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総力戦2
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ゼロ達が戦闘を開始した頃、南方の国境線を巡る魔王軍と連合軍による戦いも始まっていた。
国境を守る魔王軍2万に対して連合軍1万5千が立ち向かい、激闘を繰り広げている。
数の上では劣るものの、士気旺盛な連合軍は魔王軍を相手に互角以上の戦いを展開している。
しかも、連合軍後方には予備戦力として聖務院聖騎士団を中心として各国の騎士団等、総数1万が控えている。
彼等の任務は現在戦っている前衛が国境線を食い破った後に帝国に突入して帝国内に展開している魔王軍を突破して各国から派遣された最上位冒険者、いわゆる勇者や英雄を魔王ゴッセルが座する魔王城に送り込むこと。
そのため、彼等騎士団の背後には勇者や英雄と彼等のパーティーが待機している。
その数70人、その中にはレオンのパーティーや到着したばかりのセイラとアイリアもいる。
彼等は周りにいる精強なる勇者達パーティーに比べて頼りなさが如実に見て取れる。
他の勇者達はパーティーとしても最強の地位まで到達している者ばかりであるが、レオンのパーティーは圧倒的に経験と実力が不足しているのだ。
そこで、レオンのパーティーの不足する力を補うため、これまた経験が十分ではないものの、新米聖女セイラと護衛士アイリアが編入され、加えてここまでセイラ達を護衛してきた聖監察兵団の小隊が彼等を援護することになっていた。
そんなレオン達だが、装備だけは立派に整えられていた。
セイラに同行してきた怪しげな聖務院職員が彼等の装備を運んできたのだ。
主に聖務院、魔導院、モースの組合から提供されたもので、英雄とその仲間に恥じないものである。
特にレオンの持つ槍は柄こそは使い慣れた手に馴染んだものだが、槍頭は怪しげな聖務院職員がモースから預かってきたものだ。
黒く、鋭く輝く槍頭は怪しげな聖務院職員からの
「モースさんがゼロの剣と同じ材質だ、と言っていました」
との説明にレオンは飛び上がって奮起したものだ。
「優勢ですわね。あのおバカネクロマンサーがやってくれたようですのね」
戦況を観察していたイザベラが背後に立つクロウに話し掛ける。
「はい、敵の半数もの数を引きつけてくれたようですね。しかも、敵将ごとですから。ここを突破出来なかったら恥ですね?」
「それもそうですが、問題はありませんわね。この戦いは私達予備戦力の出番はなさそうですわ」
イザベラの言うとおり前線の連合軍は魔王軍を突き崩し始めていた。
一方、北方でのゼロとベルベットの戦いでは異様な光景が繰り広げられていた。
本来はゼロの軍が攻め寄せるのを国境線を守るベルベットの軍が迎え撃つ筈だった。
しかし、ゼロの悪巧みがまんまと嵌まったことにより、国境線を守るべき魔王軍が国境の内側に向かって攻め込み、突破しようとする筈のゼロ達が国境に背を向けて魔王軍に対峙している。
「なんて不様なのかしら」
既にその表情から微笑みを消しているベルベットはそれでも冷静に戦況を分析していた。
開けた荒野ならば騎兵を前面に押し出して敵を突き崩すのだが、現在の敵は国境に連なる山の麓の狭矮な空間を利用して少数ながら強固な守備線を構築している。
しかも足場の悪い岩場であるために騎兵の突撃が出来ないのだ。
「歩兵8、9番隊は前進、弓隊と魔導部隊は前進する歩兵の援護!」
ベルベットはミノタウロスとリザードマンにより編成された歩兵2個隊を前進させた。
その様子をゼロは岩場から見ていた。
「ミノタウロスとリザードマンですか。身軽なゴブリン辺りで様子を見るかと思いましたが、時間を掛けるつもりはなさそうですね」
