男娼時代

木木木木

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#5「研修②」

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ハナさんはベッドの上に座った。

5秒ほどの間があり
突っ立っている僕に向かって

「何してんの。早くこっち来なよ」 

そう言われ、

「失礼します…」

と口からこぼしながら

ハナさんと対面の位置に座ったところで





「セックスは本来、心を許し合った人とするものでしょう?」





ハナさんは唐突にそう言った。

「お客へのサービスだとしても
 その部分は基本的に変わらないんだよ」

「特にウチみたいな会員制の店ならなおさらね」

そう続けると

僕の右手を取って


「その年齢で下手なのは当たり前だし
 お客も君にそれを一番には望んでない」


と言うと両手で僕の手を包み、





「一緒にいて"心地いい"と思ってもらえたら他はなんでもいい」





間髪入れず

「これはメモっておいた方がいいかもね~」
と言われ少し慌てると
ハナさんは「冗談だよ」と笑って 


 「さっき"会話が大切"って言ったのはそういうこと」


続けて



「セックスだって身体の全部を使う会話なんだよ」 



顔を近づけ 

「ベッドでの行為はこの仕事のほんの一部」

 間を置いて
 「分かった?」
と言われ

声で返事が出来ず頷くと 


「とはいえ最低限のことはあるからさ」  


とハナさんはつぶやいた。

そして






「一回せめてみて」






と聞こえた気がした。

「いつもやってるようにすればいいから」

確実に聞こえている。

「経験はあるんでしょ?」 

反射的に頷きつつも
しばらくただ見つめていると



「じゃあ一旦私がやるからその通りに」



"いや、僕にやらせてください” 



と返す刀は抜ける前に優しいキスで鞘に収まり

それからのことはより鮮明に覚えている。

ハナさんの



左手は僕の右頬に添え
右手は僕の左手を握り
両足で僕の身体を抱え



四肢すべてにちゃんと意識が届いている。



そんな感覚だった。




興奮の因果に小手先はなく
二人に纏った空気そのものが性的だった。




「愛撫やフェラとかの技術は場数が物を言うだけ」
「慣れるまでは"優しく"をベースにしていればそれでいい」
「初心者が小慣れ感を出すのが一番良ろしくない」
「会話とキスで作る雰囲気がすべて」 




ベット上での一通りの流れと共に
伝えられた教え。


文字面は入ってくるけれど
当時の僕には雲をつかむような話に思えた。 


その後も指導はしばらく続いて
四時間ほど経った頃、
ようやく研修は終了した。

 ホテルを出て裾上げをお願いしていたスーツを受け取った後
タクシーにハナさんが乗り込む直前、





「君は向いてると思うよ」





突然投げかけられた言葉に驚いて
「どうしてですか」
と聞くと




「人がいいから」




と答えてすぐに
「あっ、でも人がいいからここにいるハメになったんだね」
悪戯っぽくそう言った。 
ハナさんはまた「冗談だよ」と笑って






「オーナーの言うことを聞いておけば大丈夫」






「信じていい人だと思う」






そう告げた。

思わず
「本当ですか?」と
いらない質問をすると

「じゃあね」

と残して去って行った。





それから程なくしてオーナーからメールがきた。 





初出勤である。



--#6へ続く--
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