4 / 4
序章 廃された皇貴妃は毒酒を賜う
3 来世こそは、あなたと結ばれたい
しおりを挟む
「出ろ。時間だ」
刑吏に背を向けていた慧雪は、袖口からあるものを取り出した。
丸薬であった。
獄吏に気づかれないよう、それを飲み込む。
「何をしている、聞こえなかったのか。さっさと来い!」
刑吏に引きずられ慧雪は牢から出された。裸足で処刑場へ向かう。
足が鉛のように重い。
身体が熱く、目眩がする。
「さっさと歩け」
「っ!」
足を引きずりながら歩く雪貴妃の背を、刑吏が容赦なく鞭で打つ。衣が破れ、皮膚が裂けた。背に一筋の赤い痕が浮きあがり、血が流れる。
「止まるな!」
足をもつれさせ歩みを止めると、容赦なく刑吏の鞭がおろされる。
慧雪は歯を食いしばり、倒れそうになるのを足を踏ん張って堪えた。
後宮の妃が人前で処刑される。それも皇帝陛下の一番の寵妃が。
こんな屈辱があるだろうか。
処刑場に到着すると、強引にひざまずかされた。
慧雪は目の前に座る李鶯陛下を見上げる。
口を開こうとする慧雪の言葉を遮るように、李鶯陛下がさっと右手をあげた。と同時に紅妃の侍女、蝶児が酒杯の乗った盆を手にこちらに歩み寄る。
毒杯だ。
蝶児は無言で杯を差し出してきた。その唇が歪んだ嗤いを刻む。
慧雪は周りを見渡した。
血の気が引く。一瞬、意識が飛びそうになった。
大勢の者がかつての寵妃だった雪貴妃の処刑を見るため、この場に集まっていた。皆、慧雪を指差し笑っている。まるで、最高の見世物を楽しむかのように、彼らの目はギラついていた。
はっと我に返り、慧雪はもう一度李鶯陛下を見る。
この機会を逃すわけにはいかないと、慧雪はまくしたてるように陛下に訴える。
「聞いてください陛下。お腹に陛下の子がおります。三ヶ月です。どうかこの子のためにも、私の話を聞いてください」
辺りがどよめきたった。
それが本当なら一大事だ。お腹に陛下の子がいるとなれば、慧雪の刑も取りやめになるはず。
慧雪の告白に李鶯陛下は目を見開く。その瞳の奥に情が揺らいだのを慧雪は見逃さなかった。
「朕の子……それは誠か?」
はい、と慧雪は頷く。
「それが本当なら、そなたの処刑は……」
「お待ちください陛下」
しかし案の定、即座に紅妃が待ったをかけてきた。
「侍衛と密通した女です。お腹の子が陛下の子だと言い切れますか。いいえ、その前に本当に子がいるのかも疑わしいもの。雪貴妃が懐妊しているか確かめるべきですわ」
確かに、と李鶯陛下はあごに手を添え唸る。
「うむ。太医をここに呼べ」
「馮太医を呼んできなさい」
紅妃に呼ばれ、即座に馮太医が現れた。
まるで示し合わせたかのように。
ひょろりとした風貌にちょび髭。抜け目のない目つきをしたこの男は、紅妃が懇意にしている医師だ。
「雪貴妃が懐妊しているか脈を調べろ」
「かしこまりました」
皇帝陛下に命じられ、馮太医は慧雪の手首に指をあてる。
脈をみる馮太医の顔が次第に難しいものになっていく。首を傾げては眉根を寄せ、指先に集中するかのように目を閉じる。
時間をかけて脈を確かめていた馮太医は、雪貴妃から離れ、皇帝陛下に拱手をする。
「申してみよ」
馮太医は恭しく皇帝陛下に頭を垂れる。
「お答えします。貴妃さまに懐妊はみられません」
再び、辺りがざわついた。
「そんなはずはないわ!」
慧雪は唇を震わせる。
確かに子ができた。三ヶ月だと太医に言われた。月のものはなく、悪阻もある。
慧雪はお腹に手をあてる。
間違いなく、お腹に陛下との子がいるのだ。
紅妃はくつりと唇を歪め、口元に手を当てた。
「雪貴妃、どれだけ罪を重ねるのかしら。懐妊を偽ることも重罪だということは知っているでしょう」
「馮太医、もう一度脈を診て!」
「それは、その……」
馮太医は困った顔でひたいの汗を拭う。その袖口にきらりと光るものが見えた。
銀子であった。
おそらく懐妊は偽りと言え、そう紅妃に命じられ渡されたのだ。そうに違いない。
「私は本当に陛下の子を……そうだわ、他の太医を呼んでもう一度調べて!」
「雪貴妃、見苦しいわよ」
紅妃がさっと手をあげた。
それを合図に毒杯を手にした蝶児が再び詰め寄ってくる。差し出された杯を見て慧雪は首を振る。
「いやよ、この子を殺させはしない!」
助けを請うよう陛下に視線をやる。だが、数日前まで慈しんでいた寵妃を、今やまるで汚物でも見るかのように醒めた目を向け、皇帝陛下は衣の裾をひるがえしこの場を立ち去る。
「陛下、信じてください。私は陛下を裏切ってはおりません!」
「雪貴妃、いつまで寵妃気取りでいるのかしら。いい加減あきらめてそれを飲みなさい」
