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シトシト嫉妬oh shit
第二話 胸の痛む話
しおりを挟む魔法使協会本部ビル 教育課 課長室前
「・・・ふぅ。」
誰が彼の職業を聞いても「あぁ、それっぽい雰囲気出てるね」と言うほど校長先生が様になっている男、関東支部魔法学園校長の間隠宏隆が木製の扉の前で身だしなみを整えていた。
「準備はよろしいですか?」
課長補佐の、ぴっちりとスーツを着こなした女性が彼の背後から声を掛ける。
「はい。お待たせしました。」
ネクタイを締め、シャツの裾が出ていないこともズボンの裾が裏返っていないことも確認した。
この部屋の主は大変気難しい。
堅物を擬人化したらこんな人になるんじゃないか、と言えるほど気難しい性格をしている。「ただノックの回数を間違えただけで入室させて貰えなかった」「ボタンが一つ外れていただけで話すことを拒否された」なんて噂が流れるほどである。
「失礼します。関東魔法学園校長、間隠宏隆です。」
しっかりと扉を三回ノックして返事を待つ。礼儀良く、けれどへりくだり過ぎに見えないよう、細心の注意を払う。
「入りたまえ。」
威圧感を感じさせる重低音。どれだけ不真面目な学生でもこの声に怯まずにはいられない・・・その所為か、間隠の講話より、彼の講話の方が寝ている生徒が圧倒的に少ない。間隠はそのことを、少し羨ましく感じていた。
ゆっくりとドアを開く・・・教育課課長室と書かれた扉の向こうには、膨大な量の紙が閉じられているファイルがギッシリと詰まった本棚に左右を囲まれ、ガラス張りの一面を背後にする形でデスクが置かれていた。
「二週間ぶりに来たけど・・・変わらないな」
間隠は心の中で呟いた。
いつ見ても変わらない内装・・・仕事に関係ない物が一切排除された部屋。変わることがあるとすれば棚の横の台に乗っているトロフィーの数ぐらい。せめて客用にソファぐらい置いて欲しいものだ。
「こんにちは間隠君。今日は何を話に?」
窓の景色に向かって立っていた男がこちらにゆっくりと振り返る・・・彼の名は法道寺翠翁。教育課課長であり、全国の魔法学園の理事長だ。
そして、この世界の・・・最高権力者の一人。
ピッシリと整えられた白髪。黒縁の四角い眼鏡と鷹のように鋭い深緑の眼、高級なオーダーメイドのスーツ・・・彼以上に正しくスーツを着こなす人間はいない。少なくとも、間隠は見たことがない。
「・・・先日、私の学園の生徒が人猿の被害者であり、危険性の判別が不確定のため慎重な接触を命じられている三藤玄に暴行を加える事件がありました。」
「知っている。」
法道寺課長は顔色一つ変えない。間隠は、彼が笑っているところを見たことが無い・・・記憶の中の彼はいつも眉間に皺を寄せている。
「彼の情報はすぐに規制が掛けられました。人猿の被害者の生き残りがいることは公開されていますが、他人の体と入れ替えられた事実は一部の者以外には知らされていません。もちろん、その情報を漏洩することも禁じられています。」
「知っている。」
「・・・あなたですね?その生徒に三藤玄の情報を教えたのは?」
協会の保守派筆頭、規則の万人たる彼がこんなことをしたとは自分でも信じられない・・・もしこれが誤った情報であったならば私の首は勢いよく飛ぶことになる・・・明日からどこか僻地にある協会の提携企業にでも左遷されているかもしれない。
だが・・・この人が規則を犯したことは、紛れもない事実だ。
「その通りだ。」
予想外に、いや、見苦しく否定されることも彼の印象からは想像出来ないけれど、あっさりと自分の違反行為を認める、法道寺翠翁。
「私が風緑君に人猿の機密情報を教えた事実を知ってどうするつもりかね?」
「どう、と言われましても・・・」
伏せていた生徒の名前まで口にして、自分の法から逸脱した行為を露わにする・・・問い詰めているのはこちらであったはずなのに、いつの間にか問い詰められる方が間隠になっていた。
「・・・何故そんなことを?」