現在防御線を築いているのはスケルトンナイトとスケルトンウォリアーが構える大盾の壁だ。
非常に強固ではあるが、パワーのあるミノタウロスに真正面から突っ込まれれば受け止めきれないだろう。
「ミノタウロスで防御線を突き崩して、リザードマンで制圧する。その後に私を仕留めるつもりですか」
ゼロの視線の先にはリザードマンの部隊の後方に続く1個中隊程のダークエルフ達がいた。
「私の魔法で焼き払いましょうか?」
レナが申し出るが、ゼロは首を振った。
「止めておきましょう。この狭い空間でレナさんの強力な広範囲魔法はアンデッドにも影響が出ます。それに、あまり強烈な一撃を加えると敵をより一層本気にさせてしまいます。この戦いを長引かせるためには敵にもう一押しで勝てると思い続けてもらいたいのですよ」
話しながらゼロはジャック・オー・ランタンとスペクターを5体ずつ召喚してミノタウロスの側面に回り込ませた。
上位アンデッドの攻撃は強烈ではあるが、千を超える敵集団に対して10体の攻撃では効果は薄い。
先行するミノタウロス部隊の右翼から火炎魔法と衝撃魔法を浴びせ、右翼集団の数十体を打ち倒し、集団の足並みを乱すことには成功したが、全体の進軍を止めるには至らなかった。
「連隊長、差し出がましいことは承知のうえなのですが・・」
コルツがゼロの横に立つ。
「何ですか?遠慮する必要はありませんよ」
「連隊長のお考えがあるのだと思いますが、敵に対する攻撃が些か手緩いように感じます。我等竜騎兵を相手に戦われたときはもっと強力な打撃力を持っていたと思うのですが」
コルツの疑問を聞いたゼロは不敵な笑みを浮かべた。
「そうですね。敢えて手緩くしています。まだ開戦したばかりですからね、敵方もこちらの戦力を探っている段階です。敵も時間を掛けるつもりは無いでしょうが、こちらが最初から強力な打撃を与えると敵の大攻勢を招いてしまいますから」
「なるほど、時間稼ぎでもあるのですね」
「はい。この戦い、時間を稼げば稼ぐほど大局的には連合軍が有利になりますからね。まあ、我々の損害は考慮していませんが」
若い戦士であるコルツはゼロの戦いから様々なことを学び取ろうとしていた。
そうこうしている間に魔王軍の先端がアンデッドの防御線に衝突した。
元々アンデッド防御線が岩場に挟まれた狭い空間に展開していたので、千を超える魔王軍も最前列は百体程度に絞り込まれ、隊列が長くなっている。
最前列から突っ込んできたミノタウロスの突撃を一度は受け止めたスケルトンウォリアーの防御線だが、ミノタウロスのパワーに押し負けて徐々に後退している。
右翼から牽制しているジャック・オー・ランタンとスペクターも魔王軍を翻弄しているが、大きな成果は上がっていない。
「押し負けていますが、戦線を維持できていますね。それよりも気になるのは後方にいた彼等です」
ゼロは魔王軍の後方にいたダークエルフ達の動きを見た。
岩場に入り姿を隠しているが、その大半は大きく迂回してゼロを狙っているのだろう。
「シルバーエルフが回り込んできますね。警戒しますか」
ゼロの言葉を聞いたイズとリズは不満顔だ。
「ゼロ様、彼等はダークエルフです。生態的には私達と同じエルフですが、性根はまるで違います」
「兄の言うとおりです。エルフとしての誇りを失った彼等はシルバーエルフではなくダークエルフです」
ゼロは2人の抗議に肩を竦めながらもオメガとスケルトンロード3体を召喚した。
「敵のダークエルフが私を狙ってきています。オメガは周辺の警戒に入ってください。サーベル、スピア、シールドは私達の護衛です」
オメガは恭しく一礼して霧に姿を変えて姿を消し、スケルトンロードはゼロ達の周辺に散って警戒態勢を取った。