慧雪は紅妃を睨みつける。
「紅妃、あなたが仕組んだのね」
「いったい何のことかしら」
含み笑いを浮かべた紅妃は、手にした手巾をさっと振る。
「はやく飲ませなさい」
「さあ、口を開けろ」
「やめて、お願いやめて! お腹に子がいるの! ううっ」
蝶児に顎を掴まれた。きつく唇を閉じると今度は鼻をつままれる。息苦しさに耐えきれず口を開くと、無理矢理、酒杯の中の液体を口の中に流し込まれた。
「げほっ、ごほっ!」
熱い。苦しい。息ができない。
流し込まれた毒が、胃の腑に落ちていく。
宮中になど来たくなかった。
皇帝陛下の妃など望んでいなかった。
寵愛なんていらない。
どんなに貧しくても、普通の人生を送りたかった。そして、心から愛する男性と。
――慧雪……。
ふと、自分の名を呼ぶ声を耳にしたような気がした。
慧雪の瞳に一人の男の姿が映る。
「星辰さま……」
慧雪の目から涙が落ちた。
星辰と呼んだその男は、唇を噛みしめ、握った手を震わせていた。
慧雪が心から愛し、将来を誓い合った、ただ一人の男性。
こちらに駆け寄ろうとする星辰を、雪貴妃はだめ、と首を振ってとどめる。愛する人を巻き添えにするわけにはいかない。
本当はあなたの妻になりたかった。
あなたと一生を添い遂げたかった。
どうか悲しまないでください。
星辰さま……来世こそ、あなたと結ばれることを願います。
遠のく意識の中で、紅妃が勝ち誇ったように笑う姿を見た。
私はこの女に嵌められ殺される。
さらに、紅妃の側で唇を歪める侍女の蝶児。
目をそらす馮太医。
それだけではない。
私に敵意を剥き出し嫌がらせをしてきた後宮の女たち。私に仕えていながら裏切った太監。権力で私を排除しようとした公主や皇太子、その友人。
そして、私を信じようとせず処刑を命じた陛下!
望みもしない皇帝陛下との婚姻によって、愛する星辰と引き離された。
後宮に押し込められてからは、常に命の危機に怯えながら暮らす毎日に身も心も疲弊した。
ようやく子ができ、生きる喜びを得た。なのに、ありもしない疑いをかけられて殺され、大切な子さえ守れず失う。
これでいいの?
悔しい。
慧雪は鋭い眼差しを紅妃に向けた。
怒りがふつふつとわき上がる。
絶対に許さない。いいえ、私を陥れた者、全員許さない。
復讐してやる。
深い恨みを抱き、雪妃の意識は途切れた。
地面に倒れた慧雪の髪から、一本の簪が落ちた。
紅妃はそれを手に取る。
雪貴妃の称号にちなんで作られた雪の結晶を模した簪。
陛下から下賜されたものだ。
「いい気味だこと。陛下の寵愛を独り占めするからこうなるの。ふふっ、これで邪魔者はいなくなったわ。ふふ……あはははははははは!」
荷車に乗せられ、運ばれていく雪貴妃の遺体に、紅妃は簪を投げつけた。
刑吏に背を向けていた慧雪は、袖口からあるものを取り出した。
丸薬であった。
獄吏に気づかれないよう、それを飲み込む。
「何をしている、聞こえなかったのか。さっさと来い!」
刑吏に引きずられ慧雪は牢から出された。裸足で処刑場へ向かう。
足が鉛のように重い。
身体が熱く、目眩がする。
「さっさと歩け」
「っ!」
足を引きずりながら歩く雪貴妃の背を、刑吏が容赦なく鞭で打つ。衣が破れ、皮膚が裂けた。背に一筋の赤い痕が浮きあがり、血が流れる。
「止まるな!」
足をもつれさせ歩みを止めると、容赦なく刑吏の鞭がおろされる。
慧雪は歯を食いしばり、倒れそうになるのを足を踏ん張って堪えた。
後宮の妃が人前で処刑される。それも皇帝陛下の一番の寵妃が。
こんな屈辱があるだろうか。
処刑場に到着すると、強引にひざまずかされた。
慧雪は目の前に座る李鶯陛下を見上げる。
口を開こうとする慧雪の言葉を遮るように、李鶯陛下がさっと右手をあげた。と同時に紅妃の侍女、蝶児が酒杯の乗った盆を手にこちらに歩み寄る。
毒杯だ。
蝶児は無言で杯を差し出してきた。その唇が歪んだ嗤いを刻む。
慧雪は周りを見渡した。
血の気が引く。一瞬、意識が飛びそうになった。
大勢の者がかつての寵妃だった雪貴妃の処刑を見るため、この場に集まっていた。皆、慧雪を指差し笑っている。まるで、最高の見世物を楽しむかのように、彼らの目はギラついていた。
はっと我に返り、慧雪はもう一度李鶯陛下を見る。
この機会を逃すわけにはいかないと、慧雪はまくしたてるように陛下に訴える。
「聞いてください陛下。お腹に陛下の子がおります。三ヶ月です。どうかこの子のためにも、私の話を聞いてください」
辺りがどよめきたった。
それが本当なら一大事だ。お腹に陛下の子がいるとなれば、慧雪の刑も取りやめになるはず。