別に間隠は、課長を告発しようとは考えていない。今回の一件を除けば、彼が精錬潔白な・・・誠実な人間であることは確かだ。「気にくわない部下を左遷させた」なんて、彼を貶めんとする噂は全て誇張されているか大事な部分が抜け落ちている。
実際に会話を拒まれた、異動させられた人間は裏で犯罪行為を行っていた人間である。法道寺課長はなんらかの手段で彼らの裏の顔を見抜いていたから、そのような態度を取り・・・彼らを裁いた。それが真実だ。噂は当てにならない。
詰まるところ、気難しいことを除けばむしろ素直に尊敬出来る立派な上司だった。
「ふむ・・・風緑君とは何回か話したことがあったのだよ。だから彼女の猪突猛進ぶりを知っていた。」
「・・・というと?」
「彼女が権堂君に好意を抱いていたことは知っているだろう?権堂君の死を聞けば必ずその真相を探ろうとしただろう。」
「そうでしょうね。」
「困ったことに彼女は優秀だ。人猿の報告書を見れば隠蔽されている事実に気づいていただろう。後先を考えない彼女がその隠された事実を調べるために暴走することも目に見えていた・・・彼女の異常性は君も心得ているだろう?」
「・・・・・・」
風緑鶯は今期卒業予定の生徒中で、学年一位の才女だ。学業成績はいつも総合一位であるし、協会の職業インターンでも優秀な結果を残している、才気あふれる、将来有望な学生だった。
ただ、決して優等生では無かった。
その素行に、問題があった。
「自分の正義を貫くことに手段を選ばない異常性・・・私達上層部が何かを隠していることを悟れば道を踏み外してでも暴き出そうとしただろう。そうだな・・・例えば、機密情報を持ち得る私や君を誘拐し、拷問を掛けて真実を吐かせようとしただろうな。」
飲酒や喫煙などの違法行為をしていた生徒を教師に告発した、なんて生優しいモノではない。
ある内気な女子生徒へのイジメに加担していた彼女のクラスメイトが全員不登校になった。
カツアゲや万引き等の違法行為を改めない不良は軒並み病院送りにされた。
気の弱い生徒に無茶な課題を押しつけた体育教師は虚ろな目で自主退学を間隠に申し出た。
生徒に猥褻行為を働いた教師が全身の骨を折られてロッカーに詰め込まれていた。
小さいことまで挙げれば切りが無い・・・
一連の事件の首謀者は判明しなかったが、彼女の周囲でのみ騒ぎが起こるため、誰が黒幕であるかは明らかだった・・・彼女は自分の正しいと思ったことを絶対に曲げない。
たとえその正義が、法に反していようとも。
「結局暴力事件に繋がってしまったが、彼女に真実を伝えておかなければ一層酷い結果になりかねなかった。そしてなにより・・・」
掛けていた眼鏡を外し、徐に窓に振り返って、背中を間隠に向ける。
法道寺の表情が、間隠から見えなくなる。
「前途有望な学生を凶悪な犯罪者として裁くのは気が進まん。」
「・・・・・・」
法道寺課長が言ったように、もし機密情報を知る上層部に身勝手な暴力を振りかざしたならば、彼女に重い罪が課されることは確実であっただろう。良くて少年院・・・悪くて、協会からの追放といったところか。
法道寺が行った情報漏洩は決して許されるものではないけれど・・・法道寺は、自らを犠牲にして、風緑鶯が「犯罪者」の烙印を押されることを防ごうとしたのだ。
間隠には分からない。
(私に背を向けている彼は今、どんな顔をしているのだろう・・・・・・?)
法道寺の顔が・・・分からない。
「・・・生徒を守っていただき、」
「礼を言う必要はない。私がしたことが違法行為であることは変わらない。」
間隠の言葉を遮り、眼鏡を掛け直してこちらに向き直ると教育課課長の証である緑色のバッジを胸から外して・・・間隠の前に、差し出す。
強い覚悟を秘めた瞳で・・・迷いの無い瞳で間隠を真っ直ぐ見つめながら。
「君が決めたまえ。この一件をどう片付けるのか。」
「・・・・・・」
「風緑鶯と私、法道寺翠翁の処分を一任する。好きにしたまえ。」
右手にこの世界において最高権威を示すバッジを無理矢理握らせられる。
私に裁けと言うのか?
