったという訳でもないのに。
「ニコラ、そろそろやる。俺の合図で躊躇わずに一気に抜いて。いいね?」
「う、うん」
だいぶ痛みが楽になってきたころにセスが言った。
「シエルごめん、さっき打った痛み止めは麻酔とは違うからかなり痛むと思う。でも絶対に助けるから、辛いだろうけど耐えてくれ。ニコラいくよ、抜いて!」
私の返事も待たずにグッと刃が引かれた。
想像以上の痛みに体が大きく跳ねた気がしたけれど、実際にはどうだったのだろう。声の限りに叫んだ気がするのだけど、実際にはどうだったのだろう。
そこから先は痛みしか記憶に残っていなかった。
気づいたら、深い森の中にいた。
死んだのか。
今は痛みすら感じない。ここは死後の世界ということなんだろうか。
結局セスに言葉を伝えることはできなかったな。
私を助けられなかったあの3人は、自分を責めてしまうだろうか。
あの時、セスの忠告に従ってすぐにリザードマンと距離を取っていれば。もしくは躊躇わずに盾を作り出せていれば。そうしたら死なずに済んだかもしれない。
後悔してももう遅いけど。自嘲的な笑みがこぼれた。
それにしても異世界転生なんて、貴重な体験ができた。魔法も使えて、旅にも出て、最後に仲間もできた。15年で終わってしまったけど中々濃い人生だった。
生まれ変わることがあるとしたら、次もまたこの世界に生まれたい。
そうしたら今度はもう少し上手く生きてみよう。
さて、ここからどうすればいいのだろう。
深い森の中を歩いてみるけれど、同じような景色で進んでいるのかすらわからない。
なんだろう。私は以前、ここに来たことがある気がする。
そうだ、成人の儀の日に、お酒を浴びるほど飲まされて倒れた時に夢でこんな森の中を歩いた。
もしかしてあの時も実は死にかけてたとかそういうこと?そうだとしたら、今だって同じように目を覚ませる可能性があるんじゃなかろうか。
あの時はどうしたんだっけ。確かひたすら森の中を歩いた気がする。歩いてみよう。戻れる可能性があるのなら。
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1月5日 誤字脱字修正 54話
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