慧雪の告白に李鶯陛下は目を見開く。その瞳の奥に情が揺らいだのを慧雪は見逃さなかった。
「朕の子……それは誠か?」
はい、と慧雪は頷く。
「それが本当なら、そなたの処刑は……」
「お待ちください陛下」
しかし案の定、即座に紅妃が待ったをかけてきた。
「侍衛と密通した女です。お腹の子が陛下の子だと言い切れますか。いいえ、その前に本当に子がいるのかも疑わしいもの。雪貴妃が懐妊しているか確かめるべきですわ」
確かに、と李鶯陛下はあごに手を添え唸る。
「うむ。太医をここに呼べ」
「馮太医を呼んできなさい」
紅妃に呼ばれ、即座に馮太医が現れた。
まるで示し合わせたかのように。
ひょろりとした風貌にちょび髭。抜け目のない目つきをしたこの男は、紅妃が懇意にしている医師だ。
「雪貴妃が懐妊しているか脈を調べろ」
「かしこまりました」
皇帝陛下に命じられ、馮太医は慧雪の手首に指をあてる。
脈をみる馮太医の顔が次第に難しいものになっていく。首を傾げては眉根を寄せ、指先に集中するかのように目を閉じる。
時間をかけて脈を確かめていた馮太医は、雪貴妃から離れ、皇帝陛下に拱手をする。
「申してみよ」
馮太医は恭しく皇帝陛下に頭を垂れる。
「お答えします。貴妃さまに懐妊はみられません」
再び、辺りがざわついた。
「そんなはずはないわ!」
慧雪は唇を震わせる。
確かに子ができた。三ヶ月だと太医に言われた。月のものはなく、悪阻もある。
慧雪はお腹に手をあてる。
間違いなく、お腹に陛下との子がいるのだ。
紅妃はくつりと唇を歪め、口元に手を当てた。
「雪貴妃、どれだけ罪を重ねるのかしら。懐妊を偽ることも重罪だということは知っているでしょう」
「馮太医、もう一度脈を診て!」
「それは、その……」
馮太医は困った顔でひたいの汗を拭う。その袖口にきらりと光るものが見えた。
銀子であった。
おそらく懐妊は偽りと言え、そう紅妃に命じられ渡されたのだ。そうに違いない。
「私は本当に陛下の子を……そうだわ、他の太医を呼んでもう一度調べて!」
「雪貴妃、見苦しいわよ」
紅妃がさっと手をあげた。
それを合図に毒杯を手にした蝶児が再び詰め寄ってくる。差し出された杯を見て慧雪は首を振る。
「いやよ、この子を殺させはしない!」
助けを請うよう陛下に視線をやる。だが、数日前まで慈しんでいた寵妃を、今やまるで汚物でも見るかのように醒めた目を向け、皇帝陛下は衣の裾をひるがえしこの場を立ち去る。
「陛下、信じてください。私は陛下を裏切ってはおりません!」
「雪貴妃、いつまで寵妃気取りでいるのかしら。いい加減あきらめてそれを飲みなさい」
慧雪は紅妃を睨みつける。
「紅妃、あなたが仕組んだのね」
「いったい何のことかしら」
含み笑いを浮かべた紅妃は、手にした手巾をさっと振る。
「はやく飲ませなさい」
「さあ、口を開けろ」
「やめて、お願いやめて! お腹に子がいるの! ううっ」
蝶児に顎を掴まれた。きつく唇を閉じると今度は鼻をつままれる。息苦しさに耐えきれず口を開くと、無理矢理、酒杯の中の液体を口の中に流し込まれた。
「げほっ、ごほっ!」
熱い。苦しい。息ができない。
流し込まれた毒が、胃の腑に落ちていく。
宮中になど来たくなかった。
皇帝陛下の妃など望んでいなかった。
寵愛なんていらない。
どんなに貧しくても、普通の人生を送りたかった。そして、心から愛する男性と。
――慧雪……。
ふと、自分の名を呼ぶ声を耳にしたような気がした。
慧雪の瞳に一人の男の姿が映る。
「星辰さま……」
慧雪の目から涙が落ちた。
星辰と呼んだその男は、唇を噛みしめ、握った手を震わせていた。
慧雪が心から愛し、将来を誓い合った、ただ一人の男性。
こちらに駆け寄ろうとする星辰を、雪貴妃はだめ、と首を振ってとどめる。愛する人を巻き添えにするわけにはいかない。
本当はあなたの妻になりたかった。
あなたと一生を添い遂げたかった。
どうか悲しまないでください。
星辰さま……来世こそ、あなたと結ばれることを願います。
遠のく意識の中で、紅妃が勝ち誇ったように笑う姿を見た。
私はこの女に嵌められ殺される。
さらに、紅妃の側で唇を歪める侍女の蝶児。
目をそらす馮太医。
それだけではない。
私に敵意を剥き出し嫌がらせをしてきた後宮の女たち。私に仕えていながら裏切った太監。権力で私を排除しようとした公主や皇太子、その友人。
そして、私を信じようとせず処刑を命じた陛下!
望みもしない皇帝陛下との婚姻によって、愛する星辰と引き離された。
