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第5章 すべては君を手に入れるための嘘
7 すべては君を手に入れるための嘘
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「ばれたか。仕方がないね」
「やっぱり、アニタを殺したのはあなた!」
「まあね」
「どうして……」
「アニタは……彼女は余計なことを知りすぎた。自らエスツェリア軍と接触し自分で自分の首を絞めた結果だ」
どうやら、しらをきり通すつもりはないようだ。
「だから、殺したというの?」
「それ以上に、彼女は僕の大切なファンローゼを陥れようとした。それだけで理由はじゅうぶん」
「本当の裏切り者はあなただった」
「ああ、僕だよ」
あっさりとクレイは自分が裏切り者であることを認めた。これには少しばかり拍子抜けした。
「どうしてって顔だね。まあ、僕にもいろいろと事情があってね」
「あのパーティーで私たちが仲間を救うために乗り込むという情報を軍に流したのも、あなたなのね?」
「それはアニタが勝手にやったことだよ。おかげで、君がエスツェリア軍に追われ撃たれそうになって焦ったんだ。もし、君に何かあったら、僕はあの場にいた全員皆殺しにするところだった」
ファンローゼは握っていた手を強く握りしめた。
「嘘つき! あなたは反エスツェリア組織の一員だと言いながら、実は敵軍に情報を流す密告者だった。あのパーティにも、わざわざエスツェリア軍の制服を着て、もぐり込んでいた。軍内部に協力者がいるというのも嘘。それはあなた自身のことだった」
クレイはため息を一つこぼす。
「まさか、こんな指輪一つでばれるとは思いもしなかったよ。おっとりしているようで意外に鋭いんだね」
「あなたは私や仲間を利用したのね。報酬欲しさに軍に情報を流した」
「まあ、そういうことになるかな。報酬はいっさい貰っていないけど」
そこでファンローゼははっとなる。
クレイがエスツェリア軍に通じていたというのなら。
「お父様の居場所を軍に流したのもあなた? 私とお父様が話をしている時、あなたは途中でいなくなった。それは軍にお父様の居場所を伝えるため」
「そういうこと」
「どうして!」
「それが僕の仕事だからさ」
「仕事……私がクルトの娘だと知って、あなたはクルトの居場所を突き止めるため、私を利用し、このエティカリアに連れてきた。そういうことなのね」
クレイはくつくつと肩を震わせて笑った。
「僕はね、ファンローゼ。君がスヴェリアのあの老夫婦の元にいることを最初から知っていながら君に近づいた」
クレイはふっと笑ってファンローゼにつめよる。
「ここまで言っても、まだ気づかない?」
何が? というようにファンローゼは眉間をきつく寄せる。
「まあ、いいか。そう、エティカリアの大学生というのも、大学を休学してエティカリアから一時的に逃れてきたというのも、すべて、君に近づくための嘘。三年間、ゆっくりと君の信頼を得るよう接し、あの老夫婦に気に入られるため好青年を演じてきた。いつか君をこのエティカリアに連れ戻すために」
「だから、エティカリアに入国するときも、簡単に国境を越えられた」
「まあね」
「お父様の書いた小説のファンだと言ったのも嘘?」
「ごめんね。実は読んだことがない」
「クレイが小説を書くと言っていたのも」
「僕にそんな趣味はないよ。君の気を引くための偽り」
「私を好きだと言ったのも嘘だった」
クレイはああ、と声を落とし、わずかにまぶたを伏せる。クレイの端整な顔に愁いの色が過ぎる。
「それは本当だよ。前にも言ったけれど、僕は初めて君と出会った時から君のことを好きになった。だからこうして君の危機には必ず駆けつけて助けてあげているだろう。パーティーの件だって、ずっと、君に危害が及ばないよう影から見張っていた。だけど、君が一生懸命で可愛かったから、つい悪戯心を起こしてあんなことをした。いや、君が大好きだったコンツェットの再会に嫉妬したというのもあるかな。本気で君をどうこうするつもりはなかった。これは本当さ。だから、あのパーティのことは許してくれるかな」
「許さない」
押し殺した声がファンローゼの唇からもれる。ふと、ファンローゼの視線が机の上に無造作に置かれている拳銃に向けられる。
「何があっても僕が守ってあげるよ。僕にはそれだけの力がある。いや、君を守る為に僕は力を手に入れたといっても過言ではない」
「いやよ。人殺し!」
するりとクレイの手から抜け出したファンローゼは、机の上の拳銃をとり、クレイに向かって身がまえた。
「君には撃てない」
クレイがふっと嘲るような笑みを刻みながら近づいてくる。
「近寄らないで! 撃つわ」
「ファンローゼ、いい子だからその銃を返すんだ。危ないよ。怪我でもしたら大変だ」
「来ないで!」
「それに、そんな震えた手で撃つことはできないよ」
クレイの目がすっと細められた。
「それにねファンローゼ、僕が本気になれば君が引き金をひく前に君から銃を奪い、ねじ伏せることなど簡単なんだよ。僕を甘くみてはいけない」
