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第34話:不穏
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リアとの邂逅で使った風の刃よりも強力な魔法が、床を抉りながら俺に迫る。
俺は腕を横に薙ぎ、ついつい黙って切り裂いてしまった。
真ん中で断ち切られた不可視の牙は俺を避けるように広がり、轟音とともに校舎の壁を破壊した。
「あ、やっちった……。ってなにするんですか!?」
俺の問いかけに、ユーノはわずかだが、頬を緩めた。
「やっぱり、ハルカの見立てはあっていたみたいですね」
「……というと?」
どうやら、遥は生徒会の人間に俺のことを話しているようだ。
「あなたは、第20クラスにいるべき人間ではない、と。合宿のあとの生徒会で言ってました。それに、ちょっかいかけても大丈夫だ、とも」
その話は本当だったみたいですね、と付け加えた。
あまり俺の存在が認知されるのは嬉しくないが、話した内容がそのくらいならばまだマシだとポジティブに捉えよう。
それよりも留意する点は……
「あれがちょっかいですか……」
あの風魔法、合宿のときに戦った第8クラスの連中では大怪我を負うくらいの威力だった。
婆さんのに比べればまだまだ弱いため、俺自身に驚きはないのだが……遥やユーノがどれだけ俺の実力を高く見ているのか。
「あなたなら大丈夫かな、と思いまして。ちょっと厳しかったですか?」
「む……」
わかりやすく煽ってくるが、ここで反論しては墓穴を掘るだけだ。
口元を尖らせるだけに留めておこう。
「それより、下克上を申し込まれたそうですね」
「えっと、そうですね。第7クラスに」
もっと臆したり、困った表情をした方が自然なのだろうが、負ける気はしないのだからそんな顔は作れない。
「意外ですね……もっと不安な顔が見れると思ったのに」
「負ける気はないですからね」
「流石ですね。相手と対峙して負けることを考えている者は愚者ですから。あとその試合、生徒会も観に行きますから、ぜひ目立ってくださいね」
それは初耳である。シンのやつ、言えよ。
ユーノとの戦いは、ある意味ではプラスに働いている。
彼女は今日のことを遥に報告するだろうから、俺の戦いのハードルが上がるはずだ。
つまり、多少頑張っても遥たちには驚かれにくいということだ!
貴族たちは、魔法に理があるわけではないだろうから、俺自身が目立つつもりはないので注目されることはないだろう。
「第7クラス相手じゃ、厳しいですよー」
俺自身が頷くわけにはいかないので、見え見えの嘘をついておく。
「むぅ、なかなか認めませんね……。まあいいです。では、これから生徒会なので」
「はい。頑張ってください」
礼をして、ユーノと別れた。
当初の目的である学園長室に着いた俺は、ノックのあと返事を待たずに足を踏み入れる。
「どうもー」
「……ったく。誰も入室を許可してないんだがね」
正面の机には呆れ顔の婆さんいた。
まあ、親子同然なんだし問題ないだろう。
「いいじゃん。見知った顔なんだし。……それより、聞いてほしいことがあるんだ」
雰囲気が変わったことに婆さんも何事かと顔を引き締める。
「今日、ダンジョンでキメラが出た」
途端、目を点にする婆さん。
「キメラ? なんだいそりゃ」
「ごめん、言い方が悪かったよ。何匹かの魔物を人間に付けたような生物が、ダンジョンの第五層で出たんだ。たぶん、一度第四層まで行ってると思う」
あいつは上から降ってきたからな。
普通ならバカげた話だと思うだろうが、婆さんは真剣な面持ちで先を促す。
「そいつは上層にいていい強さの魔物じゃなかったと思う。……下層から上層に魔物が上がってくることってあるの?」
「いや、基本ないはずだよ。いろいろ要因は考えられるが……そいつ一体だけだったかい?」
「たぶんね。それに、あいつは魔物も襲ってたと思う」
実は、あのあとちょっと悔しくてもっと探知に意識を割いて探したが、他の個体は見当たらなかった。
俺の探知に引っかからないくらいの気配遮断をしていたら話は別だが。
「ふぅむ……。そうだねぇ……少し、ダンジョンでの実習を控えさせることにするかね。階層の魔物の数のバランスが崩れればなにが起こるかわからないからね」
付き合いが長いといっても、所詮は子どもの戯言と切り捨てられても不思議ではない。
だが、婆さんは真摯に話を受け止め、決断してくれる。
こういうところが、俺は好きだ。
なにはともあれ、今日は疲れたため、早々に話を切り上げて帰ることにする。
「ありがとう。じゃ、俺は帰るよ」
「待ちな。……あんたにゃ話してもいいかもしれないね」
「え?」
少し硬い表情で、婆さんは続ける。
「最近、不穏な動きがあるんだけど、冒険者のなかで行方不明者が続出してるんだよ」
「……へえ」
それは、心当たりがあった。アイラを攫った、どこかの商会だ。
「おそらく、同じ組織の人間が犯行しているんだろうと予想している。攫われたなかには相当の手練れもいたらしいから、魔族が関係していると考えているんだがねえ……」
アイラのときは人間だったはずだが……どういうことだ?