目の前の、法の番人と称される人間を?
自分の上司を?
生徒思いの優しい彼を?
「フフッ・・・ズルイですよ。反則です。」
「む?」
間隠が笑っている理由がわからないらしい・・・両眉を寄せ、深い皺を額に浮かび上がらせ、怪訝な顔をする教育課課長、法道寺翠翁。
「風緑鶯はすでに一ヶ月の停学処分と決めています。状況が状況とは言え、身勝手に力を振りかざしたことに違いはありません。反省してもらいます。」
「ふむ。」
「法道寺翠翁に課す罰は・・・そうですね。教育課課長室に来客用のソファーを設けて貰うことにしましょう。」
「・・・・・・む?」
眉間にさらに皺を寄せる法道寺。間隠の予想外な要求に、珍しく面食らったようだ。
「お返しします。」
持つべき人の手に、バッジが戻される。
「・・・罰がソファの購入とは、独特な感性を持っているようだ。だが、少しは足腰を鍛えたらどうかね?」
「いやいや、客を立たせたままにするのもおかしな話ですよ。ねえ、麻井さん?」
背後の扉の前に控えていた補佐の人も笑っていた。というか、笑っているのを悟られないよう下に俯いていた。
「え?いや、その・・・」
「もういい。今日中に発注しておく。」
「ありがとうございます。課長もお忙しいでしょうし、そろそろ失礼します。」
お辞儀をして扉へと向かう間隠・・・・・・外見では落ち着いた風を装っていたが、彼は内心、かなり浮ついていた。
(初めて法道寺課長にマウントを取った状況で話が終わった・・・嬉しい。)
なんて考えていたからだ。
「あ、そうでした。最後に。」
「まだ何かあるのかね?」
「風緑君はあなたから情報を聞いたとは決して言いませんでした。本当に・・・純粋というか・・・頑固な人間ですね。」
「・・・・・・そうか。」
「では、今度こそ失礼します。」
早く・・・早くこの状態のままこの下手を出たい・・・
「・・・間隠君、少し良いかな?」
あと本の少しのところで、間隠が法道寺に呼び止められる・・・・・・このまま景気良く帰らせてはくれないらしい。
「お辞儀の仕方がなっていない。二秒は頭を下げた状態をキープした方がいい。それと、靴下のサイズが合っていないようだね。会話しているうちに下がってしまっている。」
「・・・申し訳ありませんでした。今度から気をつけます。」
くそう・・・一度も謝らずにこの部屋を出ることはいつか出来るのだろうか?
2016年 一月九日 東京都 とある寺の周辺にて
「結局、御焼香もさせて貰えなかったな。」
「そうですね・・・」
今日は権藤さんの葬式が開かれる日だった・・・この体の心臓が権藤さんのモノである以上、参列しないのもおかしな話だ。
「まぁ気持ちも分からねえでもないけどよお・・・権藤が死んだのはお前の所為じゃあ全くねえだろうが。」
鬼打さんに付き添ってもらい参列しようとしたのだが、遺族の方々に断られてしまった。遠くで読経の音がする。僕と鬼打さんに影を落とす松の木の向こう遠くに、参列者が長蛇の列で並んでいる様子が見えた・・・どうやら、権藤さんは生前、かなり人望があったらしい。
僕の体に権藤さんの心臓が内包されていることは機密情報だったはずだが、流石に親族には伝えられているようだった。権藤さんの家族が僕の心臓を話題に出しても、隣にいた鬼打さんがそのことに触れないということは多分、そういうことなのだろう。
「しょうがないですよ。彼らからしたら僕が殺したも同然でしょう。」
理不尽な死への怒りの矛先は皮肉にも理不尽に決まる。理性では僕が悪くないことは理解していても僕の存在を許せない。直情的だ。自然なことだ。とても人間らしい。
僕みたいに人間らしくないのであれば、「しょうがない」と言って割り切れてしまうのだろうが。
「そうだなぁ・・・しゃあない。帰るか。」
しばらくの間寺の外にあった木陰の大きな石に腰掛けてどうするか考えていたが、どうしようもないため帰ることになった。
