わたしの師匠になってください! ―お師匠さまは落ちこぼれ魔道士?―

島崎 紗都子

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第1章 わたしの師匠になってください!

修行開始! 2

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 部屋はノイとアルトの部屋を借りることになった。
 ツェツイがいる間、彼らはイェンの部屋で寝るという。
 本当に申し訳ないと思ったが、双子たちは兄ちゃんと一緒に寝られるからいいんだと喜んでいた。
 みんなとても優しくて親切で温かい。
 魔道士になりたいと言っても、大概の者は鼻で嗤ったが、ノイもアルトもアリーセさんも決して笑ったりはしなかった。
 それどころか、応援すると言ってくれた。それがとても嬉しかった。
 ずっとみんなといられたら楽しいのに。
 けれど、それは叶わない願い。
 そんなことはわかっている。
 ツェツイは机の上の一輪挿しに挿したすみれの花を見つめた。
 きちんと水にひたしているのに、やはりいくぶん元気がない。
 つぼみのものは、きっと花開くことなく枯れてしまうだろう。
「花を咲かせてあげられなくて、ごめんなさい」
 呟いてツェツイはしゅんとうなだれる。
 枯れさせたのは自分の責任だというように。
 食事が終わってからもしばらくずっと、修行の続きをやっていたが、やはり、魔術らしきものを使うことはできなかった。
「焦ることはねえよ。まだ時間はある。だいいち、いきなり術が使えるようになったら俺の方が驚きだ。だから、そんな落ち込んだ顔すんな」
 と言って、お師匠様はうなだれる自分の頭をなでてくれた。
 意外だった。
 甘やかさないと言ったのに、その程度で落ち込むならやめちまえ、と厳しいことを言われるかと思っていたのに、お師匠様は優しかった。
 だから、ほんの少しだけお師匠様の優しさに泣きそうになって、落ちる涙をこらえるのに必死だった。
 だけど、もし一ヶ月たっても魔術を身につけられなかったら、どうなるのか。
 そのことを考えると恐ろしかった。当然、この家にはいられない。
 優しくしてくれたお師匠様も、自分を見放すだろう。師匠と弟子の関係もなくなる。
 そうなったら自分はどうなるのか。
 しかし、ツェツイはいいえ、と頭を勢いよく振った。
 今は悪いことも、余計なことも考えるのはやめよう。
 ふう、と小さくツェツイは息をつく。
 どうすれば魔法が使えるようになるのか。
 何かきっかけがあればと思っていても、そのきっかけがつかめず、気ばかりが焦る状態であった。
 亡くなった父も母も魔道士ではなかった。けれど、間違いなく自分には魔術を使える素質がある。
 その時、静かに扉を叩く音が聞こえた。振り返るとアリーセが扉から顔をのぞかせている。
「遅くまで熱心ね」
 部屋に入ってきたアリーセは机の上のすみれに視線を落とす。
 ツェツイは肩をすぼめてうつむいた。
「大丈夫。自信を持つこと。必ずできるってね。それに、見込みのない者を連れてきて術を教えようとするほど、あれもバカではないよ」
「はい……あの、アリーセさん!」
 ばっと顔を上げたツェツイに、アリーセは何? と首を傾げた。
「お師匠様のこと、なのですが……」
 とまで言いかけてツェツイはううん、と首を振った。
「ごめんなさい。何でもないです」
 アリーセはあのバカには内緒だよ、と口元に人さし指をあてた。
 そのほっそりとした白い指先をすみれの花にかざす。
『清らかな水よ 小さき乙女に 癒しの力を』
 ツェツイの胸がとくんと鳴った。
 謳うように流れるアリーセの詠唱に応えて、首を垂れていたすみれの花がゆっくりと起きあがり、みずみずしさを取り戻す。まるで、たった今切り取ったばかりのように。
 このまま花開くことなく枯れてしまうかと思っていた蕾もゆっくりと頭を持ち上げ、誇らしげに花弁を広げ始めた。
「アリーセさん!」
 初めて目にした魔術に興奮して、胸のどきどきがとまらない。
 優しさに満ちたアリーセの魔力がツェツイをも包み込む。
 アリーセは片目をつむってにっ、と笑った。
「きっと、ツェツイだけの詠唱(うた)が見つかるはずよ」
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