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第1章 わたしの師匠になってください!
修行開始! 3
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ベッドで丸くなっていたツェツイは、抱きしめていたくまのぬいぐるみに顔をうずめた。もこもこの感触が気持ちいい。
ひとりで眠っても寂しくないようにと、ノイとアルトが貸してくれたのだ。
あれからすぐにベッドに入ったものの、どうしても眠れずにいた。
時計を見ると、すでに三時を回っている。
こんな時間まで起きているなど初めてのこと。
いつもなら仕事で疲れて家に帰ってきて、それから学校の勉強をしながらテーブルで眠ってしまい、朝を迎えるということもしょっちゅうであった。
眠れないのは、慣れない他人の家での生活と、魔術を習得できなかったらという未来への不安、そして、それ以上にアリーセの魔術を目にして興奮していたから。
ツェツイはベッドから起き上がり裸足のまま、ぬいぐるみを抱え部屋をでた。
向かった先はイェンの部屋。扉を静かに開け、小さく開いた隙間に身体を滑らせ部屋の中へと入る。
窓際に置かれたベッドにイェンと、イェンを挟むようにして両側にノイとアルトが眠っていた。
足音を忍ばせベッドへと近づいていく。
一度だけ床板がぎしりと軋み、びくりと肩を跳ね足を止める。
三人が目を覚ます気配がないことを確かめ、ツェツイは再び足を踏み出した。ベッドの上に這い上がり、イェンの隣に眠っている双子の一人をころんと転がした。
「うーん……」
「ノイかな、アルトかな? ごめんね。ほんとにごめんね」
そう言って、イェンと双子の間にできた隙間に、くまのぬいぐるみと一緒に身体を潜り込ませる。
掛け布団を目の辺りまで持ち上げ、ちょんと、イェンの肩に頭を寄り添える。
お師匠様のおとなり、あったかい。
あのね、お師匠様の側にいると、とっても安心できるの。
すごく心地よくて。
さっきまでの不安も何もかもが不思議なことに消えていって、いつまでも側にいたいと思ってしまうの。
ずっと眠れずに自室のベッドで何度も寝返りを打っていたツェツイだが、イェンの隣に寄り添った途端、数分もしないうちに深い眠りへと落ちていった。
安心したのか、すぐにツェツイの静かな寝息が聞こえてきたのを確認して──。
腕をつかって半身を起こし、イェンは肩に落ちる長い髪をかきあげた。
ツェツイの向こうではノイがうん……と唸って寝返りを打ってこちらを向く。
寝返った拍子にツェツイに抱きつきそうになるノイを手で押さえ、イェンはもう一度反対側へと弟の身体を転がした。
「おまえはあっち向いて寝てろ。ついでに、これでも抱えてろ」
と、ノイにくまのぬいぐるみを抱えさせる。
はい……と寝ぼけながら呟いて、ノイはくまのぬいぐるみを抱きしめた。
さらに、今度は背中でアルトが兄ちゃん……と寝言を言って、がっしりと背後から腰に抱きついてきた。
寝返りをうったときにずれたアルトの布団をかけ直す。
立てた膝に頬杖をつき、イェンはやれやれとため息をついた。
「おまえら……これじゃ、俺が寝られねえだろ。ったく」
狭いベッドに四人。それも、体温の高い子ども三人に引っつかれて、暑くて寝苦しいことこのうえない。
まいったな、と頭に手をあてたイェンはふと、手元に視線を落とした。
右手の薬指に、ツェツイが指を絡ませぎゅっと握りしめてきたからだ。
すやすやと眠るツェツイを見下ろすイェンの口元に微笑みが浮かぶ。
そっと手を伸ばしてツェツイの頭を優しくなで、指の背で頬に触れる。
「必ず俺がおまえを〝灯〟へ導いてやる。おまえが望むのなら……さらなる高み〝灯〟の頂上をおまえに見せてやる」
ひとりで眠っても寂しくないようにと、ノイとアルトが貸してくれたのだ。
あれからすぐにベッドに入ったものの、どうしても眠れずにいた。
時計を見ると、すでに三時を回っている。
こんな時間まで起きているなど初めてのこと。
いつもなら仕事で疲れて家に帰ってきて、それから学校の勉強をしながらテーブルで眠ってしまい、朝を迎えるということもしょっちゅうであった。
眠れないのは、慣れない他人の家での生活と、魔術を習得できなかったらという未来への不安、そして、それ以上にアリーセの魔術を目にして興奮していたから。
ツェツイはベッドから起き上がり裸足のまま、ぬいぐるみを抱え部屋をでた。
向かった先はイェンの部屋。扉を静かに開け、小さく開いた隙間に身体を滑らせ部屋の中へと入る。
窓際に置かれたベッドにイェンと、イェンを挟むようにして両側にノイとアルトが眠っていた。
足音を忍ばせベッドへと近づいていく。
一度だけ床板がぎしりと軋み、びくりと肩を跳ね足を止める。
三人が目を覚ます気配がないことを確かめ、ツェツイは再び足を踏み出した。ベッドの上に這い上がり、イェンの隣に眠っている双子の一人をころんと転がした。
「うーん……」
「ノイかな、アルトかな? ごめんね。ほんとにごめんね」
そう言って、イェンと双子の間にできた隙間に、くまのぬいぐるみと一緒に身体を潜り込ませる。
掛け布団を目の辺りまで持ち上げ、ちょんと、イェンの肩に頭を寄り添える。
お師匠様のおとなり、あったかい。
あのね、お師匠様の側にいると、とっても安心できるの。
すごく心地よくて。
さっきまでの不安も何もかもが不思議なことに消えていって、いつまでも側にいたいと思ってしまうの。
ずっと眠れずに自室のベッドで何度も寝返りを打っていたツェツイだが、イェンの隣に寄り添った途端、数分もしないうちに深い眠りへと落ちていった。
安心したのか、すぐにツェツイの静かな寝息が聞こえてきたのを確認して──。
腕をつかって半身を起こし、イェンは肩に落ちる長い髪をかきあげた。
ツェツイの向こうではノイがうん……と唸って寝返りを打ってこちらを向く。
寝返った拍子にツェツイに抱きつきそうになるノイを手で押さえ、イェンはもう一度反対側へと弟の身体を転がした。
「おまえはあっち向いて寝てろ。ついでに、これでも抱えてろ」
と、ノイにくまのぬいぐるみを抱えさせる。
はい……と寝ぼけながら呟いて、ノイはくまのぬいぐるみを抱きしめた。
さらに、今度は背中でアルトが兄ちゃん……と寝言を言って、がっしりと背後から腰に抱きついてきた。
寝返りをうったときにずれたアルトの布団をかけ直す。
立てた膝に頬杖をつき、イェンはやれやれとため息をついた。
「おまえら……これじゃ、俺が寝られねえだろ。ったく」
狭いベッドに四人。それも、体温の高い子ども三人に引っつかれて、暑くて寝苦しいことこのうえない。
まいったな、と頭に手をあてたイェンはふと、手元に視線を落とした。
右手の薬指に、ツェツイが指を絡ませぎゅっと握りしめてきたからだ。
すやすやと眠るツェツイを見下ろすイェンの口元に微笑みが浮かぶ。
そっと手を伸ばしてツェツイの頭を優しくなで、指の背で頬に触れる。
「必ず俺がおまえを〝灯〟へ導いてやる。おまえが望むのなら……さらなる高み〝灯〟の頂上をおまえに見せてやる」
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