「鬼打さんは参列しないんですか?僕一人でも帰れますよ?」
「そう言われてもな・・・俺、権藤と接点全くないんだよ。鈴城みたいにあいつの直属の上司って訳でもない。むしろ、お前の知り合いって親族に認識されてるし、迷惑だろ。」
「それもそうですね。付き添って貰ったのに申し訳ありません。」
「別にいい。それこそお前の所為じゃねえよ。」
鬼打さんの時間を奪っただけになってしまった。鈴城さんに揃えるのを手伝って貰ったこの葬服も無駄になった。しかも、本庄さんの葬式にも行けない。
この体の外見を構成する、本庄かなえの葬式に行こうものなら、大騒ぎになって葬式どころではなくなるだろう。
死者が蘇ったように見えるか、ドッペルゲンガーとでも勘違いされるに決まっている。
本庄さんの親族は魔法と関係のない一般家庭だ。彼女が人猿という非日常の獣に殺されたことも、彼女の体がここにあることも知らない。
協会の方針が「魔法が一般に公開されることは避けるべき」であるからしょうがないとはいえ、でっち上げの死因を伝えられている遺族は少々、いたたまれない。
まあ、人猿が迷惑にも残していった、残酷な真実を伝えることもどうかと思うが。
「葬服で買い物やらなんやらに行くのもアレだしな。帰ってゆっくりしてようぜ。」
トボトボと寺の門に向かって砂利道を踏み進める・・・葬式場の入り口付近まで近づくと、ある異変に気が付いた。葬式が始まってからしばらく経ったため、忙しい時期も過ぎたはずである葬式の受付で何か騒ぎが起こっていた。
「なんでしょうね?受付の人が困っているように見えますけど。騒ぎの中心は・・・女の子?」
女の子の背は低く、受付のテーブルに隠れて見え辛い。葬式用の黒い服ではなく、明るい黄色の水玉模様の服を着た女の子が、親の付き添いも無しに参列しようとせがんでいるようだ。受付の人達は困惑した表情で顔を見合わせている。
「・・・・・・あ、鈴城さんだ。」
葬式場から見知った顔の女性が駆け足で出て来た。階段を駆け下りて受付に向かって来る・・・鈴城美鈴。協会関東支部支部長である。
どうやら、彼女が出てくる程の大きなトラブルらしい。
「アァ?」
女の子を見た鬼打さんが、ドスの利いた声を発する。
「おいおいマジかよ・・・三藤、お前の客だ。」
「はい?」
「魔法関連のことは話すなよ。一般人だからな。」
一般人?・・・だから受付の人達や鈴城さんは、彼女を葬式に入れたくないのか。けれど、僕の客?どういうことだ?
鬼打さんに説明を求めるが、それ以上はなにも語らず、ただ真剣な顔で「あの女子(ガキ)と話して来い」と促すだけ。
僕はしょうがなく、訳も分からないまま、戸惑いながら騒ぎになっている受付に近づいた。
「・・・なんで入れないのお?私、オジチャンに手紙を渡しに来ただけだよ?」
「えっと・・・あのね。そのオジチャンはここにはいないの。その手紙は渡せないんだ。」
「えぇー・・・いないのかあ。じゃあ、どこにいるの?」
「えっとそれは・・・」
しゃがみ込んで同じ高さの目線で女の子と話していた鈴城さんが辛そうな顔をする。
「どうしました?」
女の子の背後から声を掛ける。僕を認識した鈴城さんが、悲しい、目を細めた表情から一転、今度は目を見開いて驚く。
「三藤君!?ちょっ・・・えっと・・・」
「お姉さん誰ぇ?」
鈴城さんがあたふたしているのを横目に女の子と話す・・・女の子は何が悲しいのか、両目にウルウルと涙を溜め込み、今にも大声で泣き出してしまいそうだった。
「僕は三藤。大丈夫?何があったの?僕が聞いてあげる。」
刺激しないよう、なるべく声色を穏やかにする・・・出来ていたかどうかは知らん。
「えーっとね。えーっとね・・・この人達がオジチャンに会わせてくれないの!何度もお願いしてるのに聞いてくれないの!ここにいるって聞いたのに・・・」
女の子の言葉に「うんうん。それで?」と相槌を挟んで機嫌を取る。こういう幼い子の場合、直接聞き出したい核心を尋ねるより、全て聞き出してしまった方が手っ取り早い・・・急がば回れってやつだ。
「それでね。それでね。オジチャンにお礼を言いたくてここに来たの。でもこの人達が、それがダメだって・・・」
「そっかそっか。お礼って?」
「オジチャンがね、猿の化け物から守ってくれたの。」
「・・・・・・」
ゾワリと、絶対零度の冷たい衝撃が、体を駆け巡る。
心臓が・・・勢いよく跳ねる。
鈴城さんに静かに目配せする。彼女は右手を口に当てて躊躇う仕草をしつつ・・・
ゆっくりと、僕に向かって頷いた。
「オジチャンがね・・・オジチャンがね、私を庇ってくれたの。それでね・・・それでね・・・倒れちゃって、連れ去られちゃったの。」
「・・・・・・」
女の子が、無我夢中で語っているうちに、服の襟元を掴んでいた、小さな手が・・・無意識に力が入って皺をどんどん大きくさせて行く。
人猿の事件資料は・・・一通り目を通した。被害者のおぞましい改造死体の詳細で紙面が埋め尽くされる中で唯一・・・・・・人間味のある優しさが感じられる情報があったことを、鮮明に、覚えている。
「でもね、病院の人がね、オジチャンはちゃんと生きているから心配しないでって・・・だから、お礼を言おうと思ったの!」
その情報とは・・・
-----権藤章は通りかかった一般人の少女を庇って負傷。その後人猿に連れ去られ、心臓を抜き取られ死亡した。-----
「入っちゃダメって言うからね、手紙を書いたの。お礼の手紙・・・でもこの人達、渡せないって言うの。どうして?」
優しい嘘と純粋な優しさが僕の心を貫く。心臓がさっきからドクドクとうるさい。
そして熱い。焼き石のような・・・とんでもなく熱いモノが左胸に入っているようだ。
痛い・・・痛くて、苦しい。
「ねえ・・・どうして?」
僕が何も答えないことから真実に感づいたのか、女の子が再び目尻に大粒の涙を浮かべる。
僕はどうするべきだろう?目の前の女の子を救った権藤さんの心臓が生かしてくれているこの体で今、何が出来るだろう?
真実を教える?却下だ。この優しい女の子の人生をねじ曲げたく無い。
嘘をついて女の子をこのまま帰してしまうか?却下だ。それはこの純粋な女の子に失礼だ。
じゃあどうする?
「・・・届けてあげる。」
「え?」
「届けてあげる。その手紙。僕、実はそのオジチャンと知り合いなんだ。」
「・・・本当?」
「本当。オジチャンの名前も、姿も知っているよ。例えば・・・君を助けてくれた時、オジチャンは全身真っ黒な、テレビに出てくる特殊部隊みたいな格好してたでしょ?」
「・・・うん。」
「この人達が言ってることは本当で、オジチャンはここから遠いところにいるんだ。」
「遠いところ?」
「うん。とても遠いところ。君じゃあちょっと辿り着けないかなあ・・・」
「えぇー・・・私じゃあ行けない?」
「ちょっと厳しいかなあ・・・君が行っちゃいけない場所なんだ。」
「そっかあ・・・じゃあ、お姉ちゃんに頼んでいい?」
「うん。絶対に届けるよ。」
「絶対!絶対だよ!」
「うん。」
「指切りげんまん!」
女の子が右手の小指を僕に突き出す。
「わかった。指切りげんまんしよう。」
「「ゆーびきーりげーんまーん。うーそついたら針千本飲ーます!ゆーび切った!」」
女の子が涙を拭って・・・笑顔になる。
「これ。オジチャンへの手紙。お願いね?」
「うん。今から渡しに行くよ。」
女の子から一枚の紙を受け取る。紙は女の子が強く握っていたからか、クシャクシャで、少し湿っていた。
これで良い・・・のだろうか?少なくとも、女の子の心を傷つけずに済んだ。今は笑うべきだ。この子に重荷を背負わせるわけにはいかない。
「・・・・・・ところで君、どこから来たの?」
「え?どこって、群馬県だよ?」
「えっと・・・君、どうやってここに来たの?」
「え?どうやってって、スマホで調べて新幹線で来たよ?」
・・・本当?