「あんたにだから頼むけど、もしそいつら見つけたら潰しておいてくれないかい?」
「任された。キメラの人間の部分も冒険者だったはずだから、無関係ではないと思う」
胸糞悪い話だが、だからこそ早期に解決しないと俺の身内にも危険が及ぶかもしれない。
実際にアイラがそうであったように。
一種の決意をし、俺はその部屋を後にした。
俺は腕を横に薙ぎ、ついつい黙って切り裂いてしまった。
真ん中で断ち切られた不可視の牙は俺を避けるように広がり、轟音とともに校舎の壁を破壊した。
「あ、やっちった……。ってなにするんですか!?」
俺の問いかけに、ユーノはわずかだが、頬を緩めた。
「やっぱり、ハルカの見立てはあっていたみたいですね」
「……というと?」
どうやら、遥は生徒会の人間に俺のことを話しているようだ。
「あなたは、第20クラスにいるべき人間ではない、と。合宿のあとの生徒会で言ってました。それに、ちょっかいかけても大丈夫だ、とも」
その話は本当だったみたいですね、と付け加えた。
あまり俺の存在が認知されるのは嬉しくないが、話した内容がそのくらいならばまだマシだとポジティブに捉えよう。
それよりも留意する点は……
「あれがちょっかいですか……」
あの風魔法、合宿のときに戦った第8クラスの連中では大怪我を負うくらいの威力だった。
婆さんのに比べればまだまだ弱いため、俺自身に驚きはないのだが……遥やユーノがどれだけ俺の実力を高く見ているのか。
「あなたなら大丈夫かな、と思いまして。ちょっと厳しかったですか?」
「む……」
わかりやすく煽ってくるが、ここで反論しては墓穴を掘るだけだ。
口元を尖らせるだけに留めておこう。
「それより、下克上を申し込まれたそうですね」
「えっと、そうですね。第7クラスに」
もっと臆したり、困った表情をした方が自然なのだろうが、負ける気はしないのだからそんな顔は作れない。
「意外ですね……もっと不安な顔が見れると思ったのに」
「負ける気はないですからね」
「流石ですね。相手と対峙して負けることを考えている者は愚者ですから。あとその試合、生徒会も観に行きますから、ぜひ目立ってくださいね」
それは初耳である。シンのやつ、言えよ。
ユーノとの戦いは、ある意味ではプラスに働いている。
彼女は今日のことを遥に報告するだろうから、俺の戦いのハードルが上がるはずだ。
つまり、多少頑張っても遥たちには驚かれにくいということだ!
貴族たちは、魔法に理があるわけではないだろうから、俺自身が目立つつもりはないので注目されることはないだろう。
「第7クラス相手じゃ、厳しいですよー」
俺自身が頷くわけにはいかないので、見え見えの嘘をついておく。
「むぅ、なかなか認めませんね……。まあいいです。では、これから生徒会なので」
「はい。頑張ってください」
礼をして、ユーノと別れた。
当初の目的である学園長室に着いた俺は、ノックのあと返事を待たずに足を踏み入れる。
「どうもー」
「……ったく。誰も入室を許可してないんだがね」
正面の机には呆れ顔の婆さんいた。
まあ、親子同然なんだし問題ないだろう。
「いいじゃん。見知った顔なんだし。……それより、聞いてほしいことがあるんだ」
雰囲気が変わったことに婆さんも何事かと顔を引き締める。
「今日、ダンジョンでキメラが出た」
途端、目を点にする婆さん。
「キメラ? なんだいそりゃ」
「ごめん、言い方が悪かったよ。何匹かの魔物を人間に付けたような生物が、ダンジョンの第五層で出たんだ。たぶん、一度第四層まで行ってると思う」
あいつは上から降ってきたからな。
普通ならバカげた話だと思うだろうが、婆さんは真剣な面持ちで先を促す。
「そいつは上層にいていい強さの魔物じゃなかったと思う。……下層から上層に魔物が上がってくることってあるの?」
「いや、基本ないはずだよ。いろいろ要因は考えられるが……そいつ一体だけだったかい?」
「たぶんね。それに、あいつは魔物も襲ってたと思う」
実は、あのあとちょっと悔しくてもっと探知に意識を割いて探したが、他の個体は見当たらなかった。
俺の探知に引っかからないくらいの気配遮断をしていたら話は別だが。
「ふぅむ……。そうだねぇ……少し、ダンジョンでの実習を控えさせることにするかね。階層の魔物の数のバランスが崩れればなにが起こるかわからないからね」
付き合いが長いといっても、所詮は子どもの戯言と切り捨てられても不思議ではない。
だが、婆さんは真摯に話を受け止め、決断してくれる。
こういうところが、俺は好きだ。
なにはともあれ、今日は疲れたため、早々に話を切り上げて帰ることにする。
「ありがとう。じゃ、俺は帰るよ」
「待ちな。……あんたにゃ話してもいいかもしれないね」
「え?」
少し硬い表情で、婆さんは続ける。
「最近、不穏な動きがあるんだけど、冒険者のなかで行方不明者が続出してるんだよ」
「……へえ」
それは、心当たりがあった。アイラを攫った、どこかの商会だ。
「おそらく、同じ組織の人間が犯行しているんだろうと予想している。攫われたなかには相当の手練れもいたらしいから、魔族が関係していると考えているんだがねえ……」
アイラのときは人間だったはずだが……どういうことだ?
「あんたにだから頼むけど、もしそいつら見つけたら潰しておいてくれないかい?」
「任された。キメラの人間の部分も冒険者だったはずだから、無関係ではないと思う」
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