さらにクレイは足を踏み出した。
ファンローゼはぎゅっと目をつむり、引き金をひいた。
「やっぱり、アニタを殺したのはあなた!」
「まあね」
「どうして……」
「アニタは……彼女は余計なことを知りすぎた。自らエスツェリア軍と接触し自分で自分の首を絞めた結果だ」
どうやら、しらをきり通すつもりはないようだ。
「だから、殺したというの?」
「それ以上に、彼女は僕の大切なファンローゼを陥れようとした。それだけで理由はじゅうぶん」
「本当の裏切り者はあなただった」
「ああ、僕だよ」
あっさりとクレイは自分が裏切り者であることを認めた。これには少しばかり拍子抜けした。
「どうしてって顔だね。まあ、僕にもいろいろと事情があってね」
「あのパーティーで私たちが仲間を救うために乗り込むという情報を軍に流したのも、あなたなのね?」
「それはアニタが勝手にやったことだよ。おかげで、君がエスツェリア軍に追われ撃たれそうになって焦ったんだ。もし、君に何かあったら、僕はあの場にいた全員皆殺しにするところだった」
ファンローゼは握っていた手を強く握りしめた。
「嘘つき! あなたは反エスツェリア組織の一員だと言いながら、実は敵軍に情報を流す密告者だった。あのパーティにも、わざわざエスツェリア軍の制服を着て、もぐり込んでいた。軍内部に協力者がいるというのも嘘。それはあなた自身のことだった」
クレイはため息を一つこぼす。
「まさか、こんな指輪一つでばれるとは思いもしなかったよ。おっとりしているようで意外に鋭いんだね」
「あなたは私や仲間を利用したのね。報酬欲しさに軍に情報を流した」
「まあ、そういうことになるかな。報酬はいっさい貰っていないけど」
そこでファンローゼははっとなる。
クレイがエスツェリア軍に通じていたというのなら。
「お父様の居場所を軍に流したのもあなた? 私とお父様が話をしている時、あなたは途中でいなくなった。それは軍にお父様の居場所を伝えるため」
「そういうこと」
「どうして!」
「それが僕の仕事だからさ」
「仕事……私がクルトの娘だと知って、あなたはクルトの居場所を突き止めるため、私を利用し、このエティカリアに連れてきた。そういうことなのね」
クレイはくつくつと肩を震わせて笑った。
「僕はね、ファンローゼ。君がスヴェリアのあの老夫婦の元にいることを最初から知っていながら君に近づいた」
クレイはふっと笑ってファンローゼにつめよる。
「ここまで言っても、まだ気づかない?」
何が? というようにファンローゼは眉間をきつく寄せる。
「まあ、いいか。そう、エティカリアの大学生というのも、大学を休学してエティカリアから一時的に逃れてきたというのも、すべて、君に近づくための嘘。三年間、ゆっくりと君の信頼を得るよう接し、あの老夫婦に気に入られるため好青年を演じてきた。いつか君をこのエティカリアに連れ戻すために」
「だから、エティカリアに入国するときも、簡単に国境を越えられた」
「まあね」
「お父様の書いた小説のファンだと言ったのも嘘?」
「ごめんね。実は読んだことがない」
「クレイが小説を書くと言っていたのも」
「僕にそんな趣味はないよ。君の気を引くための偽り」
「私を好きだと言ったのも嘘だった」
クレイはああ、と声を落とし、わずかにまぶたを伏せる。クレイの端整な顔に愁いの色が過ぎる。
「それは本当だよ。前にも言ったけれど、僕は初めて君と出会った時から君のことを好きになった。だからこうして君の危機には必ず駆けつけて助けてあげているだろう。パーティーの件だって、ずっと、君に危害が及ばないよう影から見張っていた。だけど、君が一生懸命で可愛かったから、つい悪戯心を起こしてあんなことをした。いや、君が大好きだったコンツェットの再会に嫉妬したというのもあるかな。本気で君をどうこうするつもりはなかった。これは本当さ。だから、あのパーティのことは許してくれるかな」
「許さない」
押し殺した声がファンローゼの唇からもれる。ふと、ファンローゼの視線が机の上に無造作に置かれている拳銃に向けられる。
「何があっても僕が守ってあげるよ。僕にはそれだけの力がある。いや、君を守る為に僕は力を手に入れたといっても過言ではない」
「いやよ。人殺し!」
するりとクレイの手から抜け出したファンローゼは、机の上の拳銃をとり、クレイに向かって身がまえた。
「君には撃てない」
クレイがふっと嘲るような笑みを刻みながら近づいてくる。
「近寄らないで! 撃つわ」
「ファンローゼ、いい子だからその銃を返すんだ。危ないよ。怪我でもしたら大変だ」
「来ないで!」
「それに、そんな震えた手で撃つことはできないよ」
クレイの目がすっと細められた。
「それにねファンローゼ、僕が本気になれば君が引き金をひく前に君から銃を奪い、ねじ伏せることなど簡単なんだよ。僕を甘くみてはいけない」
さらにクレイは足を踏み出した。
ファンローゼはぎゅっと目をつむり、引き金をひいた。
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