怨霊が棲む屋敷 呪われた旧家に嫁いだ花嫁

島崎 紗都子

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第1章 村祭りの夜のできごと

9 先の見えない不安

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 どのくらい眠っていたのだろう。
 ザッザッ、と何者かが自分の背後で歩き回る音が聞こえた。
 どろりとした空気に全身を絡めとられ、まるで金縛りにあったように動けない。
 誰?
 目を開けたくても、まぶたが鉛のように重い。

 ごめんなさい。
 とても疲れていて……それに、身体が動かないの。

 ふと、何ものかの手が肩に触れた。その冷たい手の感触に雪子はびくりと肩を跳ね飛び起きる。
 慌てて背後を振り返ると、一人の女性が立っていた。
 彼女の側には夕食の膳が置かれている。
 柱にかけられた時計を見やると、午後六時を過ぎていた。
 ほんの少し休むつもりが、けっこうな時間ここで眠っていたことになる。

「申し訳ございません。何度もお声をかけたのですが、返事がなかったもので。勝手に部屋に入らせていただきました」
「ごめんなさい」
 雪子は慌てて寝乱れた髪と衣服を整える。
 いくら疲れていたとはいえ、屋敷についてそうそう眠りこけていたとは、だらしがない女だと思われたかもしれない。しかし、膳を運んでくれた女性は雪子が眠っていたことを特に気にもとめた様子もなく淡々と言葉を継ぐ。

「お食事はこちらに置いておきますので、召しあがってください」
「ありがとうございます」
 それでは、と礼をして立ち去ろうとする女性を雪子は慌てて呼び止める。
「あの、お風呂はどこでしょう。後でいただきたいと思って」
「それでしたら、あちらです。あそこの建物がお風呂場です」
 女は庭の向こう、離れから見える建物を指差した。
「ありがとうございます」
「いつでも必要なときに使ってくださってかまいません」
「すみません」

 雪子は苦笑いを浮かべた。先程からありがとうと、すみませんしか答えていないではないか。
「後ほど、お膳をさげにまいります」
 女はもう一度頭を下げると、部屋から去っていく。
 重苦しい雰囲気に今日何度目かのため息をつき、運ばれたお膳の前に座る。

 軽くお昼をとって以来何も口にしていないのに、どういうわけか食欲がわかなかった。
 お膳の上にはお椀に南瓜と高野豆腐の煮物。山菜のおひたし、佃煮と川魚が並べられていた。
 食欲はなかったが、残すのも気が引ける。とはいえ、たった一人で主屋から離れた場所で食事をするのも味気ないものである。

 あくまで自分は余所者として、屋敷の皆から切り離された生活を強いられるのだろうか。
 いつになったら、いや、どの時点で利蔵家の、孤月村の人間として認めてもらえるのか。
 先の見えない不安に雪子の胸は押し潰される。
 食事を無理矢理胃におさめると、先ほどの女性がタイミング良く現れお膳を下げていく。

 とくにすることもないので、早々にお風呂をいただき、雪子はぼんやりと離れで過ごし寝床についた。
 緊張と不安で眠れないかと思ったが、やはり身体は疲れていたのだろう。またたく間に深い眠りの底へ落ちていった。
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