「さて、守るだけでは埒が明きませんからね、こちらからも動いてみますか」
ゼロは戦場を見下ろしながら次の一手を打つことにした。
国境を守る魔王軍2万に対して連合軍1万5千が立ち向かい、激闘を繰り広げている。
数の上では劣るものの、士気旺盛な連合軍は魔王軍を相手に互角以上の戦いを展開している。
しかも、連合軍後方には予備戦力として聖務院聖騎士団を中心として各国の騎士団等、総数1万が控えている。
彼等の任務は現在戦っている前衛が国境線を食い破った後に帝国に突入して帝国内に展開している魔王軍を突破して各国から派遣された最上位冒険者、いわゆる勇者や英雄を魔王ゴッセルが座する魔王城に送り込むこと。
そのため、彼等騎士団の背後には勇者や英雄と彼等のパーティーが待機している。
その数70人、その中にはレオンのパーティーや到着したばかりのセイラとアイリアもいる。
彼等は周りにいる精強なる勇者達パーティーに比べて頼りなさが如実に見て取れる。
他の勇者達はパーティーとしても最強の地位まで到達している者ばかりであるが、レオンのパーティーは圧倒的に経験と実力が不足しているのだ。
そこで、レオンのパーティーの不足する力を補うため、これまた経験が十分ではないものの、新米聖女セイラと護衛士アイリアが編入され、加えてここまでセイラ達を護衛してきた聖監察兵団の小隊が彼等を援護することになっていた。
そんなレオン達だが、装備だけは立派に整えられていた。
セイラに同行してきた怪しげな聖務院職員が彼等の装備を運んできたのだ。
主に聖務院、魔導院、モースの組合から提供されたもので、英雄とその仲間に恥じないものである。
特にレオンの持つ槍は柄こそは使い慣れた手に馴染んだものだが、槍頭は怪しげな聖務院職員がモースから預かってきたものだ。
黒く、鋭く輝く槍頭は怪しげな聖務院職員からの
「モースさんがゼロの剣と同じ材質だ、と言っていました」
との説明にレオンは飛び上がって奮起したものだ。
「優勢ですわね。あのおバカネクロマンサーがやってくれたようですのね」
戦況を観察していたイザベラが背後に立つクロウに話し掛ける。
「はい、敵の半数もの数を引きつけてくれたようですね。しかも、敵将ごとですから。ここを突破出来なかったら恥ですね?」
「それもそうですが、問題はありませんわね。この戦いは私達予備戦力の出番はなさそうですわ」
イザベラの言うとおり前線の連合軍は魔王軍を突き崩し始めていた。
一方、北方でのゼロとベルベットの戦いでは異様な光景が繰り広げられていた。
本来はゼロの軍が攻め寄せるのを国境線を守るベルベットの軍が迎え撃つ筈だった。
しかし、ゼロの悪巧みがまんまと嵌まったことにより、国境線を守るべき魔王軍が国境の内側に向かって攻め込み、突破しようとする筈のゼロ達が国境に背を向けて魔王軍に対峙している。
「なんて不様なのかしら」
既にその表情から微笑みを消しているベルベットはそれでも冷静に戦況を分析していた。
開けた荒野ならば騎兵を前面に押し出して敵を突き崩すのだが、現在の敵は国境に連なる山の麓の狭矮な空間を利用して少数ながら強固な守備線を構築している。
しかも足場の悪い岩場であるために騎兵の突撃が出来ないのだ。
「歩兵8、9番隊は前進、弓隊と魔導部隊は前進する歩兵の援護!」
ベルベットはミノタウロスとリザードマンにより編成された歩兵2個隊を前進させた。
その様子をゼロは岩場から見ていた。
「ミノタウロスとリザードマンですか。身軽なゴブリン辺りで様子を見るかと思いましたが、時間を掛けるつもりはなさそうですね」
現在防御線を築いているのはスケルトンナイトとスケルトンウォリアーが構える大盾の壁だ。
非常に強固ではあるが、パワーのあるミノタウロスに真正面から突っ込まれれば受け止めきれないだろう。