後宮に押し込められてからは、常に命の危機に怯えながら暮らす毎日に身も心も疲弊した。
ようやく子ができ、生きる喜びを得た。なのに、ありもしない疑いをかけられて殺され、大切な子さえ守れず失う。
これでいいの?
悔しい。
慧雪は鋭い眼差しを紅妃に向けた。
怒りがふつふつとわき上がる。
絶対に許さない。いいえ、私を陥れた者、全員許さない。
復讐してやる。
深い恨みを抱き、雪妃の意識は途切れた。
地面に倒れた慧雪の髪から、一本の簪が落ちた。
紅妃はそれを手に取る。
雪貴妃の称号にちなんで作られた雪の結晶を模した簪。
陛下から下賜されたものだ。
「いい気味だこと。陛下の寵愛を独り占めするからこうなるの。ふふっ、これで邪魔者はいなくなったわ。ふふ……あはははははははは!」
荷車に乗せられ、運ばれていく雪貴妃の遺体に、紅妃は簪を投げつけた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】旦那様、わたくし家出します。
さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。
溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。
名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。
名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。
登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*)
第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中
亡き姉を演じ初恋の人の妻となった私は、その日、“私”を捨てた
榛乃
恋愛
伯爵家の令嬢・リシェルは、侯爵家のアルベルトに密かに想いを寄せていた。
けれど彼が選んだのはリシェルではなく、双子の姉・オリヴィアだった。
二人は夫婦となり、誰もが羨むような幸福な日々を過ごしていたが――それは五年ももたず、儚く終わりを迎えてしまう。
オリヴィアが心臓の病でこの世を去ったのだ。
その日を堺にアルベルトの心は壊れ、最愛の妻の幻を追い続けるようになる。
そんな彼を守るために。
そして侯爵家の未来と、両親の願いのために。
リシェルは自分を捨て、“姉のふり”をして生きる道を選ぶ。
けれど、どれほど傍にいても、どれほど尽くしても、彼の瞳に映るのはいつだって“オリヴィア”だった。
その現実が、彼女の心を静かに蝕んでゆく。
遂に限界を越えたリシェルは、自ら命を絶つことに決める。
短剣を手に、過去を振り返るリシェル。
そしていよいよ切っ先を突き刺そうとした、その瞬間――。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
【完結】旦那に愛人がいると知ってから
よどら文鳥
恋愛
私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。
だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。
それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。
だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。
「……あの女、誰……!?」
この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。
だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。
※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。
政略結婚の相手に見向きもされません
矢野りと
恋愛
人族の王女と獣人国の国王の政略結婚。
政略結婚と割り切って嫁いできた王女と番と結婚する夢を捨てられない国王はもちろん上手くいくはずもない。
国王は番に巡り合ったら結婚出来るように、王女との婚姻の前に後宮を復活させてしまう。
だが悲しみに暮れる弱い王女はどこにもいなかった! 人族の王女は今日も逞しく獣人国で生きていきます!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる