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雪山の戦い2

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 リックスは雪崩に巻き込まれながらも命拾いして雪の下から這い出そうとする敵を待ち受けてはその命を刈り取る作業を繰り返していた。

「しかし何だな。思っていた戦いと違うな」

 魔物の大半はオークであり、リックスもかつては冒険者として幾多の修羅場をくぐり抜けた経験を持つのでオーク程度の魔物に後れをとることはない。
 しかも、雪崩に巻き込まれて瀕死の状態であったり、窒息寸前で這い出てくるタイミングを狙って即座に殺す、これを戦いと呼ぶにはおこがましい。

「まあ、戦力差を考えると手段を選んでいる場合ではありませんからね。今は余計な労力を使う必要もありません」

 ゼロもその命を刈る作業をしながら表情を変えることなく話す。

「まあ、そうだけどな」

 リックスはやや釈然としない様子だが、ゼロの言うことも理解できるのでこれといって文句はない。
 ゼロとリックスとアンデッドは黙々と作業を続け、一刻もしない間に敵の生き残りの殲滅を終えた。

「さて、こんなもんですか。這い出てくる敵もいなくなりましたし、例え雪崩を生き残ったとしても一刻も経てば窒息しているでしょう。予定よりも多く数を減らせました」

 ゼロが周囲を確認しながら剣を収めた。

「これからどうするんだ?まだ後続が来るんだろう?」

 リックスも剣を収めてゼロに近付いた。

「そうですね。まだ千体前後の後続が控えているはずですね。そこでリックスさんの出番です」
「俺の出番?」

 突然のゼロからの指示にリックスは首を傾げた。

「はい、身軽で足が早く、危険回避能力の高いリックスさんに頼みます。危険な任務ですが」
「あんたについて来た時から危険は覚悟のうえだ。何でも言ってくれ」

 決意に満ちたリックスの表情にゼロも頷いた。

「リックスさんはこれから敵の先行部隊に見つからないように、それよりも先に山を降りて砦に状況を伝えてください。私はここに残って後続部隊と戦い、少しでも敵の数を減らします」
「そりゃあ俺の方は問題ない。だが、俺が走るよりもあんたのアンデッドの方が早くないか?」

 リックスが素朴な疑問を口にする。

「確かに伝令だけならばアンデッドの方が早くて確実です。でも、敵の規模や状況を細かく報告し、敵を迎え撃つための助言をするとなると、アンデッドでは不可能です。私は死霊術師だから彼等と意思の疎通ができますが、死霊術の心得がないと細かいところの意思の疎通ができません」

 ゼロの説明に納得したリックスは力強く頷いた。

「わかった、任せてくれ。絶対にやってみせる」

 その様子を見たゼロはジャック・オー・ランタンとスペクターを召喚した。

「この2体を貴方の護衛につけます」
「あ、ありがてえが。やっぱり間近でみると迫力あるな・・」

 目の前の2体を見てリックスが顔を歪める。

「大丈夫、貴方に危害を加えることは絶対にありませんし、万が一敵に気取られた時には貴方を逃がすために戦ってくれますよ」
「あ、ああ。アンデッドはともかくあんたを信じるよ。それよりもあんたの方こそ気をつけろよ」
「はい、私はここで残りの敵を迎え撃ちますが、適当に数を減らしたら撤収して砦に合流しますよ」

 ゼロはそう言ってリックスに背を向けて歩き出す。
 その姿を見たリックスも2体のアンデッドと共に砦に向かって山の斜面を駆け下りて行った。

 その場に残ったゼロは周囲を見渡した。
 たった今、大規模な雪崩を引き起こしたばかりだから同じ手は使えない。
 敵が来るまでそう時間もないだろうから小細工をする暇もないだろう。

「正面から受け止めるしかないですね」

 ゼロは召喚していたスケルトンウォリアー達を戻し、代わりにバンシーとオメガを召喚した。

 一方、ゼロと別れたリックスはその駿足を発揮して瞬く間に山の斜面を駆け下りる。
 その横にはスペクターが、背後にはジャック・オー・ランタンが続く。
 やがて前方に敵の先行部隊の姿を捉えると即座に進路を変え、斜面の凹凸や露出した岩肌の影に隠れながら先行部隊を追い越したが、その際に敵の様子を遠巻きに見てその足を止めた。

「足を止めて後方を気にしてるのか?」

 5百からなる敵の先行部隊は進軍を止めているだけでなく後方に対する警戒をしているように見える。

「後続部隊が襲われたことに気付いたのか?奴らが引き返したらヤバい!」

 リックスは思わず来た道を戻ろうとする。
 しかし、その進路をジャック・オー・ランタンが塞ぐ。
 更にスペクターが山の麓を指差している。

「構わずに行けってことか?」

 ジャック・オー・ランタンもその手に持つ鎌でリックスの行くべき道を示している。

「そういうことか・・・」

 リックスは今一度ゼロが残った方角を見ると、もう振り返ることなく再び駆け出した。

 ゼロは斜面の中央に立ち、最後の敵部隊が到達するのを待っていた。
 背後にはバンシーとオメガが控えており、その周辺には魔物達の死体がそこかしこに放置されている。

「マスター、間もなくです」

 敵が接近している気配に気付いたオメガが報告する。

「わかりました」

 腕組みして立っていたゼロは残りの敵を確認する。
 山の稜線を越えて姿を見せたのは最後尾の部隊約千体。
 進路上に立つゼロ達やその周りの仲間達の死体を見て敵が殺気立つ。
 その様子を見たゼロは冷徹に笑った。

「そのまま怒りに我を忘れなさい」

 逆上した敵の一部がゼロ目掛けて突進してくるが、それこそゼロの狙いどおりである。
 足並みの揃わない敵がゼロの目の前まで迫った時、その敵を目掛けて雪の中から多数の槍が突き上がり、暴走した敵を次々と串刺しにする。
 やがて、雪の中から数百体のスケルトンウォリアーが這いだしてきた。

「このまま無事に通れると思わないでください」

 ゼロは剣を抜き、オメガもバスターソードを構えた。
 そのゼロの前に3百体ものスケルトンウォリアーが現れた。
 百体のスケルトンウォリアーが横隊に並び、その列が3列、槍衾を構築する。

「さて、少しばかりお付き合いいただきますよ」
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