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ゼロ連隊誕生

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 結局、囚人部隊の生き残りはリックスを含めてたったの4人だった。
 この4人は砦から戦いを督戦していた軍務省役人により放免が伝達された。
 当然ながら戦死したリンツ達も全員が放免され、彼等の囚人部隊という呼び名も公式に抹消され、義勇兵と書き換えられた。
 しかし、生き残った4人はその後の人生においても

「自分は囚人部隊の生き残りだ」

 と誇りを持って名乗り続けることになるのだった。

 戦死したリンツ達を弔って一休みをしていたゼロは砦の会議室に呼ばれた。
 会議室には先程までリックス達の放免の手続きをしていた2人の役人がゼロを待っていた。
 聞くところによると放免された4人はその後の行動の自由が保障されたが、全員が冒険者として登録し、砦の守りに就くことを希望した。
 4人という少人数とはいえ、魔王軍と直接戦闘を生き残った貴重な人材であるため、全員が王都のギルド所属の冒険者となり、その戦果を考慮されて特例で青等級に認められたとのことだった。

 そのような雑談の後に役人はゼロを呼びつけた本題を切り出した。

「今回の戦闘の一部始終を督戦させてもらいました。そこで質問なのですが、今の貴方の実力でどの程度のアンデッドを揃えられますか?」
「私もこれほど多くのアンデッドを一度に召喚したのは初めてでしたが、やってみたらまだ少し余裕がありました。下位アンデッドで数だけを揃えるならば5千程度。しかし、下位アンデッドだけでは同数の軍隊には歯が立ちません。同数の訓練された軍隊と互角以上の戦いをするのならば上位アンデッドに指揮された中位アンデッドの部隊を編成する必要がありますが、その場合だと千というところです。実際には召喚するだけならばその倍以上はいけますが、その後使役することができませんので現実的ではありません」

 予想以上の答えに2人の役人は唸る。

「千体規模、3個大隊弱か。正規の連隊には及ばないが、変則的に連隊と呼んでもいい規模だ」
「数は分かりましたが、貴方はその数のアンデッドをどの程度の時間運用できるのですか?」
「普通に召喚しっぱなしでも1日、2日は大丈夫です。ただ、戦闘も無いのに千体のアンデッドをただ並べておくのは魔力の無駄です。もしも、激しい戦闘でひたすら召喚を繰り返すとなると、半日程度ですね。後は召喚者たる私が死ねば終わりですが」

 2人の役人は互いに顔を見合わせて頷き合っている。
 ゼロはこの2人が次に何を話そうとしているのか、薄々感づいていた。
 戦場におけるネクロマンサーの有用性を身を持って示し、それを軍務省役人に見られたのだ。
 ネクロマンサーの軍事利用、そうなるまいと避けてきた筈なのに、自らそれを破ったのだ。
 しかし、共に戦ったリンツ達の死に報いるため、そして、魔王軍の侵略による国の危機となれば断ることはできない。
 まして、目の前にいる2人はゼロに選択肢を提示するつもりもないだろう。

「これも報いですか・・・」

 ゼロはため息をついた。

「今、魔王軍に対して各国同時反攻が密かに予定されています。当然ながら我が国もこの砦から山道を抜けて連邦国を解放し、魔王のいる帝国まで進行する計画です」
「そこで貴方には少人数の部隊を率いて連邦国に侵入し、アンデッドを運用した連隊規模の遊撃隊として行動していただきたいのです」

 ゼロは目を閉じた。
 役人の話しはおおむねゼロの予想どおり、ネクロマンサー1人の能力である程度の規模の部隊として運用するということだ。
 しかし、遊撃隊とは予想外だった。
 ネクロマンサーの有効性を知った権力者はそれと同時にネクロマンサーの恐ろしさも理解する。
 数多のアンデッドを神出鬼没に出現させるネクロマンサーは敵にとって脅威であると同時に、その刃が自分に向けられるかもしれない恐怖である。
 ネクロマンサーとは背徳者であり、決して信頼のできる者ではないというのが一般的な評価である。
 故に兵器としては有用であるが、自軍の独立した部隊としては信用して運用できない。
 そのため権力者はネクロマンサーに真の行動の自由は与えず、魔法による契約か、呪縛によりネクロマンサーを縛ろうとするのが常だ。

「遊撃隊、と言われましたが、私に行動の自由を与えるということですか?」
「はい、魔王軍に対抗するという一点の目的に通じている以上は全ての判断をお任せします。今回の戦いでも貴方が独自に判断して北から敵軍の背後に回り込んだおかげで勝利することができました。また、これまでの貴方の仕事ぶりを分析してみたのですが、多少は軍略にも通じているようだと判断しました。余程の事態が発生した場合には作戦を指定させてもらうことがありますが、基本的には貴方の裁量で行動してもらって結構です。それに、貴方に遊撃を任せるのは軍としても都合が良いのです」
「?」
「まずは機密保持です。貴方にあれこれと指示を出していて、それが敵に漏れたら元も子もありません。それに・・失礼ながらネクロマンサーを運用していることはあまり公にできませんので」
「なるほど」