「ミノタウロスで防御線を突き崩して、リザードマンで制圧する。その後に私を仕留めるつもりですか」
ゼロの視線の先にはリザードマンの部隊の後方に続く1個中隊程のダークエルフ達がいた。
「私の魔法で焼き払いましょうか?」
レナが申し出るが、ゼロは首を振った。
「止めておきましょう。この狭い空間でレナさんの強力な広範囲魔法はアンデッドにも影響が出ます。それに、あまり強烈な一撃を加えると敵をより一層本気にさせてしまいます。この戦いを長引かせるためには敵にもう一押しで勝てると思い続けてもらいたいのですよ」
話しながらゼロはジャック・オー・ランタンとスペクターを5体ずつ召喚してミノタウロスの側面に回り込ませた。
上位アンデッドの攻撃は強烈ではあるが、千を超える敵集団に対して10体の攻撃では効果は薄い。
先行するミノタウロス部隊の右翼から火炎魔法と衝撃魔法を浴びせ、右翼集団の数十体を打ち倒し、集団の足並みを乱すことには成功したが、全体の進軍を止めるには至らなかった。
「連隊長、差し出がましいことは承知のうえなのですが・・」
コルツがゼロの横に立つ。
「何ですか?遠慮する必要はありませんよ」
「連隊長のお考えがあるのだと思いますが、敵に対する攻撃が些か手緩いように感じます。我等竜騎兵を相手に戦われたときはもっと強力な打撃力を持っていたと思うのですが」
コルツの疑問を聞いたゼロは不敵な笑みを浮かべた。
「そうですね。敢えて手緩くしています。まだ開戦したばかりですからね、敵方もこちらの戦力を探っている段階です。敵も時間を掛けるつもりは無いでしょうが、こちらが最初から強力な打撃を与えると敵の大攻勢を招いてしまいますから」
「なるほど、時間稼ぎでもあるのですね」
「はい。この戦い、時間を稼げば稼ぐほど大局的には連合軍が有利になりますからね。まあ、我々の損害は考慮していませんが」
若い戦士であるコルツはゼロの戦いから様々なことを学び取ろうとしていた。
そうこうしている間に魔王軍の先端がアンデッドの防御線に衝突した。
元々アンデッド防御線が岩場に挟まれた狭い空間に展開していたので、千を超える魔王軍も最前列は百体程度に絞り込まれ、隊列が長くなっている。
最前列から突っ込んできたミノタウロスの突撃を一度は受け止めたスケルトンウォリアーの防御線だが、ミノタウロスのパワーに押し負けて徐々に後退している。
右翼から牽制しているジャック・オー・ランタンとスペクターも魔王軍を翻弄しているが、大きな成果は上がっていない。
「押し負けていますが、戦線を維持できていますね。それよりも気になるのは後方にいた彼等です」
ゼロは魔王軍の後方にいたダークエルフ達の動きを見た。
岩場に入り姿を隠しているが、その大半は大きく迂回してゼロを狙っているのだろう。
「シルバーエルフが回り込んできますね。警戒しますか」
ゼロの言葉を聞いたイズとリズは不満顔だ。
「ゼロ様、彼等はダークエルフです。生態的には私達と同じエルフですが、性根はまるで違います」
「兄の言うとおりです。エルフとしての誇りを失った彼等はシルバーエルフではなくダークエルフです」
ゼロは2人の抗議に肩を竦めながらもオメガとスケルトンロード3体を召喚した。
「敵のダークエルフが私を狙ってきています。オメガは周辺の警戒に入ってください。サーベル、スピア、シールドは私達の護衛です」
オメガは恭しく一礼して霧に姿を変えて姿を消し、スケルトンロードはゼロ達の周辺に散って警戒態勢を取った。
「さて、守るだけでは埒が明きませんからね、こちらからも動いてみますか」
ゼロは戦場を見下ろしながら次の一手を打つことにした。
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