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第21話:合宿終了
しおりを挟む『一位、第10クラス』
不可解な言葉に第10クラス、第20クラスの生徒全員が理解に困ったようで、場に静寂が訪れた。
もちろん、納得がいかないのは俺も同じだ。婆さんに問いただしたい気持ちはある。だが、あの婆さんだ、そんな簡単なミスを犯すはずがない。
なら、どうして一位が俺たちではないのか。
「……う、うおぉ! なんか知らないけど俺たちが勝ったぞっ!」
「「「やったぁぁぁ!」」」
傍らでは一度は諦めた勝利を手にして大喜びする第20クラスがいる。
「……お疲れ様、残念な結果だったけど、いい勝負だったわ」
リアはそこには混ざらずに俺たちを労いに来てくれた。
まだ九歳にも関わらず、本当に優しい子だと感心してしまう。
「ありがと。でも、仲間と勝利の喜びを分かち合えるのは今しかないよ」
「……でも、こんな勝ちは……」
「みんな待ってるから。ほらっ」
「わぁっ……」
罪悪感からかリアは暗い顔をしていたが、リアを手招きするクラスメートを見て、頬を緩める。背中を押してやると、リアは輪の中へと走っていった。
「よくできた子だなあ……」
ぽつりと、そんな言葉が口から漏れた。
「シアン~、負けちゃったよぉ~」
「ぐへっ」
リアがクラスに帰った直後、俺のフリーを狙ったかのように頭突きをしてくるアイラ。
ぴ、ピンポイントで鳩尾に入れるのやめてくれ……がく。
そのままぐりぐりと頭を擦り付けてくるので、頭を撫でてやると「うへへ~」と声を漏らす。
アイラはあんまり勝ち負けに執着していないみたいだ。
「アイラ、お疲れ様」
「ん? んーん、私はお姉ちゃんなんだから。シアンこそお疲れ様」
「あはは……ありがと、アイラ」
どうしてお姉ちゃんにこだわるのかは未だわからないが、とても頼もしい女の子だと思う。望むなら、俺以外にも興味を示して欲しいもの……ふにぁ……。
「よしよし、疲れたね~。もう休んでいいんだよ~」
「うん……ってまだダメっ」
なんとかその魔の手を振り払い我を保つことに成功した。
思考が逸れたが、なぜ俺たちが一位ではないのか。婆さんの言葉を思い返してみよう。
『一位、第10クラス』
二位は? 婆さんは、一位以外読み上げていない。
つまり、まだ俺たちはゴールできていないのだ。
誰かがゴールをしていないのだ。
「あ、あれは……!」
誰かが俺たちが走って来た道の方を指差して叫んだ。見てみると、二人の生徒が歩いてこちらに向かっていた。
目を凝らしてみると、その二人はルージュとウチのクラスメートだった。
クラスメートは足を怪我しているようで、ルージュに肩を貸してもらっている。
その光景を見て俺は強大な能力があっても、チームの危機に気づかないようじゃダメなんだと思い知らされた。
自省しつつ、一位を取れなかったことに怒っているかもしれないクラスメートをどう宥めようか考える。
しかし、その心配は杞憂だった。
「動けるやつは来い!」
「「「おうっ!」」」
その声に呼応したのはクラスのメンバー全員ーーどころか、第10クラスの人たちも動き出す。
みんなが二人に駆け寄り、口々に感謝や称賛を口にする。
そして、ルージュともう一人の子がゴールラインを超えたとき。
『二位、第20クラス』
「「「わあぁぁぁぁぁぁっ!!」」」
いつもより優しく聞こえたその声に、その場にいた八十人が湧いた。
そうして、俺たちの霊峰『サクリファイズ』合宿は幕を閉じた。
★
合宿が終わった後、翌日は休みと言われた。
俺たちはその日の分の金も事前に宿に払っていたため宿に帰り、リアをベットに寝かせて、俺は床で寝ていた。
はずだったのだが……。
「んん~……しあんくん……」
「うぐっ……」
ま、まずいまずいまずい! さすがに九歳となると成長しつつある胸が顔に!
た、確か昨日の夜は一人で寝てたはずなのにっ!?
朝、息苦しさに目を覚ますと、リアは俺の腰を足で挟み込み、腕ごと抱きしめていた。
俺が転生していなければ、今頃俺の刀は抜刀されていて、大惨事は免れなかっただろう……。
しかし、このままではいくら齢五歳の子どもでも嫌われてしまうかもしれない。
「ちょ、リア、 起きてっ!」
「んっ……」
な、なんだこの甘い声は!? まさか、声の微弱な振動で……。
ならば、神は俺にどうしろというんだ!
「しあんっ!」
「んんっ!?」
リアがうつ伏せになったため、俺はリアの下にしかれ、完全に逃げられなくなってしまった。
そしてまた、新たな問題が生まれる。
い、息が苦しい……っ!
顔が胸に上から押し付けられる形になったため、胸から顔を逸らすこともできない。
このままでは呼吸困難で……死因としては悪くないな。
徐々に、意識が薄れていく。
婆さん、俺はもう旅立つよ。さよなーー
「シアンっ!ってあぁー! 何やってるの!?」
扉がバンッ! と勢いよく開き、アイラと思わしき怒声が意識をつなぎとめた。
「ん……うへっ!? ってわぁっ!? 大丈夫シアン君っ!」
目を覚ましたリアは慌てて退き、俺の身を案ずる。
「ぅ……だ、大丈夫……」
呼吸が荒れて上手く返事ができないが、無事だとはわかってくれたようで、リアは胸をなでおろしている。
しかし、アイラもよく俺がここにいるってわかったな。扉側からは全く見えないのに。
「ごめんなさい! こんなことになるなんて……」
リアは落ち込んでいるようだ。俺としてはラッキーでもあったのだからそんなに気にしなくていいんだけど。
「気にし」
「やっぱりシアンには私しかいないみたいだね!」
俺に被せるように喋るアイラは、えっへんと胸を張ってドヤ顔を決めている。
リアに視線を移すと、はっとして、ベットに寝ている俺の横に手をついた。
「ん? どしたのーーぐえっ」
「そ、そんなことないわ! 私は同じ失敗はしないもん!」
そう言いながらも急に抱っこするから首がカクンッてなったんだけど……。
「んなっ、何してんの!?」
「今日は私専用シアン君だから! ふんっ!」
「あぁ~っ!」
リアはそう言うや否や窓から飛び降りた。
ここは二階である。着地のときにリアが前傾姿勢になることを考えると、俺の首は……。
「あ"っ」
案の定、グキッとまずい音がした。
しかしリアは目もくれない。
俺たちを追って降りてくるアイラから逃げるため、俺を抱っこしたまま走り出した。
俺は、痛む首をカクンカクンと揺らされながら街へと繰り出した。
「今日はお姉ちゃんの言うこと聞いてもらうからね!」
は、はい……。
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