「お母さんやお父さんには知らせた?」
「ううん!一人で来た!」
「・・・・・・」
女の子が僕に手紙を渡した辺りから、女の子の背後でほっと胸を撫で下ろしていた鈴城さんの顔色がすぐに暗い緑色に変化する・・・・・・彼女が額に手を当てて項垂れているのが確認しなくても分かる。
周りにいた受付の人達も、さっきとは違う意味で驚き呆れていた。
「・・・凄いね。一人で来るなんて。」
「えへへー偉いでしょ!」
最近の小学生?(多分)は利口だなあ。一人でそれなりの距離を新幹線に乗って東京まで来れるらしい。
「お家の電話番号わかる?」
「うん!」
「そっかあ。それは良かった・・・」
「魔法に関わる記憶は一般人から消したって聞いてますけど?」
鈴城さん達に女の子を任せ、その小さな背中を見送る。
「印象の薄い記憶なら一般人でも副作用無く消せるんだがな。命の危機を感じるほど強い記憶だと、消せずに残ってしまうことが多い。」
鬼打さんが神妙な顔付きで女の子に手を振りながら答える。しかしこの人、あの女の子が権藤さんに救われた少女だとすぐに認識してたよな?・・・どんな記憶力してるんだ。資料に載っている顔写真を全て覚えているのだろうか?
「そうですか・・・」
「それに、子供は魔法の影響を受けやすい。記憶を消そうとして強い魔法をかけた結果、魔法使いになっちまうのが一番不味い。」
確かに・・・それでは本末転倒だ。
「・・・手紙は読んだのか?」
「はい。拙い文章ですけど、ちゃんと感謝の意が込められてました。『助けてくれてありがとう』って。」
手紙は大事に、プラスチックケースに収納して服の裏ポケットに入れてある。帰ったらもっとしっかりした保管場所にしまっておこう。
「辛いか?」
「・・・・・・」
鬼打さんが僕に目を合わせず、空を見上げながら聞く。
「辛いです。」
心臓に痛みを感じて、左胸を強く抑えた。
「そうか・・・悲しいな。」
鬼打さんはさらに高く空を仰ぎ見、目を細めて呟く。
「・・・えぇ。」
しばらくの間、なにも考えず青い空を見つめていた。そして、どちらが声をかけるでも無く自然に帰路に着いた。
カラスが虚しく哭いている・・・嘲笑うかのように。
人を救った権藤さんの生を背負った僕は、一体なんのために生きればいいのだろう?
分からない。
同日 関東地方上空 とある飛行機内より
魔女と地獄兎の座るシートに、昼食を乗せたワゴンを運んでいた客室乗務員の女性が近づいた。
「昼食は鶏肉と・・・Sorry, chikin or fish ?」
「Oh・・・Beef!」
「よくある漫才みたいなこと言ってキャビンアテンダントの方を困らせるのはやめて下さい。申し訳ありません、この人こう見えて日本語ペラペラですよ。」
「アハハハハ。『ウサちゃん』は冗談が通じないねえ。」
「チッ・・・キャビンアテンダントさん。この人、昼食要らないそうなんで無視して下さい。」
「やめろ!私のお昼ご飯を奪おうとするんじゃないっ!」
「早めに出張から帰って来れて嬉しいからって調子になるのやめて貰えます?本当迷惑です。」
「この野郎!先輩に対してなんて失礼な!」
「いつも先輩後輩の関係無く仲良くしようとか言ってる癖にそれを引き合いに出すのは阿呆ですよ。」
「あ!私をアホって言ったな!普通に暴言吐いたね今!」
「えっと・・・鶏肉と魚、どちらががいいですか?」
第二話終わり
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俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。
「その…鎧と剣は?」
「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」
「今迄って…今回が2回目では無いのか?」
「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」
俺はうんざりしながら答えた。
そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。
いずれの世界も救って来た。
そして今度の世界は…?
6月22日
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6月23日
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昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°.
6月24日
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皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
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