 ゼロは思案した。
 軍に利用されるのはゼロの本意ではないが、断ることはできないだろう。
 その上で条件は悪くない。

「1つ確認があります。私は風の都市の冒険者ギルドに所属しています。新たな任を受けるとなるとギルドを通してもらう必要があります」

 ゼロの言葉に役人は頷いて懐から1枚の書類を取り出した。

「今回の件を風の都市のギルドに相談したら貴方はギルドを通した仕事でないと引き受けないと説明されました。その上でギルドを通した依頼としてお願いしたいのです」

 書類を確認してみれば確かに風の都市の冒険者ギルドの依頼受領書である。
 依頼主には軍務省、仲介者に風の都市冒険者ギルドの公印と取り扱い担当者シーナのサイン、依頼受領者欄にゼロがサインすれば契約完了である。
 ゼロは内容を確認したが、緻密なシーナの仕事らしく内容に不備は認められない。
 それどころかゼロがいいように軍事利用されないように依頼主の軍務省には細かに制限が課せられている。

「担当された女性職員はとても優秀で交渉が上手い方ですね。国の役人である私達を相手に一歩も引かない交渉をされ、双方が納得できる妥協点まで示されました。当初は依頼の取り次ぎ自体を渋られていましたが、国の窮状と作戦の必要性について説明したらこのような取り扱いをしてくれました」

 見かけだけは人が良さそうな役人が笑いながら説明する。
 ゼロに断る選択肢が与えられていないが、現在の戦況を考えてみれば、シーナやモース、ギルド長をはじめとした世話になっている人々を守るためにゼロの心自体に拒否という選択肢はないのだ。

「ある意味でこれが私に課せられた呪いですか・・・」

 自虐的に笑いながらペンを取ったゼロは依頼受領者欄にサインした。

 書類を受け取った役人は改めてゼロを見た。

「これで契約は成立です。貴方の部隊は公式には正規部隊とは認められませんので、部隊番号は割り振られませんが、便宜上0連隊と呼称します。貴方の名前と相まって丁度いい呼び名ですね。そこで、所属する隊員の選定ですが・・」
「それならば私1人で結構です。その方が隠密性も高まり死霊術師の実力を遺憾なく発揮できます」

 そういって立ち上がろうとするゼロを役人がため息をつきながら止めた。

「ギルドの女性職員も貴方ならばそう言う筈だと話していました。その上でこれを渡すようにと」

 そう言って懐から一通の封書を取り出した。
 開いてみると、それはシーナからゼロに宛てたメッセージだった。

『ゼロさんのことだからきっと1人で旅立つつもりですよね?でもそれは私個人としても、ギルドとしても認めることはできません。必ずレナさんとイズさん、リズさん兄妹を、可能ならばあと数人を選抜してください。そして、必ず帰ってきてください。それから、この手紙を読んだうえでも1人で旅立とうとするかもしれませんが、それは無駄な足掻きです』

 手紙からはほんのりと香水の香りが漂う。
 それがシーナが愛用している香水の香りであることは当然ながらゼロは気づかない。

「流石ですね、全てお見通しとは。しかし、最後の一文の無駄な足掻きとは?」

 ゼロが首を傾げると役人が説明する。

「それでしたら、彼女に頼まれまして、貴方にこの件をお願いすると同時に風の都市の冒険者レナ・ルファードさんに事情を説明して欲しいと。それだけで全て解決すると言われまして、今頃別の者がルファードさんに事情を説明しています」

 それを聞いてゼロの背筋が寒くなった。
 扉の向こう、廊下の先から複数の者の足音が近づいてきて、ゼロの背後の扉が開け放たれた。
 ツカツカと歩み寄った者がゼロの背後からその手にあるシーナの手紙を奪い取る。

「この手紙を開封しているということは、貴方1人で行くつもりだったわね?ゼロ!」

 恐る恐る振り返るとそこにはレナ、イズ、リズ、オックス、リリスそして王都から砦に到着したばかりのライズとイリーナが立っていた。
 7人を代表してレナが役人に宣言する。

「ゼロの意見には聞く耳を持ちません。ここにいる7名がゼロの部隊に所属する隊員です」

 ここに不正規部隊のゼロ連隊が誕生した。
 それは所属隊員が連隊長のゼロ以下たった8名の連隊であった。
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