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第5章 すべては君を手に入れるための嘘
1 この中に裏切り者がいる
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アパートに戻るとみな沈痛な面持ちでいた。
中にはくそ! と吐き捨て壁にこぶしを叩きつける者も。
重苦しい空気の中、ファンローゼはいたたまれない気持ちで下を向いていた。
現れたクレイによって、危機を逃れられたものの、結局、仲間を誰一人助けられなかった。
一緒に行動をしていたアデルも、目の前で殺された。
クレイはファンローゼのせいではないと言ってくれたが、やはり、そのことに責任を感じた。
「今回の作戦は失敗に終わったな」
「ああ……しかし、まるで俺たちの行動が敵に読まれている感じだった」
「読まれていたのだろう。でなければ、あの場にあれだけ大勢のエスツェリア軍が現れるわけがない!」
忌々しげに吐き捨て、その男はテーブルを叩きつける。
「いや、俺が言いたいのは、誰かが俺たちの行動をもらしたと言うことだ」
男の言葉にみな緊張した面持ちで押し黙る。
異様な空気が流れた。
「つまり、この中に裏切り者がいるということか?」
まさかと、仲間たちが声をもらす。
そんなことは信じたくない。信じたくはないが、自分たちの行動はまるで敵に筒抜けだった。
それはやはり、誰かが裏切り、仲間を陥れようとした。
「いったい誰が!」
「さあな」
最悪の雰囲気であった。みな、誰が裏切り者なのかと確かめるように互いの顔を窺っている。
「ファンローゼ」
不意に話を向けられたファンローゼは、びくりと肩を跳ねた。
「怪しい人物を見なかったか?」
仲間の問いかけにファンローゼは息を飲む。動揺を悟られまいとしたが、果たしてうまくいったかどうか。
あの時、アニタの裏切りを見た。
アニタは自分をエスツェリア軍に差しだすためには、仲間の犠牲も仕方がないと言っていた。しかし、それを口にすることはできない。
「いいえ……」
ファンローゼは静かに声を落としまぶたを伏せる。そっと、辺りを見渡したがこの場にアニタの姿はない。
アニタは私のことを軍に密告した。
「くそ! 見つけたらただではすまないぞ!」
「ああ、裏切りは許さない」
荒々しくテーブルを叩いて吐き捨てる男たちに、ファンローゼは怯えながら身をすくませた。
その時、ふっと肩に手が置かれたのに気づき、ファンローゼは背後を見上げた。
クレイがかすかな笑みを浮かべて立っていた。
「そんな思いつめた顔をしないで。君はよくやってくれた。結果は残念なことになったが、仕方がない。最悪の状況になることも考えなかったわけではない」
あのまま、敵に捕らわれたままでは、きっと僕たちのことを喋らされてしまうこともあった。だから、これでいいのだと。しかし、クレイの慰めの言葉を素直に喜べなかった。
ファンローゼは沈んだ表情を浮かべる。
用意周到に計画をたて、ヨシア大佐の部屋の鍵まで用意してくれたクレイだが、机の引き出しの鍵までは考えなかったのだろうか。
否、クレイだって必死だった。
責めることはできない。
そこへ、アニタが乱暴にドアを開け部屋の中へと入ってきた。
中にはくそ! と吐き捨て壁にこぶしを叩きつける者も。
重苦しい空気の中、ファンローゼはいたたまれない気持ちで下を向いていた。
現れたクレイによって、危機を逃れられたものの、結局、仲間を誰一人助けられなかった。
一緒に行動をしていたアデルも、目の前で殺された。
クレイはファンローゼのせいではないと言ってくれたが、やはり、そのことに責任を感じた。
「今回の作戦は失敗に終わったな」
「ああ……しかし、まるで俺たちの行動が敵に読まれている感じだった」
「読まれていたのだろう。でなければ、あの場にあれだけ大勢のエスツェリア軍が現れるわけがない!」
忌々しげに吐き捨て、その男はテーブルを叩きつける。
「いや、俺が言いたいのは、誰かが俺たちの行動をもらしたと言うことだ」
男の言葉にみな緊張した面持ちで押し黙る。
異様な空気が流れた。
「つまり、この中に裏切り者がいるということか?」
まさかと、仲間たちが声をもらす。
そんなことは信じたくない。信じたくはないが、自分たちの行動はまるで敵に筒抜けだった。
それはやはり、誰かが裏切り、仲間を陥れようとした。
「いったい誰が!」
「さあな」
最悪の雰囲気であった。みな、誰が裏切り者なのかと確かめるように互いの顔を窺っている。
「ファンローゼ」
不意に話を向けられたファンローゼは、びくりと肩を跳ねた。
「怪しい人物を見なかったか?」
仲間の問いかけにファンローゼは息を飲む。動揺を悟られまいとしたが、果たしてうまくいったかどうか。
あの時、アニタの裏切りを見た。
アニタは自分をエスツェリア軍に差しだすためには、仲間の犠牲も仕方がないと言っていた。しかし、それを口にすることはできない。
「いいえ……」
ファンローゼは静かに声を落としまぶたを伏せる。そっと、辺りを見渡したがこの場にアニタの姿はない。
アニタは私のことを軍に密告した。
「くそ! 見つけたらただではすまないぞ!」
「ああ、裏切りは許さない」
荒々しくテーブルを叩いて吐き捨てる男たちに、ファンローゼは怯えながら身をすくませた。
その時、ふっと肩に手が置かれたのに気づき、ファンローゼは背後を見上げた。
クレイがかすかな笑みを浮かべて立っていた。
「そんな思いつめた顔をしないで。君はよくやってくれた。結果は残念なことになったが、仕方がない。最悪の状況になることも考えなかったわけではない」
あのまま、敵に捕らわれたままでは、きっと僕たちのことを喋らされてしまうこともあった。だから、これでいいのだと。しかし、クレイの慰めの言葉を素直に喜べなかった。
ファンローゼは沈んだ表情を浮かべる。
用意周到に計画をたて、ヨシア大佐の部屋の鍵まで用意してくれたクレイだが、机の引き出しの鍵までは考えなかったのだろうか。
否、クレイだって必死だった。
責めることはできない。
そこへ、アニタが乱暴にドアを開け部屋の中へと入ってきた。
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