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第5章 すべては君を手に入れるための嘘
6 指輪が疑惑を解いた
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その後、クレイに抱かれたままファンローゼはクレイが住むアパートへと連れていかれた。
驚いたことに、そこは富裕層が暮らす高級住宅地であった。
クレイに身体を支えられ、ベッドの上に座らされる。
「ごめん。怖い思いをさせたね」
クレイの手がファンローゼの乱れた髪をすき、切られた毛先を指先に絡め口づけをする。
「ああ、君のきれいな髪が」
「私はアニタを……」
その先の言葉を遮るかのように、クレイのしなやかな指先が唇に添えられた。
何も言わなくても分かっているよ、とクレイは首を振る。
「君に人殺しなんてできるはずがない」
「信じてくれてありがとう。でも……」
あの場にいた者全員が、クレイに不審な目を向けていた。これでは、クレイも組織に戻りづらくなる。
「かまわないさ」
クレイはそんなことはどうでもいいというように、肩をすくめた。
「もう、あそこに戻るつもりはない。〝時の祈り〟はもうお終い」
「お終い?」
それはどういう意味かと首を傾げるファンローゼに、クレイは静かな笑みを返すだけであった。その先の言葉はない。
「安心して、組織などなくても、僕が君を守ってあげる」
クレイの手が頬に触れ、優しくなでる。
不意にファンローゼはびくりと肩を揺らし、ゆっくりと視線をあげた。
頬に触れるクレイの手。
指先から伝わるひやりとした冷たくて堅い感触。
そう、この感覚に触れるのは初めてではないことを思い出す。
そう、あの時も……。
視線をあげ、真っ向からクレイの目をのぞくファンローゼの瞳が戸惑いの色ににじむ。
なぜ、気づかなかったのだろう。
記憶の底に沈殿していた一欠片が、大きな疑問となって緩やかに、けれど、確実に浮上する。
ファンローゼはベッドから立ち上がり、クレイから距離をとるよう後ずさる。
「どうしたの? そんな怖い顔をして」
「聞いても、いいかしら?」
声が震えた。
何? とクレイは首を傾げる。しかし、ファンローゼは言葉を飲み込む。
もし、自分の推測があたっているのなら、今からクレイに投げかける問いは危険なものとなる。
もう少し様子を見るべきか。だが、このまま知らない振りをしてクレイと一緒にいることはできない。
しばしの沈黙の後、ファンローゼは唇を震わせながらクレイに問う。
「アニタを殺したのは、あなたね」
クレイの答えはなかった。
「大佐のパーティで、私を脅したのもあなた」
「何を言いだすかと思ったら。気が動転しているんだね」
かわいそうにと、クレイは一歩つめ寄りもう一度ファンローゼの頬に手を添え優しくなでた。
ファンローゼは咄嗟に頬に触れたクレイの手を掴んだ。
「クレイはいつもこうして私の頬をなでてくれた。でも、ようやく気づいたの」
クレイは無言でファンローゼを見下ろした。
その目は、先ほどまで自分を気遣う優しい眼差しではなく、碧い瞳の奥底に揺れる光にも、危険なものがちらついていた。
「あの時も感じたわ。頬をなでられた時に感じた冷たくて堅い感触。それは、あなたのこの親指にはめられた指輪。あのパーティーの日、大佐の部屋で私を脅した人物はクレイ、あなただわ」
だから、あの時クレイは私に目隠しをした。
クレイは観念したように肩をすくめた。
驚いたことに、そこは富裕層が暮らす高級住宅地であった。
クレイに身体を支えられ、ベッドの上に座らされる。
「ごめん。怖い思いをさせたね」
クレイの手がファンローゼの乱れた髪をすき、切られた毛先を指先に絡め口づけをする。
「ああ、君のきれいな髪が」
「私はアニタを……」
その先の言葉を遮るかのように、クレイのしなやかな指先が唇に添えられた。
何も言わなくても分かっているよ、とクレイは首を振る。
「君に人殺しなんてできるはずがない」
「信じてくれてありがとう。でも……」
あの場にいた者全員が、クレイに不審な目を向けていた。これでは、クレイも組織に戻りづらくなる。
「かまわないさ」
クレイはそんなことはどうでもいいというように、肩をすくめた。
「もう、あそこに戻るつもりはない。〝時の祈り〟はもうお終い」
「お終い?」
それはどういう意味かと首を傾げるファンローゼに、クレイは静かな笑みを返すだけであった。その先の言葉はない。
「安心して、組織などなくても、僕が君を守ってあげる」
クレイの手が頬に触れ、優しくなでる。
不意にファンローゼはびくりと肩を揺らし、ゆっくりと視線をあげた。
頬に触れるクレイの手。
指先から伝わるひやりとした冷たくて堅い感触。
そう、この感覚に触れるのは初めてではないことを思い出す。
そう、あの時も……。
視線をあげ、真っ向からクレイの目をのぞくファンローゼの瞳が戸惑いの色ににじむ。
なぜ、気づかなかったのだろう。
記憶の底に沈殿していた一欠片が、大きな疑問となって緩やかに、けれど、確実に浮上する。
ファンローゼはベッドから立ち上がり、クレイから距離をとるよう後ずさる。
「どうしたの? そんな怖い顔をして」
「聞いても、いいかしら?」
声が震えた。
何? とクレイは首を傾げる。しかし、ファンローゼは言葉を飲み込む。
もし、自分の推測があたっているのなら、今からクレイに投げかける問いは危険なものとなる。
もう少し様子を見るべきか。だが、このまま知らない振りをしてクレイと一緒にいることはできない。
しばしの沈黙の後、ファンローゼは唇を震わせながらクレイに問う。
「アニタを殺したのは、あなたね」
クレイの答えはなかった。
「大佐のパーティで、私を脅したのもあなた」
「何を言いだすかと思ったら。気が動転しているんだね」
かわいそうにと、クレイは一歩つめ寄りもう一度ファンローゼの頬に手を添え優しくなでた。
ファンローゼは咄嗟に頬に触れたクレイの手を掴んだ。
「クレイはいつもこうして私の頬をなでてくれた。でも、ようやく気づいたの」
クレイは無言でファンローゼを見下ろした。
その目は、先ほどまで自分を気遣う優しい眼差しではなく、碧い瞳の奥底に揺れる光にも、危険なものがちらついていた。
「あの時も感じたわ。頬をなでられた時に感じた冷たくて堅い感触。それは、あなたのこの親指にはめられた指輪。あのパーティーの日、大佐の部屋で私を脅した人物はクレイ、あなただわ」
だから、あの時クレイは私に目隠しをした。
クレイは観念したように肩をすくめた。
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